大澤真幸のおすすめ著書5選!日本を代表する社会学者

更新:2021.11.9

日本で人気を集める社会学者といえば大澤真幸。社会学を武器にして理論的に社会問題を詰めていく様は、不明瞭な現代社会にひと筋の光をもたらすようで、爽快感があります。何よりも社会学の常識を覆す意外性がふんだんに盛り込まれ、目から鱗の読書体験が待っているでしょう。

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社会学者・大澤真幸

大澤真幸は1958年生まれの社会学者。東京大学文学部社会学科卒で、数理社会学、理論社会学を専門とします。千葉大学や京都大学で教鞭を振るい、2010年からは思想誌『THINKING「O」』を主宰しています。

大澤が発表した著作のテーマは、理論研究者だからといって学問の世界だけに留まりません。現実の社会に即して、資本主義、民主主義から、電子メディアに関する論考、正義とは何かといった問いや、恋愛についてなど、幅広いテーマにチャレンジしています。

「社会学」は社会のメカニズムを解明する学問です。これは、何も抽象的な社会システムと考えなくても、「身近な人間関係」と捉えることができます。つまり人々の身の回りの出来事に着目し、その仕組みを明らかにすることは、社会学の範囲に含まれるのです。

そしてその分析には、私たちの常識を覆す驚きがあるでしょう。

「社会学らしさ」がはっきりと現れている大澤の著作には、読者の常識をひっくり返したり、雑多で不明瞭なものにひとつの見方を与えたりと、読み進めるうちに引き込まれる面白さがあります。読者に新しい視点を与えるプロの論考を、以下に紹介する5冊で味わってみましょう。

大澤真幸の思考法を覗く!大胆な読書法の伝授

本書はニュースサイト「朝日新聞デジタル」での連載をまとめ、書籍化したものです。実際にさまざまな本を大澤自身が読み進め、レビューし、社会構造を浮かびあがらせています。

参照する書籍のテーマは多岐にわたり、政治や経済、格差社会、数学や宇宙論に関する学術的な議論から、漫画『テルマエ・ロマエ』、小説「半沢直樹」シリーズや『桐島、部活やめるってよ』といった有名作まで、合計25冊の作品を深く読み解いています。

著者
大澤真幸
出版日
2014-09-12

大澤の著作には、例えば現代社会と古代を関係づける論理性、想像力、推理力がふんだんに発揮されています。しかし、そのような思考回路はどうすれば獲得できるのでしょうか?

本書はその問いに答えてくれます。読書の仕方や心構えは人それぞれ異なりますが、大澤が提示するのは、読書をするなかで「問う」ことです。「問う」、そしてそれを大きな社会の問題と関係づける営みを、彼自身が実際にやってみせます。ある意味自らの手の内を明かすような作業です。

良作の読書案内として、また「そのような読み方ができるのか」という大澤の知性の深さを知る手段として、最適の指南書となっています。

「正義」を考える意味は何か

マイケル・サンデルの「正義論」が注目を集めるなかで出版された、大澤の正義論です。正義とは何か、なぜ議論する必要があるのか、そして理性ある人が「これが正義」と合意に至ることができるのか、といった問いの答えを理論的に説いていきます。

現代が「生きづらい」とされるわけを探るために、文学作品やケータイ小説といった物語から考察したり、正義についての理論的系譜をアリストテレスからサンデルまで整理したりと、テーマの中を縦横無尽に駆け巡ります。

さらに推理小説のような伏線回収で「あっ!」と言わせる展開もあり、読み応えのある作品といえるでしょう。

著者
大澤 真幸
出版日
2011-01-06

リベラリズムやコミュニタリアンなど、主にアメリカで盛んな正義について考える時の立場を、論点をはっきり整理しながら提示してくれます。本書はそれぞれの立場からの正義の論じられ方、そしてその限界を簡潔にまとめている「正義論の入門書」と言えるでしょう。

また、アリストテレスが「アクラシア(悪いことだと知っていながら行動してしまうこと)」の存在証明に苦しんだ理由について、そこには「社会条件の違いがあった」ということを社会学的に解明しており、その答えに至った思考のプロセスにも爽快感があります。

本書は大澤の持ち味である、アリストテレスやイエスなどが持っていた過去の思考を、現代の枠組みに引きつけて論証する業がふんだんに発揮されており、刺激的な意外性をたっぷり味わえるものとなっています。

東日本大震災以降の私たちが進むべき道とは

東日本大震災における福島第一原発の事故は、現代を生きる人々に何を提示したのか。それは「神」のような存在とされた原子力への信仰の崩壊であり、脱原発にシフトするきっかけでもありました。

しかし、日本はなかなか脱原発に踏み込みません。それはなぜなのか?福島の問題を科学技術やトランスサイエンスの問題と論じる本が多いなか、本書では脱原発のメンタリティ、思想的基盤を探ります。

著者
大澤 真幸
出版日
2012-03-07

キリスト教や神話を引用しながら、3.11後の社会のあり方を問う大澤の議論には、他にない独自性があります。そして3.11が起こった背景の社会状況として、大澤の問題関心である「不可能性の時代」が読み込まれています。

本書で説かれる原子力発電の安全性に関しては、あくまで専門家の間でも割れている意見をふまえた仮説です。現代において科学による解明は真理への接近ではなく、ひとつの仮説であり、リスクを抱えたものであるとされています。

そうした状況にあって、原発を正しく運用するにはどうしたらいいのか、今後の日本のエネルギー政策を考えていくうえで、ひとりひとりがどういう選択をしたらいいのか。それを判断する材料が、この本にはあるのです。

資本主義はなぜ普遍性を勝ちえたのか。大澤真幸の世界史ミステリー

資本主義は、いまでは普遍的なものとして受け入れられています。しかし、もとをただせばそれは西洋という特殊な地域で起こった近代化によるもので、しかも資本主義の起こりは、さかのぼればプロテスタンティズムの倫理にあるのです。
 

特殊な地域・宗教から、いかにして普遍性が生まれたのか。それを知るためにはキリスト教の歴史をさかのぼる必要があるとは大澤は主張します。本書は、イエスの存在そのものの意味を問い、フーコーやラカンなどの現代思想の代表格を引用し、著者の持ち味である「意外性」を織り込みながら論じたものです。

著者
大澤 真幸
出版日
2011-09-21

なぜ、タイトルの「世界史」に括弧がつけられているかというと、本書で語られている内容が事実上「西洋史」だからです。「古代篇」では、イエスの死の意味、そしてソクラテスの死刑と何が違うのか、といった歴史ミステリーの問題を理論的に解き明かしていくなかで、普遍性を勝ち取った資本主義の土台を探っていきます。

ジル・ドゥルーズといった現代の哲学者の思想には難解な部分が多く、一般の人は嫌厭しがちです。しかし本格派の哲学の議論も、丁寧に読めば論点が見えてくる、という大澤のまとめは勉強になるでしょう。

また、ただの概念遊びではなく、明らかにしたいことが明確で、なおかつ論理的に歴史が整理されているため、多少専門的な部分はあっても何度か読み返せば理解していけます。もちろん、大澤の採用するイエス研究の成果には異論もあるため、「ひとつの歴史の見方」として読むのがよいでしょう。

大澤真幸が説く、現代とはいかなる時代か。

現代社会は、現実からの逃避ではなく「現実へ」と逃避する特徴があると大澤は指摘します。虚構のストーリーではなく、男女の生活そのままをドラマとして放送する番組に人気が集まるような、現実へ愛着を見せる状況は何を示しているのでしょうか。

本書の内容は、戦後日本を「理想の時代」、1970年代以降を「虚構の時代」、1995年の地下鉄サリン事件以降を「不可能性の時代」という3つの時代に区分して紹介しています。

そして、「不可能性の時代」とはどういうものかを、「オタク」に関する考察を絡めて明らかにし、現代において人々が「普遍的なつながり」をもてる可能性を探っていきます。

著者
大澤 真幸
出版日
2008-04-22

現代社会を説明するために、大澤は「不可能性の時代」(大きな物語の終焉を迎えた時代)という時代区分を考えました。それによってオタクの出現からリスク社会まで、現代社会のさまざまな現象を体系的に理解しようと試みます。

大澤の文章は、現代という時代を把握するための示唆に富む組み方で、知的な好奇心をそそられますが、そもそもどうして「マニア」と言われていたものが「オタク」となったのかや、リスク社会がなぜ科学と政治を切り離してしまうのか、といった問いのピースひとつひとつに「なるほど」と思わせる解答が用意されています。

ゲームやアニメ、萌えキャラといった学術的に扱われにくい要素に、学術的な考察を加え、現代の見取り図を示す彼の知性の深さを味わってみませんか。

以上で見てきたように、大澤の持ち味は、社会学を武器に現実社会を見通す怜悧な分析と、歴史や哲学、宗教など多岐にわたる彼の知識と現実を結びつける想像力にあるといえるでしょう。私たち読者は、それらの新しい見方を知ることだけに満足せずに、彼のやるような「問う」という実践を通して自分でもその営みを楽しんでみるとよいでしょう。

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