2012年に山中伸弥がノーベル生理学・医学賞を受賞したニュースは日本中をにぎわせました。彼はどのような人物で、どんな研究をしたのかご存知ですか?今回は、生命科学における革命的な研究を成し遂げた山中伸弥に関するおすすめの本をご紹介します!
山中伸弥は1962年に大阪府で生まれました。小さいころは機械にふれたり、コンピューターをいじったりすることが好きだったそうです。父が経営する工場の移動にともない、小学生から大学1回生のころまで奈良県奈良市で暮らしました。
高校生の頃に父から医者になることを勧められ、神戸大学医学部に進学しました。卒業後臨床医を目指すも、治療が困難な病気の重症患者を目にしてショックを受けます。その後、重病を治す方法を見つけ出す研究者を目指すことになりました。
アメリカへの留学と研究生活を経験した彼は、帰国後の日本でも精力的に研究を続けました。ときに自身の研究が批判にさらされ、精神的に不安定になったこともあったそうです。それでも自分の研究がもたらす価値を信じ、同じ研究室の助手や学生らとともにiPS細胞を作製する方法を模索し続けました。
iPS細胞を作製する道のりを解明したのち、実際にマウスのiPS細胞と人間のiPS細胞の作製に成功します。その研究内容は世界を驚かせ、科学者にとって最高峰の賞であるノーベル賞の受賞に至ったのです。
山中伸弥はこの受賞はまだゴールではなく、研究で得られた技術を使って病気の患者を救うことがゴールであると考え、受賞後も変わらぬ姿勢でiPS細胞をはじめとする生命科学と医療の課題に取り組んでいます。
彼のノーベル賞受賞の決め手となったのは、iPS細胞という特殊な細胞の作製方法の樹立です。
iPS細胞とはinduced Pluripotent Stem cellの略称です。日本語になおすと人工多能性幹細胞となりますが、これは簡単に「これからどんな種類の細胞にもなれる、人工の細胞」を意味します。具体的には、研究室のシャーレで培養したiPS細胞から筋肉、神経などの細胞を作り出すことができるのです。
それでは、このiPS細胞があると一体どのようなことが可能になるのでしょうか?
たとえば、これまで治すことができなかった心臓の病気を持つ患者がいるとします。ダメージを受けた心臓の細胞を、iPS細胞から作り出した元気な細胞と入れ替えることができれば、その病気を治せるようになるかもしれません。
また、iPS細胞をもとにして作られた各器官の細胞にさまざまな刺激を与え、細胞が病気になる様子を再現できたとすれば、解決方法が未だに発見されていない病気の原因を突き止める手掛かりが得られます。その手掛かりをヒントにすれば、新薬の開発や画期的な治療方法が見つかる可能性があるでしょう。
山中伸弥と共同受賞者であるケンブリッジ大名誉教授のジョン・ガードンは、人間のiPS細胞をつくる方法を見つけ出しました。主な材料となるのはiPS細胞をつくりたい人間の、わずかな体細胞です。山中らの方法では、数ミリ四方の皮ふや、抜いた親知らずなどからiPS細胞を作り出すことができるといいます。
生命科学という学問分野だけでなく、医療や創薬の研究者にとっても画期的な発明であるiPS細胞。山中伸弥が世界に先駆けておこなった研究は、これからの生命の行く末を左右するカギになるかもしれないのです。
iPS細胞の作製成功という偉業を成し遂げた彼はどのような人生を送ってきたのでしょうか?
ノーベル賞受賞までの生い立ちや、iPS細胞研究の軌跡をたどることができる一冊です。
- 著者
- ["山中 伸弥", "緑 慎也"]
- 出版日
- 2016-05-20
本書は山中本人がiPS細胞ができるまでの人生を語ったパートと、彼へのインタビューの2部構成になっています。
前半のパートでは幼少期の思い出にはじまり、神戸大学の医学部生だった時期、研修医としての日々、研究者となってからの生活などがつづられています。研究テーマに関する部分は分かりやすく平易な表現が使われており、読者を置いてきぼりにしない配慮が感じられました。
インタービューパートでは山中の一日の過ごし方などについても言及があります。世界的な研究者がどんな毎日を過ごしているのかを垣間見ることができますよ。
世界的な賞を受賞する科学者の話をもっと聞きたい、という方にはこちらの一冊をおすすめします。
2人のノーベル賞受賞者による対談を収録した本で、山中伸弥と2008年にノーベル物理賞を受賞した益川敏英が対談しています。
- 著者
- 山中 伸弥 益川 敏英
- 出版日
- 2011-01-19
益川敏英は2008年に「CP対称性の破れの起源の発見」を理由にノーベル物理学賞を受賞した人物です。
生物学と物理学という異なるジャンルの背景をもつ2人の科学者が、「発見」や「考えること」について語っています。
異なる分野の研究者である2人ですが、自身の研究について相手に語るとき、とても分かりやすい言葉で話しています。その研究の専門分野以外の人にも理解しやすく伝えることに長けている両者の対談ですので、一般の読者にもわかりやすい内容でしょう。
「iPS細胞が、実際にこれからどのように医療に活用されていくのか」という点に興味がある方は本書を手に取ってみてください。山中伸弥自身が監修した本で、医療とiPS細胞をめぐる現場の様子がよくわかる一冊です。
- 著者
- 京都大学iPS細胞研究所
- 出版日
- 2016-07-16
本書では、各国の研究機関や大学へのインタビューや取材から、iPS細胞の研究や臨床現場への利用の現状が浮き彫りになります。
また、興味深いのは各研究機関や科学者同士のiPS細胞をめぐる競争についても書かれているところです。
教授がマウスの細胞からiPS細胞の作製に成功したと発表したのが2006年、人間のiPS細胞作製を発表したのは2007年でした。最初のマウスでの報告からわずか6年でノーベル賞を受賞したのは、それだけiPS細胞の発見が及ぼす影響が大きい、重要な研究であることを意味します。
このiPS細胞をめぐる研究や議論は世界中で行われ、熾烈な競争ともいうべき様相を呈しています。科学の世界における大発見が、どのように科学者たちを翻弄するのか、科学者たちが我先にと結果を出そうとするさまは、まさに「戦い」といえるでしょう。読みごたえのある一冊です。
本書は大きく2部から構成されており、第1部ではiPS細胞の最前線をNKHスペシャル取材班によってレポートされており、第2部では立花隆、国谷裕子による山中伸弥のインタビューが収録されています。
- 著者
- NHKスペシャル取材班
- 出版日
- 2014-04-10
iPS細胞の発見から、今後どのように医療に生かされていくのかがまとめられています。NHKの番組のための取材がベースとなっているので、生物学の専門的な知識がなくても読みやすい文章です。生命科学にあまりなじみのない方にもおすすめできます。
実はiPS細胞の発見や樹立は、山中だけでなく同時期に世界のいくつかの研究者が取り組んでいたテーマでした。それぞれの研究者同士がライバル関係にあり、「他の機関や研究者よりも成果を早く発表する」ためのレースがひそかに起きていたのです。
本書ではそのような研究の舞台裏や、自由に細胞を作り出すという技術に関する倫理的な問題についても語られています。
生命科学の研究者として、また一人の医療従事者として働き続ける山中伸弥。今後も彼の研究やiPS細胞技術の発展から目を離すことができません。