スマホアプリ「マンガワン」で連載されている『血と灰の女王』。2017年11月時点でまだ単行本は3巻しか出ていないものの、圧倒的な画力とキャラクターの魅力により、瞬く間に人気作品となりました。今回はそんな『血と灰の女王』をネタバレ込みでご紹介します。
本作は、富士山の噴火灰を浴びてヴァンパイア化した元人間がそれぞれの正義を胸に、ヴァンパイアの王を目指して戦い合う、スリルあり、謎解きあり、大迫力の戦闘シーンありのダークヒーロー漫画です。
本作の魅力の一つに、まず絵の迫力が挙げられます。緻密な書き込みと、細部にまでこだわられた丁寧なタッチは、読者を物語へぐいぐいと引き込みます。
主役にあたる「ヴァンパイア」のキャラクターデザインも最高に格好よく、彼らによる白熱したバトルシーンには、思わず惚れ惚れとしてしまうでしょう。また、メインキャラクターの見た目をあえて醜悪にするところなどから、他の漫画にはなかなかない雰囲気を感じることができます。
そしてなにより、登場するキャラクターたちの魅力にも触れねばなりません。
今回は、主要な登場人物の魅力と、それを裏付ける全巻のエピソードについてお伝えしていきます。、ネタバレを含むので未読の方はご注意ください。
- 著者
- バコ ハジメ
- 出版日
- 2017-05-12
舞台は富士山が噴火し、連日火山灰が舞い散る日本です。その火山灰を被った一部の人間は、夜の間だけ人間を喰らう「ヴァンパイア」に変身する能力を持つようになりました。
しかし、これがヴァンパイア誕生のきっかけになったわけではありません。この富士山の噴火は「ヴァンパイアの王の座」を巡る戦いの始まりの合図に過ぎなかったのです。
ヴァンパイアの女王を目指す主人公・ドミノと、その下僕2人。彼女たちは敵となるヴァンパイアたちと、まさに「血で血を洗う」壮絶なバトルをくり広げます。
ドミノは、普段は佐神善(さがみぜん)などと同じ学校に通う普通の女子生徒に見えますが、自身を「ヴァンパイア」と名乗っていること以外、その実態は未だに不明な点が多い少女です。
「マンガワン」における作者のコメントで彼女について、「前々から主人公の呼び名に疑問の声があがっていたドミノですが」とあることからもわかるように、物語の序盤は善を主人公としているかのように物語が進みます。
しかし、タイトルにも「血と灰の女王」とあるように、他の追随を許さない圧倒的な強さと可愛さ、暴虐さを兼ね備えたドミノこそが、この物語の主人公なのです。
彼女は常に不敵な態度・笑みを欠かさず、どんな敵を相手にしても圧勝します。その戦闘シーンは、圧倒的なパワーゆえにいつも規格外の迫力となっています。
なぜこれほどまでにドミノは強いのでしょうか?彼女を含む、ヴァンパイアたちの強さに関する秘密は、物語が進むにつれて明らかになっていくのです。
「私が女王様なら、世の中絶対楽しくなるわよ!」(『血と灰の女王』2巻から引用)
彼女が辿る王座への道は、いったいどんなものになるのでしょうか。
佐神善は17歳の男子高校生です。
彼は「命を奪う者を許せない」という優しさを持ち合わせた少年ですが、その思考には「命を奪った者の命を奪うことさえも許せない」という面もあるため、ヴァイパイアによる生きるか死ぬかの世界に身多くには、甘い考えの持ち主と言えます。
彼の持つこの考えは、下記のエピソードで体現されました。
ある日善の親友・京介は、くだらない理由からヴァンパイア殺されてしまいます。その時善は相手に対し「殺したい」と思うほどに憤りました。しかし、そのヴァンパイアをドミノが殺した際は、彼女に対して怒りを露わにしたのです。
親友の仇を取ってくれたともいえるドミノに対し、感謝ではなく怒りを向けるというのは、一見すると不可解な行動です。
なぜ善がこのような感情を持つに至ったのか、その理由は彼の幼少時代の「ある経験」にありました。その過去を知った時、読者ははじめて彼の一貫した行動原理に気付くのです。
弱肉強食のヴァンパイアの世界に飛び込んでいくことになった善の考えは、戦いを通して変わっていくのか、それとも変わらないのか。彼の信念に注目して読んでいくのも面白いでしょう。
京児は、善の親友だった京介の兄で、凶暴な性格と冷静な頭脳の持ち主です。そんな彼も富士山の火山灰でヴァンパイア化し、強靭なエナメル質の体と、電撃を操ることのできる強大な力を得ました。
しかし、性格的には難あり。弟の京介がヴァンパイアに殺されたと知っても、悲しむ素振りも、ヴァンパイアを責める素振りもまったく見せません。それどころか「俺は殺し合いが好きだ、理由なんてない」、「弟がヴァンパイアに殺されても何も感じていない」などと言うのです。
このような言動から、血も涙もなく冷めきった人間なのかと思いきや、一方で彼は子供好きで、面倒見のよい一面も見せます。善に対しても厳しい言葉を浴びせまくるわりに、彼の話をよく聞き、時折優しい言葉と表情を向けるのです。
腹の底の見えない感じと、冷たさと優しさのギャップに魅力を感じる読者は非常に多いため、彼はこの漫画で最もファンの多いキャラクターかもしれません。
ちなみに、京児には「ハハァ」という口癖があります。この癖が出てくるタイミングが、毎回絶妙です。考え込んで見たり、照れ隠しをしてみたり、敵を嘲笑ってみたり、それぞれの「ハハァ」ごとにがらりと変わる表情にも注目してみてください。
『血と灰の女王』については<『血と灰の女王』は、3巻から面白くなる。画像つきで作品の魅力を紹介!|ネタバレ注意>でも紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。
1巻は、怒涛の展開です。
ある日善たちが通う高校の校門で、惨殺された猫の死体が発見されます。たくさんの生徒が怖い者見たさで群がるなか、彼だけは気持ち悪がらずにその猫を供養してあげました。
そんななか、彼は自身の飼っている猫たちのうち、一匹が行方不明なことに気づきました。学校で見た無惨な姿の猫を思い出した彼は、自分の猫も危険な目にあうのではないかと心配になり、探しに行ったのです。
通りかかった小屋から猫の鳴き声が聞こえため入ってみると、なんと刃物を持った猫殺しの犯人に遭遇してしまいます。
正義感の強い善は隙を見て相手を倒して押さえ込み、警察に突き出そうとしました。しかし、その男はヴァンパイアだったのです。善の右腕と顔の一部はあっという間に引き裂かれ、ヴァンパイアにも逃げられてしまうのでした。
そこへ、どこからともなくドミノが現れます。ぼろぼろになった善を見ながら彼女は、尖った歯を見せながら笑いかけました。
「……大丈夫よ。アンタは死なないわ。」(『血と灰の女王』1巻から引用)
- 著者
- バコ ハジメ
- 出版日
- 2017-05-12
ここで初めて、善もヴァンパイアとなっていたことが発覚します。ヴァンパイアになりかけた善を描いたシーンは迫力満点で、読者に強い印象を残すでしょう。その後、同じ相手に親友を殺された善は、生まれて初めて抱いた殺意でヴァンパイアとしての力に目覚め、戦いの世界に巻き込まれていくのです。
そんな目まぐるしい展開の1巻の何よりの見どころは、やはり京児との出会いと、戦いでしょう。
主人公は善ですが、彼よりも京児が戦う姿に目が行きます。戦い方、立ち振る舞い、言葉の一つ一つがとても格好良く、善と京児のどちらを応援したらよいのかわからなくなってしまうほどです。
今後最高の関係を築いていく2人の貴重な出会いのシーン、ぜひ楽しんで読んでみてください。
2巻では、善が初めて1人でヴァンパイアと対決します。
敵のくり出す攻撃を受けた善は、相手のヴァンパイアが弱いということに気づきます。京児との凄惨な戦いを経験した彼は、並みのヴァンパイアよりも強い力を得ていたのでした。
自分が本気を出せば殺せる。しかし、元は人間のヴァンパイアを殺すことになる。善は直前まで悩みますが、最終的には他の人間が襲われそうになったため、やむなく相手を殺します。
これが、善が初めてヴァンパイアを殺した瞬間でした。
- 著者
- バコ ハジメ
- 出版日
- 2017-07-12
殺してしまったということに落ち込む善に、ドミノはこう語りかけます。
「絶対的に間違っている真黒な部分はある。けど白はない。灰色の部分がね、ずーーーーっとどこまでも広く広がってるの。その中を走り続ける。血で血を洗い、真赤になりながらね。」(『血と灰の女王』2巻から引用)
このセリフは、『血と灰の女王』という物語を言い表しています。
ドミノにせよ、善にせよ、京児にせよ、自分なりの正義を持って行動しており、そこに正解はありません。そんななかで「命の奪い合い」という究極のやり取りをし続けなければならいのです。
自分の正義を貫くためには、正しかろうが間違っていようが、誰かの正義を討ち倒さなくてはならない。そんなジレンマと対峙するようなエピソードが、2巻では待っています。
善にとって重要な人物との対立、そして決着。この結末に至るまでに張られた、小さなコマの伏線にあなたは気付けるでしょうか?
3巻では善の修行、およびクレタ&マルタ戦が中心に描かれます。
京児から戦闘訓練を受けることになった善。京児は善の弱点を指摘します。
京児の指導を受け、善は強くなることができるのでしょうか。
- 著者
- バコ ハジメ
- 出版日
- 2017-11-15
3巻のもうひとつのみどころは、双子の人魚型ヴァンパイア、クレタ&マルタ戦。
善&京児対クレタ&マルタ。2対2で始まった戦いでしたが、善は瀕死の重傷を負ってしまいます。
クレタ&マルタを倒さなければ、善は死ぬ。そんな状況で京児は言います。
「よく見てろよ。
格上に勝つ、お手本を見せてやる。」
(『血と灰の女王』3巻から引用)
表紙にもなっている京児の圧倒的なカッコよさにしびれる3巻。必読です。
これよりご紹介させていただく内容は、2017年1月現在、マンガワンというアプリでのみ読める、単行本未発売の内容です。おそらく30話から39話が収録されるであろうと予想してのものなので、多少収録話数などの変更の可能性があることをご了承ください。
さて、一度は打ち切りが囁かれた本作ですが、読者の力を持って連載継続となりました!良作なので、ファンとしては嬉しいですね。
そして4巻ではクレタ&マルタとの激戦を経て、ついに修行編が終わり、新章へと突入します。序盤では、格上の相手と戦ったということで、善と京児が確実に絆を深めている様子が描かれます。
そしてそんなふたりが修行をしている間に、ドミノは巷で人間をキノコのようにして殺し続けている敵を探していました。そして次は神奈川県の箱根町内で殺すと、わざわざ宣戦布告のように言ってくる相手を殺すため、彼女は温泉地・箱根へと向かいます。
そんなドミノの入浴シーンありの温泉編ですが、最大の見所は、キノコ男のボスであり、ドミノと真祖を争うことになるであろう、日ノ元士郎が現れる展開でしょう。
しかもそんな最大の敵となる日ノ元のもとで戦っていたのは、かつて善と同じ小学校で仲良くしていた七原でした。
彼はかつて親に虐待されていた自分のような弱者を救うため、日ノ元についていました。そして善に仲間に入らないかと誘うのですが、日ノ元のしている虐殺を知っている彼は、それを断ります。
日ノ元がかなりの被害者を出している人物だと返事を断った善を見て、七原は小学校時代の過去を思い出すのでした。
そして誰かの命を守るために戦いたいという善に、それは自分が傷つきたくないからというのが本当の理由で、正義ヅラをしているだけだ、とつきつけるのです。まるで、小学生時代のあの頃のように……。
ラスボス日ノ元が登場し、彼のもとで戦っていた人間が実は善の幼馴染だったという内容も盛り込まれた7巻。日ノ元の圧倒的なカリスマ性を感じさせる様子に、七原と善の過去、現在が交わる様子に引き込まれます。
詳しい内容はぜひ作品でご覧ください。どんどん面白くなってくる展開に読む手が止まらなくなること間違いなしです!
- 著者
- バコ ハジメ
- 出版日
- 2017-05-12
火山灰を浴びたことによって、人々が突然ヴァンパイアに豹変してしまう恐怖の物語が描かれた本作。平和な学校生活を送っていた主人公もやがてヴァンパイアになってしまい、壮絶なバトルに飲み込まれていきます。
なんといっても、迫力のある絵柄が魅力です。ヴァンパイア同士のバトルシーンでは、熱量がこちらにも伝わってくるかのような臨場感があります。
元は人間だった者を倒すことについて、葛藤する主人公。彼の様子からは、本当の正義とは一体何であるのか、考えさせられることでしょう。
とにかく血がたぎるようなバトルがくり広げられていく物語です。なんとなくスッキリしない、平凡な日常を忘れてしまうような刺激が欲しいという方におすすめします。
以上のとおり、『血と灰の女王』は素晴らしい作品です。それを無料で読めるこの機会に、ちょっとだけでも読んでみてください。きっと夢中になって、最新話まで読み切ってしまうことでしょう。