佐藤愛子のおすすめエッセイ集ベスト4!読み逃してませんか『血脈』

更新:2021.12.21

知る人ぞ知る佐藤一族の女丈夫、佐藤愛子ここにあり。「戦いすんで日が暮れて」。いやいや、戦いはまだ続いています。自分を生き抜く事に加減をしない佐藤愛子。歯に衣着せぬ語り口に、きっと貴方は魅せられます。

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憤怒の作家、佐藤愛子

佐藤愛子は1923年生まれの小説家、エッセイストです。世相の乱れ等を厳しく批判する言動から「憤怒の作家」と言われることもあります。父は小説家の佐藤紅緑、母は女優の三笠万里子、異母兄は詩人のサトウハチローという芸能一家で育ちました。

佐藤愛子が作家活動を開始したのは、1950年。処女作は同人雑誌『文藝首都』に掲載された『青い果実』でした。その後、50年代は同人誌を中心に活動し、1963年に『ソクラテスの妻』『二人の女』で二度芥川賞候補に選出され、翌1964年には『加納大尉夫人』で直木賞候補に選出され、1969年に『戦いすんで日が暮れて』で直木賞を受賞します。

1960年代後半からは小説と並行してエッセイも書くようになっていきます。中でも1970年代後半から1990年代まで続いた「娘と私」シリーズによってエッセイのファンを開拓しました。

5位:佐藤愛子の力作長編小説

著者
佐藤 愛子
出版日


小説家の父佐藤紅緑をルーツとする佐藤家の凄まじい「血脈」を描いた本作は間違いなく佐藤愛子の代表作と言えるでしょう。2000年には菊池寛賞を受賞しています。文庫本で上中下巻、計約2000ページと読破するには根気がいると思いますが、本が嫌いな人でも、登場人物の強烈な魅力には、きっと取りつかれる筈です。

佐藤愛子の健筆に感嘆したのはまず上巻の書き出しです。「服部坂を風が吹き上がってくる」という部分に、川端康成の『雪国』のあの冒頭の名文を連想させられました。さあこれから佐藤家の熱い血(マグマ)がぶつかって踊って時代を駆け抜けるぞー、と予感させる書き出しです。

少年小説家の紅緑も童謡歌詩や詩集「おかあさん」を書いたサトウハチローも、実は全く違ったイメージのマグマの持ち主だった発見をも含め、この家族の破天荒な痛快さは、読み進むうちに読者に教えてくれるのです。つまり「人間は皆同じ。だが結果的に違うのは、その人が如何に自分を生き抜けたかの違いである」と。

対人関係や生活に疲れた人には超おすすめの一冊です。

4位:もう後が無い。だからこう生きたいんだ。

著者
佐藤 愛子
出版日


佐藤愛子のエッセイ集はいずれも面白いですが、中でも『我が老後』は是非ともおすすめしたいシリーズです。

もう後が無い。だからこう生きたいんだ。今日は昨日には戻れないから、明日に向かって突っ走っているのだ。今この時を、とことん自分らしく生きてやる。そんな気概に満ちた痛快なエッセイ集となっています。

ここに収められているのは1990年から1993年まで、佐藤愛子が60代後半の時に、「オール読物」に出誌されたものを集めた作品です。

この本の中に「珍友」という一編があります。佐藤愛子は、同じ一人暮らしの老女である友人から、アダルト・ビデオを強制観賞させられて嘔吐してしまいます。一見他愛もない風景ですが、普段から傍若無人で言いたい放題な作者の意外な一面、(純情的)とも言える姿を想像して、思わずニンマリさせられます。

これから歳を取る人にも、現在歳を取っている人にも、一服の清涼剤にはもってこいの一冊です。

3位:後悔。この言葉と縁が切れるなら、金に糸目はつけないのだが…

著者
佐藤 愛子
出版日


この一冊は題名の通り、「何でこうなるの」というエピソード集です。

「撃ちてしやまん」は、引越しの朝の出来事を書いていますが、これがまた傑作です。疲れているから休みたいと佐藤愛子は切望するのですが、次から次へと手伝いの人が来てくれて休めません。そんな慌ただしい中一本の電話がかかって来ます。

「この糞忙しい時に」と思いつつ、電話に出る佐藤愛子。その時手伝いの人が著者の大事な陶器を無造作に持ち歩いているのが目に入ります。落とされたら「さあ大変」と焦る著者に電話の主の年配の女性はお構いなく喋りまくります。「婿がお金の為にホストクラブに転職し、とある客から百万円で男妾の話を持ちかけられているがどうしたものか」という相談です。

佐藤愛子ともあろう人が、すっぱりと断れずにずるずると相手のペースに引き込まれるさまが何とも滑稽で、思わず笑いこけてしまうエピソードです。

「何でこうなるの?」、でも「こうなっちゃうんだよね」という、一見そうは見えない著者の人情家の一面が垣間見られます。

2位:なっちゃったものは仕方が無い。ケセ・ラ・セラだー!

著者
佐藤 愛子
出版日


ああならない様に、こうならない様に、そんなこと考えてたら間違いなく病気に向かってっちゃうぞーと忠告してくれる本です。

「理想の孫ムコ」は、佐藤愛子が抱いている理想の日本男子像は「フム・フム、こんなんなのか?」と思わせてくれ、著者らしいと納得出来る話です。

昨今日本男子の軟弱化が取り沙汰されていますが、このエッセイが書かれた1997年ごろからすでに、そういう傾向があったんだなぁ、と改めて考えさせられます。

佐藤愛子の五歳の孫娘が、同年の男の子と「結婚した」と言います。その真相は?「結婚しよう」「ウンいいよ」と言って手を繋いだから「結婚した」事になったという、子供の世界のファンタジー。

その孫の相手は、だらしない服装の鼻たれ小僧で、いわゆる教育ママの理想の男の子ではないのですが、著者は孫娘の理想のムコというのです。

小さいうちから英才教育だ何だと、親の理想を振りかざして子供を洗脳するから、大人になってもなかなか自立できない男が増えるのだと、子供は親の背中を見て育つというのは現代にもちゃんと通用するんだよ、と著者は言いたいのです。

最近そう叫ぶ大人が減ってきている事を思う時、佐藤愛子の文章は魅力が一杯。ゲラゲラ笑わせながら、現代社会の風刺がピリリと効いたエッセイ集です。

1位:佐藤愛子の大傑作エッセイ

著者
佐藤 愛子
出版日
2010-11-10


佐藤愛子がある銀行のPRの一環として依頼された講演で、「近頃の男は妻と一緒になって、将来の為にとか何とか言って、金を溜める事ばかり考えている。不甲斐ない事極まりない」という内容の話をして喝采を浴び、終わってから自分の話の内容に頭を抱えたというくだりがあります。

講演依頼の趣旨を忘れ、日頃の自分の想いをマグマのように噴出させる著者ですが、現実に目を向けると、将来の為の貯蓄が必要という考えも否定できません。とはいえこのような前のめりの姿勢こそ佐藤愛子の真骨頂。この「老い力」には、老いてますます健筆になった著者の小気味よい語り口が満載です。

余生を自分らしく、ジタバタせずに生きたいという佐藤愛子の底力には、読者としても「なにくそ」精神の昂揚を促されます。人間の死亡率は100パーセントですから、余生に突入したらその時こそ、自分を生き抜く為に、渾身の努力をする必要がある事を気付かせてくれるエッセイ集です。

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