『海賊とよばれた男』のモデルとなった大実業家、出光佐三。彼の熱い反骨精神の源泉を探る本を5冊紹介いたしましょう。
出光佐三は明治に活動を開始し、戦後の高度成長期まで活躍した実業家。「出光興産」の創業者で「海賊」という異名をとった人物です。
彼は1885年に福岡県で生まれ、現在の神戸大学を卒業したのち1909年に酒井商店に丁稚(期間が限定された雇用形態)として入店します。通常の就職をせず丁稚の道を選んだことにより、周囲からはかなりの変わり者として扱われたようです。
その後、子息の家庭教師をしていたという縁から資産家の日田重太郎から資金援助を受け、1911年出光商会を立ち上げ、機械油の取扱を開始します。その後は南満州鉄道への油の納入をすることになり、事業は順調に成長。自身も1937年から貴族院議員を務めるまでになりました。
第二次世界大戦での敗戦により事業の大部分を失い、一時は経営を危ぶまれる事態にまでなりました。しかし戦前後、他の大多数の企業が従業員の大量解雇をおこなうのとは逆に「1000人の従業員を解雇しない」という宣言をします。
その後も消費者目線での企業活動を貫き、イランからの石油の輸入を実現。彼の曲がらない信念は日本を元気づけ、1981年に亡くなったときは昭和天皇が哀悼の意を込めて歌を詠まれました。
一代で出光興産を気づいた出光佐三の経営哲学をまとめた作品です。ベースとなる哲学は「人間尊重」であり、家族的経営に徹した彼の考えを知ることができます。
内容は大きく分けて3章から構成されており、時系列的ではなくテーマごとに彼の言葉が収録されています。すべてに共通する点は「真心をもって事に当たれ」という考え方。彼がその考えが失われていくことを、なにより危惧していたことがわかります。
- 著者
- 出光 佐三
- 出版日
- 2016-03-08
出光佐三は、昭和30年代にはすでに資本主義の行き詰まりを喝破し、「打開する方向性として日本が日本たる国である、あるいは日本人が日本人たるべきである」と説いています。
この言葉に国粋主義的な意味はありません、ただ「もういちど真心を持って生きるべきである」と勇気づけてくれるものであり、また「黄金の奴隷ではなく金を従とせよ」という教えは、「お金のために」となりがちな現代の拝金主義を打破するヒントを与えてくれるものになっています。
反骨精神の人である出光佐三は、その根底に社員を家族と思う暖かさと、いつでも日本を念頭に置いた行動を取るという強い信念を持った人物でした。そんな彼だからこそ数々の業績をものにできたのだ、ということわかる一冊になっています。
戦後2日後の「社員を解雇しない」との宣言や、占領下の日本にいながら他国の石油メジャーを差し置いてイランからの石油輸入を敢行するなど、常に大衆に視線を置いて行動してきた経営者・出光佐三の言葉を収録した作品です。
冒頭にて自身の会社を「道場」であると定義する出光。彼の考えの根底には、社員や他の人たちに対する「愛」があります。また、温情主義と呼ばれるその考え方が後に「黄金の奴隷たるなかれ」という発想となるという風に、彼の論理展開を追って紹介する内容となっています。
- 著者
- 木本 正次
- 出版日
- 2013-02-05
出光佐三の言葉を紹介した後に、著者の解説が加えられるという流れで構成された本書では、「国家社会の歪みに示唆を加える」という彼の目的がわかりやすく示されています。
興味深いのは、出光が合理主義者でもあった点です。しかしその合理主義も、やはり消費者のためのものであるという点が、彼の特異な部分だということがわかります。
出光佐三の言葉はときとして観念的がゆえに難解に聞こえることもありますが、著者はうまく大切な部分をすくい取り、読者にわかりやすいように解説してくれています。彼の思想を知るには、まずこの作品から手に取ることをおすすめします。
「海賊」の異名を取った出光佐三の生涯を、ビジネス書として再構成した一冊です。出光がその時々に何を考え行動したかを知ることができます。
彼の生き方、戦後すべてを失った後の再スタート、父母からの影響、出光佐三語録などが全5章に展開されます。
ビジネス書の体裁をとっていますので、彼の生き方に関する解説が詳しくされており、経営者として大切な姿勢を学ぶことができるでしょう。
- 著者
- 松本 幸夫
- 出版日
- 2013-08-22
理不尽なことに関しては筋を通さなければ気が済まないという出光佐三の高校生時分の話をもとに、「信用とは何か」ということに関して著者が解説する、というスタイルで本書は進みます。
著者は「黄金の奴隷になるな」「自分の頭で考えろ」「自分の行動基準を持て」という3つのキーワードを、本作品のテーマとして挙げています。
彼の生きざまを通して何がビジネスで、あるいは人生で大事なのかを説く本作品は、経営者でなくとも「熱く生きたい」と考える方にとって、よいバイブルとなるでしょう。
出光興産の創業者・出光佐三がどういう人物だったのかがわかる作品です。彼はぶれることのまったくない、すべての権威をものともしない格好よい男であり、その魅力に感動できる内容となっています。
本書は出光佐三の勝負師としての強さ、尋常ならざる実行力、堂々とした生きざまを映し出したもので、迫力満点のノンフィクションとなっています。
米国・英国・日本に反旗を翻すのも日本と消費者のためであり、敗戦国となったため正義を語るに萎縮しているがそのような必要はない、何も悪いことはしていない。と言い切る日章丸事件の内容は、感動的な見どころです。
- 著者
- 水木 楊
- 出版日
- 2012-12-20
彼が持つ「反対のための反対ではなく、筋が通っていないことはだめなのだ」というシンプルな行動原則が爽快な伝記作品で、また狭量な愛国心とは違う日本への愛情が感じられる部分が読者を感動させます。 所々で発せられる出光佐三の言葉の意味を噛み締めながら読みたくなることでしょう。
人物のスケールの大きさ、カリスマ性、そして先を見通す卓越した力を再認識できる本書は、彼がどういう人物でどういう人生を歩んだのか、そして何を考えていたかを知るにはうってつけの一冊です。
『黒部の太陽』で有名な木本正次によるノンフィクション小説。新聞記者出身の著者による綿密な取材で出光佐三の本質に迫るもので、本人からのお墨付きももらっている一冊です。
あくまで小説の体裁をとっていますが、端々に登場する出光の言葉の力強さに圧倒されます。
「真の豊かさとは何か」というテーマが物語全体を貫いており、その緻密な取材により裏打ちされた史実が、ある種伝説化されていた出光佐三が、実際に存在した男なのだ、ということを読者に思い出させます。
- 著者
- 木本 正次
- 出版日
- 2015-09-18
話は「面会の約束はしていないが、日本石油の社長に会わせてください」と、受付嬢に告げる出光商会の出光佐三の様子からスタートします。出だしからして、彼が普通の人物ではないというオーラを感じられます。
独立自尊の精神を最初から発揮する出光佐三の姿を克明に描き、最終的に日章丸事件まで展開していくさまは、幾多の試練を挟んだとしても痛快です。
登場人物の口から、当時の日本の石油事情などについても詳しく語られており、出光がビジネスチャンスを思いつく流れも非常にリアルです。また、当時の東京の街が目に浮かぶような細かい描写のおかげで、日本の発展物語としても楽しむことができるでしょう。
このような経営者がいまだかつていただろうか……と思わせる信念と真心の人、出光佐三についての本を紹介しました。読めば読むほど傑出した人物だということを思い知らされます。