百合漫画『やがて君になる』のあらすじをネタバレ紹介!『やがて君になる』、通称「やが君」は「誰かの特別になる」「誰かを特別に思う」ということをまだ知らない主人公が、高校生活と生徒会の活動を通して「特別」を探す物語です。今回は、清らかな雰囲気のある本作の魅力と見どころを、7巻まで徹底紹介します。
本作の魅力的なものにしているのは、丹念に描かれた登場人物たちの心情です。
「恋をする気持ちが分からない」、「なりたい自分が分からない」など、キャラクターごとにその悩みは異なりますが、それぞれの複雑な感情が巧みに表現されていることで、彼女たちのもどかしさや切なさが読者にひしひしと伝わってきます。
もちろん絵が可愛いことや、女性同士の恋を描いた百合作品であるということも大きな特徴です。しかし本作品を本作品たらしめるのは、やはり作者による繊細な心情描写であるといえるでしょう。
「誰かの特別になる」という気持ちが分からない高校1年生・小糸侑は、生徒会の仕事を手伝うことになりました。そこで、彼女と同じ気持ちを持つ一つ上の先輩・七海燈子と出会います。
ある日侑は、中学の頃から抱えていた恋愛の悩みを燈子に相談し、解決に至りますが、直後燈子から発せられたのは「君のことを好きになりそう」という意外な言葉でした。
侑は戸惑いつつも、燈子との日々を送っていくうち、しだいに彼女に惹かれていきます。
第1巻では、侑と燈子の出会いの場面が描かれます。
先生にすすめられるまま生徒会室へと向かった侑は、燈子が男子生徒から告白される場面に遭遇してしまいました。しかし彼女は「誰のことも好きにならない」と、その告白を断ります。
「特別が分からない」侑は、誰からの告白にも応じない燈子に共感し、自分の恋愛を相談しにいきましたが、返ってきたのはあまりにも予想外な言葉だったのです。
「君のこと好きになりそう」 (『やがて君になる』1巻より引用)
こうして、侑と燈子との日常は始まります。
- 著者
- 仲谷鳰
- 出版日
- 2015-10-24
第1巻の見どころは、「特別な気持ち」を知ることができない侑のもどかしさが見事に描き出されたシーンの数々です。
彼女は中学校を卒業式で同級生に告白されて以来、その返事をしないままでいました。相手の彼のことは好きでしたが、彼女はそれでも「誰かの特別になる」という気持ちが理解できなかったのです。
「本で読む 歌で聞く恋はキラキラしていて これまでは憧れるだけだったけど わたしだって羽根が生えたみたいに フワフワしちゃったり そんな期待」 「だけど 依然しっかり地面を踏みしめていて」
「大丈夫私はきっと 他の人より羽根の生えるのが遅いだけで きっと今に もうすぐ…」(『やがて君になる』1巻より引用)
その気持ちは燈子から好きと言われても、その後彼女にファーストキスを奪われても変わりませんでした。
「女の人で あんな風に突然うばわれて 嫌だって思うものじゃない? もし嫌じゃないのなら もっとどきどきしてもいいんじゃないの? 初めてのキス 何も感じなかった」(『やがて君になる』1巻より引用)
「特別」という気持ちが分からない侑ですが、「知りたい」という気持ちは大いにあります。だからこそ彼女は、こんなにも葛藤しているのです。
「ずるい」 「先輩はもう特別を知っているんだ わたしもそっちに行きたいのに」(『やがて君になる』1巻より引用)
この他にも、本巻のさまざまな場面で「特別」について悩む侑のもどかしさが描かれています。繊細に表現された思春期の少女の気持ちに、ぜひ注目してください。
第2巻は、燈子が無事に生徒会長に、侑が生徒会役員になったところから始まります。新体制になった生徒会は燈子の強い要望もあり、文化祭で「生徒会劇」を復活させることを目標として活動をスタートさせました。
本巻では侑の同級生で、生徒会役員の槙聖司に先輩とのキスを見られてしまったり、燈子が初めて侑の部屋に遊びに行ったりと、たくさんの出来事が起こります。
そして最後には、燈子が生徒会劇の復活に尽力していた理由に、亡くなった彼女の姉が関係していることが明かされるのでした。
- 著者
- 仲谷鳰
- 出版日
- 2016-04-26
第2巻の注目ポイントは、槙をはじめとする周りの人の指摘によって、侑が自分の気持ちに気づきはじめる部分です。
先述のように、侑は彼に燈子とキスしているところを見られてしまいました。しかし槙は茶化すことはせず、次のようなことを言います。
「小糸さんもちゃんと七海先輩のことが好きなんだね」
「七海先輩のこと特別なんだなぁって」(『やがて君になる』2巻より引用)
彼の言葉は、侑が「自分は燈子のことをどう思っているのか」ということを考え始めるきっかけになりました。そのかいあって彼女は、こんな前抜きな事も考えられるようになります。
「誰に選ばれても嬉しいのかもしれないけど それでも今 一緒にいるのはこの人なわけで これはこれで いい関係なのかもしれない」(『やがて君になる』2巻より引用)
そして物語がすすみ、彼女のなかで燈子を思う気持ちが溢れ始めると、自然と言葉となって燈子に投げかけられるようになりました。
「わたしは本当のあなたを知って それでも一緒にいたい 好きになりたい」
「先輩と一緒にいられないなら わたしに誰が好きになれるの」(『やがて君になる』2巻より引用)
直球にも聞こえる言葉をぶつけながらも侑は、まだ自分が燈子のことを好きになっていると気づいていません。しかし、侑の中で燈子の存在は着実に大きくなっているということが見て取れます。
ずっと知りたかった「特別」に、また一歩近づいた彼女の姿は見逃せません!
第3巻では、侑と燈子の話以外に、侑たちの先生である箱崎理子の恋と、生徒会の先輩である佐伯沙弥香の恋が描かれています。
本巻は何らかのイベントがあるということよりも、むしろ「女の子を好きになるということがどういうことなのか」ということ、そして「侑が自分自身の気持ちと向き合う」ことに焦点が置かれています。
本巻の見どころはなんといっても、侑が好きという気持ちに気づき、葛藤し始めるところです。2巻で燈子の存在を意識して以来、彼女は自分の気持ちが普通とは少し異なったものだと考え始めました。
しかしその気持ちが「燈子が望まないもの」だということも感じ取り、彼女はせっかく芽生えた「特別」を、自ら押さえつけなければならなくなったのです。
- 著者
- 仲谷 鳰
- 出版日
- 2016-11-26
これまでに、侑はさまざまな形で燈子に愛されてきました。しかし同時に、彼女は燈子に愛されつつも、拒絶されていたということに気づきます。
「あの時の七海先輩はこう言ってた 『私のこと 好きにならないで』」(『やがて君になる』3巻より引用)
その言葉が頭の中で渦巻く侑は、どんどんと自分の気持ちを押さえるようになります。初めて自分から差し出そうとした手も、燈子とのキスも全て「好き」という特別な気持ちではないんだと思い込んでしまうのです。
そして、本巻の最後ではこんなことを考えるのでした。
「見返りのいらない好意を与えられること 優しくされること さらさらの髪や長いまつげ いいにおい 柔らかいこと それらを心地いいと感じるのは 手放したくないと思うのは ただの当たり前で 特別なんかじゃないはず」(『やがて君になる』3巻より引用)
自分の気持ちが「特別」だと気づいてしまったことと、それが燈子には喜ばれないことであると感じたこと。二つの気持ちの間で葛藤する侑の姿を見守ってあげてください。
第4巻は、生徒会劇の原稿が完成したところから始まります。それを受けて劇の練習が本格化し、生徒会で合宿をおこなうことになりました。
そこで、燈子の姉の同期であり、生徒会OBの市ヶ谷知雪がコーチとして参加することになります。
合宿中に燈子は、彼と姉の話をしていくなかで、自分が思い描いていた姉と実際の姉に違いがあることを知ります。これまでの「姉」という理想・目標が揺らいだ彼女は、「自分がどうなりたいのか」すらだんだんとわからなくなってきてしまうのでした。
- 著者
- 仲谷 鳰
- 出版日
- 2017-06-26
第4巻で注目してほしいのが、燈子の心情が大きく変化する部分です。
ここまでの物語では、燈子が亡くなった姉のことを尊敬し、追いかけている姿が描かれてきました。しかし本巻では、燈子が単に姉に憧れていただけではなく、姉と同一の存在になろうとしていたということが分かります。
「私はこの劇を成功させて お姉ちゃんになるんだ…」(『やがて君になる』4巻より引用)
しかし、市ヶ谷から姉の話を聞いていくうちに、自分が思い描いていた姉と現実の姉は大きくことなっているということに気がつきました。理想で作り上げた姉の虚像ばかりを追い求めてきた燈子は、どうすればいいのか分からなくなってしまいます。
「私は誰を目指したらいいのかわからない」
「私のままの私になんの意味があるの」(『やがて君になる』4巻より引用)
ここではじめて、本作品のタイトルである『やがて君になる』の「君」が誰なのかということを読者は考えはじめるのです。
一方、気持ちが大きく変化しているのは燈子だけではありません。侑が彼女を思う気持ちもまた、形を変えようとしていました。
「わたしからは何もできない 先輩はいつもわたしのことを好き勝手振り回すくせに 」
「この人は ずるい」(『やがて君になる』4巻より引用)
1巻でも侑は「ずるい」という発言をしていましたが、ここではまったく違う意味合いで使われています。ここでの「ずるい」は、「燈子は自分に対して好きを伝えてくるけれど、私は彼女に好きと伝えられない」という意味合いになっているのです。
「願い事はあるはずだけど奥のほうにつっかえてうまく言葉にならない 書けたとして 言えるわけないじゃんね」(『やがて君になる』4巻より引用)
また、本巻の最後では、隠れてしまってはいるものの、燈子のことが好きだと確信した侑を予感させる場面が出てきます。
侑にも燈子にも大きな変化が見られる第4巻。シリーズを通して非常に大切な一冊となることでしょう。
姉への理想と現実のギャップの間で苦しむ燈子。姉の代わりに彼女ができなかったことを成し遂げようと墓前でもう一度誓いますが、それが終わったら、自分自身はどうなるのだろう、と考え始めます。
そして生徒会劇のストーリーは、そんな燈子の本質を突くような内容へと、侑と脚本担当のこよみによって磨かれていきます。
記憶喪失で過去を失った主人公が、昔の自分の日記などを「正解」としてその自分に今の自分を近づけようとして、最終的に恋人といることを選ぶという結末だったストーリー。
しかし侑はこの結末が、「今」の主人公の意思ではないということをこよみに誠実に伝えます。そしてシナリオが変更されることに決まりました。
- 著者
- 仲谷 鳰
- 出版日
- 2018-01-26
新しい脚本ができたら、燈子はどう思うだろう、と考え、彼女に会いたくなる侑。しかし自分から誘う勇気がなかなか出ません。
一方、燈子も同じことを考え、侑に会いたいと感じていました。その時、彼女の携帯にメッセージが来るのです。
「どこか遊びに行きませんか」
それを見て微笑んだ燈子は、「会いたいな」と侑に返します。
そこからは表紙にもなっている水族館デートの始まり。幸せで、お互い言葉に出さずとも気持ちが通じ合ってるのが見て取れます。
しかし、そのあと変更した脚本に、燈子は反対し、侑が協力してくれないことを悲しく思い……。
今回も最高に良い内容でした。侑が燈子に対して一歩踏み出し、そのことによって燈子も少しずつ変わって来ている様子が見て取れます。
次巻6巻でいよいよ燈子が変更した脚本のストーリーの登場人物を演じます。期待大です。
最後の練習を終え、ついに本番当日です。学園祭のスタンプラリーなどをしながら、時間が流れ、とうとう開幕の時間になりました。
幕の隙間からすごい人数がいると聞いた燈子は少し緊張しながら、「観た人に私たちに何かが残ってほしいと思います」と開演前の挨拶をします。そして解散になった後、侑に近づいてきて、何か伝えたそうにするのでした。励まそうとした侑ですが、意外にも落ち着いている彼女を見て、こういい直します。
「先輩は一人じゃないですし
先輩は大丈夫」
(『やがて君になる』6巻より引用)
やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)
2018年09月27日
ついに劇が始まりました!
2話使って一気にその様子が描かれます。大きなハプニングはなく、その裏側になる心理描写もないということで、本当に客席で彼女たちの演劇を観ているようにどんどん進んでいきます。
しかし物足りないということはまったく無く、直前になって内容が変わったことで侑から燈子へのメッセージがまっすぐに込められたものになったのだと感じられ、感動はひとしおです。今までの2人のことがあるからこそ、この演劇「君しか知らない」の内容が大きく心に響きます。
そして最後に燈子は、姉の代わりではない、彼女だけの経験から出る涙を流すのでした。
さらに6巻はそれだけにとどまりません!何とついに侑が自分の気持ちを燈子に打ち明けるのです!!
どんどん展開が動いている6巻。劇に込められた侑のメッセージ、燈子の変化、その後の2人の告白の様子などはぜひご自身でご覧ください。いつにも増して少女たちの言葉がビシビシささる内容です!
生徒会演劇を成功に収め、燈子への想いを告げた侑でしたが、果たしてその答えは……?
それぞれの想いを胸に秘め、燈子と紗弥香は修学旅行へと向かいます。
- 著者
- 仲谷 鳰
- 出版日
- 2019-04-26
前巻のラストで、遂に燈子への想いを打ち明けた侑。 しかし、その告白に対する燈子の答えは、「ごめん」。
「好き」って何だったんだろう(『やがて君になる』第7巻より引用)
ずっと言いたかった・ずっと言えなかった言葉を伝えたはずなのに、どうにも浮かばれない侑の心。 やがて自分が本当に燈子のことを「好き」だったのかすら曖昧になってきてしまうのでした。
その後は、何事もなかったかのように振る舞う侑でしたが、 逆に燈子の方が侑との接し方に戸惑ってしまっているようでした。
そんな中迎えた、修学旅行の季節。 下級生である侑は学校に残り、燈子と紗弥香は修学旅行へと旅立ちます。 その修学旅行で、紗弥香がとある行動に出るのですが……⁉
紗弥香と燈子の関係性から目が離せなくなる修学旅行編が、幕をあけます。
そしてなんと、巻末には衝撃の次巻予告が……
『やがて君になる』第8巻、完結。
そう、この『やがて君になる』は次巻の第8巻で完結を迎えるというのです。 「好き」とは……「特別」とは何かを探り続けた女子高生たちの物語。その結末を心して待ちましょう!
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いかがでしたか?作者の仲谷鳰は、電撃コミック大賞の金賞受賞者でもあり、その画力・構成力は高く評価されています。そんな作者が描く、まっすぐで美しい百合物語。きっと感動することができますので、ぜひ読んで見てください。