ロックを根底からくつがえし進化させた男、彗星のように現れてまた風のように去っていった革命児、ジミ・ヘンドリックス。不世出の天才がどのような人物だったのかを知るための書籍をご紹介します。
ジミ・ヘンドリックスは1942年アメリカのシアトルで誕生しました。ポール・マッカートニーやブライアン・ウィルソンと同い年ということになります。彼は15歳のころ父親にギターを買ってもらって以来、音楽に打ち込みました。
しかし1961年窃盗の罪で逮捕され、収監を免れるために陸軍に入隊しますが、素行不良のため2年で除隊します。実地にはおもむかないままの除隊でした。
除隊後、彼は本格的に音楽活動をはじめました。テネシー州のナッシュビルにて、主にクラブで演奏をし、その後に使うさまざまな演奏ギミックのアイデアを得ます。
「アイズレー・ブラザーズ」のバックを経てリトル・リチャードとの仕事に就いていた頃、彼の噂を聞きつけた「アニマルズ」のチャス・チャンドラーに声をかけられ、ジミに初めてマネージャーがつきました。そしてチャンドラーは、彼をイギリスに連れて行きます。
1966年の秋に彼は「エクスペリエンス」というバンドを結成、『ヘイ・ジョー』でデビューし、イギリスのポップ/ロック界に衝撃を与えました。その後も立て続けにヒットシングルを出し、一般のファンだけでなく、ポール・マッカートニーやエリック・クラプトンなどのアーティストも彼を高く評価したことで、瞬く間にイギリスのロックシーンの頂点に立つことになります。
1967年夏、アメリカのモンタレーで開催された「モンタレー・ポップ・フェスティバル」にジミ・ヘンドリックスは登場します。そのとき初めて「ギターを燃やす」というパフォーマンスを披露し、アメリカでの人気も盤石なものにしました。
1968年にエクスペリエンスは解散します。このあたりから彼の活動がやや不安定になっていき、「ジプシー・サンズ&レインボウズ」というバンドを結成しますが短命に終わっています。さらに彼は「バンド・オブ・ジプシーズ」という、黒人のみのバンドを結成しましたが、こちらもすぐに解散。彼はビジネス上のトラブルや、自身のドラッグ癖により活動に精彩を欠いていったのです。
そして、すべてをリセットして原点に戻ろうとしていた矢先の1970年9月に謎の死を遂げます。メジャーデビューからわずか4年のことでした。
ジミ・ヘンドリックスの活動期間は短いものでしたが、彼が音楽界にもたらした影響は強く、今なお影響力を誇っています。
1:右利きギターを左に抱えるのは昔からだった
ジミ・ヘンドリックスといえば右利き用の白い「ストラトキャスター」を逆に構えた勇姿を思い浮かべますが、なぜか彼は常に右利き用ギターを左に抱えていました。古くは陸軍時代の写真ですが、制服に身を包んだジミがダンエレクトロのギターを逆に持っている写真が確認できます。
2:ギブソンギターも使っていた
彼はストラトキャスターを愛用していましたが、「ギブソンギター」を使用することもありました。有名なのは再発売されたばかりの「フライングV」、やはり当時登場したSGなどを使用していることが確認されています。
しかし、うまく使いこなせないという理由でストラトキャスターに戻っています。ちなみにストラトキャスターは当時人気がありませんでしたがジミのおかげで人気が復活したといわれています。
3:たくさんのエフェクターを使うことでも有名だった
ギターの腕前が達者なジミ・ヘンドリックスは、ステージでもスタジオでもさまざまなエフェクターを使用していました。そのうちの1つ、ユニヴァイブは日本の新栄電気の商品で、最近コルグから当時の開発者の手による復刻版が登場、相変わらずの彼の人気を物語っています。
4:日本との関係
ジミ・ヘンドリックスの父、アルはアヤコ・フジタという日系二世と結婚します。2人にはジェイニーという娘が生まれ、ジミとは異母兄妹の関係となります。彼の妹には日本人の血が流れていることになります。
また、アヤコの影響かはわかりませんが、ジミはきもの着物を衣装として着ています(上だけ。下は通常のパンツを履いています)。
5:片手でギターを弾きながらアンプをいじる
ジミ・ヘンドリックスは歌いながらギターのオブリガードを弾ける敏腕でしたが、残された映像には右手だけでギターを弾きながらアンプを調整している姿があります。アコースティック・ギターも名手でした。
ジミ・ヘンドリックスがメジャーデビューしてから、亡くなる直前までのインタビューを再録した作品。たった4年間のメジャー活動でしたが、彼が何を思い、彼にとっての音楽が何かを探ることができる内容です。
当時のロックジャーナリズムの一端が垣間見られる貴重な資料ともいえる本書ですが、どうやらインタビュアーが素人だったようです。しかし、些細な質問にも真面目に答える彼の生真面目さがよく表れています。
インタビューは時系列的に並べられており、1970年9月に死んでしまうのを知っている読者にとっては、読むのが切ないものとなっています。
- 著者
- スティーブン・ロビー
- 出版日
- 2013-03-22
見どころは、他のアーティストに関する論評です。ジミ・ヘンドリックスが登場したころから、ロックンロールの最前衛から退いた印象のあった「ザ・ビートルズ」について、「トレンドを追う側に回った」というような内容を、非常に率直に語っています。
彼のジレンマの1つであった「黒人でありながら白人用フォーマットで活動している」ということに関する思いもよく伝わって来るでしょう。
「天才ミュージシャンは発言も天才的なのだ」という好例が載せられています。言葉はなくとも音楽だけですべてを表現できた彼の貴重なインタビュー集として、必携の書といえましょう。
チャールズ・シャー・マリーによる、ジミ・ヘンドリックスを軸にアメリカの戦後におけるポップカルチャーを俯瞰した力作です。戦後のアメリカが抱えていたさまざまな課題をジミに投影したものになっています。
当時から抱えられていたの「人種問題」と、彼の音楽の立ち位置、それとポップ・ミュージックの関連性を記した、音楽ジャンルと人種の関係を再認識させてくれる研究書です。
白人用に用意されたロックンロールスターという微妙な立場である彼は、単なる黒人ギタリストというよりも、その誰にも似ていない音楽性ゆえに「黒人であることを意識されなかった」という特殊な状況がよく理解できるはずです。
- 著者
- チャールズ・シャー・マリー
- 出版日
- 2010-01-26
後半ではジミ・ヘンドリックスが横断した音楽ジャンル、ソウル・ブルース・ポップ・ロック・ジャズを中心に彼の音楽を知ることができる他に、当時のイギリスにいきなり突然登場した「本物」である彼の衝撃がどれほどのものだったのかが追体験できます。
ジミが各ジャンルの音楽とどのように関わっていたか、著者の考察は非常に公平な立場から行なわれており、社会学的な観点からだけではなく、音楽史としても面白い内容です。
彼の音楽に対する学術的な見識を深めたい、と考えている方にはうってつけの良書といえるでしょう。
1970年に亡くなったジミ・ヘンドリックスの死因はいまだに謎が多く、解決に至っていません。その謎を解明するために著者のトニー・ブラウンは徹底的に取材をし、その結果をこの一冊にまとめました。
彼の死の直前の3週間に何が起こったのかを、克明に洗い出している本作はまさに執念の作品となっています。
当時のコンサートの様子や関係者へのインタビューを交えて、一体何が起こったのかを知ることができます。ジミ死亡時の警察関係者へのインタビューなど、生々しい迫力にページをめくる手を止めることができません。
- 著者
- トニー ブラウン
- 出版日
- 1998-12-10
ジミ・ヘンドリックスの最後の目撃者である、当時のガールフレンド、モニカ・ダンネマンの証言が不安定なところに注目してください。おそらくは手元にドラッグがあったなどの問題もあり、真実を言いにくい立場だったことがわかります。
モニカ・ダンネマンはイングランド・ウェールズの裁判所から全然別の件で有罪判決を受けた2日後、自動車内で自殺しており、彼女の真意は永遠にわからなくなりました。
やはり、彼の結末を知ってい読者にとっては、「最後の数時間」の章になると切なくてやりきれませんが、あの偉大なるミュージシャンの最後の3週間はどのようなものだったのか、うまくいっていればどのような活動をしたはずだったのかを考えさせられる一冊となっています。
とある男性の追想をカットバック形式で綴る実験的な小説です。芥川賞候補作となったもので、受賞こそ叶いませんでしたが、非常に高く評価されました。
ある男性の思い出を、時間軸とは関係なしにランダムに語っている小説で、ジミ・ヘンドリックスとの関係ももちろんあるのですが、骨子はそこではありません。東北への旅行や旧友との再会などがとりとめもなく語られていきます。
- 著者
- 滝口 悠生
- 出版日
- 2015-08-31
フラッシュバックする追想を無秩序に並べられ、徐々にぼんやりとしたイメージが湧き上がってくるのですが、それがジミのサイケデリックな感覚と結びつく点に興味深いものがあります。
「覚えていることのみで過去の追憶が形成され、しだいにそれが硬化していく」というテーマが常に寄り添っておりますが、語り口は淡々としたもので、逆に心にしみるでしょう。
ジミ・ヘンドリックスに影響を受けた人は数多いますが、ジミ・ヘンドリックスのような人が1人もいない、というのが彼のすごさではないでしょうか。たった3枚のスタジオ・アルバムしか残さなかった彼がなぜここまでの影響力を持っているのか、それを考えつつ彼の3枚のレコードとここに挙げた書籍を楽しんでいただけたらと思います。