通称「ゴルゴ13」ことデューク東郷は、無口で余計なことは一切しゃべらないキャラで描かれていますが、彼の発する言葉は、混迷する現代社会において指針となるような深い意味が込められているのです。今回はその名言を徹底紹介していきます!
『ゴルゴ13』は1968年11月から「ビッグコミック」にて連載が開始され、1度も休載されたことのない長寿漫画です。
1996年には単行本100巻、2008年には連載40周年ならびに単行本150巻到達を記念するパーティーが開かれ、2017年10月には連載50周年を記念する特別展「さいとう・たかを ゴルゴ13」が大阪文化館で開催されます。
国籍や年齢、本名がまったく謎の超一流のスナイパー(狙撃手)デューク東郷の活躍がシリーズをとおして描かれており、作者であるさいとう・たかをの代表作といえるでしょう。
何がそれほどまでに本作を長寿漫画としたのでしょうか。
- 著者
- さいとう たかを
- 出版日
『ゴルゴ13』の魅力のひとつとして、主人公デューク東郷の生きざまが、人殺しを生業としていること以外すべて中立……つまりどんな思想やイデオロギー、権力にも影響されず、確固とした自分というものを持っているからではないでしょうか。
この作品が発表された1968年は、大学の学園紛争やら、東西の冷戦やら、保守と革新やらと自分たちが正義、相手が悪という空気が蔓延していた時代です。もちろん漫画、小説、ドラマでも勧善懲悪が主流の時代でした。
そのなかで生まれた本作は、どんな思想や人、権力にも影響されない人物が主人公という異色な漫画だったのです。しかし、世の中の常識や多くの人が考える正義はその時々の一時的な幻想にすぎず、より人間として普遍的な生き方を追求し続ける主人公の姿が描かれているため、時代を超えて支持されているのではないでしょうか。
いま、世の中で起こっているさまざまな出来事を見ていると、一体何が正しくて、何が間違っているのか分からない、と感じることはありませんか?
このような混沌とした時代だからこそ、人間として、普遍的な生き方を求めていきたい。そんなファンの思いが『ゴルゴ13』をここまで続かせたのでしょう。
実は作者のさいとう・たかを自身も、国や大人たちが「鬼畜米兵!」と叫んでいた太平洋戦争終結を小学校3年の時に経験しています。その直後から手のひらを返したように国や大人たちがアメリカを絶賛する風潮を見て育ったからこそ、人間の生きざまをより深く考えるようになり、それが礎となって『ゴルゴ13』が誕生したのではないでしょうか。
また、本作はストーリーものではなく、1話完結型となっています。ストーリーものは必ずエンディングがありますが、1話完結型だとネタの数だけ物語があります。つまり主人公が消えない限り、理論上は永遠の連載ができるのです。
そしてその内容が興味深く、世の人の共感を得ていれば、続かないわけがありません。つまり本作はそれほどのポテンシャルをもった漫画だということです。
そのポテンシャルを支えるのが、数多くのスタッフです。世界情勢や世間の闇を鮮やかに描き出し、かつては国会質問にも、とある物語「PKO」(155巻)が質問になるなど通常の漫画では考えられないようなことも起きていますが、これはさいとう・たかをひとりでやっているわけではありません。
「これからの漫画は専門スタッフを集め、分業でしないといい作品は生まれない」と作者本人が言っていますが、脚本、考証、そして実際に絵を描く人、それぞれの異なった高い才能を束ねれば、完成度の高い作品が作れるということでしょう。
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『ゴルゴ13』は本名、年齢、国籍、経歴などまったく不明な超A級スナイパーである主人公の活躍を描いたハードボイルド漫画です。
主人公は、デューク・東郷(Duke Togo)と呼ばれることが多いですが、これはおそらく偽名。コードネームがゴルゴ13であることから、頭文字をとってGと呼ばれることもあります。自らをゴルゴと称することは滅多になく、また依頼に合わせてその他の名前を名乗ることも多いです。
ゴルゴについてわかっていることは、推定で身長が182cm程度、体重が80kg程度で、血液型はA型、利き腕が右であること、狙撃には自分仕様にカスタマイズした愛用のM16を主に使用するということくらい。
さらに銃器だけでなく、おおよその武器はなんでも扱え、格闘技に、あらゆる乗り物の運転や操縦もそつなくこなし、さらに訛りのない発音で十数ヶ国語を操るという、本当にこんな人間がいるのかというような人物です。
また仕事の依頼に関しては、依頼内容に嘘や偽りがあると死をもって償わせるという厳格なルールがあります。ただし依頼内容に正当な理由(世間一般の善悪とは関係ない)があり内容に嘘偽りがない場合は、彼も死を恐れぬ覚悟で依頼を遂行します。
活躍する舞台は、地上、海上、空にとどまらず、宇宙空間までと幅広く、人類が足跡を残した場所でゴルゴが活躍していないのは月だけなのでは、というほど縦横無尽な活躍ぶりです。
物語は、先にも書きましたが1話完結型で、どの話から読んでも大丈夫なのですが、作品が発表された当時の世界情勢などを色濃く反映した物語が多く、その裏でゴルゴが活躍するという設定が多いです。
もしかしたら現実でも裏でこのような人間が暗躍していたのでは……と想像力をかきたてるような話も多々あり、この作品の大きな魅力となっています。
さらにこの作品の凄いところは、未来に起こりうる世界を予想したようなものも発表されているところです。64巻に収められている物語「2万5千年の荒野」は、1984年発表にも関わらず、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故、2011年の福島第一原発の事故を彷彿とさせます。
以上、簡単ではありますがゴルゴの人物像と作品のあらすじについて紹介しました。
もちろん、本作にはここでは書ききれないたくさんの魅力がつまっているのです。そのさわりとして、独断と偏見で選んだ名言の数々をご紹介していきます。
ベトナム戦争以来アメリカ国民に蔓延している、地上戦に対するアレルギーを払拭するため、アメリカのとある軍需産業の会社が開発した戦闘用装甲兵ロボットSDR2。
そのデモンストレーションとして計画を指揮したペンタゴンの幹部は、世界中のテロリストを集めて小島で殺し合いをさせ、その中にSDR2を送り込みました。生き残ったテロリストとSDR2の戦いがくり広げられるなか、不幸にもゴルゴはこの島に飛行機で不時着してしまいます。
SDR2に次々と始末されるテロリスト、そのなかで最後まで残ったSDR2の操縦者が、戦闘による心的障害を起こしたと判断した幹部は引きあげを命じますが、そこでゴルゴが発見されてしまいます。幹部はただちにゴルゴの始末を命じるのです。
しかしSDR2とゴルゴの勝負はゴルゴの勝利に終わり、ロボットは大破。それに驚愕した幹部はすかさずゴルゴを呼びつけ、どんな状況下でも戦えるような兵士を養成するため、アメリカ軍の軍事顧問になるように命令をします。
ゴルゴは断りますが、その際になぜ装甲兵ロボットの実戦デモにテロリストを選んだのかと問いました。彼らの答えは、幾百万というアメリカ兵の犠牲のうえに築きあげた秩序や正義を、テロリストたちは簡単に崩壊させる、いわば許さざる者だからということでした。
そのときのゴルゴは次のように答えます。
「その"正義"とやらはお前たちだけの正義じゃないのか?」(『ゴルゴ13』148巻より引用)
正義ほど定義のあいまいな、そして身勝手なものはないということをひと言で表現した名言です。
人類の歴史を見ても「正義」の名のもとに数多くの戦争が起き、多くの人が亡くなっています。なにもこれは国家間のことだけではなく、企業が存続のための利益確保という「正義」のために粉飾決算をしたり、サービス残業を従業員に強いたり、自由という誰もが認められている「正義」を振りかざして好き勝手な行動をしたり……しかし当事者は周りの迷惑は見えず、自分たちが正しいことをおこなっていると考えていることがほとんどでしょう。
一体、正義とは何なのでしょうか。それは人間の欺瞞そのものかもしれません。そんなことを考えさせられる言葉です。すべてを中立で生き抜き、どんな権力にも絶対に服従しないゴルゴだからこそ、重みがあります。
動乱がおさまらないアフリカのコンゴ共和国で、大統領と反対勢力の話し合いがおこなわれることになりました。ゴルゴは国連人権委員会に大統領に対するあらゆる不測の事態に備えてほしいと依頼を受け、ウガンダ共和国に向かいます。現地到着後、ウガンダ軍によりテロリストの大統領襲撃箇所を確認した彼は、現地の兵とともに現場に急行します。
ただ、そこまでの道はサバンナの悪路。ゴルゴは狙撃箇所手前で車を降り、銃のゼロ・イン調整(銃とスコープの調整)をします。
しかし、いまさらゼロ・イン調整?とせせら笑い、狙撃箇所に向かうウガンダ軍の兵士たち。しかし彼らは現場に先に着いたものの、ゼロ・イン調整を怠っていたため目標に狙いが定まらず、敵の銃弾の餌食となってしまうのです。
調整を終えたゴルゴは、大統領が渡る橋を破壊しようとした爆弾の点火コードを銃弾で切断、そして大統領暗殺を企てたテロリストも葬り去りました。
その時、絶命寸前のウガンダの兵士が、自分がまだ未熟だったこと、そして経験を積めば自分も「いつか」はゴルゴのようになれると言ったとき、彼はこう返すのです。
「俺たちの世界では、未熟な者に、"いつか"は、決して訪れない……」(『ゴルゴ13』第147巻より引用)
常に闘いのなかに生き、死と隣り合わせにいるゴルゴだからこそ、このような言葉がでるのではないでしょうか。
本作には、射撃だけに限ればゴルゴに引けを取らないスナイパーが数多く登場します。そのなかで、どうしてゴルゴだけが勝ち残っていくのか……。それは事前の入念な準備、不測の事態や周辺の状況に対する臨機応変な対応、そして射撃に対するたゆまぬ努力、それらの総合力が絶対的に高いからです。
何事に対しても妥協せずに、真剣に生きるゴルゴ。彼のような生き方をしたいものです。
ちなみにこの後ゴルゴは、ゼロ・イン調整した自分の銃を、この兵士の墓標に立ててその場を去っていきます。
ゴルゴはガボン共和国からローマに飛ぼうとしますが、悪天候のため定期便は飛ばず、たまたま声をかけられたエアタクシー(小型飛行機)に乗ります。
その際に白人女性と黒人数人が同乗しましたが、乗り合わせた黒人が行き先の変更を求めて飛行機をハイジャックしました。求められた行き先に向かった飛行機は、地上からの銃撃によりパイロットが負傷、ジャングルに落ちそうになりますが、ゴルゴの機転により何とか不時着に成功します。
実はこの飛行機に乗り合わせた黒人たちは、独立運動を指揮している自分たちのボスを救助にいく者たちでした。彼らはゴルゴに助けられたことで、ボスを助けるという光栄ある任務に再びつけることに感謝しますが、彼らのうちのひとりが、同乗していた白人女性を始末しろと言い出します。
必死で命乞いをする女性を見て、ゴルゴは彼女を庇うように黒人たちを挑発したため、黒人たちはその場で白人女性を始末することをやめ、黒人少年兵ひとりをゴルゴと女性の監視につけ、ボスの救出に向かいました。
その後反独立派の者たちが表れ、ゴルゴを独立運動派の者だ勘違いし襲撃してきます。ゴルゴは応戦しますが、相手側の援軍が来たため、黒人少年兵と白人女性とともにジャングルのなかへ逃げ込みました。
その夜、白人女性が、ゴルゴに自分の胸をさらけ出し、彼は黙って女性を抱きます。その際女性は、あの野蛮人たちから私を守ってとゴルゴに頼みました。それを聞いたゴルゴは「それが……交換条件か?」と冷たく言い放ちます。そして、彼女が2度目をせがんだときにこう言うのです。
「もういい……二度三度とつづけて味わえる女は………そうざらにはいない……」(『ゴルゴ13』第5巻より引用)
この女性の言動を軽蔑して発した言葉なのでは、と思う人もいるかもしれませんが、どのような既成概念にもとらわれないゴルゴならそのようなことはないと考えられます。ただ単に、そういう女性ではなかったということでしょう。
ただ普通の男性がこのような言葉を発してしまったら……そのあとに血の雨が降ることは間違いないでしょう。ゴルゴだから、このような言葉もさまになるのですね。
タイのロケットブローカーが、日本の携帯電話会社にある提案をします。それは中国の携帯電話をすべて日本製にし、通信衛星も日本、打ちあげるロケットも日本製のH2Aを用いるというものです。日本の携帯電話会社はこの話に飛びつきました。
しかしその実、タイのロケットブローカーは、中国製ロケットの開発が遅れていることから中国電波局と結託し、日本のH2A爆破を目論んでいたのです。しかも、爆破した後に中国のロケット開発を進めるというシナリオのもとで。
実は以前もヨーロッパで、タイのロケットブローカーは同じような手口を使い、アリアンというロケットを爆破していました。アリアン打ちあげの保険引受人はこの爆破をうけて破産し、その後自殺してしまいます。その友人が今回の件の陰謀を突き止め、その阻止をゴルゴに依頼したのでした。
ゴルゴはヨーロッパでのロケット爆破の記録を入念に調べますが、ゲン担ぎという名目でロケットに手を触れる行為があったことと、発射直前に鳩がロケット近くを舞っていたこと以外、何もありませんでした。
そしてH2Aの打ちあげ当日、ゴルゴは再びゲン担ぎの行為をスコープ越しに見ます。さらに、鳩が発射寸前のロケットの周りに近づいてきました。
思わずゴルゴはこう叫びます。
「二度の偶然はないっ!!」(『ゴルゴ13』第122巻より引用)
間髪入れずにゴルゴの撃った銃弾が、鳩に取り付けられた妨害電波発生機を破壊。その首謀者も抹殺します。
多くの人は成功が続けば偶然だと喜び、次もその偶然を期待するようになりますし、失敗が続けば偶然だと悲しみ、次回こそは偶然が重ならないようにと祈るでしょう。
しかし、ゴルゴは決して「偶然」が重なったとは考えません。
すべての物事には、原因があって、それに応じた結果がついてきます。偶然と思えることも、実は必然の結果なのです。偶然を偶然と考えず、どんな小さな出来事も見逃さない彼の精神には学ぶものがあります。
- 著者
- さいとう たかを
- 出版日
- 2001-09-01
イギリス海軍に緊急の依頼ということで呼ばれたゴルゴ。そのターゲットは、死んだといわれていた元アルゼンチン大統領フアン・ドミンゴ・ペロンでした。
すでに亡くなっているとして誰も疑わなかった元大統領が生きていた、ということを聞いても、ゴルゴは顔色ひとつ変えません。それに驚いたイギリス海軍関係者が質問したところ、ゴルゴがこう切り返します。
「俺は……この目で見た事しか、信用した事がない……」(『ゴルゴ13』第59巻より引用)
自分で見た事実だけが彼の信じる唯一のものであり、それ以上でもそれ以下でもない……簡単なことのように感じられるかもしれませんが、非常に難しいことです。
かつてローマの偉人カエサルが「人はみな自分の見たいものしか見ようとしない」「人は喜んで自己の望むものを信じる」と言ったように、世間一般の人なら、多かれ少なかれ色眼鏡で物事を見てしまうこともあるでしょう。それは自分の期待通りになってほしいという深層心理がなすものなのです。
しかしそれによってどれだけの悲劇や失敗がくり広げられたか……枚挙にいとまがありません。
ゴルゴのように事実だけを冷静に見つめることができれば、いまよりもう少し世の中が幸せになるのではないでしょうか。
アラブ10人委員会の依頼を受け、モサド(諜報機関)のスパイ養成所破壊をおこなうため、イスラエルに入国したゴルゴ。その姿を見たシャレット大佐は、ゴルゴの醸し出す雰囲気に不信感を抱き、女性工作員のヨナを近づけて素性を探らせます。
その目的は、偽名を使って入国したであろうゴルゴの男根に、ユダヤ人かユダヤ教信者である決定的な証拠となる、割礼痕があるか確認するためでした。
工作員としてゴルゴに近づくヨナは、娼婦のように振る舞います。しかしゴルゴは無表情のまま、黙っているのです。いくら行為をやっても果てないゴルゴに対し、なぜ終わらないのか問いただすヨナ。ゴルゴは冷めた表情で答えます。
「経験の浅い女が、さも経験豊富なようにふるまう……白けるものだ……」(『ゴルゴ13』第23巻より引用)
真っ青になるヨナですが、自分の正体が見破られたと思ったのでしょうか。
その後、ゴルゴは路地で偶然ヨナに出会います。彼女は食事を作って待っていると伝え、ゴルゴも時間があれば邪魔すると答えていました。しかしゴルゴが再び彼女のもとを訪れることはありませんでした。
ゴルゴは今まで数多くの女性を抱いてきたなかで、多くの毒舌をふるっています。しかしその言葉はどれも真実をついているのです。
今回も任務というだけで、経験豊富なようにサービスをしているその煩わしさが、ゴルゴの気に召さなかったのではないでしょうか。一方で、単純に抱かれたいと思って近づいてきた女性に対しては、ゴルゴも真剣に向き合い満足させようとしています。
- 著者
- さいとう たかを
- 出版日
- 1997-04-01
本作の記念すべき第1話をご紹介します。
初期のゴルゴは非常に饒舌で、連載開始時の彼はかなり口数が多かったようです。ちなみに、今のゴルゴは間違ってもこのようなことは言いません。
イギリス諜報部がゴルゴに仕事を依頼するのに、前金と成功後の報酬と分けて払おうとすると、ゴルゴは黙ってその場を去ろうとします。慌てたイギリス諜報部の幹部は、全額前金で払うと言いなおし、彼に現金の入ったアタッシュケースを見せました。
それを見てゴルゴはこう答えるのです。
「たしかに……領収書はいらないだろうね?」(『ゴルゴ13』第1巻より引用)
当時のゴルゴは、殺人を依頼する裏の金に領収書なんて書かないだろ!と依頼者がドン引きするようなギャグともとれる言葉を平気で言っていたのです。
他にも、「美人のアシスタントくん」という発言をしたり、自分が依頼場所まで来た方法を平気でしゃべったり、相手を小馬鹿にするような笑いをしたりするなど、探せばかなりの名言ならぬ迷言があります。
この当時のゴルゴは若かったのでは、と推測できます。言うなればこの名言は、発展途上のゴルゴから発せられたものです。その後、自分の失言や不用意な行動から死と隣り合わせの場面を何度も経験した結果、現在のように寡黙で、ストイックで、ある意味悟りをひらいたような人間になっていったのでしょう。
漆黒の宇宙空間に出て、冷戦時代に打ちあげられた軍事衛星攻撃衛星を永遠に眠らせてほしいというCIAの依頼を受けたゴルゴは、日本の鞍馬竹林という夜間の暗視狙撃に特化した殺人弓術が行われている道場に入門します。
そこでメキメキと腕をあげて、師匠をも凌ぐようになった時、ゴルゴが束脩(授業料)を納めたいと言うと、それを師匠が断るのです。
そのときのゴルゴは次のように答えます。
「善意に甘えるほど危険なものはない」(『ゴルゴ13』第155巻より引用)
ゴルゴは大抵のことは自分でこなしますが、教えを請う時や専門家の助けを借りるときは、必ずそれに見合った報酬を渡します。また自分の依頼を実行した結果、まったく関係のない人に危害や迷惑をかけてしまった時にも、それに見合った償いをするのです。それはお金であることもあれば、危機に際して助けてあげるという場合もあります。
つまりゴルゴは、絶対的に人に借りを作りっぱなしにすることを嫌う人間なのです。借りをつくると、その時は良くとも、時がたって相手が予期せぬ見返りを要求することも無いとはいえません。その時に慌てないためにも、彼は決して借りをつくらないのです。
善意に甘えるということは場合によっては身を滅ぼすことにもなりかねない、という危険性を知っているからこそ、誇り高く生きれるのでしょう。彼自身のルールである中立を保っていくためにも必要な心掛けでしょう。
かつて毛沢東とともに激動の時代を歩んだ老将軍が、毛沢東の細胞を手に入れ、彼のクローンを大量に作り出し、そのなかでもっとも優秀な「クローン毛沢東」とともに、中国の中央政府に謀反を起こそうと企んでいました。その情報を察知した中央政府はゴルゴに、首謀者である老将軍の抹殺を依頼します。
ゴルゴはクローンの毛沢東が育てられている複数の実験場を短時間で制圧し、最後に首謀者である老将軍と対峙しました。
その時老将軍は、腐敗した中央政府を立て直すためにはもう1度毛沢東が立たないといけないと言いますが、ゴルゴは、中国人民が欲していないからそのような人物は現れないのだと言います。
そして、毛沢東と過ごしたかつての栄光を再び味わおうと企てるなんて、最後の革命戦士も老いたものだと言い、老将軍を撃つのです。
絶命していく老将軍に向かって、ゴルゴはこう言います。
「思い出は懐かしむだけにしておく事だ……」(『ゴルゴ13』第143巻より引用)
ゴルゴは決して過去の栄光に囚われることはありません。彼が見ているのは目の前の現実だからです。この生き方を私たちも学んでいくべきではないでしょうか。
ロシア軍の制式突撃銃であるAK-100。マカロフ大佐はAK-100の世界市場を独占し、ロシアに外貨を呼び込み、強い国家として復活させようと企んでいます。
その一方M16は、メンテナンスに難はありますが、ゴルゴが愛用しているというだけで一定の評価を受けていたため、市場を独占したい大佐にとっては目の上のたんこぶでした。
そこで大佐は偽りの依頼で、ゴルゴを砂塵舞うアラル海に呼び出し、AK-100を持つ軍隊で葬ってM16の信用を失墜させようと画策したのです。
ゴルゴは大佐の仕組んだ列車事故で怪我を負いながらも、脱出に成功。さらに装甲車を奪って逃走します。そしてかつての沈没船を盾に、ロシア軍と対峙するのです。
砂塵のせいでM16は使えないだろうと踏んでいたロシア兵に、ゴルゴの銃弾が降り注ぎます。なんと彼は装甲車のタイヤを外して、タイヤの圧縮空気で銃をクリーニングしていたのです。
最後に大佐と武器商人を始末したゴルゴに、世界中で使われている武器であるAK-47の生みの親、カラジニフが情報を聞いて現れ、どうしてそこまでメンテナンスが必要なM16にこだわるのか聞きます。
ゴルゴは静かに答えました。
「俺は……"一人の軍隊"だ。」(『ゴルゴ13』第149巻より引用)
この言葉は、彼がいくつもの戦場で得た体験や経験を踏まえて、そのなかで自分にとってM16が最高の銃だということを表現しているのです。
くどくどと理由を述べることはせず、ただひと言で自分の伝えたいことを的確に伝えることができるゴルゴ。こうしたことから、彼が発する言葉のひとつひとつが名言となりえるのです。
- 著者
- 出版日
- 2017-07-05
いかがだったでしょうか。まだまだここでは書ききれないゴルゴの魅力はたくさんあります。これからも続く『ゴルゴ13』の活躍からは目を離せません!
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