不屈の精神でアパルトヘイトを撤廃、南アフリカを自由の国にした世界的英雄であるネルソン・マンデラ。彼が一体どういう人物だったのかを知る書籍を紹介します。
ネルソン・マンデラは1918年に南アフリカ共和国のトランスカイで生まれました。彼はテンブ人の首長の子で早くからリーダーとなる者としての教えを受けていたそうです。
1941年に大学を卒業し1944年にANC(アフリカ民族会議)に入党します。そこから彼の反アパルトヘイト活動が活発化しました。1948年国民党によりアパルトヘイトが激化されていくと、黒人解放を求めANCは強硬手段を取りはじめます。
1952年には黒人として初めて弁護士事務所を開設、政治活動としては自由民主主義を掲げ活発に活動したため、国家転覆罪により逮捕されます。このときは無罪となりましたが、この経験より武装闘争へ傾斜、1962年に再び逮捕され投獄されました。
1964年に国家反逆罪で終身刑の判決を受け、刑務所に入ります。刑務所では過酷な労働により健康を損ねますが、獄中で彼は勉強を続け、外側の世界では彼が黒人解放運動の象徴となっていくのです。
その流れのなか、デクラーク大統領はマンデラの釈放および禁止されていた政治団体の活動の許可を明言、1990年に彼は釈放されました。およそ30年間の刑務所生活でした。
釈放後はANCの代表として非暴力によるアパルトヘイト撤廃と、政治犯の釈放を模索します。当時の南アフリカはアパルトヘイト諸制度をめぐり抗争が続けられていました。
さまざまな抗争、暗殺などの事件がありましたが、彼は一貫して民衆に冷静さを保つように求め、1993年にアパルトヘイト諸制度を撤廃したデクラークとともにノーベル平和賞を受賞しています。
1994年に南アフリカ初の全人種が参加する選挙が開催され、マンデラ率いるANCが大勝、彼は大統領となります。彼は全人種の融和政策に心を砕き、数々の成果を挙げ1999年に大統領の座を後進に譲りました。
その後も彼は強力な存在感を発し続け、2010年の南アフリカで開催されたサッカーのワールドカップの閉会式にも登場しています。そして2013年に95歳で亡くなりました。
1:誰も彼の顔を知らなかった
政治犯として投獄されていたネルソン・マンデラですが、彼の写真は政府により公開を禁じられていたため、誰も彼の顔を知りませんでした。彼は世界的に有名になっていましたが、どんな風貌かわからないため、その存在がより神格化された側面がありました。
2:人種の対立をスポーツで打破した
彼は刑務所でひとつのアイデアを得ます。それはラグビーでした。ラグビーは白人の大好きなスポーツであり、反対に黒人にとってそれは忌み嫌うべき存在でした。彼はそのラグビーを使って南アフリカを孤立から脱却させました。これは「インビクタス/負けざる者たち」という映画に詳しく描写されています。
3:ボクシングが好きだった
マンデラはボクシングが好きで、若い頃にアマチュアボクシングをやっていました。身長も180センチ以上あるヘビー級で、大統領の任期中も「チャンピオンになりたかった」と茶目っ気をみせていました。
4:「ネルソン・マンデラ国際デー」がある
国連は7月18日をネルソン・マンデラ国際デーに定めました。7月18日は彼の誕生日であり、その精神を継承すべく、少なくとも67分の社会奉仕をしようという日です。
5:最後に公衆の前に登場したのはサッカーワールドカップ南アフリカ大会
マンデラは1918年生まれで、大統領になった時点でかなりの高齢でした。そんな彼が最後に公衆の前に現れたのが、2010年のサッカーワールドカップ南アフリカ大会の閉会式です。まもなく92才になろうとしている時でした。その後彼は95歳で亡くなっており、追悼式では各国首脳が参列、日本からは皇太子殿下が参列しました。
タイム誌編集長リチャード・ステンゲルによるネルソン・マンデラ伝。しかし単なる伝記ではなく、彼に密着していたステンゲルによる、マンデラという人物の描写が非常に心を打つ作品です。
これを読むと彼の投獄前の活動と、27年の獄中生活を経て再び社会復帰した後の考え方の変化がよく分かるでしょう。その根底にあるのは、やはり他人に対する愛情ではないかと考えられます。
また彼の交渉術というもののベースが浮き彫りになっています。本書はマンデラの行動哲学を中心と考えるリーダー論でもあり、決して黒人解放の話だけではなく、小さなグループから大きな組織までをどう運営していくかのヒントがちりばめられています。
- 著者
- リチャード・ステンゲル Richard Stengel
- 出版日
- 2012-09-18
マンデラはその信念を貫くにあたって、リーダーは裏方であり地味な存在であるべきと説いています。美辞麗句を並べる表面的な人物ではなく、退屈でもいいから信頼できる人物になる必要がある、と彼は語っているのです。
ある意味トップダウン的な経営とは真反対のベクトルを持つ彼の行動哲学ですが、どう人を動かしていくかという冷徹な戦略もまたそこに垣間見ることができるでしょう。彼の獄中の27年間は相当な思索の時期であり、その後の展開はまさにその実践だったことがわかります。
彼の「長期的視野を持つ」という眼差しは、我々に多くのことを示唆し、元気の出るような一冊といえるでしょう。
ネルソン・マンデラが自身について語る、自叙伝となっている本書。彼がどういう生まれ育ちで何を考えて生き、どういう政治的信念の変遷を経て、世界的ヒーローになったか理解することができます。
他のアフリカ諸国と違い、南アフリカは白人対黒人の対立の解消がメインテーマとなっており、その実現は武力による可能性しか見えなかったのですが、彼の執念によりひどい衝突を避けることができました。
本書ではまず政治犯として投獄される前までの出来事が語られています。このころはまだマンデラも急進的な考えを持っていましたが、そのこともはっきりと記されているのです。
- 著者
- ネルソン マンデラ
- 出版日
白人と黒人の敵対を徹底的に排除する国造りに至るまでの長い道のりの、前哨戦を描いているのが上巻で、下巻では27年間投獄された後の釈放、そして実際に改革に乗り出した話が描かれています。
マンデラの語り口は熱くならず平易なことばで淡々としており、読みやすいものとなっています。ただその平易な言葉の裏にはやはり尋常ならざる母国の状況を読み取ることができ、気迫に満ちているのです。
暴走せず大衆との距離を保ち、内部的な分裂をおさえつつ敵と対峙する、という途方もない努力を可能にした彼の人となりの原点が分かる一冊です。
本書は、マンデラ本人が語った心にしみる言葉が収録されている名言集です。
壮絶な人生を歩んだ彼の発する言葉はひとつひとつに重みがあり、含蓄に富み、読む人の心に勇気を与えてくれます。
そしてその視線は常に公正かつ弱者に向けたものであり、常に他者との関係を意識したものとなっているのです。彼の考え方がよく出ている言葉をピックアップしていますが、いかにマンデラが他者との関係性を大事にしていたかが分かるでしょう。
- 著者
- ネルソン・マンデラ
- 出版日
- 2014-06-01
他者との関係性を大事にする、ということは人に優しくするという以上に、人を尊重するというテーマが明らかに見て取れ、彼が最終的に到達した心境というものが痛いほどよくわかる内容となっています。
何もかもがうまくいかないときにこの本を開くと、きっと勇気がわいてくるでしょう。「失敗しないのがえらいのではなく、失敗してもへこたれないことがえらいのだ」という彼の言葉は机上で考えたものではないがゆえに心に突き刺さってくるものがあるのです。
問題児だった彼がいかに自由を希求し、幾多の試練を乗り越えて大統領となりその目的を達成したかを記した、子供向けのマンデラの自伝です。
子供向けを銘打っていますが大人が読んでも十分楽しめるボリュームの内容となっています。全11章の章立てで、マンデラの幼少期から収監、そして釈放されて大統領となるまでを追っています。
黒人による革命ではなく、黒人と白人が協力しなくてはいけないのだと強く思うネルソン・マンデラが、どのような人物だったのかが手に取るようにわかる感動の作品です。
- 著者
- ["パム ポラック", "メグ ベルヴィソ"]
- 出版日
- 2014-04-09
子供向けなので文字が大きくルビもふってあり、読みやすいものとなっています。ただその内容は重厚なため、大人でも十分満足できるでしょう。子供と一緒に読むのもまたいいかもしれません。
作品に通底するテーマは、「復讐ではなく許すことである」というもので、彼の南アフリカに対する愛が心を打ちます。
彼の不屈の精神と、豊富な図版で当時の状況がわかりやすく説明されており、マンデラの生涯を俯瞰するのによいテキストとなっています。
ネルソン・マンデラの初期の言葉を収録した一冊ですが、これは名言集ではなく彼の論文やスピーチを再録したものとなっています。初期と銘打ってあるとおり、ここにある彼の言葉は、彼が行動を始めた頃のものとなっています。
したがって大統領になる頃の彼とは違い、かなりハードな内容です。温和なイメージのマンデラとじゃ違う熱いものを体験することができます。
しかしながら読み進めると、ネルソン・マンデラは最初から冷静で論理的だったことが再認識でき、ガンジーの影響下のもと非暴力がメインテーマになっていることがうかがえるでしょう。
- 著者
- ネルソン・マンデラ
- 出版日
- 2014-05-16
神格化されたネルソン・マンデラをもう1度ひとりの人間として見る、ということに関して本作品は成功しており、それゆえ釈放後の彼の行動がより一層我々に感動を与えてくれます。
また、監修者によるアパルトヘイトに関する的確な解説が、「なぜマンデラがあのような行動をとったのか」ということに対して理解を助けてくれるでしょう。やはり彼の理解にはそのバックボーンであるアパルトヘイトに対する知識がないと分かりにくいところがあります。
そういった意味も含め、ネルソン・マンデラがいかにして最終的にあのような世界的な英雄になったかを知るヒントがたくさんちりばめられている一冊といえます。
心の大きい人物は数あれど、彼ほどの人はなかなか見当たりません。人の心をつかみ、人を幸せに導くリーダーとしてどうあるべきかをネルソン・マンデラは教えてくれます。