圧倒的なストーリーテリングで読者をひきつけ、たびたびのドラマ化、舞台化でもはや国民的少女マンガとなった『ガラスの仮面』。その作中の上演演目から、すげえやつを順に並べてみました。私見と偏見に満ち溢れたランキング、ついてきてくださいよお願い! ※ネタバレあり
なんだか、急に夏が終わりましたが、みなさま体調などいかがでしょうか。 私は先月下旬から、もう3週間ほども、3歳児を連れて実家にきております。
あ、ちゃうちゃう、別居とかそういうんちゃうから。 冬にやるお芝居のプレ稽古とドラマの撮影とでちょこちょこ東京往復する間、まとめて実家にお子を放り投げているのです。ありがたいことです。
いいよね、実家。晩ごはんの献立ひとりで考えなくていいんだぜ。カゴにいれといた服、洗濯してくれんだぜ。いつでも冷蔵庫にお茶が冷えてんだぜ。私のいない間に子のトイレトレーニングまでしてくれてんだぜ。あなたは神か。
実家ですっかり夏休み気分満喫、頭はユルユル、昼寝もネットもやりたい放題。これでは人としてあまりにあれなので、せめて夏の自由研究として実家にある「ガラスの仮面」を一から読んで、演技の勉強をすることにしました。 ほら私、演劇学校とか養成所とか行ってないしさ、大学で演劇学んだりもしてないからさ、私にとって「ガラスの仮面」(以下、ガラかめ)が、なんだろな、演技とは、とか、芸能界とは、とか、そういうの全部ガラかめから学んでいるというか、鵜呑みにして生きております。43歳じょゆうです。ども!
小学生の頃、山本家は母親の言いつけでマンガ禁止でした。借りて読むのはギリ許容範囲、買うのはダメ。そんなある日たまたま友だちと行った公民館の図書室に、ガラかめの13巻、14巻だけが並んでいて、内容は知らんがとにかくマンガというものを読んでみたい一心で借りて帰ったところそれは、舞台「奇跡の人」ヘレン・ケラー役でアカデミー芸術祭演劇部門の助演女優賞を獲得したマヤが大河ドラマに出演し、一躍スターダムにのし上がる、まさに大盛り上がりの2冊だったわけです。
それ家に置いといてさ、しばらくしてたまたま家の納戸を開けたらばさ、ガラかめが1巻からその時点での最新刊の28巻までずらずら並んでたのよね。アタイびっくりしちゃった。つまり、たまたま私の部屋で13巻、14巻を見つけて読んだ母親が、まんまとハマってどんと大人買い、見つからないよう納戸に隠しといたのよね。大人って、大人って……!
おかげでそれ以降、うちはマンガフリーになりました。母もふっきれたのか、少女マンガばんばん買って「りぼん」を定期購読。私は「花とゆめ」に進み、弟は「ドラゴンボール」を集め、父は「激闘!!荒鷲高校ゴルフ部」を買っていた。ありがとうガラかめ。我が家が豊かなマンガ文化に触れられたのはまったくもってあなたのおかげです。
- 著者
- 美内 すずえ
- 出版日
- 1976-04-20
さて、念のため「ガラスの仮面」をまだ読んだことがないという方のためにものすごくざっくり説明すると、天賦の女優の才能を持つ北島マヤという少女が、ひょんなことからその才能を見出され、幻の舞台「紅天女」を目指してなんやかんや頑張る、スポ根演劇大河マンガです。ほんまにざっくりしてんな。
マヤの才能をいち早く見出して育て、幻の舞台「紅天女」をかつて演じた往年の大女優、月影千草。
マヤの成長を「紫のバラのひと」として陰から見守り、そしてやがてはマヤを愛するようになる、大都芸能社長のゲジゲジ冷血仕事虫、速水真澄。
マヤの終生のライバルであり、なおかつ理解者。大女優の母と有名映画監督の父を持つサラブレッド、姫川亜弓。
どうですか、この最重要3キャラですでに、お腹いっぱいでしょうよ。こんなこてこてカラフルな人たちがわんさか出てきますよ。私がなかでも好きなのは、劇団一角獣です。新しい表現で新しい演劇の形を模索する実力派集団。新しい、つーか、連載当時の「新しい」なので、今見ると「古き良き」て感じなんですけど。もちろん舞台セットも自分たちで作る、ザ・小劇場。アクロバットどんとこい。旅しながら全国まわって公演打ったり。かっけーぞ。
主人公・北島マヤは、しょっぱなから天才です。登場時点で13歳。横浜の中華料理屋「万福軒」にお母さんと住み込み、
「ツラはよくないし、何のとりえもない子だよ!」
と日々罵られつつ、3時間半の「椿姫」の舞台を、一度見ただけでセリフおよび俳優の演技すべてを丸暗記してしまっているのだった。なんなのさ、アンタ! そんなマヤが、なんやかんや、人生いろいろ、傷ついたり、恋したり、恋されたり、舞台出たり、舞台干されたりしながら、「紅天女」を演じることを目標に、がんばってやっていきますよ! わっしょい!
では、ぼくのかんがえたさいきょうの「ガラスの仮面」作中演目ランキングをば。最強、というか、好きでたまらんやつ。何回読んでも楽しめるやつ。どうですかね。
- 著者
- 美内 すずえ
- 出版日
- 1977-08-20
いきなりこれか。タイトルだけ見ると、え、どれ?と思ったガラかめファンも多かろう。あれですよ、アイドル映画で主人公が落としたラケットを拾ってあげる、入院患者C役。セリフは「はい、おとしもの」のみ。 ね、ピンときたでしょ?
マヤは左足のマヒした少女の役に全身全霊で打ち込みます。なんたって稽古場で、左足を忘れるために足を荒縄で縛ったりしちゃう。周りはドン引きですよ。そして、通行人役程度の役でありながら、思わず監督もアップで撮ってしまうほどの輝きっぷりをみせるのだった。
たとえどんなにちいさな役だって それはあしたへの第1歩
(トン、ズルル、トン、ズルル、と足を引き摺りながら階段を上る)
あしたへのレッスン あしたへの…!
(ハア、ハア、息を切らせて顔は斜め上方、あしたを見つめて輝く目。キラキラ背景に星が飛ぶ)
どーすか。これぞ王道。出番は一瞬だけど、主役食っちゃったよ。ちなみにこの時マヤは、主人公の友達役のオーディションに落ちてこの役をもらったのですが、そのことを知った通りすがりの演出家はチーフ助監督戸田に「きみ達は、め〇らかね」と辛らつな言葉を投げつける。病院のロケ現場にふらりと現れる通りすがりの演出家、ってなんだよ。
- 著者
- 美内 すずえ
- 出版日
- 1977-10-20
タイトルだけ見るとまたもや「?」でしょ。あれよあれ。演劇界の大御所女優・原田菊子率いる栄進座ですよ。
マヤは一日も早く一人前の女優になりたいと、自ら劇場を回って商業演劇に売り込みをかける。そんで、月影先生とかつて芸を競った原田は、目立つことしか考えない自分の付き人・麻江の代わりに、マヤに子守の少女役を与えます。
小さな役で、特別目立った演技をするわけでもないのになぜかマヤは客の視線を集め、客席をどっと沸かせます。役を降ろされた麻江の企てで子守人形の首が舞台上で取れるハプニングに襲われるも、マヤは抜群の舞台度胸でばっちり対応、どんとこい。
目立つな、あの子…えらく目立つよ
あんな平凡そうな子なのに、舞台に立つとなぜか目立つ
演技だって特に優れていると思えないのに… こわいわ、あの子… (一同、恐怖)
原田はそんなマヤに「舞台あらし」と異名をつけます。
公演後、入院していた月影先生のところへお見舞いに来た原田菊子の会話。
原田:あの子…こわい子ね…
月影:まあね…
まあね、ちゃう。一緒に舞台出てる他の役者の気持ちにもなれ。でも、そんなマヤの天然っぷり、天才っぷりが、読んでていっそ爽快。いいぞ、もっとやれ! 既存の芝居をぶっ壊してやれ~~い!!
個人的には、役を奪われた麻江の今後が心配。だってあの子、原田菊子に注意された後「稽古中はなんといわれても……いざ舞台にあがればこっちのものなんだから……!」とか、まだ先生と同じ空間にいるのに友だちにヒソヒソ言っちゃうし。不注意すぎるでしょう。そんなんだから役降ろされんだよ、もっとうまくやんなさいよアンタ。はい、余計なお世話ですね。
- 著者
- 美内 すずえ
- 出版日
- 1978-02-20
その栄進座の舞台をたまたま見ていた東洋劇場会長の推薦で、マヤは「嵐が丘」キャサリンの少女時代役のオーディションを受けることになります。しかし、キャサリンの役柄を知らなかったため、素人同然のひどいありさま。にもかかわらず、これまた会長の推しでキャサリン役に選ばれるのであった。おいおい。
選ばれた理由が「キャサリンとして全くの白紙、その可能性に賭けた」とかいうのよ。ひどくない? だったらオーディションやらんでもー。今改めて読むと、他の候補者たちの気持ちをくんじゃって、なんだかつらいですよ。世の中が平等であるとは信じていないけれど、もうちょっとこう、やりようがあるんじゃないかと思う。きっとこんなこと、実際いくらでもあるんでしょうけどね! ぷんぷん!
野性的かつ情熱的なキャサリンの仮面をかぶったマヤは、乱闘シーンで共演者の腕にかみついたり突き飛ばしたり。ねえねえ、演技って、何だろ? まわりも「熱中するとなにをしでかすかわからない子だから……」とか言ってるけど、いやいや、それ、あかんでしょ。共演者にケガさせない、って、最低限守るマナーじゃないのかい。
キャサリンとヒースクリフの子供時代は観客に強い印象を残しつつ、芝居全体には溶け込まず、ここでもまた舞台あらしとして終わるのであった。
「この舞台は失敗だ…」
ざまあみろ、東洋劇場会長!
……あれ、おかしいわね、私このマヤのキャサリンが好きで選んだはずなのに。文句ばっか出てくるわ。
ところで、ヒースクリフ役の男前・真島くんは、マヤ扮するところのキャサリンのひたむきで一途な愛に、本当に恋しちゃう。同時に、そんな舞台上のマヤを見て、客席の桜小路くんは嫉妬しちゃう。当のマヤはただただ懸命にお芝居して、そんなのまったく関係ねぇ! まったくなんにも気づかず! この鈍感小悪魔ッ娘め。
- 著者
- 美内 すずえ
- 出版日
- 1977-02-01
劇団つきかげ(月影先生が作った劇団)は演劇コンクールに出場することになるが、同じ美登利役を演じる姫川亜弓の稽古を見たマヤは、亜弓のその完璧な美登利っぷりにすっかり自信を失う。
亜弓さんの方が才能があってうまいとわかっているのに…
これ以上あたしつづけられません…! 美登利なんかできません!!(めそめそ)
すると月影先生はマヤを台本とともに物置小屋に閉じ込めちゃう。
そんなにいやならなにもしなくてよろしい!(ドンッ!マヤを突き飛ばす)
さあ、みんなの稽古がおわるまで何日でもここへはいってらっしゃい!
(ビシッ!台本をたたきつける音)
先生! 先生~~~!!(ううう…ッ)
とはいえ、やがて退屈のあまり一人で美登利を演じ始めるマヤ。いろんな言い方を試すうち、亜弓とは違う自分なりの美登利を作ればいいのだと気づきます。
「役をつくる…!」
するとなぜか月影先生が、雪の降るなか小屋の外に立っており、美登利以外の登場人物をすべて1人で演じながら稽古をつけ、続けること5日。ついに二人は新しい美登利を作り出したのだった!
まるでき〇がいざただわ 先生もあの子も
私もそう思います。
- 著者
- 美内 すずえ
- 出版日
- 1981-02-01
嫉妬の渦巻く芸能界で、近しい人の裏切りによって芸能界を追放されたマヤは、それでも芝居への情熱を断ち切れず、高校の学園祭で体育倉庫を使い、一人芝居をすることにします。
(はっ!)
な…なんだ今の… 一瞬ベニスの町にいるような気がした…
体育…倉庫よねここ… (ざわざわ、どよめく客席)
マヤは、一人芝居でパントマイムのスキルを手に入れた!これが今後にいきてきますよ。ちゃらら~~~ん!
……なんてことだ、全然終わんねえな。続きは来月、どろん!
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。