本作は、正義のヒーローと悪の組織の日常を中心に描いたギャグコメディです。正義も悪も関係なし、ギャップと勢いの強さでゴリゴリと展開してゆく物語と、そのテンポのよさは病みつきになるでしょう。この記事では、主要な登場人物と最終巻までの見どころを紹介していきます。
2004年〜2015年まで「ヤングガンガン」にて連載されていた『天体戦士サンレッド』。2008年、2009年にはテレビアニメも放送されました。
神奈川県川崎市を舞台に展開される本作は、太陽を司るチンピラヒーロー・天体戦士サンレッド、そしてサンレッドの彼女(養い手)・内田かよ子、さらに悪の組織の将軍・ヴァンプとその配下の怪人たちを中心に、彼らの日常を描いていきます。
作中でくり広げられるボケには笑わずにはいられない勢いがあり、それに対するツッコミもまさに「おっしゃる通り!」と思わず漏らしてしまいそうな的確さをもち合わせているのです。
今回は、作品の魅力と主な登場人物の紹介をネタバレも含みながら説明していきます。
- 著者
- くぼた まこと
- 出版日
- 2005-08-25
また、『天体戦士サンレッド』は2017年現在、スマホアプリ「マンガUP!」にて無料で読むことができます。その他人気作品も多数公開されていますので、ぜひこの機会にダウンロードしてみてください。
神奈川県川崎市でくり広げられる正義のヒーロー「サンレッド」と悪の組織「フロシャイム」の壮絶な戦いを描いた物語!という世界観の下に、チンピラヒーローと人情味溢れる悪の組織のノビノビとした日常を描いた作品です。
世界征服を企む悪の組織の将軍でありながら、プライベートでは社会の規範のヴァンプ。彼を筆頭にノビノビ、活き活きとヒーローの命を狙う怪人はじめ構成員達。
狙われる側のヒーローのサンレッドはといえば、ヒーローとして怪人と戦いはするものの、立ち振る舞いはチンピラのそれでしかなく、その素行を人々から諌められることもしばしばです。
世間話だったり町内のイベントだったり、飲みの席だったり家の中だったり……。基本的には正義も悪も関係なく交流する登場人物達。和やかな雰囲気の中飛び出る強烈なギャグの数々に、癒されながらも大笑いできます。
ヒーロー協会に属し、神奈川県川崎市を守護する正義のヒーロー。太陽の力を司り、炎や熱を操る能力を持っています。
しかし性格をはじめ、日常の素行はヒーローというよりチンピラです。対決の際にも必殺技などは一切使わず、ステゴロでの正拳突きやプロレス技ばかり。倒された怪人たちいわく、レッドの拳は鉄パイプや角材で殴られるよりも「痛い」らしく、大体の場合この一撃で勝負は決まってしまいます。
そのうえ定職に就いていないため収入が無く、私生活では彼女の「かよ子」に養ってもらっています(いわゆるヒモ)。しかし彼自身このことを良しとは思っておらず、作中では時折就職するために行動するのでした。
また、かよ子のことは本心から大切に思っており、露出が少し多めな格好だと焦ったり、彼女を傷つけるものは例え一般人であろうと殺意を抱きます。
このように、基本的には荒い気性の持ち主ですが、対決の際には例え一方的に決められた日時や内容でも守り、ヴァンプが本当に危険な目に遭っている時には多少無茶をしてでも助けてあげるなど、律儀で情けのある側面も持ち合わせているのです。
サンレッドの彼女で養い主の女性です。保険の外交員をしており、レッドとは営業での外回りの最中に出会い、一目惚れ。その後紆余曲折あって、ともに暮らすこととなりました。
レッドとは対照的に社交的で、近所付き合いも大切にする性格です。フロシャイムの構成員であっても温かく接するため、怪人たちからも「さん」付けで呼ばれています。しかし酒癖だけはかなり悪く、酔うとレッドでも手が付けられなくなり、いろいろと本音が炸裂して周囲を困惑させます。
温厚で面倒見のよいお姉さんのような性格ですが、可愛いもの好きな子供っぽい側面も。また、レッドとは何度喧嘩をしても愛想を尽かさず、むしろレッドの首筋にキスマーク(実際は怪人の攻撃による痣)を見つけたときには、涙を流すほど彼のことを愛しています。
シリーズを通して最も性格や外見が変化している人物でもあり、作者も巻末おまけでそのことに触れています。しかしこれには、特に性格面の変化にはレッドとの馴れ初めに理由があるのでした……。
彼女の変遷を辿ってゆくのも、この作品の楽しみの一つと言えます。
悪の組織フロシャイムの将軍の位に就く、神奈川県川崎支部の支部長の怪人。対決の前口上を尊大に述べたり、いろんな悪事を企んだりと、悪の親玉らしい行動を見せています。
しかし、基本の性格は謙虚で物腰が柔らかく常識的。プライベートではレッドに対しても敬語で、かよ子とはご近所として非常に懇意にしています。
町の人々からの信頼も非常に厚く、自身の配下であるか否かに関係なく、間違った行動で風紀を乱す輩には毅然と注意したり、説得したり、態度を改めた場合にはそのことに感心・賞賛したりするという、大きな器を持っています。
趣味は料理で、手の込んだものから手軽ないわゆる「男の料理」まで、レパートリーは多彩。その料理の一部はおまけとして単行本に収録されています。
特撮における正義のヒーローと悪の組織の関係と言えば、「熱い正義感を心に抱くヒーロー」と、「目的のためなら手段を選ばない極悪非道な怪人たち」であり、命を懸けた死闘をくり広げるという関係性でしょう。たとえ友好的になる展開があったとしても、だいたいは罠です。
しかし、本作ではそんな「常識」がまったくといっていいほど通用しません。
キャラクターの紹介でも述べたように、悪の組織の将軍が作中随一の常識人で、肝心の正義のヒーローは無職のヒモでチンピラ。怪人たちも旅行に行ったり、合コンしたり、挙句にはヒーローと呑んで語らったり……。そんなギャップが本作最大の魅力です。
上の画像のシーンは、かよ子と喧嘩したレッドがフロシャイムの川崎支部にいる怪人に相談すべく、アポ無しで支部に上がりこんできたというシーンです。
正義のヒーローが彼女と喧嘩した、というところまではあり得るかもしれません。しかし悪の組織の支部に普通に乗り込み、それに文句を言う住人を殴って黙らせ、挙句の果てに怪人に悩み相談と、普通のヒーロー物ではあり得ない展開です。『天体戦士サンレッド』では、こんなハチャメチャなことが日常が常にくり広げられています。
また、ヒーローものならではの「必殺技」というものは、本編ではヴァンプの想像上ぐらいでしか登場せず、普段はステゴロの正拳突き、プロレス技、そこら辺の鈍器を使って怪人を叩きのめす、というアクションが基本です。
これらのギャップが作り出す、勢いある展開が魅力となっています。
- 著者
- くぼた まこと
- 出版日
- 2007-07-25
本作の単行本ではさまざまなオマケが収録されており、なかでも「ヴァンプのさっと一品」と「編集のあおり」は、他の漫画作品にはない魅力を持っています。
まず「ヴァンプのさっと一品」について。これは、上の画像のようにヴァンプ将軍の料理レパートリーの中から、「男の料理」のような簡単料理のレシピがかかれたものです。
材料も過程も比較的簡単なものが多く、なかには本来手間のかかる料理を工夫し、簡単にしたレシピもあり、なかなか実用性が高いのも人気の秘訣。味の評価には戦闘員や怪人、そしてレッドが登場します。
なぜこんなにレシピを思いつくかというと、ヴァンプいわく「一日のほとんど料理の事ばっかり考えてるからね!」との事です。
もう一つのオマケ「編集のあおり」。これは各話の始めと終わりに載っているもので、作者いわく「編集者が勝手につけたもの」だそうです。それも、単行本に。
このオマケの最大の魅力は、作者以外の人物が勝手に載せているがゆえに持つネタの鋭さです。たとえば上の画像のシーンのあおりは「ヒーローvs怪人の対決!基本を忘れていた!!」ですが……、到底ヒーローもののあおりとは思えません。なにより、肝心のヒーローも私服なうえに煙草を吸っています。
話の冒頭ではこのあおりが読み手を物語に惹きつけ、終わりでは物語のオチにもうひと押しを加え、作品をさらに彩ります。
この二つのオマケ、特に後者はアニメでは楽しめない単行本ならではのものですでの、ぜひ本作を手にとって楽しんでみてください!
皆さんが思い浮かべるヒーロー物作品では、怪人やヒーローが現れると、モブキャラクター(作品において名前のつかない人物・群衆)たちはどのような反応を見せますか?おそらく、怪人を見た人々は恐れおののき悲鳴を上げ、ヒーローが現れれば歓喜の声を上げるでしょう。
しかし、本作ではそんなことが起こることはありません。怪人たちは恐れられるどころか、普通に店でアルバイトをしたり、ご近所付き合いしたりして、世間に溶け込みきっています。それも、領収書の宛先に「悪の組織フロシャイム」と記入しても怪しまれないレベルで。
ヒーローの方も同様に世間に溶け込んでおり、ジャージでショッピング、パチンコなどと世俗を謳歌しています。
上の画像は、コンビニバイトをしている2人の男性が、過去に出会った変わった客について話をしているシーンです。1人が過去に出会った変わった客の話を聴いたもう一方の男性は「俺も変わった客に遭遇してー」と羨ましがります。怪人目を前にして。
このように、怪人やヒーローたちが普通に受け入れられている世界観だからこそ際立つ、特撮のような設定を活かしたギャグが秀逸です。
ある日、レッドはかよ子と些細な喧嘩をしてしまい、仲直りの糸口を探していました。そんな折にかかってきた一本の電話。
「……ククク……サンレッドよ…私だ……ヴァンプだ……」
「いよいよ明日は運命の日だな。貴様のとうとう年貢の納め時だ。」
「なぜならこの私自らお前と戦うのだからな!首を洗って待っているがいいサンレッド!」(『天体戦士サンレッド』20巻より引用)
こんな言葉にも、レッドはヘラヘラと返答します。いつもどおりであれば、明日の対決もレッドの一撃で勝負が決まってしまうからです。
そして、対決当日……。
その日は普段と様子の違う対決が繰り広げられていました。ヴァンプの外見、ギャラリーの数、そしてなにより劣性に立たされているように見えるサンレッド。
ヴァンプはこの対決に「ヘルアーマー」という、将軍職に就くもののみが付けられる鎧を着込んで挑みました。ヘルアーマーによって強い力を手にいれただけでなく、命まで増えたヴァンプ。「鬼神のヴァンプ」の二つ名を持つ川崎支部最強の存在を前に、ついにサンレッドも本気で立ち向かいます。
熾烈を極める両者の戦い、しかしその戦い最中やってきた乱入者により、戦いの場は混沌を極めるのでした……。
この戦いの行く末は、ぜひ本作を手にとってご覧ください!
- 著者
- くぼたまこと
- 出版日
- 2015-02-25
いかがでしたか?自然体な怪人たちやヒーローの姿を描いた本作。あるあるな日常と彼らの個性を見事に融合させたゆる~い雰囲気を楽しんでみてはいかがでしょうか。ヒーローにも怪人にも、日常はあるんです。