リア充JKと引きこもり大学生の入れ替わり、謎を描いた、漫画『ぼくは麻理のなか』。緻密な伏線とリアルな心理描写に引き込まれる作品です。今回は、本作の主要登場人物の魅力、見所をご紹介!ネタバレを含むのでご注意ください。 無料の漫画アプリで読むこともできますので、そちらもどうぞ!(スマートフォンのみ)
ぼくは麻理のなか 1(アクションコミックス)
2012年12月07日
2017年10月にテレビドラマ化された『ぼくは麻理のなか』。作者は思春期の葛藤などの心理描写に定評がある押見修造です。
物語は、引きこもりでボッチな大学生の小森功(こもりいさお)、リア充JKの吉崎麻理(よしざきまり)、麻理のクラスメイトで引っ込み思案なJK柿口依(かきぐちより)の3人を中心に展開していきます。
数奇な物語とリアルな心理描写、ハラハラする展開で読者を引きつけ、まるで当事者と錯覚するほどにさらに作品へとのめりこませていきます。
今回は、そんな『ぼくは麻理のなか』の主要な登場人物の紹介、最終回までの見所を徹底紹介!極力核心には触れないよう注意しますが、多少のネタバレを含んでしまうのでご容赦ください。
万人にお勧めしたい良作。ご自身の目でも本作の魅力を味わってみてはいかがでしょうか?
押見修造のおすすめ作品は<押見修造のおすすめ作品ランキングベスト6!『惡の華』だけじゃない!>の記事で紹介しています。
主人公はボッチなうえに引きこもりの大学生、小森功。ある日目覚めると、小森の意識は「コンビニの天使」こと吉崎麻理のなかにありました。
あまりに唐突な現実の変化に戸惑いつつも「吉崎麻理」として振る舞おうと奮闘する小森。しかし、繕いきれずに出るボロのせいで、麻理のクラスメイトで彼女に強い憧れを抱いていた柿口依に勘づかれ、ついには事情がばれてしまいます。
小森と依は、「憧れの存在」である麻理の意識の行方を追うべく行動をはじめるのですが……。
友達もおらず、夢中になれることもないくすぶった生活から、唐突にリア充高校生の世界に放り込まれた小森。右も左もわからず困惑するさまと、各シーンの心理描写は、フィクション作品であることを忘れさせるほどリアリティに溢れたもの。知っているような知らないような、不思議な世界へと読者を誘います。
そして秀逸なのがその結末。このような設定の作品は結末でコケてしまうことが多々見受けられるほど物語を結ぶのが難しいのですが、本作のラストには肯定的な意見が多く寄せられています。
その結末にはハッとさせられ、共感と何かの気付きがあるはず。この記事では登場人物とストーリーから、さらに本作の魅力についてお伝えさせていただければと思います。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2013-08-09
本作のリアリティ、共感度を上げているのが主人公の小森功です。友達もおらず、現在は大学へも行かず、ニートのような日々を過ごしています。
そのダメっぷりは見ていて辛くなるほど丁寧に書かれています。日課はゲームとオ○ニーというのも「らしい」要素です。
しかし彼が唯一心を動かして楽しみにしているのが、夜9時にコンビニへ行くこと。そこには彼が勝手に「コンビニの天使」と呼んでいる女子高生がいるのです。
普段は外に出ないのに、彼女を見るためだけにコンビニに行くという執念。自宅までストーキングすらしてしまう、どうしようもなく、かなり危うい人物です。
そしてこんな自分のダメっぷりには自覚はあるものの、開き直ってる節があり、初登場時にも「オレ終わってる~♪」と歌いながらゲームをしていました。
自他共に認めるダメっぷりが光る小森ですが、麻理と入れ替わった際には、彼女を汚すまいと裸を見ないようにするなど、自分なりの節度を持った行動もとれる様子です。
そんな彼は、内向的な性格のため、入れ替わった当初は状況に困惑して「助けて……」というような自分本位で他人任せな行動や心理描写が多く見受けられますが、回を重ねるごとに成長。他人と向き合って、状況を打破することに積極的な姿勢をみせるようになります。
しかし徐々に、彼が存在するということ自体が謎だと明かされていきます。主人公であり、物語のキーパーソンともいえるでしょう。
終盤になるまで本人としてはほとんど登場しませんが、最大の鍵を握っているのが吉崎麻理です。小森が「コンビニの天使」と称すほどの美貌を持ち、少しミステリアスな雰囲気を持つクールビューティーとしてクラスでも人気者の様子です。
しかし、そんな彼女が日課にしているのが、夜の9時頃にひとりでコンビニへお菓子を買いに行くこと。
ファッション雑誌や新作のお菓子をチェックするなどのような浮き足立った様子はなく、むしろどこか影を感じさせる様子でコンビニにやって来る彼女には、何か訳ありな雰囲気が感じられます。
そんな彼女は小森の人格が麻理の体に入った際、意識が行方知らずとなってしまいます。
そのため、麻理についての情報は彼女の周りから得るしかありません。上記の情報も小森の記憶からのみであり、当然話したこともないので詳しい彼女の人となりは分からないのです。
依という麻理のファンでもあるクラスメイトからの情報は出てきますが、彼女もまたほぼ一方的に気持ちを寄せていただけなので、読者はまったく麻理の本当の姿が分かりません。
しかし、物語が進み、小森と依が麻理について知っていくにつれて、彼女の抱えていたものが明らかになってきます。さまざまなキーワードから徐々に全体像が明らかになっていくのは圧巻。本作の核心となる「ある過去」へと物語は収束していくのです。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2014-06-09
麻理となってしまって右も左も分からない小森を不本意とはいえ助け、彼女の意識を取り戻すために謎を解いていく協力な助っ人が柿口依です。
陰ながら麻理のことを慕っており、ほとんど話したことのない割には麻理の嗜好や性格などを、彼女の周りの誰よりも知っている彼女。
小森としての麻理に対して「何があっても、(麻理の親友である)ももかに泣きつくなんてありえない」「カワイイという言葉を使わない」と言い、いつもとは異なる様子にいち早く、そしておそらく唯一気づいた人物です。
小森といい、依といい、ここまで人の心をかき乱す麻理の魅力はすごいですね……。そしてそのカリスマ性というのも物語の謎を解くヒントになっているのです。
そして依はあまりにも強すぎる麻理への気持ちから、当初は彼女のなかに入っている小森に対して憎悪に近い感情すら抱いていました。そして小森と行動を共にするのはあくまで「麻理を探すため」でしかないというドライな態度を貫きます。
そんな彼女にいちいちビクビクする小森、彼に対しては遠慮のない依のやりとりは見ていて笑えてしまいます。しかし、そんな彼女が徐々に心を開き始める様子もまた一興であり、終盤にかけては涙腺が緩むシーンも少なくありません。。
実は、依が麻理へ執着する理由は彼女の育った環境にありました。彼女は母と姉の3人家族なのですが、美人で自分とは正反対な姉である茉里(まり)に強いコンプレックスを抱いていました。劣等感はいつしか彼女への敵対心となり、姉を嫌うようになってしまったのです。
自分のことを脇役と称し、自身の姉や麻理のような「主人公」と付き合うには分不相応という持論を持つ依。茉里には嫌悪感を、「麻理」には憧れを抱いているのですが、それは正反対なようで根本的には同種の感情なのでしょう。
そんな依も物語が進むにつれ、自分の傷と向き合い、少しずつ成長しているのが言動から見受けられます。このように主要人物とはいえ地味目な依にもしっかりフォーカスしているのが本作の魅力です。
本作の1番の特徴であり魅力ともいえるのが「リアリティを生み出す心理描写」です。台詞などの文字での表現はもちろんですが、なんといっても各場面で登場人物たちが見せる表情が秀逸です。
上のシーンは、麻理と依が出会った日のことについて、依と小森が話している場面。本来であれば小森が知るはずの無い当時の会話を彼が知っていたことから、麻理自身の意識は何処かへ消えたのではなく、彼女の体で眠っているのでは?と希望がみえたひとコマでもあります。
眉間にシワが寄りがちで、険しい顔をすることが多かった依が、心の底から安堵と親愛の表情を見せています。
これ以降、依と麻理(小森)の心の距離はグッと縮まり、読者も依の心情に共感しやすくなるため、彼女のキャラクターにもどんどんリアリティが増していくのです。
このように巧みな心理描写によって登場人物の心情がリアルに描かれることで、読者が深く共感しやすい作品となっています。不安、焦燥、絶望、驚愕、高揚……。そして、包み込まれるような安心感を、ぜひ手にとって体感してみてください。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2014-11-28
性転換もののストーリーでよくあるのが生理。やはり毎月のもので避けては通れないですし、女性特有のものなので男では想像できない範疇でもあります。
この生理を取り巻く展開がまたリアル。しかも、どこか見てはいけないものを見ている背徳感さえあります。
ある日、小森は突然お腹の下あたりに痛みを感じます。そして自分の足元に血が滴り落ちたのを見ました。痛みでお腹を抱えてその場でうずくまる小森。
初めての経験で混乱しながらも痛みのなかでこれは生理なのではないかと気づきます。
仕方なく持っていたハンカチでおさえ、カバンで前を隠しながらコンビニへ。
しかしどれを買っていいのか分からない!その間にも何かが漏れ出たような不思議な感覚があるのでした。
とりあえずレジに向かうも、店員は男性。恥ずかしくて目を見られない小森。そしてさらに顔を赤らめながら、「トイレ 貸してください」と意を決して言うのです。
これには思わず中太りのコンビニ店員もニヤついてしまいます。美少女が恥ずかしそうに生理だからとトイレをかりていく……。これは確かに仕方ない。
トイレに行ったあとも、麻理への罪悪感からなかなかパンツを下げられません。しかしずっとこうもしていられないので意を決してパンツを下ろす小森。
彼が見たのは、糸を引いて滴り落ちる血にまみれたおりものシート。リアルすぎます。
「女の体になってみたい」と妄想した男子は数多くいるでしょうが、この毎月の戦いも込みだと考えると少し躊躇してしまうかもしれませんね。
ここまでリアルに生理シーンを描き切った漫画はそうそう無いのではないでしょうか。
麻理の中に存在していた小森ですが、実は現実にも小森功という男は存在しており、しかも存命。では麻理の中にいる小森とは本当は一体誰なのでしょうか?
紛らわしいので、麻理の中の小森を小森、現実にいる小森を功と呼ぶことにします。
麻理に思いを寄せていたという点では同じようですが、功はまったく現状に理解がありません。麻理の中にいる小森のことも、「自分のことを小森だと言い張っている麻理」だと思っており、妄言だと思っています。
それでいて麻理の中の小森が精神的に不安定になっていた時には、「同じ僕だから」という理由で自分の性欲処理を手伝わせたのです。登場時から下心満載の様子でしたし、さもありなん、という感じでしょうか。
しかも麻理の中の小森を軽視しながらも、彼に告白。小森は功に「気持ち悪い」と吐き捨て、その場を去ります。
なかなかいい性格をしている功ですが、彼も真相をつきとめるために協力をし、最終的には麻理の影響を受けて引きこもりの生活から脱却。実家に戻り、バイトに勤しむ姿を見せます。
人間味があり、嫌悪感もありながら共感もできる功の存在。彼がこの一連の物語を通して成長する姿もまた見所です。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2015-03-27
小森功という存在に興味を持っていた麻理。接点の無いはずのない彼女がなぜ自分に興味を抱いていたのか、小森は困惑し、首を傾げるばかりでした。
ある日、麻理を巡って彼女の両親が喧嘩をしているところを目撃した小森は、彼女の周りは誰ひとりとして「麻理」のことを見ていないことを知り、怒ります。そして、「麻理は誰とも繋がらずに自由に振る舞っていた自分のことがうらやましかったのではないか?」という結論に至りました。
彼女の両親に、自分の内面を見ろ!と心情を吐露した小森は清々しい気持ちに満ち溢れますが、そこに1本の電話がかかってきます。
「……もしもし。あなた誰?」
「私、麻理だけど」(『ぼくは麻理のなか』4巻より引用)
こんな展開を読める人がいるでしょうか。
自分なりの答えを導き出して、心情も吐露し、達成感に満ち溢れた瞬間に、もはや呆けるしかないほどの急展開。当然小森は困惑します。
依も巻き込んで事態はさらに混沌としてきます。しかし、小森はひとつひとつ乗り越えて確実に成長し、さまざまな問題に向き合うようになるのです。
先の読めない展開の先にある、さらに先の読めないキャラクターたちの成長は、怒涛の展開のなかでもしっかりと読者の心を掴み、読む手を止めることができません。
本作の核心にいる少女、麻理は、ミステリアスで謎の多い人物として描かれています。しかし、小森と依が協力して「麻理」を捜索していくなかで、少しずつ彼女の秘密が明らかになっていきます。
物語が大きく動いたのは、麻理の幼少期の写真を小森が手に取った時のこと。本作の根幹に繋がる麻理の新たな秘密が登場します。
麻理の体を借りて小森が起こしたある一件から、依は小森のことを激しく拒絶していました。しかし、そんな彼女を小森は押し倒し、麻理の体でキスまでしてしまいます。
小森自身、そんな行動をとってしまった自分に戸惑い、困惑。「自分が誰だかわからなくなっちゃった」と弟に打ち明けていました。
「……私……の小さい頃の写真、みたくなった」
そういって弟と一緒にアルバムを広げる麻理(小森)。そこに挟まれていた麻理の幼少期の写真は、1度破ったものを貼りなおしたものでした。その写真を手にとった瞬間に、自分のことを「ふみこ」と呼ぶ人物との記憶が蘇ります。彼女の目からは、涙が溢れかえるのでした。
真相を確かめようと麻理の母に写真のことを聞いても、「知らない」の一点張り。小森は写真の背景から場所を探って、依と共に行動を開始するのですが……
核心へと近づく切迫感に溢れています。そして、物語は最終回へ向けて動き出し……。
- 著者
- 押見修造
- 出版日
- 2015-08-10
「ふみこ」の名前の真相と、そこに繋がる麻理の過去を知った小森と依。そして、小森は夢の中で本物の麻理の意識と邂逅し、「ふみこ」と名乗る少女の意識とも出会いました。
迷子になった、と泣きじゃくるふみこの手をとって光のなかへ進んでいく麻理は、去り際に「小森くん、ごめんね。私、キミの日記見ちゃった……」という言葉を残していきました。
日記をつけた覚えなど無い小森。しかし記憶の深いところで、何か引っかかっている気がします。もし日記があるとして、それを見たら……。
依は小森を止めようとしますが、小森は彼女を説得し、麻理の体で「小森功」の実家まで日記を見に赴きました。そこには、大学を辞めて地元へと帰っていた、小森の体をした小森(功)がいます。実家の風景や母を見た小森(麻理)は……。
さて、この日記がもたらす「真実」とはいったいなんなのか。その真実を小森、麻理、依はそれぞれどう受け止めるのか。この物語の顛末はぜひ本作を手にとって実際にご覧ください。
濃密な内容を9巻でまとめ上げた押見修造には本当に感服です。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
さて、押見修造の世界観に魅了されているあなたにおすすめの作品が『血の轍』。彼が描く毒親には恐怖感すら覚えます。『血の轍』について気になる方は<漫画『血の轍』の魅力を6巻までネタバレ紹介!押見修造が描く毒親が怖すぎる>の記事をご覧ください。