山崎雅弘のおすすめ本5選。『日本会議』などで有名な戦史研究家

更新:2021.11.9

「今の日本の政治って変じゃない?」「なぜ世界では紛争が続いているの?」そんな疑問をお持ちなら、ぜひ山崎雅弘の本を手にとってみてください。専門的な内容もわかりやすく紹介してくれるので、初心者でも安心。幅広いテーマをもつ彼の作品のなかから、おすすめ5作を紹介します。

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戦史研究家・山崎雅弘とは?

山崎雅弘は1967年大阪生まれ。戦史・現代紛争史研究家の肩書きを持ちつつ、日本の政治情勢を分析した本も発表しています。そのわかりやすく説得力ある論考は、専門家のみならず一般読者からも広く注目されています。

10代で伝説的な音楽雑誌『ロック・マガジン』の編集・制作にかかわったり、その後は自主制作のシミュレーション・ゲームのデザインを手がけたりと、経歴もユニークです。本人のホームページには、ほかに有名な旅行雑誌の編集や、地図制作、測量などの仕事に携わっていたことが記されています。 

戦史研究家としての活動は1999年からで、雑誌『歴史群像』に現代紛争史分析の記事の寄稿をはじめました。そして2001年に初の著作となる『中東戦争全史』を刊行し、本格的なキャリアをスタートさせました。
 

中東問題について深くわかりやすく学べる一冊

イスラム国(IS)による相次ぐテロ、今世紀最大の人道危機といわれるシリア内戦、終わりの見えないイスラエル・パレスチナ問題。テレビや新聞、インターネットでは、毎日のように中東関連のニュースが流れています。

とはいえ、それぞれの背景や原因が理解できず、ニュースを見るたびモヤモヤしてしまうことはありませんか?そんな方におすすめなのが本書です。中東問題についてわかりやすく学ぶことができます。 
 

著者
山崎雅弘
出版日
2016-08-05

本書の特徴は、中東の歴史をはるか昔の紀元前から辿っていること。それにより、中東問題の複雑な背景を、順を追って理解していくことができるのです。

ヘブライ(ユダヤ)人とペリシテ(非ユダヤ)人が互いの生活圏を尊重し、大規模な争いもなく共存していた古代パレスチナ。やがてユダヤ人の小さな王国「イスラエル」が建設されますが、内乱によって分裂します。そして周辺諸国の侵入がはじまると、彼らは世界中へ散らばっていくことになりました……。 

山崎はそこから現代につながる紛争の火種がうまれた19世紀、大国の思惑に翻弄される20世紀、そして21世紀の目まぐるしく変化する中東情勢を、ノンフィクション小説を思わせる筆づかいで迫真的に描いていくのです。

ストーリー仕立てで、インターネットによる断片的な知識では得ることのできない、歴史の流れに根差した知識が得られる本書でなら、アルカイダとイスラム国の思想や目的の違いもわかりやすく学べます。中東情勢に少しでも興味や疑問のある方に、ぜひ手にとってもらいたい一冊です。

山崎雅弘がヒトラーVSスターリンの死闘を完全分析

1939年8月、あるニュースが世界中を驚愕させます。なんと、ヒトラーの政権掌握以来犬猿の仲だったドイツとソ連が、不可侵条約の締結を発表したのです。

それから約2年後の1941年6月、再びあるニュースが世界を驚かせます。なんと、ドイツが突如としてソ連領内への侵攻作戦「バルバロッサ作戦」を開始したのです……。 

わずか2年のうちに両国のあいだに何が起こったのか?そしていかなる戦いが展開されたのか?その疑問に答えてくれるのが、この本です。 

著者
山崎 雅弘
出版日

ベルリンの陥落まで4年にわたる死闘をくり広げたヒトラー率いるドイツと、スターリン率いるソ連。独裁者として知られる両者ですが、本書には対照的な2人の姿が描かれています。

ヒトラーは、自分で決めた戦略や作戦が失敗に終わると、軍の首脳部への不信感を募らせてますます干渉を強めていきます。対するスターリンは、当初は独断的な戦略決定が多かったものの、しだいに自分よりも軍事上の知識や資質、なにより実戦経験が豊富な軍の首脳部にできるかぎり権限を与えました。 

山崎は、戦力だけでなく、このような最高統帥者の状況判断の差がその後の勝敗を大きく分けたと記しています。

膨大な資料を駆使し、史実だけでなく筆者の考察も加えながら、刻一刻と変わる戦況が緻密に描かれていきます。戦史ファンならずとも、手に汗握る一冊です。

「砂漠のキツネ」の素顔とは?

第一次、第二次両大戦でドイツ軍を率い、驚異的なスピードと巧みな奇襲で「砂漠のキツネ」の異名をとったエルヴィン・ロンメル。その天才的な戦術には、かのイギリス首相ウィンストン・チャーチルでさえ恐れをなしたと伝えられています。

本書は、そんな名将として名高いロンメルの生涯を、戦術解説もまじえながら詳しく紹介しています。とくに、人間としてのロンメルを知るためにはうってつけの本です。なかには「生涯騎士道をつらぬいた気高い軍人」という彼のイメージを覆すエピソードもあります。

著者
山崎 雅弘
出版日
2009-11-10

第一次大戦後、士官学校の教師を務めたロンメルは、授業で使っていた資料を1冊の本にまとめて刊行しました。するとその本は瞬く間にベストセラーに。これには本人も驚いてしまいます。

「あんな本でこれほどの大金が稼げるなんて、まったく驚きだよ。どうしていいか分からないくらいに、どんどんお金が入ってくる。(中略)
仲間だった、いい奴らがどんな風にして死んでいったかを書いて、正直いい気持ちはしないな」(『ロンメル戦記』から引用) 

同僚に良心の呵責を打ち明けたロンメルでしたが、彼はその「仲間の死」を書いた本で得た所得を隠し、脱税してしまうのです……。

とはいえ、数的不利な戦場に大量のフォルクスワーゲンを持ちこみ、敵軍からは戦車に見えるようした「はりぼて戦車作戦」など、彼の戦術の奇抜さを考えると脱税くらいは朝飯前かもしれません。

このほかにも驚くようなエピソードが盛りだくさんです。ロンメルのことを知らない方も興味深く読めるでしょう。

秘密のベールにつつまれた「日本会議」の核心に、山崎雅弘が迫る

安倍晋三をはじめとする政治家や財界人など約4万人の会員を擁し、海外主要メディアでは「日本最大の右翼組織」「安倍政権を支える国家主義団体」と危険視されている団体「日本会議」。

しかし、日本のテレビや新聞ではタブーのように扱われ、その存在すらほとんど取り上げられることはありません。関連団体も含めると、一時は安倍政権の閣僚の半数が所属し、「憲法改正」をめざす同政権と緊密な関係を結ぶ謎の政治団体です。

本書は、その核心に迫っていきます。

著者
山崎 雅弘
出版日
2016-07-15

南京大虐殺を中国共産党などの謀略による「冤罪」だと訴え、従軍慰安婦問題を「女性の人権侵害」から「強制連行の有無」に論点をすりかえて否定し、現行の日本国憲法を「日本人を腐らせる、国の腐った芯」と罵倒する日本会議の論客たち。

山崎は彼らの言葉を取り上げながら、それがいかに独善的な詭弁であるかを冷静に指摘していきます。たとえば、「国民の権利及び義務」について記された憲法第3章に対し「国民の自分勝手なおこないを助長するようなことばかり書いてある」と批判する櫻井よしこに向けて、次のように応えています。

「日本国憲法下の日本は、そんな極端に利己主義的な人間がわが物顔で横行する『嫌な社会』にはなっていません。そもそも、憲法で保障される自由や権利は、それを『権力が侵してはならない』という権力者に対する制約であって、国民が好き勝手にできるという意味ではありません」(『日本会議 戦前回帰への情念』から引用)

萎縮傾向を強めるメディアのなかで、このような正しい反論が加えられることはなかなかありません。日本会議について知りたい方だけでなく、今の日本の政治に少しでも疑問のある方はぜひ読んでみてください。

過去の過ちをくり返さないために山崎雅弘が書き記したこととは

憲法なんて知ったことではない、とばかりの強引さで、「集団的自衛権の行使」や「共謀罪法」の採決を押しとおした安倍政権。「憲法は政治権力者が持つ力にブレーキをかけるためにある」という「立憲主義」の考え方が、危機に瀕しています。

実は過去にも1度、日本は同じような状況を経験していました。たった半年の間に、一部の人間たちによって立憲主義が破壊されてしまったでき事。それが本書で取り扱われている、1935年の「天皇機関説事件」です。

著者
山崎 雅弘
出版日
2017-04-14

天皇機関説とは、日本という国家を「法人」とみなし、天皇はその「最高機関」として、あくまで大日本帝国憲法の範囲内で権力を行使できるという学説のことです。立憲主義を支える考え方として、憲法学者だけでなく昭和天皇自身も認めていました。

にもかかわらず、突然軍人や右派の政治家たちが、自分たちの思惑通りに国を動かすために、この学説を「天皇に対する反逆思想だ」と激しく批判をはじめたのです。標的となったのは、当代随一の憲法学者・美濃部達吉でした。

理路整然と応対する美濃部に対し、あげ足とりに論点のすりかえ、美濃部個人に対する罵倒など、彼らの批判は言いがかりに近いものでした。その内容は本書で詳しく紹介されていますが、呆れ果ててしまう読者も多いでしょう。

まるで安倍政権のやり口を彷彿とさせるようなその強引さが、やがて立法主義の崩壊、そして戦争へとつながっていってしまうのです。

山崎はあとがきで、「ここ数年の日本社会の変化を見て、この事件の全体像をわかりやすく解説した本が必要な時期に来ていると考えた」と語っています。過去の過ちをくり返さないためにも、必読と言える一冊です。

読者に学びと発見、そして驚きを与えてくれる山崎雅弘の本を紹介してきました。気になるテーマのものから、ぜひ読んでみてください!

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