チンギス・ハンを知る本5選!モンゴル建国の英雄とされた人物とは

更新:2021.11.9

チンギス・ハンはモンゴルの遊牧民族を1代で統一し、史上最大規模の帝国の基盤を作った人物です。彼はどのような一生を歩んだのでしょうか。おすすめの本とともにご紹介します。

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未来を見据えたリーダー、チンギス・ハン

チンギス・ハンは12世紀なかば、モンゴル地方のカムク・モンゴル国の君主の曽孫として生まれました。生年は諸説あり、1155年から1167年ごろといわれています。父はキヤト族のイェスゲイ、母はホエルン。2人の長男として誕生した彼は、テムジンと名付けられました。父は国のリーダー的存在でしたが、チンギスが少年のときタタル族に毒殺されます。 
 

彼は若くして、幼い弟妹たちを養い、民を束ねていかなければならなくなりました。父の傘下にあった有力氏族タイチウト族は離れてしまい、チンギス一家は没落、苦難の時代を迎えます。

しかし彼は、西隣のケレイト国君主トオリルに臣下の礼をとり、後ろ盾を得るなどして、苦境を臨機応変に乗り切りました。そんな彼のもとに離散していた者たちも戻り、若きリーダーはキヤト族の族長に推戴されます。

そのころ、中国北部の王朝、金の隷属部族だったタタル族が、金にそむきました。父を殺された恨みもあり、チンギスは金に加勢、彼らの活躍で金側は勝利を収めました。この戦いはウルジャ河の戦いとよばれ、チンギスの事績が初めて東西の史料に共通して確認できるできごとです。

その後、金に認められたチンギスの活動は活発化し、周辺部族や内部の抵抗勢力を滅ぼし、勢力範囲を広げていきました。それは、主君ケレイト国のトオリルに匹敵するまでになっていたのです。2人の関係は次第に険悪となり、ついに1203年、トオリルはチンギス討伐に乗り出します。戦いはチンギスの勝利に終わり、彼はケレイト国を奪取しました。いわゆる下剋上です。

その後チンギスは軍隊を再編し、トルコ系で高い文化レベルを持つオングト族と同盟を結び、強国ナイマンを滅ぼし、モンゴル高原全体を支配するまでに至ります。1206年にはモンゴル族の最高意思決定会議クリルタイでリーダーに推戴され、高原統一政権の初代君主となりました。こうしてモンゴル帝国が誕生します。そして、その場で「チンギス」という称号が贈られたといわれています。

かれはモンゴル帝国の君主となってからも、形の上では金帝の臣下なので、表向きは金国との友好関係維持に努めました。ただ、裏では粛々と準備を整え、1211年から南下を開始。金に攻め入り、1215年、略奪の限りを尽くしてから兵を退けました。大国の金に勝利したのです。

さらに彼は体制を整え、西へ。1219年から中央アジアを目指します。狙いはイスラムの強国ホラズム・シャー朝でした。チンギスや子供たちの軍は、次々の都市を攻略していきました。ホラズム王のムハンマドは首都サマルカンドから西へと逃れ、1220年12月、落ちぶれて死を迎えます。ホラズム・シャー朝は140年余りの歴史を閉じました。

そしてチンギスは1225年にモンゴル本土へ凱旋した後、翌年秋には休む間もなく中国西北部の国、西夏征伐にとりかかったのです。彼は、ここを得ることができれば、東西交易の大動脈を手中に収め、国家の基盤を盤石にして次の世代へ渡せると考えたのでした。

モンゴル軍は破竹の勢いで侵攻していきます。そんななか、チンギスは狩りの途中に落馬し、重傷を負い、日に日に衰弱していきました。病床で、西夏との和睦を拒否し、王と住民を殺戮することを命じ、息をひきとります。1227年秋、1代で大帝国を築いた王のひそやかな最期でした。

チンギス・ハンにまつわる逸話7つ!

ここからは、モンゴル帝国を築き上げた君主、チンギス・ハンの人物像に迫る逸話をご紹介します。

 

1:本名は敵の名前にちなんでつけられた

彼の幼名である「テムジン」は、父親が捕虜とした敵の将軍、テムジン・ウゲにちなんで名付けられたといわれています。敵の敗将の名前を長男に付けるとは奇妙な感じもしますが、当時モンゴルには、出産した女性が、産後はじめて遭遇したものの名前を新生児につける風習があったそうです。 

2:当時のイケメンだった

チンギス・ハンの容貌は、背が高く、頑丈な体で、切れ長で猫のような目、まばらなひげ、などと言い伝えられています。モンゴルでは、蒙古相撲の力士のように、力強く、恰幅がよいことが美男子の条件だったので、彼はそれにあてはまったようです。リーダーシップに加え、彼の容貌も、人々を集めた要因のひとつだったともいわれています。 

3:アメとムチをうまく使い分けた

チンギスに攻められたイスラム側の史料には、彼の残虐さなどが強調されて書かれていますが、実際、モンゴル軍の基本的な作戦は無血開城でした。都市の経済的繁栄をそのまま手に入れたかったので、できれば無傷のまま残しておきたかったのです。そのため、降伏した都市では住民の安全を保障し、従来の体制を維持、宗教に関しても支配に支障がない限り、既存のまま認められました。 
 

その一方、抗戦する都市には容赦ない攻撃をし、周囲への見せしめとしたのです。そこには強圧と寛容を使い分けた彼の統治方針があったといわれています。

4:4人の主要な后妃がいた

彼には数多くの后妃がいたといわれています。500人という説もあるほどです。ただ、彼女たちの多くは戦利品として手に入れたもので、実際に全員が後宮にいたというわけではないようでした。

チンギスの主要な后妃は4人です。正后がコンギラト族のボルテ、他3人は戦利品として手に入れた、メルキト族のクラン、タタル族のイェスイとイェスケン姉妹です。

彼女たちは妻としての役割だけではなく、それぞれ民と領地を与えられ、チンギスの資産管理と運用、さらにはほかの后妃たちの管理まで任されていました。当然のように彼女たちは宮廷内で発言権を持ち、イェスイにいたっては後継問題にも意見を述べたといわれています。

 

5:アルコールに警戒心を持っていた

現代もお酒の弊害に関していろいろと唱えられていますが、彼も酒の効果と怖さはよく分かっていました。こんな逸話が残っています。

ある日、オングト族の族長が手土産として酒1樽をチンギスに献上しました。彼はそれを3杯あおると、「酒というものは、少しだけ飲めば心も体も生き生きとさせるが、多ければそれらを乱すものとなる」と言ったそうです。

6:不老長寿を求めた

ホラズム朝遠征を控え、将来が不安になった彼は、不老長寿の秘策を得ようと、当時有名であった道士の長春真人を呼び寄せました。真人は当時74歳、山東半島に住んでいましたが、彼の誘いを断るわけにもいかず、西方へ旅に出ます。そして1年以上かけ、チンギスの陣営へ到着しました。 
 

チンギスが一行の労をねぎらい、不老長寿の秘薬について尋ねたところ、真人は、「養生の方法はあるが、長生きの薬などない」と、正直に答えたのです。それを聞いたチンギスは、正直な真人に崇高さを感じ、精進に努めたといわれています。

7:長期的ヴィジョンを持って制度改革をした

チンギスは君主となるにあたり、国家の基礎となる新しい制度を取り入れました。従来の部族・氏族といった伝統的な結びつきではなく、彼を頂点とするピラミッド型に再編したのです。指揮命令系統の一本化、主従関係の明確化、さらに功臣へ民と領地を割り当てる、いわゆる封建制度の形をとって反乱を予防しました。長期的ヴィジョンをもった構造改革でした。 
 

さらに、弟たちには暮らしやすい東の土地を与えた一方で、子どもたちには新たに獲得した西の土地を与えます。みずからの力で開拓するよう試練を与えたのです。ここにも1代限りで終わらせないという、彼の将来を見据えたヴィジョンが見えます。

研究者が語るチンギス・ハン

彼の生涯と、彼の死後のモンゴル帝国について、逸話も交えつつ紹介しています。現代チンギス・ハン研究の入門書です。

著者
白石 典之
出版日

筆者がいかにチンギス・ハン研究を好きかということが、ひしひしと伝わってくる1冊です。言語学、考古学など多岐にわたる語り口で、まずもって彼は当時「ハン」ではなく「カン」であった、など細かいけれど重要な指摘から始まり、現在の研究で分かっていることなどを丁寧に紹介しています。

あくまでも逸話であることを前提に、彼の人間味が感じられるエピソードも入っているので、とても読みやすいです。

巨匠が描く草原の覇者

全5巻からなる、チンギス・ハンの誕生から死までを描いた漫画です。

著者
横山 光輝
出版日
1998-03-01

漫画界の巨匠、横山光輝によるチンギス・ハンの一生です。中世モンゴルの歴史書『元朝秘史』をモチーフに描かれています。荒々しい遊牧民の生活や、彼らが征服していく過程を、ショッキングなシーンも交えつつ、しっかりと伝えてくれる歴史漫画です。物語としても、歴史を知るためにも楽しめます。

小説で読むチンギス・ハン

全4巻からなるモンゴル帝国の歴史を描いた小説です。1巻は創作キャラクター、ナイマンの王女マリアとチンギス・ハンの交流、活躍がメインで描かれています。

著者
陳 舜臣
出版日
2000-05-01

史料に基づき現実的に描かれているので、破天荒で伝説的な覇者というよりも、策士でもあり、苦悩もする人間、チンギス・ハンがみえてきます。文章も読みやすく、史料や学術書に取り掛かる前に一読することで、チンギス研究の入り口ともなる一冊です。

謎に包まれた帝国に考古学からアプローチ

実は、チンギス・ハンの墓も正確にわかっていないなど、モンゴル帝国の実態はまだまだ謎に包まれています。そんな遺跡を発掘し続けている著者が描きだす、チンギスの実像です。

著者
白石 典之
出版日
2017-06-10

伝説的な逸話が多いチンギス・ハンですが、彼の都と目されるアウラガ遺跡を発掘調査することによって、道路整備や鉄を活用していたこと、質素倹約、質実剛健だったことなど、従来とは違った新しいリーダー像が浮かび上がりました。

膨大な史料と科学的調査で、新たなチンギス像を見せてくれる良書です。

チンギス・ハンとチムール、2人の王者

12世紀なかば、一代で世界最強の遊牧帝国を築き上げたチンギスと、14世紀なかば、彼を宗祖とあがめ、彼に劣らぬ壮大な遊牧帝国を打ち立てたチムール。2人の英雄の精神の軌跡を追います。

著者
川崎 淳之助
出版日

チンギスの章とチムールの章に分かれ、それぞれの生い立ちから、征服への軌跡、エピソードや性格などを描き、どのように英雄となったのか、どんな才能があったのか、分かりやすく説明しています。当時の文化背景も分かる1冊です。

とても人間的で、妻を大切にし、知的な考えをもっていたなど、知れば知るほどイメージが更新されていく、稀代の英雄チンギス・ハン。このおもしろさ、ぜひ体感してください。

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