スタイリッシュな絵と美しい世界観にファンが多いジョージ朝倉。しかし最大の魅力はどこか壊れた登場人物たちでしょう。普通でない彼らの物語は結晶のように繊細で、かつエネルギッシュです。今回はその魅力が恋と綺麗にマッチした物語6作品をご紹介します。
ジョージ朝倉は1974年生まれの漫画家。彼女のペンネームは『科学忍者隊ガッチャマン』のキャラクターの本名からとられたものです。
ジョージ朝倉の魅力は過激で無軌道にも感じられる設定や強い感情を、ハッピーエンドにまとめあげる点です。
彼女の描くキャラクターたちはかなり個性豊か。素直になれなさすぎてこじらせている美男子に、恋を知らないまま20歳を超えた女性、恐ろしさすら感じさせるほど存在感のある美男美女など、一度見たら忘れられない人物ばかりです。
彼らが一見何もないような日常の中で荒ぶり、そして生々しい心理的暴走を見せ、読者を思いもよらぬ方向へ導いていきます。
それもそのはず、ジョージ朝倉は、特殊、もしくは極端といえるような少年少女を描くのが好きだと語っており、その好きという気持ちの熱量が作品にも現れているのです。
しかしそんなクセの強い人物たちの先の見えない物語を、絶妙なバランスでまとめあげるのが彼女のすごさ。重い設定やシーンがあってもハッピーエンドが多いので読んでいて苦しくなりすぎません。
ジョージ朝倉が念頭に置いているのは、大好きな脚本家の「毒にも薬にもならないものを作ったってしょうがない」という言葉。そんな考えが隅々まで発揮されているのが彼女の作品なのです。
「俺たちは殺伐とあるべきなのだ」(『夫婦サファリ』1巻より引用)
新婚旅行中にも関わらず、こんなモノローグから始まる本作。ジョージ朝倉節が炸裂した、ファンにはたまらない、初見の人はもしかすると少し戸惑うかもしれない作品です。
主人公は漫画家の祭田。編集者・丹下の作品をパクったとして彼女から脅迫され、結婚に至った人物です。
しかも彼女が結婚したい理由は相手が好きだから、などではなく、適齢期で子供もほしいからというもの。それで7年間同棲していたヒモ彼氏を捨てたというのですから、恐ろしい決断力です。
- 著者
- ジョージ朝倉
- 出版日
- 2014-07-08
本作は「殺伐とあるべき」な、「愛のない」関係のふたりが、夢のない現実と、ついつい強くなってしまった繋がりの間でせめぎ合いながらも、愛を深めていく物語です。
始まりが愛のない結婚だっただけに、確かに殺伐とした雰囲気も顔を覗かせます。しかし彼らがゆっくりと心を通わせていく様子は、始まりなんてどうでもいい!誰かと愛し合うって素晴らしい!と思わせる力があるのです。
さまざまな現実がとっちらかっていても、とにかく愛があればオールオッケー!という暴力的ともいえる展開を見せる本作。ジョージ朝倉の独特な世界観と、愛という普遍的なテーマが見事にマッチした作品となっています。
夢見がちな女の子の蘭が一目ぼれした相手は、小学校のころに自分をいじめていた右京でした。ふたりは小学校以来の再会を果たし、恋を育んでいき……。
それだけ聞くと王道過ぎる設定だと思われますか?それだけで終わらないのがジョージ朝倉の世界です。
- 著者
- ジョージ 朝倉
- 出版日
- 2013-11-13
小学生の蘭はお姫様願望が強すぎて、自らに王子様にキスしてもらわないと解けない魔法(という設定)をかけて筆談で過ごし、高校生になってもその夢見る強さは衰えず、ロミジュリばりのコテコテな会話台本を執筆するほど。
右京も素直になれない性格をこじらせ、蘭の髪をハサミで切ったり、蘭を「遠くの札束よりも近くの1円玉」と称しながらも、そのあとに「あぁ蘭(中略)君の手段ときたらなんてロマンチック!」と彼女に心で詩を詠むのです。
ギャグ色の強い1巻ですが、2巻からは少しずつシリアスな面が増えていきます。そのふり幅がこの作品の魅力です。
ジョージ朝倉デビュー7年目にして初めての連載作品。彼女の独特なエネルギーの高さや美しい世界観の芽が感じられる作品です。
恋をしていると、自分と感情がまったく別ものに思えることがあります。意識まで上がってこなかった面や心のブレーキがきかないことに驚きますよね。でも日常を過ごしていると、常識とバランスをとるために、傷つかないためにほどほどで押さえてしまうもの。
恋愛漫画を読む醍醐味はその近くて遠い気持ちを味わうためなのではないでしょうか。これはそんな触れるのにためらうような強い気持ちが詰まったストーリー集です。
- 著者
- ジョージ 朝倉
- 出版日
- 2002-05-10
表題作「水蜜桃の夜」は再婚で血のつながらない兄弟になった少年と少女の話です。このような、漫画でよくある設定の話は、その過程でどこまで読者を引き付けられるかが作者の腕の見せ所。
全体に漂う性と暗い雰囲気の湿度が感じられ、まさに果実が滴っているような雰囲気は作者の力量を感じます。そしてその雰囲気の中発せられる言葉がまた強い。
「痛いのは恋愛にはなれないから
それでも強く強くひかれてたから」
(『水蜜桃の夜』より引用)
刺さるような言葉にも注目してほしい、ジョージ朝倉の初期作品です。
手紙は情報量が少ない分、密度の濃いコミュニケーション方法ではないでしょうか。何を書こうか、どう書こうか迷って選んだ言葉は、普通の会話よりも想いだけが届いてくるように感じます。
この作品はそんな手紙にまつわるストーリー集。2014年に映画化、テレビドラマ化された人気作品です。今回はその中から「雪に咲く花」をご紹介いたします。
- 著者
- ジョージ 朝倉
- 出版日
- 2001-03-09
「あたしたぶん消えちゃうけど覚えていて」
(『恋文日和』より引用)
ある雪の降る日、田舎に住む少年龍平に差出人不明の手紙が届きます。雪のように儚いその言葉に、田舎では浮いてしまうほどの美少女千雪を重ね、龍平は彼女に春を待つよう返事を書きます。
「俺に花を見る手伝いをさせてくれないか?」
(『恋文日和』より引用)
この物語は何といっても映像的な美しさが際立った作品です。肌の赤さ、唇の色、暗い川、雪…それらがカラー映像のように見えます。その色が龍平や千雪の感情を際立たせ、とても綺麗。季節の移ろいを肌で感じたような読後感が味わえる作品です。
浮気がバレてから逆らえなくなった彼氏にはついに初めて手をあげられ、浮気相手が自分の噂を流しまくっている職場で働き、観葉植物はすぐ枯らしてしまう…そんな冴えないフリーターの志乃。
仕事をやめてから彼氏にも振られ、全部やりなおしたい、と心機一転引っ越します。隣に住み、偶然バイト先の店長だった京志郎に恋心を感じますが、彼には無愛想で美人な彼女がいて……。
- 著者
- ジョージ朝倉
- 出版日
- 2004-05-08
この物語に出てくる人物たちはどこか俗っぽくだらしない人たち。そしてみんな恋が微妙にうまくいっていません。
学生の時から7年付き合っている彼女がいるバイト先の川谷は、志乃にことあるごとにちょっかいをかけます。京志郎は自分から手は出さないけど、志乃の気持ちには応える、というずるいスタンス。主人公の志乃も流されやすく、だめだめ。
でもそんな志乃が初めて自分で見つけたあきらめられない気持ちは、リアルな日常の些事に囲まれて、そこだけぽっかりと愛しく浮かびます。情けなければ情けないほど心に響いてくる、可愛らしい恋の物語です。
『ピースオブケイク』については<漫画『ピースオブケイク』の魅力を結末まで全巻ネタバレ紹介!面白い!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
9年にわたって「別冊フレンド」に連載されたジョージ朝倉の超大作。映画化されたことでも有名です。
主人公の夏芽は東京でモデルをやっている12歳。父親が家業を継ぐことになり、いまだに神に根付く生活が残る田舎に引っ越します。夏芽はモデルをしている時に感じていた「稲妻が体を貫くような衝撃・熱・閃光」のような何かから遠のくような不安を覚えていました。
そんな時に出会ったのが航一郎。神様が住むため入ってはいけないと言われた海から出てきた彼は、夜の中で発光しているように夏芽には見え、彼こそ自分が求めており、自分だけが手に入れられる光なのだと感じます。
- 著者
- ジョージ 朝倉
- 出版日
- 2005-03-11
この物語は夏芽と航一郎が小学生から高校生と成長していく姿を描いた青春漫画です。青春、と聞いて何を思い浮かべたでしょうか?
本作はよく青春と言われる爽やかなものよりは、学生時代の思い出したくもないような強い自意識を描いたものです。
学生時代、誰しも自分の手に負えない煮詰まった感情や考えに悩んだことがあるのではないでしょうか。この作品を読んでいると、思い込みが激しくてまっすぐすぎたエネルギーがフラッシュバックします。その身近な記憶をひとコマひとコマ鮮やかな画力が後押しした名作です。
以上、ジョージ朝倉の恋愛漫画を6作品上げさせていただきました。彼女は画面の光や色の調節がとても上手。春夏秋冬、明暗が鮮やかに迫ってきます。そしてその絵の中、刺さる言葉に乗せられた感情は読者に肉薄します。ドラマや映画にとどまるのはもったいない!ぜひこの原作でこの世界観を味わってください。