歴史ミステリー小説家としてデビューし、従来の歴史観を覆すような独自の理論を多数発表している井沢元彦。彼が示した歴史に対する考え方を、おすすめの本とともに紹介していきます。
井沢元彦は1954年生まれ、愛知県名古屋市出身の歴史小説家であり歴史研究家です。
早稲田大学法学部に進学し、在学中に発表した『倒錯の報復』が江戸川乱歩賞の候補となります。卒業後はTBSに入社し、報道局の記者として働きました。1980年に発表した『猿丸幻視行』で江戸川乱歩賞を受賞、1985年に退社した後は執筆業に専念しています。
歴史上の謎とされてきた題材を現代に絡めて描く、「歴史ミステリー」と呼ばれるスタイルの推理小説を得意としている一方で、自らの歴史研究で得た知見をもとに、独自の切り口で日本の歴史を解説する作品も手掛けています。
そんな井沢の作品をご紹介していきましょう。
「逆説の日本史」シリーズは、井沢元彦が歴史研究の分野で一世を風靡するきっかけとなった、代表作です。1992年から『週刊ポスト』にて連載された記事を単行本に収録していく体裁をとっており、2017年8月時点で22巻まで刊行されています。
史料や記録だけからは分からない、日本史の真の姿を明らかにしていきます。
- 著者
- 井沢 元彦
- 出版日
- 1997-12-01
もともと井沢は推理小説を書いてきたこともあって、本書では、豊かな想像力を存分に発揮することで日本史の謎を解明していく彼の凄みを知ることができます。
特に第1巻で扱っている日本の古代史に関しては、現存する史料も少ないため推論によって補わなければならない部分が多く、その分大胆な仮説を展開する余地があり、彼の腕前がいかんなく発揮されている分野だといえるでしょう。
学校の教科書を読むだけでは分からない、歴史を学ぶことの面白さを教えてくれる本として、おすすめです。
「長いスパンの中で歴史的出来事の意味を考える」ことをテーマにして、井沢が日本史全体を見通しながら各時代に起こったことを解説していきます。
源頼朝が天皇家を滅ぼさなかった理由や、徳川綱吉が残した本当の功績とは何かといった、従来の日本史ではあまり問われなかった問題を入り口としていて、日本史に対する新たな視点を提供してくれます。
- 著者
- 井沢 元彦
- 出版日
- 2013-02-05
「逆説の日本史」シリーズでは各時代の解説にかなりの分量を割いていましたが、それらをコンパクトに1冊にまとめたのが本書だといえるでしょう。井沢の著作をはじめて読む方は、こちらから入っていくのがおすすめです。
本書では、日本の歴史が諸外国とはどのように違っているのかという観点からも学ぶことができます。そもそも日本の歴史とは何だったのか、という問題意識を持っている方にとって、この本はうってつけだといえるでしょう。
本書は、これまでの学校教育における日本史学習のあり方を批判し、それに代わるものとしての歴史学習のエッセンスをまとめたものです。
武士が生まれた経緯や、信長・秀吉・家康の業績など、いくつかの歴史上のでき事について学校で使われている教科書の記述についても言及しながら、どのように流れを理解すべきであるかを説いています。
- 著者
- 井沢 元彦
- 出版日
- 2007-06-01
本書のサブタイトルにもなっている「点と点が線になる」というテーマは、『学校では教えてくれない日本史の授業』とも共通するものがあり、井沢がもっとも関心を寄せている事柄のひとつだということが分かります。
本書は、どうしてもぶつ切りになって突然出てくるように感じてしまうひとつひとつの歴史的事実の背景に、どのような流れが存在しているのかについて着目し、すっきりと整理して理解させてくれます。
学校の勉強で歴史が嫌いになってしまったという人にこそ、ぜひ読んでほしい作品です。
本書は、世界で勢力の大きい一神教である、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教について解説した本です。
3つの宗教のなかで、それぞれの権威とされている宗教指導者たちに対して、井沢がインタビューを行った内容を中心にまとめられています。
- 著者
- 井沢 元彦
- 出版日
ユダヤ教は、日本滞在歴が長く、ユダヤ人と日本人の比較論でも知られるマーヴィン・トケイヤー、キリスト教は、アメリカでも有名なテレビ伝道師であるパット・ロバートソン、イスラム教は、スーダン特命全権大使などを務めたムサ・ムハンマド・オマル・サイードという、宗教界を代表する権威たちに対してインタビューを敢行しています。
宗教と政治や文化は、根底でつながっており切っても切れない関係にあること、また異文化理解は自分自身を理解することでもあることなど、本書には知っておきたいことがたくさん詰め込まれています。またユダヤ教・キリスト教・イスラム教が、そもそもどのようにして生まれたかという解説もされているので、世界を代表する宗教について深く知ることができるでしょう。
かの有名な百人一首には、三十六歌仙のひとり「猿丸大夫」という歌人が名を連ねていますが、彼は実は伝説上の人物だという声もあり、その本当の姿はよく分かっていません。
本書は、そんな猿丸大夫の謎の解明に、若き日の国文学者・折口信夫が挑むという内容の歴史ミステリーで、江戸川乱歩賞を受賞した作品です。
- 著者
- 井沢 元彦
- 出版日
- 2007-12-14
猿丸大夫や柿本人麻呂といった、万葉集や百人一首の有名歌人にまつわる事件が起こっていくので、和歌に興味を持つ人にはたまらない展開だといえるでしょう。
和歌に隠された暗号にある一族の秘密が伝えられている、という仕掛けで話は進んでいくのですが、数々の文献や和歌を物語としてまとめきってみせたところに、井沢元彦の膨大な知識と豊かな想像力がよく表れています。
和歌好き、歴史小説好きの方なら必読の一冊です。
いかがでしたでしょうか。これまでの学校の授業では得ることのできなかった、新鮮な歴史観を与えてくれる井沢元彦の本を、ぜひ皆さんにも読んでみてほしいと思います。