世界中の青空をあつめて
2020年のオリンピック。「TOKYO」という字が掲げられた瞬間の興奮は、多くの人が覚えていることだろう。
東京で暮らしていた和樹は、仕事を辞め愛媛の実家に帰ってきていた。家で家族とそのオリンピックのニュースを目撃し、父や母も興奮しているようだが、祖父の様子がいつもと違うことに気づく。目に涙をためているのだった。
それからしばらくして、祖父が仏壇から取り出した封筒。その表には「もしもオリンピックが東京に決まったら、この封筒を開けてください」と書いてあるのだった。祖父からの頼みで、和樹は再度東京へ向かう。そこでは新たな出会いがあり、和樹の過去も語られる。
既に決まっている東京オリンピックを題材にしているということで、まさに旬の小説である。恋愛小説ではないが、中村航さんの描く男女の関係は読んでいて楽しい。まさに今、たくさんの人に読んでもらいたい小説だ。
リレキショ
文藝賞を受賞した、中村さんのデビュー作。アルバイトの為の履歴書を、半沢良が姉と話しながら書いている場面から物語は始まる。しかしその会話にはおかしな点がいくつもあり、本当に半沢良という名前なのか、本当に姉なのか、読んでいて不思議な気持ちになりながら、ページをめくっていくことになるだろう。
半沢良はガソリンスタンドでのアルバイトを始めるが、そこでの仕事中、不思議なラブレターを手渡されることになる。ミステリアスな過去や人間関係が多く描かれているが、それでもこの空気感に不思議と居心地の良さを感じてしまうのは私だけではないはずだ。
ふわふわした気持ちになりたい時、ちょっと変わったものを読みたい時におすすめ。
デビクロくんの恋と魔法
こちらも映画化された、代表作の一つだ。優しい書店員の光は、絵本作家になることを夢見ている。普段は目立たない彼だが、夜になるとデビクロくんに変身し、人知れず「デビクロ通信」を町中にばらまく。小説内でも、かわいい絵の「デビクロ通信」を楽しむことができる。
唯一、この光の秘密を知っているのは溶接女子である杏奈だ。彼女は光に密かに思いを寄せるが、いつまでも気づいてもらえない。そんな中、光は照明アーティストのソヨンと偶然出会い、一瞬にして恋に落ちてしまう。光のことも、杏奈のことも応援したくなる小説だ。
デビクロ通信には、「世界に愛されたいなら、世界を愛してやれ」など、素敵な名言がたくさんあるのも見逃せない。
もうすぐ冬が来る、今の季節におすすめしたいラブストーリーだ。