哲学者といえば、高校の倫理の授業で扱った人物くらいは覚えている人もいるだろう。こうした偉人たちは数々の名言を残し、さらに学問やその時代の考え方にも大きく影響を与えてきた。今回は、こうした哲学者を、芸術や数学にも触れながらご紹介しよう。
『この哲学者を見よ』は、各セクションで最初に哲学者の言葉を置き、それぞれの思想や逸話を紹介してゆく構成となっている。
その中で、たとえ思想が素晴らしくても良くも悪くも人間らしい哲学者たちの一面をのぞくことができる。
父親は商人だったが、母親は軽薄で尻軽な作家だった。母親とのまずかった親子関係は、彼女が一五歳も年下の男のもとに走ったときに打ち切られた。それはショーペンハウアーが学位論文として貴重な第一作を書きあげたときでもあった。彼はその論文を母親に見せた。
「なんの本?薬屋の手引き?」と彼女。「ママの本がこの世に一冊もなくなっても、こっちはまだ読まれるだろうね」とショーペンハウアー。すると母親は、「誰も買わないから残るでしょうね」とやり返した。ふたりの言うことはどちらもあたった。(ピエトロ、泉 2005:228)
- 著者
- ピエトロ エマヌエーレ
- 出版日
- 2009-02-01
私たちは何か問題にぶつかるたびに、解決の糸口になりそうな言葉を探そうとする。アリストテレスは、自分の考えを短い言葉で表したいという衝動は人間が生まれつき持っており、あらゆる思考の根底には、主部と動詞と述部を持った基本的表現がある、と言った。
哲学者の言葉の中から、自分にとって心惹かれるものを探してみてはいかがだろうか。
古代の哲学者や思想については高校の授業で学んだことはあっても、それ以外の哲学は知らないという人は多いのではないだろうか。
じつは、現代哲学の巨人たちは、人工知能が人間の頭脳にどこまで迫れるかについて白熱の議論をかわすなど、多方面において活躍しているのである。そんな現代哲学を、話題書である『芸術の言語』を通して1人ご紹介しよう。
- 著者
- ["ネルソン・グッドマン", "Nelson Goodman"]
- 出版日
- 2017-02-22
著者のネルソン・グッドマンは20世紀アメリカを代表する哲学者であり、美学、論理学、認識論、科学哲学の分野において多大なる影響を及ぼした人物だ。
タイトルに「言語」とあるが、正確には〈記号〉や〈記号システム〉についての本である。本書は芸術の基本的諸問題を考察することから出発し、芸術における記号の一般理論の構築へと向かう。
この考察は、そんな記号へ分解された言葉を通して、心理学、言語学、科学哲学などの領域を横断しつつ、私たちを、あらゆる芸術の深い理解へと導いてくれる。
さて哲学者をひと通り見ていると、ピタゴラス、ガリレオ、デカルト、ラッセルなどをはじめ、数学者兼哲学者のような人が多いことに気づく。
『数学の言葉で世界を見たら』は、かつて数学コラムを連載していた物理学者の著者が「父から娘に送る」という形で、彼自身の娘に語りかける口調で日常に溢れる数学の言葉を解説している良書である。
- 著者
- 大栗 博司
- 出版日
- 2015-03-18
たとえば、「恋人選び」の問題がある。恋人の候補がN人いて、1人ずつ順番に面接するときに、最初の(m-1)人の候補とは、ただ会ってみるだけで、全員断ることにする。そして、m人目になったところで、本気モードのスイッチを入れ、これまで面接したどの候補よりも気に入った人が来たら、その人を選ぶことにする。そのときに、自分が一番好きな人を選ぶためには、何人目から本気になったらよいかという問題だ。(大栗2015: 76)
このような日常に応用できる(?)数学から、「内閣の和は180度の証明」「微積は積分から学ぶべきである理由」など幅広く数学について書かれた一冊になっている。
情報化社会において、情報の洪水に流されることなく自分の頭で考える力を、数学を通じて養ってほしいというのが本書の意図だ。
著者が数学を愛していることが伝わってくるし、娘に語りかける口調なので文章は読みやすい。しかし、若干内容が難しいかもしれない。
『ことばの思想家50人』は、「ことばに対する好奇心から、ことばの諸相(語、意味、音、文、あるいは、話したり、考えたり、書いたりする際にどのようにことばが用いられるのか)について思索し、著作を記すよう駆り立てられた、50人の極めて創造的で才気あふれる人物を紹介しようとする(マーガレット 2016: ⅲ)本となっている。
- 著者
- ["マーガレット トマス", "Margaret Thomas"]
- 出版日
- 2016-08-30
プラトンやアリストテレスなど古代哲学者から、存命の言語学者であるチョムスキー(本人は「言語学の分野の「周縁」で研究をしている」と言っているが)まで、言語にまつわるひと通りの思想を知ることができる。
言語学と直接関係はなくなるが、最後に、現代哲学がひと通りまとまった本である『ポストモダンの50人』をあげる。
ボードリヤールのハイパーリアリティの概念は、多くの人にとって、メディアが支配し、メディアが浸透した世界における現代人の本質を映し出すものであった。彼はそれを「現実での起源を欠いたリアルなものの複数のモデルによって産み出されたもの」(Baudrillard 1983: 2)と述べており、ディズニーランドのような現象において私たちが直面するのがまさしくそれである。
- 著者
- スチュアート・シム
- 出版日
- 2015-02-24
〔…〕ディズニーランドは実際に生じなかったひとつの「歴史」をシミュレートし(この点でどうしようもなく夢見られた歴史である)、私たちにハイパーリアルなものを提供している。(Baudrillard 1983: 2)
このように、ニヒリスティックな思想もある。読んでいて新鮮で面白い。
「真実が不在」とまで言われるこの時代ではあるが、哲学者たちの言葉や思想に触れることで、自分なりの真実を見つけ出すのも大事なことだろう。
最後の引用の思想は自分の好みで入れました!!