バスケットボール漫画の金字塔「スラムダンク」。登場人物が青春をぶつけあう姿は、他に代えがたい感動があります。今回は「スラムダンク」同様、主人公の生きざまに感動を覚えるスポーツ漫画5作品をご紹介していきます。
適当なノリのお調子者、石川凛(いしかわりん)。終始へらへら笑っているようないい加減な少年ですが、周囲からは親しまれていました。思いつきで言い出した板前修業のため、1年生にして高校を中退、地元北海道を離れて親戚の料亭がある東京へと旅立ちます。
ある日凛は、かつて慕っていた男、玉置欣二(たまききんじ)と再会しました。そして欣二と同居していたニューハーフのレイラこと佐伯剛史(さえきつよし)が、凛のボクサーとしての才能を指摘してきます。それがきっかけとなって、凛は上京後に「中尾ボクシングジム」の門をくぐるのでした……。
- 著者
- 新井 英樹
- 出版日
- 2002-04-09
本作は2001年から「ヤングマガジンアッパーズ」で連載されていた新井英樹の作品。2004年に一時完結していましたが、2006年から掲載誌を変えて続編『RIN』が発表されました。
タイトルの『シュガー』は拳聖シュガー・レイ・ロビンソンが由来。「Sweet(素晴らしい)」と評された彼の立ち回りに対して「Sweet as SUGAR(まさに砂糖のようにね)」とトレーナーが答えたことから、レイ・ロビンソン自身が「シュガー」と呼ばれるようになりました。
ひと口にスポーツ漫画といっても、その主人公には大きく分けて、努力型と天才型という2種類が存在します。練習を積み重ね、着実に強くなるのが努力型。一方で、ありあまる才能であらゆる苦難をものともせず、初めから異彩を放つのが天才型です。本作の主人公凛は、圧倒的に後者です。
物語は凛と周囲の人々による人間ドラマに重点を置いて描かれますが、ボクシングにおいて凛は異常な強さを発揮します。
「ノリ」や「空気を読んで」ばかりで、へらへら笑って本心の読めない凛。実はこれこそ彼の天才性の現れでした。天才ゆえに凡人を理解することができず、周囲に馴染むことができない自分を誤魔化して、「ノリ」と「空気を読んで」笑っていたのです。
最強とは頂点に立つ者のことで、ボクシングの頂点とは、自分以外のすべてに勝利することです。強いとは、言い換えれば孤高だということにもなります。凛は、天才ゆえに最強で、最強ゆえに孤高なのです。
ここまで徹底的に天才の姿が描かれる漫画は他にほとんどありません。凛がいかにして孤高の存在となっていくか、その軌跡が描かれています。
主人公、車谷空(くるまたにそら)はやる気に満ち溢れたバスケ少年です。高校入学と同時に大好きなバスケ部へと入りますが、そこは花園百春、千秋兄弟ら不良の溜まり場と化していました。持ち前の前向き思考で不良たちとわたりあい、遂にはその熱を伝染させてバスケ部を再興させます。
通称「クズ高」こと九頭龍高校のバスケットボール部の、波瀾万丈に満ちた船出の始まりです。
- 著者
- 日向 武史
- 出版日
- 2004-05-15
本作は2004年から「週刊少年マガジン」で連載されている日向武史の作品。既刊48巻(2017年10月現在)の息の長いスポーツ漫画です。
バスケをしないバスケ部という衝撃の幕開け。クズ高は部活動に強制参加する決まりになっており、男子バスケ部はやる気のない不良が集まる隠れ蓑になっていたのです。
かつてバスケ選手だった母親に、高校最初のバスケ大会で優勝する、と誓った空。作中でもっともバスケに貪欲な少年ですが、彼は小学生にも間違われる低身長というハンデを背負っています。しかし倒れる時は前のめり的な思考で、根気強く挑戦し続けるのです。
そんな彼の情熱に影響されて、花園兄弟ら不良たちもバスケを始めます。そして、再建したバスケ部には、経験者が加るのですが、これもまた曲者ぞろいでした。誰も彼も、いずれ劣らぬ問題児だらけのバスケ部です。
正式にスタートを切ってからも、順風満帆とはいきません。問題児の前には問題が山積。部員の不和、軋轢、いじめに事故、私生活の問題から恋愛模様まで、部活動どころではない事態がいくつも出てきます。
それでもバスケだけはやめられない彼らは、練習して、試合に出ます。しかし、素人や、経験者であっても実力不足な彼らは、何度も何度も負けるのです。熱血スポ根漫画とは異なり、そのあたりは非常にシビアに描かれています。
漫画のお約束に飽きた方にこそ、泥臭さのある本作をおすすめしたいです。
骨肉腫で右足を切断し、嘱望されていた短距離走の道を断たれた戸川清春、バイク事故の加害者となった罪悪感に苛まれる野宮朋美、自信家で自分の下半身不随を受け入れられない高橋久信という、心と体に傷を抱えた3人が主人公です。
車イスバスケと出会い、バスケと関わることで、3人の若者が自分にとって大事なものを取り戻していく物語です。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
- 2002-09-18
本作は1999年から「週刊ヤングジャンプ」で連載されている井上雄彦の作品。「スラムダンク」の作者本人が描く、車イスバスケをとおした人間ドラマです。
作品の性質上、本作では通常タブー視されがちな障害者を真っ向から扱っています。普段我々が意識しないような特有の問題や葛藤が描かれており、そういった意味においてもタイトルどおりにリアルです。
この物語では人との繋がり、対人関係が非常に重要となっています。
野宮朋美は、高校で打ち込んでいたバスケを辞めざるを得なくなり、荒れた生活を送っていた時、交通事故でひとりの少女を下半身不随にさせてしまい自責の念に駆られています。高校を中退し、被害者である山下夏美の見舞いに足繁く通っていた時、彼女との散歩先で出会ったのが、車イスバスケに興じる戸川清春でした。
戸川は、全国大会にまで進む実力をもった短距離走の選手でしたが、病気のためにリタイア。一時は引きこもりにもなっていましたが、幼馴染みである安積久美の力添えで再び前向きになり、車イスバスケと出会ったことで立ち直りました。
高橋久信は、野宮の元チームメイト。才能を鼻にかけるいけ好かないプレイヤーでしたが、野宮が高校を去った後に事故で下半身不随に。その受け入れがたい現実を直視し、再起して車イスバスケの世界に踏み出したのは野宮の影響でもあります。
まず自分を受け入れ、そして1歩を踏み出すこと、そして誰もが誰かの人生に関わっているというその現実が、車イスバスケを軸にして展開され、単なるスポーツ漫画を越えた心に訴えかける作品となっています。
かつてテコンドーのジュニアチャンピオンだった幡場正巳(ばんばまさみ)。乱闘事件を起こしたことから3年間の出場停止処分を受け、高校入学早々にやる気を持て余していました。クラスメイトの花森真琴は彼をただならぬ逸材と見抜いて、サッカー部へと誘います。
虚勢と勘違いが重なって、サッカー日本代表選手の肩書きで入部テストを受ける幡場。もちろん初プレイのド素人で、メッキはすぐに剥がれてしまいました。ところがテコンドー仕込みの瞬発力で、見事にスーパーゴールを決めてしまうのです……。
- 著者
- 馬上 鷹将
- 出版日
- 2017-04-04
本作は2016年から「週刊少年ジャンプ」で連載されていた馬上鷹将の作品。
主人公の幡場がすでに別ジャンルでの成功者であることがひとつのポイントでしょう。彼は、情熱を注いで頂点までのぼり詰めるほど打ち込んでいた競技があり、それがつまらない私闘で取りあげられ、熱意のやり場を失っていた男です。
この私闘というのも、単なる暴力事件というよりは、テコンドーの個人でチャンピオンになった彼が仲間とともに団体戦最強を目指すも敗退し、それを貶されたために爆発した……という情熱が発露したものでした。幡場は非常に熱いキャラなのです。
武道ひと筋だった彼は、女性耐性がなく、マネージャー志望の真琴に誘われてサッカー部への入部をほいほい快諾。素人そのものですが、テコンドーで鍛え抜かれた足腰と、ゴールチャンスを嗅ぎ付ける嗅覚は天性のものがあり、練習を重ねてメキメキと頭角を現していきます。
本作は残念なことに打ち切りとなってしまいましたが、長期連載となっていれば、タイトルにもなっているプレイが読者を釘付けにしたことでしょう。見る者を惹き付け、試合の流れを変え、選手の人生をも決定付けてしまうほどの「オーレ(見事な)ゴラッソ(超スーパーゴール)」です。
瑞穂高校男子バスケ部は、実績なしの人数不足で廃部の危機にありました。そんなとき、突如転入してきた2年生の哀川和彦は、誰も期待していないバスケ部への入部を希望。惰性で残っていた4人の部員の心に火を付け、男子バスケ部を蘇らせることに成功します。
バスケ部が衰退した原因である暴力事件の禍根や、OBとの確執などの苦難を少しずつ乗り越えて、彼らは目標へと邁進していくのです。
- 著者
- 八神 ひろき
- 出版日
- 1989-12-13
本作は1989年から「月刊少年マガジン」で連載されていた八神ひろきの作品。足かけ26年にわたる本編の連載と、前日譚やスピンオフを含めて2017年1月に堂々完結しました。
有力な登場人物の加入、弱小チームの立て直し、順調な結果に比例するように起こる問題など、少々既視感を覚えるかもしれませんが、これは物語をドラマチックに盛りあげるお約束の要素であって、偶然の符合に過ぎません。というより、もとを正せば本作の方が初出が古いのです。連載が始まった1989年というのは、「スラムダンク」より前なのだから驚きです。
初期の作風はスポーツ漫画というよりは青春学園漫画に近く、部員の恋愛模様や精神的・肉体的成長が全面に押し出されています。これは当時バスケがマイナースポーツだったので、読者にバスケを受け入れる土壌を作るためにされたものではないでしょうか。物語が進むと同時に、どんどん本格的かつ実践的なバスケがくり広げられていきます。
当初たった5人しかいなかった男子バスケ部。いきなりエースとなった哀川のバックボーンはしっかり設定されており、彼は元々バスケの名門校天童寺高校のキャプテンを務めていた逸材でした。少人数ゆえの層の薄さ、選手間の不和が一時内部崩壊を招きかけますが、再結束してより強固な絆で結ばれます。
進級にともなうレギュラーの成長、後輩の加入による選手不足の解消など、最終目標である全国制覇に向けて飛躍する、瑞穂高校男子バスケ部26年の軌跡をぜひご覧ください。
いかがでしたか?「スラムダンク」に負けず劣らずの名作ばかりなので、ぜひ気になったものから読んでみてください。