あらゆるテーマに対して「そもそも」の部分から冷静な解釈をしていく内田樹。彼は日本で有数の思想家・哲学研究者として大学で教鞭をとる一方、数多くの書籍を発表しています。そんな彼のおすすめ書籍10冊をご紹介します。
内田樹は哲学研究者であり、思想家、エッセイストなど幅広く活躍している作家です。高校時代は退学処分を受けるほどの不良で、家出をするも経済的に立ちいかず出戻るなど、激動の青春時代を過ごしました。
大学進学後は、哲学思想家のレヴィナスの書籍に出会ったことから人生が変わり、思想家としての道を歩み始めます。さまざまなテーマに対する独自の解釈、再定義をおこなうことにより、各界からのご意見番的存在としてキャリアを積んでいきました。
誰にでもわかりやすく学問の世界を広げることをコンセプトとする内田は、ブログの文章に対して著作権放棄を掲げるなど、精力的に自身の積みあげてきたものを世に送り出しています。その姿勢に多くの読者が共感し、ファンが増えているのです。
今回はそんな内田樹のおすすめ本10冊をご紹介します。
『下流志向』には「学ばない子どもたち、働かない若者たち」という副題がついています。現代における子どもたちの考え方の変化や、それを作った社会の状況を観察・分析することが本作の趣旨です。
内田樹は、子どもたちの学びに対しての考え方が変わったのは、市場原理において発生する「等価交換」という概念が根差していると考えています。
「なぜ勉強しなくてはいけないのか」という問いは、この「等価交換」の考え方を顕著に表しているのです。勉強はしたくないことを強要される苦役なのだから、それに対して相応の価値が見出されて当然だ、と子どもたちは考えています。
また、労働についても「その労働と見合う対価は何なのか」ということを若者たちは考え、もらう賃金よりも大切な自由時間という判断基準を守るために、働かない選択をするのです。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2009-07-15
本作は現代社会の子どもたちの考え方を非常に的確に分析しています。紹介した内容はほんの一部分で、親や社会といった子どもたちが接続する外界と彼らの変容をひとつずつ例にとり、現代の若者たちのありようを伝えているのです。
こういった「現在進行形で変わりゆくもの」に対しての定義をたて、賛否問わず議論をする礎を築くものは、大変価値のあるものでしょう。「近頃の若者は……」という、謎の生命体に対する呆れのような念は、本書を読むと和らぐのではないでしょうか。
「構造主義」とは何でしょうか。内田樹は「私たちは属する社会の規範に基づいた限定的自由を得ている」という考え方である、と述べています。
「構造主義」はマルクスにはじまり、フロイト、フーコー、レヴィ=ストロースと、数々の哲学者や心理学者、文化人類学者の学説を礎に発展を遂げてきました。それぞれの学者が述べてきた「人間とは何なのか」「構造を決定づけるものは何なのか」といった疑問に対する答えが、わかりやすく説明されています。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
私たちが普段謳歌している自由は、本来の意味で自由とはいえないと感じたことはありませんか?あなたが良いと思っても、「社会の目が」といった独特の圧迫感が理由で断念したことはないでしょうか?
「構造主義」は決して難しい話ではなく、むしろ我々が現代社会のなかで冷静な視点を持って生き抜くために必要な、ひとつの考え方であるといえます。「井の中の蛙」という言葉がありますが、構造主義をまったく知らないでいることは、もしかすると井戸の中にいることすら気付いていない蛙と同じ世界しか見えていない可能性があるのです。
内田のわかりやすい適切な解釈と説明によって、ぜひ「構造主義」の扉を開いてみてください。
現代の社会が私たちに課している「こうあるべき」というルールは、実際に生きている私たちの感覚と大きくズレていることがあります。
「働きまくって生きる」という考え方について内田樹は「自分の能力には限界があるということを認識すべき」という冷静なメッセージを添えています。また、「個性探し」については、「個性は多くの学んだ知識によって浮き彫りにされていくもの」と位置付けるのです。
日本人を社会的に機能させるため、あるいは現代社会に適応させるために与えられてきた神話ともいうべき「型」を、内田は今一度見直すよう警告を発しています。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2007-09-25
『疲れすぎて眠れぬ夜のために』というタイトルは、実によく考えられています。本来、「疲れすぎて眠れない」という状態は生物として異常な状態ですが、そういう状態に陥っている人がこの国には少なくないであろうことは容易に想像できます。
そういった異常な日々がなぜ多くの人に襲いかかってしまうのか、そしてその状態からどのように抜け出せばよいのか。その答えが、淡々と説得力のある言葉で描かれているのです。
「個性的に生きよう」と謳って商品を売ろうとするビジネスや、「社会のために働いてこその人生だろ」とモチベーションという名の尻を叩いてくる規範。そういったルールを鵜呑みにせず「自分らしく」、「身の程をわきまえて・限界を知って」生きようと、内田は読者に語りかけてきます。
本書を読めば、きっと安らかに眠れることでしょう。
内田樹が「届く言葉」をテーマに論じた一冊です。彼が教壇で語ったことをつぶさに書籍化したものですので、エネルギーのある、まるで講義を聴いているかのような感覚を与えてくれます。
たとえば、何かの言葉を届けよう、という意志があった場合、多くの人が通る道が「自分らしい言葉を伝えよう」という気概ではないでしょうか。この思考は決して悪くないのですが、他人の言葉や知識に耳を傾けず、すべてを自己流で解決しようと視野を狭める結果にも繋がります。
そうすると、結局語彙力が貧困になってしまうことが、現代の言葉(を用いる私たち)には顕著である、と内田は警告しています。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2016-03-10
『街場の文体論』は、言葉を基軸にしたさまざまな発見を読者に与えてくれる、ワクワクする一冊です。本書を読むと、彼がいかに言葉というものに対して愛情を抱いているかがよく伝わります。
西欧の文化と我々日本人の文化では、言葉や知識そのものに対する解釈の違いがあるという部分も、興味深く読めるでしょう。我々が常識だと考えていること自体が、決してそうではないということを知ることによって初めて浮かびあがる、「日本における言葉の使い方」や「知識の扱い方」というものも見えてきます。
言葉に関わる仕事をしているすべての方に読んでほしい傑作です。内田の講義が聴きたい、と心から思える一冊ですね。
『子どもは判ってくれない』は、大人のものの考え方をコンセプトとした内田樹のエッセイ集です。
「人間という生き物は、社会的一般論を語るようにしながら主観的な意見を述べるもの」という観点に基づいて、現代日本社会の規範はいったいどんなカラクリでできているのか、あるいは何を求めているのかを鮮やかに語ります。
本書は、子どもたちがこの社会で生き延びていくために知っておくべき武器のような思考を与えてくれる一冊です。そして、大人たちが当たり前になって無意識になりつつある「思い込み」や「悪習」について、改めて考えさせてくれる内容でもあります。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2006-06-01
内田の書籍には、大人と子どもの間を通訳するようなコンセプトを持ったものが多いです。本書はその代表とも言える一冊で、まさに年代問わず多くの読者が入り込める文章と、どちらに対してもメッセージを伝える内容が印象的です。
普段、大人たちが言う言葉は端的すぎて伝わらなかったり、慣習になってしまって本意がわかりづらいことがあります。本来は真向から反対する必要のないことすら、若者たちから見ると敵対すべき強大な圧力として映ることも多いでしょう。
そういったさまざまなミスリードが、『子どもは判ってくれない』を読むとするすると紐解かれていきます。内田は決して、「大人」「子ども」どちらかの考え方を否定・批判しているわけではありません。むしろ、むやみに「大人」と「子ども」に線引きをして、向かうべき将来や自らも経験してきたジュブナイルを批判しあう無意味な論争に、終止符を打とうとしているようです。
『呪いの時代』は現代社会に根付いた一種の風潮を「呪い」という言葉によって描き出した本です。
我々は、流行を醸成するためにつくり出される新しい言葉たちや、その後の拡散を助長する過激な情報の渦に巻き込まれながら日々生活しています。また、以前はなかったソーシャルネットワークによってプライベートな自分は可視化され、「〇〇女子」や「〇〇系」などのカテゴライズに自分をはめこみながら自己を認識しているのです。
すでに浸透しているこういった「呪い」によって、我々は他者の真の理解が難しくなり、社会というシステムそのものを維持していくことが困難になっています。内田は、「ありのままの自分の身の丈を理解し、受け止めること」と、「相手に贈与すること」の重要性を語ります。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2014-06-27
本書は現代日本を鮮やかに切り取った一冊です。私たちがモヤモヤと言葉にできないながらに感じている違和感を、綺麗にまとめて「呪い」という言葉で定義してくれた、大変価値ある作品になっています。
内田はこうした現代社会のシステムを誰にでもわかりやすく伝えることで、その波にのまれることなく、自分自身をもって生きよとメッセージを送ってくれているのではないでしょうか。彼の見ている世界のすべてをもし理解することができたとすれば、その時私たちが持っている生活に対する悩みの9割は、すでに解決の道へと進んでいるのかもしれません。
「おじさん的思考」とは、ある種内田樹本人の意見をそのまま「おじさん的」に語りつくしたということを表しています。本書はインターネット上に書き溜められた内田の文章を元に出版されたもので、彼の見ているヴィジョンや考えがストレートに伝わってくるものです。
内容は、憲法9条や学校での性の扱い、人種問題、教育論など多岐に渡ります。そのなかでも、自身が教鞭をとる身だからか、子どもたちの教育現場に対する考えは特に熱く語られています。
普通ならば「言うだけ言っておけば」と流したくなるところを、内田の文章はロジカルで納得させられ、新しい知見を与えてくれるからこそ、価値あるものとして成立するのでしょう。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2011-07-23
本書に描かれている現代のあれこれは、どんな年代でもニュースで見かけたことのあるものや、我々が実際に感じている問題です。だからこそ、内田が自身の想いをぶつけてくる文章を読んでいると、自分はこう思う、もっとこうしたほうがいいなどの意見が自然と湧きあがってくるのです。
ありとあらゆる知識を総動員して、それでも学者然とせず読者と同じ目線で語ってくる内田樹。その人柄をうかがい知ることのできる一冊となっています。引用されている文献は文学作品から哲学書に至るまでさまざまなので、これをきっかけに新しい知識を掘り進めるのも良いのではないでしょうか。
多岐に渡るテーマを自分の思想に基づいて一刀両断していく内田樹。その独自のスタイルが構築される前のデビュー作が『ためらいの倫理学―戦争・性・物語』です。
本書では、「内田樹の語らないテーマ」について焦点を当てるという切り口が斬新です。彼にとって「正義」とは絶対的なものではなく、あらゆる観点から自分の意見や紡ぐ言葉を懐疑すべきである、と述べています。
「正しい自分に焦点を当てるのではなく、間違えうる自分の能力や判断能力を冷静に認識していること」の重要性を語ります。それが本来の意味の知性であり、唯一の自己防衛能力ともいえるでしょう。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2003-08-03
「戦争」や「性」という、永遠のテーマであり、かつ正義を考えるためには議論のはずむテーマを副題に持ってくることで、内田は誰にでも正であることが不可能だと伝えています。
自分が100%正しい存在であるはずなどない、という考えを受け入れながらも社会に挑む考え方を、彼は「とほほ主義」と名付けています。キャッチーな言葉でありながら、弱さを受け入れている姿にぴったりとあっている名称ですね。
「自分の正しさを雄弁に主張することのできる知性よりも、自分の愚かさを吟味できる知性のほうが、私は好きだ」と語る内田の、処女作でありながら、後の作品の原点ともなるような考えが述べられている一冊です。
「ひとりで生きられない」なんて、今さらすぎる言葉でしょうか。内田樹は、なぜ「ひとりでは生きられない」ことが当たり前なのか、そしてそれはどんな「芸」なのかを説いています。
「結婚」「就職」などあらゆる関門をくぐり抜けて私たちは社会に所属しています。そのなかでそれぞれが役割を持ち、組織は成立しているのです。その組織で自分がもっとも少ない労力で効果を発揮することができれば、結果として生産性は上がります。
一方、その生産性の元、忘れてしまいがちなのが、「お互いが協力しあって生きる」スタイルです。奉仕精神や誰かへの思いやりの行動をそれぞれが少しずつ持ち合えば、社会が転落せずに済むと内田は予想しています。相互に共存しあえる社会に、現代は近づきつつあるのでしょうか。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2011-01-01
『ひとりでは生きられないのも芸のうち』は、一層身近なテーマを元に生き方について考えさせてくれる一冊です。
ひとりでなんでもかんでも完結してしまうと、社会はおそらく成立しません。なぜなら、お互いが協力しあうための「社会」という場所すら、要らなくなってしまうからです。人は、自分ひとりでは生きていけないからこそ、「贈与」し合う関係性で結ばれるべきなのです。
贈与というキーワードは、彼の作品の多くに見受けられます。市場原理主義とは異なる、私たちの緩やかなつながりを実現する唯一の方法が垣間見える一冊となっています。
内田樹が教師人生に終止符を打った最終講義と、他5つの講義内容を書籍化したものです。
講義の内容がそのまま書籍化されているので、細かいエピソードやライブならではの話など、さまざまな特典があります。書籍化にあたって追加された7つ目の「共生する作法」は、特に現代日本に対するはっきりとした意見が印象的です。
経済成長に邁進してきた日本ですが、そろそろ別の時代にさしかかろうとしているのではないでしょうか。内田は日本を「猿が指導している国」という表現を用いて表し、日本の発展や数年後のヴィジョンを考えない人が組織のトップを握るようなあり方に、警告を発しています。
- 著者
- 内田 樹
- 出版日
- 2015-06-10
まるで「内田先生の講義」をそのままライブで聞いているかのような錯覚に陥る一冊です。言葉にエネルギーがあり、話している姿をそばに感じることができます。
この国の将来をどのように変えていくか、あるいはどう感じていくか。そんなメッセージを大学生に語りかける彼の生きざまや、一貫して伝え続けてきた思いがにじみ出ています。
日米の関係、ユダヤ人という存在、宗教など、非常に繊細なテーマも扱っています。国際社会のなかにおける日本の立ち位置や、教育の本質などを考えさせてくれる本です。
内田樹の本は、テーマが多岐にわたる一方、伝えていることはいつもシンプルかつ明確です。私たちは目まぐるしく変化する社会にどのように対応していけば良いのか。そんな漠然とした問いに対する答えを、見つけられるはずです。ぜひ彼のロジカルな世界を、本を通じて体感してみてください。