オノ・ナツメが描く漫画『ACCA13区監察課』。ストーリーの緊張感、そして作りこまれた設定で引き込まれる人気の作品です。主人公は「もらいたばこのジーン」。巨大組織で生きる彼の本当の姿とは……?
『ACCA13区監察課』は地方自治制のドーワー王国(架空の王国)に存在する巨大組織「ACCA」を中心に、王国内の人間たちの思惑と工作が入り乱れた群像劇を描いた作品です。2017年1月にアニメ化がされ同年の11月には舞台化もされています。単行本は本編が全6巻、番外編が全2巻となっています。
・様々な登場人物
主人公を含め本作は魅力的な登場人物が多く、そしてかっこいい。例えば主人公、普段はやる気がなさそうに見えますが、非常に優秀な人物で独特の雰囲気をもつ魅力的なキャラクターです。番外編では登場人物たちや物語の様々なエピソードが描かれていますのでそちらも必見です。
・魅力的な食事シーン
この作品の見どころといえば食事シーンです。かつて13の区は異なる国であったため服や気候、食べ物、考え方など区によって異なります。そのため様々な料理や特産品が登場するのですが、登場人物たちが食べるシーンは読んでいると思わずその食べ物が食べたくなってしまうほどこの作品では魅力的です。
・すべてがオシャレ
架空の世界なものの戦闘やアクションシーンはありませんが、組織内での派閥や思惑などが入り混じったビターな作品となっています。背景やキャラクターの絵のタッチ、世界観も独特な雰囲気に包まれています。大人向けの作品が好きという方にはぜひ読んでほしい作品です。
『ACCA13区監察課』は、2013年から2016年まで「月刊ビッグガンガン」で連載されていた、オノ・ナツメの作品です。単行本は全6巻、2016年からは番外編『ACCA13区監察課P.S』が、同誌で連載されている人気漫画です。
- 著者
- オノ・ナツメ
- 出版日
- 2013-11-25
オノ・ナツメ作品は、おしゃれな画風と流れるように進む物語が特徴ですが、「食」がたびたび登場することでも有名です。ほとんどの作品に「食べ物」が描かれており、ストーリーを展開させながらも、「食」にスポットを当てた描き方もオノ・ナツメ作品の魅力のひとつといえます。
本作で登場する「食」のシーンは、パンやお菓子が中心ですが、その描き方も絶妙。カラーではないのに、そのお菓子の色合いが、自然と浮かんでくるという、その画風は天才的といっても過言ではありません。まさに「食べたくなる」という描写が、オノ・ナツメ作品の見どころでもあるのです。
またこの作品では、ジーンが守られていると感じる描写があり、他にもその人物の行動が正しいのか誤りなのかといった伏線も随所で張られています。これらが何を意味するのか、ゆっくりと核心に迫っていくのも見所です。
オノ・ナツメのおすすめ作品を紹介した<オノ・ナツメのおすすめ漫画ランキングベスト5!『ふたがしら』以外も名作>もぜひご覧ください。
- 著者
- オノ・ナツメ
- 出版日
- 2014-07-25
ドーワー国は、それぞれが独自の文化を持つ、13区に分かれた地方自治制の一国です。99年前、前国王時代にクーデターが起こり、国王はいくつかの条件を元にクーデターを食い止め、平和的な解決で国を治めました。
その話し合いのなかで、政治から独立した機関、警察局、医療局、消防局といった、巨大な組織が作られました。その際、それらを傘下におく組織として、民間組織ACCAも誕生したのです。各地区に置かれたACCA支部の業務を監察する役割を担っているのが「ACCA13区監察課」でした。
視察は本来、課長であるオウルの役割ですが、乗り物酔いを理由に、ジーンに13区全ての視察をまかせているのです。ある日、オウルとジーンが副本部長に呼びだされ、100年続いたACCAを廃止する旨を伝えられます。
その理由は、平和の世を迎えたので、ACCAは不要になったとの理由でしたが、実際はグロッシュラー長官の意向によるもので、ACCAの5長官がそれに同意したということでした。
5長官の中には、ACCA廃止にリスクを唱える者もいましたが、グロッシュラーは、地方へ本部からの信頼を知らしめるのが目的だと、ACCA廃止を決定したのです。
しかし、視察中のジーンが、ファーマス支部の不正を発覚したことで、ACCA廃止が却下されました。廃止を推していたグロッシュラーが、廃止却下をあっさり承諾したのも何か裏があると推測するリーリウム。それと同時に、クーデターがあるとの報告を受けたグロッシュラーは、ジーンが加担していると疑い、ある人物にジーンの監視を命じたのです。
まずはじめに、この作品の考察やネタバレの紹介を、スムーズに進めるにあたり、本作の登場人物をご紹介します。
ジーン・オータス(主人公):ACCA13区監察課副課長、通称「もらいタバコのジーン」
13年前に列車事故で両親を亡くしてから、妹のロッタと2人で管理人を務める高級マンションで生活しています。学生時代に知り合った、数少ない友人ニーノとは親友。監察課には、何度も異動願いを提出していますが、一向に受け入れられません。
ロッタ・オータス:ジーンの妹
ACCA業務で忙しいジーンの代わりに、マンションの管理業務をひとりでこなす、しっかり者。スイーツが大好きで、ニーノを兄のように慕っている明るい女性。
ニーノ:ジーンの親友でフリーの記者
ニーノは、ジーンとは学生時代からの親友ですが、その正体はACCAの内務調査課に務める覆面局員です。ジーンの同級生と思いきや、実際はジーンよりも年上。しかしそれを、隠さなければならない理由があり……。
オウル:ACCA13区監察課の課長
乗り物酔いをするという理由で、ACCA13区の視察は全てジーンに任せています。ジーンからの異動願いを受け取っても、人事には提出していません。オウルには、ジーンを監察課から異動させたくない理由があるようで……?
スペード:ヤッカラ区出身のACCA5長官のひとり
5長官廃止後は政治の世界から退き、故郷ヤッカラで一般市民としての暮らしを選びます。
パスティス:スイツ区出身で爵位を持つACCA5長官のひとり
5長官廃止後は、スイツ区の区長となりました。
グロッシュラー:ロックス区出身のACCA5長官のひとり
5長官廃止後は、モーヴの相談役としてACCA残留。当初は、ジーンがクーデターに加わったとみて、秘密裏でニーノにジーンを監視させていました。
パイン:ジュモーク出身のACCA5長官のひとり
5長官廃止後は、ジュモーク区の区長となり、街に貢献していました。
リーリウム:フラワウ区出身のACCA5長官のひとり
ACCAにクーデターを起こさせて、フラワウ区を有利に進めようと目論みましたが、失敗に終わり帰郷しました。
モーヴ:ACCAの本部長
コロレー区出身の女性で、リーリウムの目論見と、クーデターをジーンと一緒に阻止しました。
ドーワ国では、タバコには高額の課税が課されているため、よほどお金持ちでないと、タバコを愉しむなんてことはできません。一般市民には、とても手の届く代物ではないのです。それにも関わらず、ジーンはなぜ、高価なタバコが吸えるのでしょうか。
ジーンの住まいは、街の中心街にある、高級マンションの最上階です。いくらマンションの管理を任されているといえ、安月給のACCA局員が、そうそう住めるところではありません。ジーンはもしかしてお金持ち?という印象がありますが、決してそうではないのです。
妹のロッタが、ニーノとの会話で、お金に関してこんな会話をしています。
「大家じゃないからお金持ちって訳じゃないけど 管理人だってそこそこ安定してるのよ?」
「ACCA辞めたって食べていけるよ そもそもACCAって安月給だし」(『ACCA13区監察課』1巻から引用)
ロッタのセリフから、2人は標準な生活をしており、決して裕福なわけではないということが窺えます。ただ、普通の人から見て、タバコに高級マンションといったら、「贅沢」や「お金持ち」だと思われても、仕方ありません。ACCA局員の男たちが、タバコを吸うジーンを見て、不満を露にした会話がこちらです。
「高級課税のある 超高級品のタバコなんて 安月給のACCAじゃ 到底手が出ませんけど」
「それにあいつ 中心街のセレブマンションに住んでるらしいですよ 金持ちたちの巣窟の」(『ACCA13区監察課』1巻から引用)
ジーンは、視察に訪れた地区でも、街中であっても、あらゆる場所でタバコを吸っていますが、いったいどこで手に入れているのでしょうか?「もらいタバコのジーン」と呼ばれるだけあって、自分で買っているわけではないでしょう。
ジーンが、タバコを手に入れていると考えられるシーンがこちらです。ジーンの出勤前、マンションのエントランスで、上品な紳士からこんな言葉を掛けられています。
「ジーン いい品が入ったんだが 一本どうかね?」(『ACCA13区監察課』1巻から引用)
その時のジーンの顔つきから推測すると、いい品というのはタバコのことではない「何か」。それの報酬として、タバコを受け取っているのかもしれません。ジーンの副業といったところでしょうか……。
また、高級マンションの最上階に住んでいる、ということに関しても、管理人を務めるだけで住めるような場所ではありません。管理人としての住まいであれば、通常ですと1階になるはずです。ジーン兄妹を、最上階に住まわせなくてはいけない理由が、「誰か」にあるのかもしれませんね。
ジーンの親友ニーノ。彼はジーンが行くところでよく顔を合わせます。また、時々ロッタとお茶をしながら、ジーンの最近の状況を窺っているかの様子も見られるのです。
ジーン自身は、最近誰かに監視されているような気がする、とニーノに打ち明けていますが、それがニーノだとは気づいていないようです。ニーノの正体は「クロウ」と呼ばれる、ACCAの覆面内務調査官でした。
彼は、ジーンがクーデターに関わっていると睨んだグロッシュラーからの命令で、監視役をしていたのです。ジーンの行くところにニーノがいるのは、監視をするのが目的であって、ジーンには取材という形で説明していました。
ジーンが誰かに見られていると感じたのは、ニーノの監視の目でした。しかし、ニーノはジーンの親友であるにも関わらず、なぜグロッシュラーの命ぜられるまま、ジーンの監視をしているのでしょうか。また、ニーノがジーンにACCAの職員であることを、知らせないことも不思議ですよね。
ジーンの監視を依頼される前から、職員であったならば、隠すことでもないし、学生時代からの同級生であれば、就職する際に打ち明けていてもいいはず。しかし実は、ニーノが職員であることを隠さなければならない理由が、2人の素性に繋がっているのです。
2人の素性はどういうものなのでしょうか……。
5長官のなかで、グロッシュラーとリーリウムの2人は、とにかく怪しい行動が目につきます。グロッシュラーは、5長官のなかでも浮いている人物で、パスティス長官は会議中、グロッシュラーが席を外すだけで、その場の空気が変わるといいます。
「あれがいないだけで 空気が軽やかになる」(『ACCA13区監察課』1巻から引用)
また、リーリウムは特に含み笑いが鼻につく人物です。一見人当たりの良さそうな雰囲気をかもし出していますが、実際は何を考えているか分からないので、危険視した方がいいでしょう。
リーリウムとグロッシュラーは、意見が合ったことはなく、監察課廃止の協議では、唯一リーリウムだけが反対していました。ただ、反対を押し切るというわけではなく、撤退するにはリスクがあるのでは?という程度でした。
そんなリーリウムは、ジーンがクーデターに加担しているのではないか、とグロッシュラーが思っていることや、クーデターの首謀者が実際はグロッシュラーではないか、と疑っていることなどをジーンに話し、協力を求めるのです。
「グロッシュラーはクーデター派だ 用心したまえ」(『ACCA13区監察課』2巻から引用)
リーリウムは、ジーンがクーデター派だとは、思っていない旨、あくまでも自分は味方だとしながら、ジーンに監視をつけたのもグロッシュラーだと伝えました。
こうなると、リーリウムはジーンの味方で、グロッシュラーを陥れているようにも感じられますよね。ただグロッシュラーの行動は、私利私欲で動いているような印象は受けません。一方、リーリウムからは「欲」の印象が強く感じられるのです。
ジーンにグロッシュラーのことを話し、彼から遠ざけようとしているのでしょうか。またリーリウムが、13区の視察をしている一局員であり、権力とは関係ないはずのジーンを、巻き込む理由とは一体何なのでしょうか。
リーリウムには、フラワウ区で区長をしている兄と、フラワウ区のACCA支部長をしている兄弟がいます。2人とも、フラワウ区に関わる仕事に就いているので、彼らの狙いをしいていうならば、やはり権力を握るということでしょうか。
もしフラワウ区を中心とした、政治を行うのが目的だと考えると、グロッシュラーは、彼にとって邪魔な存在なのかもしれませんね。グロッシュラーとリーリウムを除く3人には、政治的な欲望というのが少ないように感じられるでしょう。
スペード「監察課は今月末をもってACCAから消える」
パティス「これでよいのかね?」
グロッシュラー「よいのだ」「経費削減のため不必要なものは削る それだけの話だ」(『ACCA13区監察課』1巻から引用)
監察課廃止を決める会議でも、グロッシュラーとリーリウム主体で、話が進んでいたり、グロッシュラーが決定権をもっていたりと、他の3人はどちらかというと、控えめな印象を受けます。だからこそリーリウムにとって、グロッシュラーは目の上のたんこぶ、といったところかもしれませんね。
ジーンはオウル課長に、何度も異動願いを出していましたが、一向に許可がおりません。それどころか、グロッシュラー曰く、異動願いは一度も出されていないとのこと。
オウルはジーンを優秀な部下だと思っていることは事実ですが、どうやらジーンを異動させたくない理由が他にあるようです。また、カラーで見ていただけると分かるのですが、オウルの髪色は金髪です。しかし6巻では、金髪が本当の髪色ではないということが、本人の口から語られています。
「金髪に染めるのも一苦労だよ」(『ACCA13区監察課』6巻から引用)
このことから、金髪に染めなくてはいけない理由があると推測されるでしょう。正体を知られたくないから、金髪にしているとすると、オウルという人物がますます謎に包まれていきますね。それが、ジーンの異動願いとも関係あると考えると、ジーンを自分の目の届くところに、置いておく必要がある、ということなのかもしれません。
またオウルの乗り物酔いは、電車も飛行機も、人ごみでさえ酔ってしまうといいます。しかし、オウルの乗り物酔いにはある理由があったのです。それは、乗り物酔いというよりも、トラウマになっていると考える方がしっくりきます。
昔、ロックス区とペシ区の区境で起きたある列車事故。ジーンの両親は、この列車事故で亡くなっていて、その列車に同乗していたのが、オウルだったのです。この事故では、3人が亡くなっていますが、その3人とは、ジーンの両親、そしてもう1人は、ニーノと深い関係がある人物でした。
オウルの正体はいったい何なのでしょうか。以下のシーンで推測してみましょう。
5巻で、ロッタが暗殺者に車に拘束されるという出来事があるのですが、この時にオウルは人ごみに酔ったと言って、ロッタが拘束されている車に寄りかかり、犯人とこんな会話をしています。
オウル「…ドーワーの方が何故 ロッタさんを?」
暗殺者「…何故ドーワーだと…?」
オウル「黒の棒タイは第1王女の側近の方ですね」(『ACCA13区監察課』5巻から引用)
ロッタがなぜ、暗殺者に狙われるのか、彼女の素性は、この出来事で、核心に近づいています。しかし、黒の棒ネクタイが、王女の側近を表すものだということは、いくらACCAの課長とはいえ、通常では分かるわけがありません。
オウルには、ロッタを守るべき義務があるのか、ジーンの妹だからという理由だけなのか……。その理由はぜひ、本編で確認してください。
- 著者
- オノ・ナツメ
- 出版日
- 2016-12-24
オノ・ナツメの雰囲気を楽しめる『ACCA13区監察課』はいかがだったでしょうか?全6巻で張られた伏線が、5巻からスムーズに回収されていくので、読み終わったあとはスッキリ感が味わえますよ。また、独特の画風で描かれたケーキやパンの数々が魅力の本作。その美味しそうなシーンに、夜に読んだら後悔しちゃうかもしれませんね。