アメーバ経営がよくわかる本おすすめ4選!稲盛和夫の名を広めた経営手法

更新:2021.11.9

アメーバ経営は、ビジネスや経営に関わる人なら一度は耳にしたことのある言葉ではないでしょうか。京セラの創業やJALの再建などを成功させてきた稲盛和夫氏が、どんな意図でアメーバ経営を確立したのか、深く理解できる本をご紹介します。

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アメーバ経営とは?

アメーバ経営とは、稲森和夫氏が京セラの経営に用いた手法です。会社をビジネスの単位になりうる最小単位(アメーバ)に分け、それぞれを独立採算の組織にして、アメーバごとに損益が出る形にします。

集団を細分化する条件は次の3つです。

1.収入と支出を明確にするため、アメーバが独立採算組織として成り立つ単位であること。

2.ビジネス(事業)として完結する単位であること。細かく分けすぎても無駄が出てしまうため、最小限の機能を持った組織にします。京セラでは、たとえば製造部門なら、「原料」「成形」「焼成」「加工」などの部門に分けているようです。また、改善の余地がある単位にすることで、リーダーの創意工夫を促す目的もあります。

3.会社全体の目的の遂行を阻害しないこと。営業部門なら、受注・管理・代金回収など、機能としては分けられそうな単位があります。しかしそれではお客様に対して一貫したサービス提供ができないと判断し、むやみに切り分けることは良しとしていません。ただ単に機能で分けてしまうと、部分最適にもなりやすく、全体の目的にそぐわない場合が出てきます。

このように小さな集団に分けてそれぞれ運営させる仕組みがアメーバ経営です。そして、最大のポイントは、「一度分けたユニットを再構成できる」こと。

アメーバが細胞分裂と再結合を繰り返して自由自在に形を変えていくように、市場動向や経済状況によって柔軟に組織を見直し、必要があれば組み替えるのです。この柔軟性がアメーバ経営の特徴になっています。

時間当たり採算制度とは

小集団に分けると、集団ごとのリーダーがたくさん必要になります。独立採算制をとっているため、リーダーは集団としての利益を上げなければなりませんが、アメーバのリーダーになる人には会計知識がない人も少なくありません。

しかし、知識がないからと言って、経理部門から毎月「こうなりました」と事後報告を受けていたのでは現場に応じたスピード感のある対応はできないでしょう。そこで、会計知識を持たない人でもわかるように、稲盛氏は「時間当たり採算表」を開発し、使用しています。

製造部門なら、生産金額を収入として計上し、労務費を除くすべての控除額を差し引き、差引売上を算出します。これを総労働時間で割ったものが「時間当たり採算」です。つまり、「1時間にどのくらい付加価値を上げられたか」がわかる仕組みになっています。そしてこの付加価値をいかに上げていくかが各アメーバの目標となります。

たとえば1時間当たり3600円の労務費がかかっている部署では、1分あたり60円、1秒あたり1円がかかると計算できますよね。このようにリアルな数字としてメンバーが理解することで、生産性の高い組織になろうという意識が働き、緊張感のある職場になるという効果があります。

また、「時間当たり採算表」は非常にシンプルにつくられているため、デイリーベースで更新、分析が可能です。これが現場でのすばやい経営判断につながるのです。

アメーバ経営に不可欠な経営哲学

小集団に分けるとはいえ、それぞれが勝手な考えで行動していては統率が取れません。その点をカバーしているのが会社全体に行き渡った経営哲学です。すべてのアメーバは経営哲学という共有部分をベースにして形成されています。

会社の経営理念もその一つですが、現場での行動に直結する考え方などにも共有が必要な場合があります。京セラでは「値決めは経営」「能力を未来進行形でとらえる」「営業と製造はともに発展するもの」「常に創造的な仕事をする」などの哲学を常に共有していると言います。

アメーバのリーダーだけでなく、構成員全員にこの哲学が浸透しているからこそ、アメーバ経営が確固とした強さを発揮できるのです。

アメーバ経営のメリットとデメリット

アメーバ経営を行うメリットとデメリットを整理します。

メリット

1.市場に直結した部門別採算制度が確立できる

すべての組織は「売上を最大に、経費を最小にする」という原理原則をもとにして動いています。ですが、たとえば製造部門は、経費削減の意識はあっても、直接商品を売る立場ではないため、なかなか売上を伸ばす意識は持ちにくいものです。そこで独立採算制が強みを発揮します。

「社内売買」と呼ばれる仕組みを導入し、各工程間で仕掛け品を売り買いするようにします。するとそれぞれのユニットが収支を持つことになり、「売上を最大に、経費を最小に」を意識して経営していけるのです。

小集団ごとの数値を把握しやすいため、経営者にとっても、経営戦略を立てる上で分析のスピードを上げられるというメリットがあります。

2.経営者意識を持つ人材育成ができる

小さな集団であっても、その経営を任されることでリーダーには経営者意識が生まれます。リアルに利益や売り上げの数字が出るため、業績に対する責任感が強くなり、働く姿勢も受動的から能動的に変化します。

考え方も「会社から給料をもらう」ではなく、「自分で稼ぐ」という意識に変わるのです。それによって会社のトップとの意見共有が容易になり、トップとしては共同経営者が増えるという喜ばしい結果が期待できます。

3.全員参加経営を実現できる

稲盛氏が京セラを創業したころは、経営者と労働者の労使対立が激しい時代でした。しかし、内部対立で消耗していては市場に生き残れないと感じ、解決策を模索したそうです。そこで思いついたのは「全従業員が経営者」という形態になれば、労使対決などありえないということでした。

そうなれば、構成員全員が会社の発展に貢献しようとする最強の集団になると直感。そしてそのモデルを「家族」に求めました。親が子を思い、子が親を思うというような深い人間関係を築き、助け合える組織をめざしたのです。また、時間当たり採算表などで経営の実態をオープンにすることで、従業員の当事者意識を高めるようにさまざまな工夫もしました。

デメリット

1.定着に時間がかかる

アメーバ経営は経営哲学の浸透なしには成り立ちません。その点で、定着までに時間がかかるのがデメリットだと言えます。小集団では一人ひとりの働きが利益に大きく影響するので、採算を取れるようになるまでは我慢が必要かもしれません。

2.リーダー育成が大変

アメーバ経営には大量のリーダーが不可欠です。独立採算制でやっていけるだけの責任感を持ったリーダーの育成には、大変な労力を要します。リーダーはただ仕事ができるだけでなく、メンバーから信頼される人間性も兼ね備えていることが理想ですので、教育システムの整備も求められるでしょう。

アメーバ経営についてよくわかる本おすすめ4選

ここからはアメーバ経営について書かれた本をご紹介します。画期的な経営システムとされるアメーバ経営を、実際の経営にどのように落とし込めばいいのか、実践例とともに学べるでしょう。

アメーバ経営の第一人者が書いた経営の本質

稲盛和夫氏が京セラの経営を振り返り、どのようにアメーバ経営を確立していったのか。その軌跡を追いながらアメーバ経営のシステムを把握できる1冊です。創業者本人の口から語られる言葉は実感がこもっており、心を打ちます。

著者
稲盛 和夫
出版日
2010-10-02

稲盛氏は創業からしばらく、営業から製造、管理、クレーム処理まですべてを抱え込んでいたそうです。しかし拡大期に、経営者一人ではどうにもならないと実感。打開策を考え続ける中で「100人は無理でも、2,30人をまとめられる人材なら何人もいる。ならば集団を小さく分ければいい」と、ひらめいた手法がアメーバ経営でした。

また、経営や組織についての知識がなかった稲盛氏。組織をまとめる上で何を頼りにすればいいのかと考えると、やはり「人の心」だったと言います。それを表現したのが京セラの「大家族主義」であり、全員に行き渡った「経営哲学」です。

どのように人を動かし、利益を出すのか。マネジメントの本質を学べる本でもあります。アメーバ経営について学びたいと考えたときにはまず本書を読むことをおすすめします。

ケーススタディで実践的に学ぶ

稲盛氏のもとで、京セラのアメーバ経営拡大を推進した著者・森田直行氏は、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の社長も務めた人物です。稲盛氏とともにJAL再建にも携わり、2年8か月で東証に再上場を果たすというV字回復を支えました。

著者
森田 直行
出版日
2014-05-29

本書で多くのページを割いているのはJAL再建をはじめとするアメーバ経営のケーススタディです。著者自身がKCCSの社長として、他社にアメーバ経営導入のコンサルティングを行う事業を立ち上げ、営んできたこともあり、実践的な内容が中心になっています。

ケーススタディは多業種にわたり、アメーバ経営が他の業種においても有効であることが理解できますし、今は世界にも広がっています。稲盛氏の言う「大家族主義」は極めて日本的な経営方針に思えますが、「人」「信頼」をベースとした小集団でのマネジメント手法は、他国にも理解される、本質的な手法であるとも言えるのです。

また、経営哲学を浸透させることにより、企業文化を変化させ、社員の人生観までも好転させる力があります。アメーバ経営を取り入れたい企業が後を絶たないのはこの経営哲学があるからといっても過言ではないでしょう。

やる気の改善から社内ベンチャーまで

本書は、アメーバ経営のシステム概要、運用方法、導入事例を述べつつ、アメーバのリーダーや構成員にヒアリングを重ねた結果を客観的に述べた内容になっています。

著者
["三矢 裕", "加護野 忠男", "谷 武幸"]
出版日

アメーバ経営のように、今までにない手法で成功した事例が出てくると、注目を集める反面、疑いの目も向けられるようになります。小集団に採算まで任せて大丈夫なのか、厳しい目標を課すことで現場が活性化するのは本当なのかなど、疑問点は考えはじめればきりがありません。

そういった疑問点を解消すべく、ヒアリング調査に踏み切ったのが本書です。話を聞いていくと、現場のリーダーたちは自分のアメーバの目標をどう達成していくかについていきいきと語ったそうです。

京セラだけでなく、アメーバ経営を導入した企業へのアンケート調査では、社員のやる気やコミュニケーション、そして業績が改善していたことも明らかにされています。アメーバ経営がきっかけとなって事業化した社内ベンチャーの事例なども、経営の参考になるのではないでしょうか。

アメーバ経営を学術的な視点でとらえる

アメーバ経営に関して、事例を通して学ぶ書籍は複数ありますが、本書はあえてアカデミックな立場から捉えた本になっています。先行研究の分析や、研究方法についての綿密な議論を経て、アメーバ経営のメカニズムを学術的に分解した一冊です。

著者
三矢 裕
出版日
2003-04-01

著者の三矢裕氏は、先にご紹介した『アメーバ経営が会社を変える―やる気を引き出す小集団部門別採算制度』の著者でもあり、アメーバ経営に強い関心を持つ研究者。特に注目しているのは、各アメーバが独立採算というプロフィットセンター(利益を生む部門)になっている点です。

ミニ・プロフィットセンター(MPC)経営は、近年注目を集めている経営方法であり、アメーバ経営はまさにそれを体現しているため、MPC経営を確立するための非常に有力な研究素材となりました。

インタビューや各種資料を用いて、細かく分析されており、これまで3冊の内容を網羅するような情報量です。実際に導入するためのポイントも、一般化して示されているのでイメージしやすいでしょう。研究書ではありますが、経営に関心のあるビジネスパーソンなら興味深く読めるはずです。

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