「掃除」を続けることで、イエローハットを自転車一台の行商から上場企業に育て上げた鍵山秀三郎。「嘘でしょ?」と思った方は、ぜひ、ここにあげた本を読んでみてください。ビジネスの本質を突く彼の言葉は、経営者だけでなく、仕事で悩むすべての方にヒントを与えてくれるはずです。
鍵山秀三郎は1933年に東京で生まれました。何不自由のない幼少時代を過ごすも、戦時中の疎開で生活は一転。食うや食わずの生活に陥ってしまいました。しかし後に鍵山は、ここで身につけた忍耐力が、自分にとって唯一の財産になったと語っています。
20歳のときに岐阜県から単身上京し、自動車用品を扱う会社に就職。利益至上主義の社風が合わず8年で辞めてしまいますが、鍵山がこの職場ではじめたのが、彼の代名詞となる「掃除」でした。このとき、「意味がない」「生産性がない」と何度も先輩や同僚に言われたそうです。しかし鍵山には、荒んだ業界を変えたいという信念がありました。
1961年にイエローハットの前身、株式会社ローヤルを創業。ボロ自転車一台での行商の日々でも、誰よりも早く出勤し、掃除に励んだといいます。
決して社員には掃除を強制しなかった鍵山秀三郎ですが、彼の姿を見て、一人また一人と仲間が増えていきました。社内や店舗だけではありません。周辺地域、さらに取引先のトイレまで。そしてこの掃除が、社員の意識を変え、社外からの信頼につながり、会社を大きく成長させてゆくのです。
1997年に東証一部上場すると、翌年、鍵山秀三郎は経営の第一線から退きました。その後は書籍や講演で、日本のみならず世界に向けて、掃除の素晴らしさを伝えています。
「ビジネスは結果がすべて。プロセスなど知ったことではない」としたり顔で語ったり、単調で見ばえのしない仕事をバカにして、すぐに結果や評価に結びつく仕事にだけ飛びついたり……。本書では、そんな人たちにむかって、鍵山は厳しくこう言い放ちます。
「自分の人生をおろそかにしていることにつながって、結果的に10年たっても20年たっても本当の意味での進歩につながらない」(『凡事徹底』より引用)
- 著者
- 鍵山 秀三郎
- 出版日
- 1994-11-10
「ビジネスでは結果よりもプロセスが大切」、これが裸一貫で上京し、知識も才能もなく数々の屈辱を味わったという著者が、実践のなかで掴んだ認識でした。
ここでいうプロセスとは、誰にでもできる簡単なこと、周りが当たり前とバカにするようなことをとことん極めていくことです。彼の場合は「掃除」でしたが、この凡事を徹底して非凡にすること、それが最終的に成功と失敗をわけるというのです。
本書には、夏目漱石が芥川龍之介に送った手紙が引用されています。
「世の中は根気の前には頭を下げることを知っています。火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。だから、牛のよだれのようにもっと根気よくやりなさい」(『凡事徹底』より引用)
人よりも頭ひとつ抜きん出たい、特別になりたいというのは犬や猫も持っている動物の本能であって、実際は世の中に特別なモノやコトなんて何もないと、鍵山は語ります。 周りの無理解や嘲笑にも負けず、志をもって仕事に励んでいる、すべての人の背中を押してくれる一冊です。
価格競争はしない、新規開拓の営業も見積書もなし。イエローハットは、すべて取引を希望する相手先との「信頼」で成り立っているというのです。
この本には、そんな稀有な会社をつくり上げた鍵山秀三郎の、独自の「仕事の心得」が惜しみなく語られています。
- 著者
- 鍵山 秀三郎
- 出版日
- 2009-02-24
創業からずっと鍵山が最優先で取り組んでいたこと。それは売上でも利益でもなく、「品格」ある社員を育てることでした。
「誠実でよい人柄こそ、よい社員の条件だと思います。とくに、弱い立場の人に優しく誠実に接する社員が普通にいる会社、そういう会社が、私の目指す会社です」(『仕事の作法』より引用)
仕事での失敗は一切叱ることはなかったという鍵山ですが、立場の弱い業者に尊大な態度をとる社員には「僕にも同じ態度をとってみろ!」と、厳しく叱責したといいます。
能力よりも人柄、大きい会社よりもいい会社。社内外でのマナーから取引先や業者との接し方まで、本書で紹介されるイエローハットの実例は、鍵山の考えが見事に貫かれています。なにより次の言葉には、彼が徹底して「品格」にこだわる理由が、凝縮されているといえるでしょう。
「人間の死後、残るものは、生前になした実践の記録だけだからです」(『仕事の作法』より引用)
過去に比べると物質的にははるかに満たされているにもかかわらず、いつも何かに焦っていて、余裕のない現代人。どうして私たちは、これほどまでに心のゆとりを失ってしまったのでしょうか?
本書で鍵山は、「それは先に楽しみがないからだ」と喝破します。
- 著者
- 鍵山 秀三郎
- 出版日
- 2011-09-16
「先に起こるべき楽しみをみんなどんどん手前に引き寄せて、それを使い果たしてしまうから、先に楽しみが待てないのです。(中略)もっと心に余裕を持とうとするならば、今、楽しめるべき楽しみを先に先に延ばすことです」(『小さな実践の一歩から』より引用)
楽しいことは早い方がよい、享受できるうちにしておかないともったいない……その考え方が人びとの心をどんどん追いつめているというわけです。
そうならないためには、反対に楽しみを先送りしていき、嫌なことや不都合なことに向き合い、努力し、工夫すること。鍵山は、これは仕事やビジネスでも同様で、一時だけ儲けてやがて倒産していった会社と、堅実に成長を続けたイエローハットの違いは、まさにこの大きな努力を重ねる時期の有無にあったと語っています。
いつのまにか忘れてしまった大切ななにかに気づかせてくれる一冊。「もし、あなたと同じ考え方の人間が増えれば、この国はよくなると思いますか?」という問いが、鋭く突き刺さります。
本書には、兵庫県と香川県の中学校でおこなわれた、鍵山秀三郎の2つの講演がおさめられています。テーマは「毎日少しでも、できるだけ、私が」と「心あるところに宝あり」。
ここで鍵山は、幸せな人生をおくるために大切なことを、「3つの幸せ」という話を通して伝えています。
- 著者
- 鍵山 秀三郎
- 出版日
- 2011-09-16
①してもらう幸せ
②できるようになる幸せ
③してあげる幸せ
これが、鍵山秀三郎が掲げる「3つの幸せ」です。
①は赤ん坊の頃におしめを替えてもらったり抱っこしてもらったりするような幸せ。②は鉄棒ができるようになったり自転車に乗れるようになったりする幸せ。そして一番大事なのが③です。
この3番目の幸せが増えていくと、どんどん人生は良くなっていくと鍵山は言います。
「この『(して)あげる』幸せのできる人の周りには、非常に善良な、『人のいい』人たちが集まってきて、そのいいひとたちと人生を送ることができるようになるからです」(『あとからくる君たちへ伝えたいこと』より引用)
人に喜んでもらうこと。それは自分の周りや、現在生きている人たちだけではありません。未来の人々、本書のタイトルをもじって言えば、「あとからくる人々」に対しても同様です。
中学生に向けて語った内容ですが、今の自分の生き方に迷っている大人にも手にとっていただきたい一冊です。
鍵山の著作や講演など、さまざまな場所で語った話をピックアップしてまとめた、ベスト・オブ・鍵山秀三郎とでもいうべき一冊です。
人生からビジネス、掃除に対する彼の思いや考え方について、1月1日から12月31日まで、一日一話形式で収められています。
- 著者
- 鍵山 秀三郎
- 出版日
- 2004-02-01
自分の利益に直結しないことに打ち込める者が本物の人格者だと説く「本物人間」、協調性があると自称する人間の多くは他人依存だと語る「甘え」、会社で出たジュースの空き缶は水で洗いつぶしてから業者に出すという「空き缶処理」など、全部で366話。
「私には人より抜きん出た能力は一つもありません。生き馬の目を抜く商売の才覚もありません。交際もどちらかというと苦手で、リーダーシップもあるとは思いません」(『鍵山秀三郎「一日一話」より引用』)
まえがきで自分自身をこのように語る鍵山。そこには成功した経営者にありがちな尊大さは微塵もみられません。実際にも言葉少なく寡黙だという彼の、実直で重い一言に耳を傾けてみてください。
鍵山秀三郎の本はわかりやすく丁寧な語り口も魅力。他のビジネス書にはない、彼のユニークな考え方にぜひ触れてみてください。