歴史漫画の新たな境地を切り開いた作品として知る人ぞ知る大作漫画、みなもと太郎の『風雲児たち』。NHKの正月時代劇として、三谷幸喜脚本で2018年1月からドラマ化されることでも話題の作品です。今回はその魅力が分かる、3つの見所をご紹介していきます!
『風雲児たち』は、関ヶ原の戦いにはじまり江戸時代が終わる幕末までの約300年間を扱った、長編の歴史ギャグ漫画。2018年1月には、NHK正月時代劇にて、三谷幸喜の脚本によってドラマ化されることも決定した、人気作品です。
- 著者
- みなもと 太郎
- 出版日
- 2002-03-28
本作の魅力は、徳川家康や坂本龍馬といった江戸時代を代表する人物が登場するのはもちろんのこと、保科正之や林子平など、これまであまり表立って取り上げられることの少なかった人々にもスポットライトが当てられていることです。
田沼意次のように従来は「悪役」であるとされてきた人物が、本当はどのような思いをもった人物であったのかなど、新たな歴史解釈が示されている点にも注目です。
また、どうしても硬派になりがちな歴史漫画において、ふんだんにギャグを盛り込むことによって新しいスタイルを確立したことも本作の大きな功績だといえます。
この記事では息の長い名作『風雲児たち』を読む際に押さえておきたい、3つの見所をご紹介!歴史好きも苦手な方にもおすすめできる魅力をお伝えします。
ただ、その前にちょっと作品の概要をご紹介。知らなかった人にもこの作品のすごさが少しでも伝わればと思います。
作者であるみなもと太郎は、1947年生まれ、京都出身の漫画家です。1967年のデビュー以来、50年を超える長きにわたって制作を続けています。
漫画文化の発展に対して長年にわたり貢献した点を評価され、2004年には手塚治虫文化賞特別賞を、2010年には文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞しました。
どちらかというとお堅い賞が多いので、作品の骨太な魅力がここからも伝わるかと思います。
- 著者
- みなもと 太郎
- 出版日
- 2002-03-28
そんなみなもとは、『風雲児たち』を1979年に雑誌『月刊少年ワールド』で第1部を発表、翌1980年から雑誌『コミックトム』で連載を開始し、本作は単行本全30巻が刊行されました。
これは後に別の出版社によって再編集が行われ、ギャグの解説や巻末エッセイを追記した大判コミックスである「ワイド版」が全20巻で発売されています。
お堅いテーマ、骨太な作風ということで敬遠する人もいるかもしれませんが、こんなサービス精神がストーリー自体にも感じられるのでおすすめなのです。
その後本作は、「雲竜奔馬」シリーズという別視点の作品を挟み、2001年より雑誌『コミック乱』にて続編である『風雲児たち 幕末編』の連載をスタート。1979年から2017年現在まで何と40年近く続いているのです。
そんな息の長い名作の魅力はどこにあるのでしょうか?いよいよ本題の作品の見所についてご紹介させていただきます!
歴史ものの漫画というと、読む前にも、読んだ時にもさまざまな難関があるのではないでしょうか。
まず読む前から歴史ものは興味なし、お堅いのは好きじゃないんだという人もいるでしょう。
また、よく知っている人物も作者の力量によっては特徴がとらえられずに誰だか分からない、あまり有名でない人ならばそもそもの事前知識がないからさらに分からないという声も多く聞きます。
興味を持てない出来事、よく知らない昔の人が次々に出てきて、そのたびに歴史アレルギーが出たり、「この人は誰だ?」と立ち止まってしまい読みにくい……と感じている方も多いのではないでしょうか。
教育目的で作られた歴史漫画も数多くありますが、その大半はただ事実をなぞるばかりで、教科書の延長感が否めません。
- 著者
- 出版日
しかし『風雲児たち』はそんな先入観を見事にひっくり返して、本当に面白い歴史漫画とは何かを教えてくれる作品です。
とにかくギャグが秀逸で、坂本龍馬や吉田松陰といった歴史に名を残した偉人たちが我先にとボケをかましつつ、自らの主義主張を掲げ理想のために突っ走っていきます。ひとりひとりに分かりやすくキャラ付けをして、彼らがくり出す掛け合いで物語が進んでいくので、サクサクと読み進めることができるのです。
このキャラ付けの面白さは歴史好きからも評価が高く、知らない人にも作品に入りやすいという本作の魅力となっています。
圧倒的な爽快感が読みやすさの重要なポイントで、ていねいに歴史の流れを追いつつも、気がつけば一気に読み切ってしまうかもしれません。
軽妙なギャグを次から次へとくり出すことによって、重苦しくなりがちな歴史のストーリーをテンポよく展開していくということを、極めて高いレベルで実現した名作ということができるでしょう。
歴史を学ぶときに大きな壁となるのが、時代ごとに細切れになってしまい、それぞれの出来事のつながりが分からなくなってしまう、ということではないでしょうか。
学校の授業では、例えば徳川幕府の成立、江戸時代中期の老中たちが取り組んだ改革、幕末の動乱、というように、それぞれの時期に起こったでき事を順を追って扱っていきます。
しかし、そもそも江戸時代とはなぜ始まったのか、そしてなぜ終わったのかという観点が欠けているため、ただそれぞれの事象を暗記するだけの作業となってしまうのです。
- 著者
- みなもと 太郎
- 出版日
- 2002-04-30
『風雲児たち』は、そんな問題を解決してくれます。なぜなら本書には、「坂本龍馬に代表されるような幕末の風雲児たちは、どうして誕生することになったのか?」という全体を貫くテーマがあるからです。
本書を通して読んでみると、「江戸時代が終わり明治維新の主役となったのが、実は関ヶ原の戦いで西軍に属していたために不遇の時代を過ごしていた薩摩・長州・土佐ら外様勢力だった」というひとつの歴史の道筋が見えてくるのです。
歴史は単発のでき事ではなく、大きな流れのなかで進んでいるという壮大なスケール感をもって読むことができ、歴史を学ぶことの面白さを教えてくれるでしょう。
もちろん、関ヶ原の戦いや大阪冬の陣・夏の陣といった戦いのシーンでは、大胆なコマ割りを駆使することで、迫力のある演出を楽しむことができます。『風雲児たち』はギャグだけに頼ることなく、純粋に歴史漫画として歴史そのものの面白さも再発見できる作品なのです。
歴史もの好きからも評価が高いということは先述したとおりですが、彼らに最も認められてるのはこの大局観を持ったストーリー運びなのではないでしょうか。
『風雲児たち』では、歴史小説などではあまり主役級の扱いを受けることがない人物にも、しっかりと見せ場が用意され、丁寧に描いています。
そのためキャラクターひとりひとりに愛着を持ちやすく、後の場面で再び登場したときにすぐ思い出せて、またその人物を好きになる、といった具合にどんどんと物語に没入していくことができるのです。
- 著者
- みなもと 太郎
- 出版日
- 2003-12-26
さらに、登場人物の心情に深く入り込んで描写しているところも、本作の大きな特色です。
例えば、鎖国時代の日本で「出島三学者」と呼ばれた人物のひとり、シーボルトは、江戸幕府によって1度は日本から追放されてしまうものの、日本に残した妻や子どもたちに再び会いたいという強い思いを捨てることができませんでした。家族に会うためには日本を開国させなければいけないため、彼は諸外国に日本の弱点を漏らすなどあらゆる手段を使って入国のために奔走するのです。
このような登場人物の様子は、まさに彼らの息遣いを感じられるように描写され、読み終わる頃には、我々読者と、歴史上の人物ひとりひとりとの思い出ができているでしょう。
全20巻で完結し、物理的にはもちろん、心理的も読み応えがあるのはこの心理描写のたまもの。読めば読むほどさらに新しい一面が見えてくるぶあつい世界観があるのです。
- 著者
- みなもと 太郎
- 出版日
- 2002-07-26
当初は1600年の関ヶ原の戦いから始まった『風雲児たち』。連載開始が1979年なので、2017年現在、約40年も続く長期連載の名作となりました。
幕末の時代からの物語はタイトルを『風雲児たち 幕末編』に変え、諸外国を含めた激動の時代を描きます。
幕末編の魅力はやはりさまざまな人物の思惑や志がぶつかり合いながらもいっしょくたになって時代をつくっていく様子。無印作品でもそれは感じられますが、「幕末編」では開国周辺ということもあってよりその魅力が顕著に感じられます。
時代の大きな流れがあまり広くは知られていない小さなエピソードで補完され、立体的にその時代を表現しているのです。
このあとは「幕末編」が現在どこまで進んでいるか、最新巻はどんなところが見所なのかをお伝えします!
徐々に時代の変化の波が激しくなってきた28巻。29巻では歴史好きでなくとも知っているであろう寺田屋事件を扱っています。
知らない方のために簡単に説明すると、寺田屋騒動とも呼ばれるこの出来事は京都にある旅館・寺田屋で起こったふたつの事件を指します。
ひとつは公武合体を目的とする薩摩藩のトップが、倒幕を推し進めたい志士たちとふもとを違えて彼らを鎮圧した1862年のこと。もうひとつは龍馬が襲撃された1866年の事件を指します。
- 著者
- 出版日
- 2017-05-29
29巻では1862年の出来事をまるまる1巻使って説明されます。
どちらかというとギャグは控えめな本巻。死こそが花と考える志士たちの誇りによって、少々血なまぐさい展開となっています。血の気の多い薩摩藩の彼らならではの同士討ちの様子は真に迫るものがあります。
歴史の授業では主要人物の名前を覚えることだけに力を注いでいましたが、この『風雲児たち』では彼らの精神性まで語られるので、面白い。特に薩摩藩の血気盛んで現代人には少し理解しがたい考えを身近に感じられるいいエピソードです。
歴史的な寺田屋事件を、当時の彼らのまさに血肉を感じながら学んでみるのはいかがでしょうか。
いかがでしたか。歴史ファンにはもちろんのこと、いままで歴史の勉強が苦手だったという人にこそ、『風雲児たち』を読んでみることを強くおすすめします。きっと歴史が好きになれるはずです!