ケインズはイギリスで生まれた経済学者で、20世紀における最重要人物のひとりであり、経済学者の代表的存在だともいわれています。彼が打ち立てた理論は現在でも影響が大きく、各国の政策にも活かされています。今回は彼を知るための本4冊をご紹介しましょう。
「資本論」の著者であるカール・マルクスが亡くなった1883年に、ケインズはイギリスのケンブリッジで生まれました。父親はケンブリッジ大学の学者、母親は政治家と、名門の生まれといってよいでしょう。
ケンブリッジ大学で数学を学んだ後に、アルフレッド・マーシャルに師事して経済学を学びます。大学卒業後は官僚となり、第一次世界大戦のヴェルサイユ会議では英国大蔵省の代表を務めるまでに出世しました。しかし戦勝国がドイツに課した賠償金が過酷すぎることに抗議して、官僚を辞職します。
その後は経済ジャーナリストへ活躍の場を移し、経済政策に対しての論陣を張るとともに、実務家としても地位を得ます。一方で、芸術家、歴史家、伝記作家としても多彩な才能を発揮しました。
幅広い分野で活躍した彼は、晩年、ケインズ男爵として自由党の上院議員となります。1944年には、第二次世界大戦後の経済の体制を決めるために開かれた会議に、英国代表として派遣されました。
そこで設立が決まった国際通貨基金(IMF)と世界銀行の設立のため再度渡米しますが、その帰路に心臓発作に襲われ、1946年4月に生涯を終えました。
主著である『雇用・利子および貨幣の一般理論』を発表したのは1936年。経済史上不朽の名著と評され、「ケインズ革命」と呼ばれるほどの革新的な内容でした。世界的に大きな影響力を及ぼし、各国の経済政策で用いられています。
1:相場師だった
勝負事が好きだったケインズは、大胆な投資手腕でたくさんの利益をあげました。個人投資家としても機関投資家としても、莫大な利益をあげていたといわれています。
2:その投資術は?
ではその投資術とはどのようなものだったのでしょう?彼は著作のなかで、「株式投資は美人コンテストのようなものだ」と述べています。株を買うコツは経済分析ではなく、皆が買いそうな株をあてるための心理分析のほうが重要だとのことです。
3:師匠を否定し「ケインズ革命」を起こした
ケンブリッジ大学で彼を指導したのはアルフレッド・マーシャルでした。イギリスの新古典派経済学の代表ともいわれる人物です。市場の自由に任せておけばすべてうまくいくというマーシャルに対して、弟子である彼は、政府が市場に介入していくべきだと主張しました。
4:第二次世界大戦を予言していた
第一次世界大戦の賠償金としてドイツには莫大な賠償金が課せられましたが、彼はこのことについて大反対でした。過大な賠償金額はドイツ経済を破綻させ、さらなる衝突の火種となると警告したのです。
しかしそれは現実となり、賠償金の支払いを否定するヒトラーが政権を奪取し、第二次世界大戦を引き起しました。
5:ニュートンは「最後の魔術師」!?
彼は中世の錬金術にも高い関心がありました。近代科学の父とされてきたニュートンが錬金術に関する本を出版していたことを知ると、ニュートンの原稿を収集し、ついには彼の伝記を書きあげます。「ニュートンは理性の時代の最初の人ではなく、最後の魔術師だ」とタブーを破りました。
経済学界に一大革命を起こしたケインズ。現代のマクロ経済をほとんど独力で作りあげたといわれています。
世界恐慌の時代に米国大統領ルーズベルトが推し進めた「ニューディール政策」を理論的に裏付け、英国経済政策のご意見番としての地位を確立しました。
- 著者
- ケインズ
- 出版日
- 2008-01-16
この本のもっとも重要なキーワードは「有効需要」です。政府が減税・公共投資などを積極的におこない、お金が市場に出回るように仕向けることで、「有効需要」が回復し、雇用が安定、それにより不況から脱出できるとされています。
テレビや新聞やなどでも「デフレ脱却には有効需要の創出が不可欠」と見かけることがあるのではないでしょうか。現代にも彼の影響が及んでいる証拠です。
決して誰にでも読みやすい本ではありませんが、ケインズはできるだけわかりやすく書こうとしています。人々の暮らしに近いところに目線を置こうとしており、親近感を覚えることができる一冊です。
シュンペーターとケインズは同じ年に生まれました。ケインズが戦勝国であるイギリス、シュムペーターは敗戦国、オーストリアの出身です。
この2人の天才が遺した業績は今もなお光を失うことなく輝いています。彼らは現在の私たちにどんなメッセージを発しているというのでしょうか。
- 著者
- 吉川 洋
- 出版日
- 2009-02-27
シュンペーターは第一次世界大戦後にオーストリアで財務大臣を務めた後、アメリカに移住しハーバード大学の教授に就任しました。「イノベーションが経済発展を駆動する」という独自の理論を展開し、経済学よりは経営学への影響が強いとされています。
この「イノベーション」という言葉も新聞などで見かけるのではないでしょうか。「創造的破壊」ともいわれます。
本書では両者の学説がわかりやすく書かれており、主張の違いがわかります。史実として2人の交流はありませんでしたが、彼らの主張をバランスよく配合すると現代社会への処方箋ができるのではと思わせてくれる内容です。「有効需要」を創出するだけでは完全ではなく、新しいモノやサービスを作りだす「イノベーション」が同時に生まれなくてはいけないのです。
世界に旋風を巻き起こした「ケインズ革命」はそれまでの経済学を転換させましたが、その一方で多くの批判を浴びることにもなりました。
批判者のうちのひとりであるハイエクは、反社会主義、反ケインズ主義を主張したオーストリア出身の人物です。アメリカに移住し、シカゴ大学で教授に就任。シカゴ大学は、反ケインズの拠点となりました。
- 著者
- 松原 隆一郎
- 出版日
- 2011-12-16
両者の主張がわかりやすく解説されているので、読みやすくなっています。
自由放任にしろ、政府主導であるにしろ、市場経済はさまざまに変容し、何が生じるかは未知であることでは一致します。広範囲に深い見識を持つ2人の思想を対比してたどることは、知的な冒険をしているようです。現代社会の問題を理解する手掛かりになるでしょう。
経済の巨人であるケインズ。その人物像とは果たしてどのようなものだったのでしょう。
本書では彼の生涯を、当時の英国社会とともに甦らせています。彼が夫人や友人たちと交わしていた会話から、その人柄に近づいていきます。
- 著者
- ピーター・クラーク
- 出版日
- 2017-04-28
著者のピーター・クラークはケンブリッジ大学のイギリス近現代学の教授で、本書の他にも『イギリス現代史―1900-2000』を執筆。評価の高い歴史学者です。
経済学者ではなく歴史学者が書いたという点で他とは大きく異なります。彼の政治的な行動を描くことに力点が置かれて、さらに彼が大事にしていた芸術家たちとの多彩な交流も描かれているので、これまで以上に人間ケインズに近づくことができるでしょう。
今回はケインズを知る本をご紹介しました。彼はその大きな存在感ゆえに、これからも長く実経済に影響を与え続けることでしょう。経済の知識ばかりでなく、実生活に役立てていただけることを願っています。