漫画だけでなく、アニメ化や映画化によって時代劇人気を沸騰させた剣劇アクション『るろうに剣心』。日本刀を活かした殺陣は非常にカッコイイものです。今回は迫真の鍔迫り合いに、手に汗握る漫画5作をご紹介しましょう。
日本の江戸時代によく似た世界。武将尾長信影が治める尾長国を、一挙に強国に押しあげた闇の勢力が暗躍していました。それは魑魅魍魎の術を操る異能の者たち、尾長の忍者軍団です。
その忍者たちに、人知れず戦いを挑む男がいました。人ならざる者を滅する、人の身で人を越えた強者、侍です。忍者に強い恨みを抱く主人公の虎之助は、復讐を心に誓って侍となりました。
敵は、数多いる尾長国忍者軍団のすべてです。虎之助が、忍者とその首領、風丸の首を狙って戦い続けます。
- 著者
- 飛田 ニキイチ
- 出版日
- 2016-09-16
本作は2016年からスマホアプリ「マンガワン」、WEBコミックサイト「裏サンデー」で連載されている飛田ニキイチの作品。本作のタイトル『しのびがたき』は、「忍び難い」つまり「(復讐を)我慢できない」という意味と、「仇である忍」というダブルミーニングになっています。
侍、忍者といえば時代劇でおなじみの存在です。それを元にして、ここまで突き抜けた漫画がかつてあったでしょうか。
本作に登場する忍者は、ただの忍者というよりは人間を辞めた人外の妖術使いや、アメコミのスーパーミュータント超人に近い者たちです。ここまでぶっ飛んでいると、そういうものだと納得するしかありません。
それに対するは侍の虎之助。まだギリギリ人間の範疇ですが、武術を極め、忍者に負けず劣らずのスーパーマンです。
虎之助は、尾長国で武術指南役を務めた吉中家の三男。将来を嘱望されていましたが、忍者の卑劣な罠にかかり、彼を残して一族は全滅してしまいました。それを実行した憎き仇が、尾長忍者軍団を束ねる風丸だったのです。
暗い復讐劇で幕をあげた本作は、2巻以降は痛快ジャパニーズアクションとでもいうべきノリへと変化していきます。作者の緻密な筆致による豪快な超人バトルをお楽しみください。
関ヶ原の合戦から4年後、平和が訪れた世の中に、太平楽な薬売りの青年、壬生京四郎がいました。彼は人の良さにつけこまれ、行き倒れを装った賞金稼ぎの椎名ゆやに狙われます。100万両の懸賞金がかかった賞金首と間違われたのです。
2人は近場の人里、浅間村に向かいますが、そこには惨たらしく惨殺された死体が転がっていました。50両の賞金首、蛮頭次(ばんとうじ)兄弟の仕業でした。ゆやに付き合ってなし崩し的に蛮頭次兄弟討伐に参加する京四郎でしたが、凶悪な相手に、案の定2人はピンチに陥ってしまいます。
ゆやの危機に、京四郎の人相が変わっていきます。それこそが、かつて戦場を震撼させた伝説の賞金首「鬼眼の狂」でした。彼は2つの人格を持っていたのです。
- 著者
- 上条 明峰
- 出版日
- 1999-10-13
本作は1999年から「週刊少年マガジン」で連載されていた上条明峰の作品。
分類するなら江戸初期を舞台とする時代劇になりますが、歴史的な整合性はあまり重視されていません。あくまでもエンタメ性が優先されています。人物や物事が現代様式にアレンジされており、歴史上の人物もかなり脚色されていて、時代劇というよりは時代劇風ファンタジーとして楽しんだ方がよいでしょう。
主人格は京四郎なので彼が主人公なのですが、鬼眼の狂も立派な主人公。京四郎は愛と平和をモットーとして、女に甘く、子どもに優しいスケベ青年です。とことがそんな彼が狂に変貌すると、途端に高圧的かつ自己中心的で粗野な男にさま変わりします。とても同一人物とは思えません。
ヒロインのゆやは、賞金稼ぎをしている少女です。武器はなんと、その形状が胡椒挽きに似ていることから「ペッパーボックス」と呼ばれるピストル。彼女が賞金稼ぎをしているのには理由があって、兄の望(のぞむ)を殺害した、背中に十字傷のある男を捜しているのです。
こうして出会った2人はともに旅をし、仲間を増やしていくことになります。その道中で、狂の人格の秘密や、ゆやの兄を殺した人物が判明していきます。そして同時に、日本を裏から操っていた謎の一族の存在も明るみに……もと正せばその一族がすべての発端にあったのです。
果たして彼らは因縁を断ち切り、大本の悪に辿り着くことができるのでしょうか。
時代は江戸の中期。主人公の万次(まんじ)は、不逞の主君を斬った元同心のお尋ね者です。追っ手を返り討ちにし続けて、「100人斬り」と呼ばれています。彼と旧知の仲である尼僧・八百比丘尼(やおびくに)は、仇討ちを決意する少女・浅野凜を万次と引き合わせました。
凜は、目の前で逸刀流を名乗る集団に両親を殺されました。その頭領の名は天津影久。彼女は万次の腕を見込んで、彼を用心棒に雇います。万次も不逞の主君に荷担した罪を償うため、悪党1000人斬りを心に決めていました。
こうして凜と万次による逸刀流、影久打倒の旅が始まったのです。
- 著者
- 沙村 広明
- 出版日
- 1994-09-19
本作は1993年から「月刊アフタヌーン」で連載されていた沙村広明の作品。一見するとただの時代劇のようですが、時代考証を意図的に無視した奇抜な登場人物が多数登場することから、時代劇とは似て非なるものとして「ネオ時代劇」ともいわれます。
本作でひときわ目を奪われるのは、漫画とは思えない精緻で美術絵画のような写実的な絵です。全編にわたる作者の美しいタッチは、言葉の壁を越えて海外でも非常に高い評価を得ています。
もうひとつの見どころは、豪快な剣劇アクションです。単純な形状の日本刀が珍しく思えるほど、多彩な武器による攻防がくり広げられます。敵は奇人変人揃いですが、もっとも特異なのは主人公の万次かもしれません。
また、八百比丘尼、と聞いて日本の伝説に詳しい方はピンと来たのではないでしょうか。八百比丘尼といえば人魚伝説に登場する不死身の尼僧です。本作に登場する八百比丘尼は人魚関係ではありませんが、同じく不死の存在。血仙蟲(けっせんちゅう)という虫によって永遠の命を得ています。彼女の手で万次にも血仙蟲が移植されており、彼もまた不死なのです。
タイトルの『無限の住人』とはつまり、不死身の万次のこと。
万次はその不死性を活かして、思いもよらぬ攻撃で敵を倒していきます。また、倒した敵の武器を奪うという癖があり、どこにしまっているのか無数の隠し武器も携帯しています。どの武器が誰のものだったかチェックをしながら読んでいくのも本作の楽しみ方のひとつです。
凜は万次の亡くなった妹に似ているところがあり、当初2人の関係は兄妹のようでした。それが長く仇討ちの旅を続けるうちに、しだいに変化していくところも注目ポイント。年相応の娘である凜のうぶな反応は、読んでいて微笑ましくなるでしょう。
足かけ20年におよぶネオ時代劇、刮目してご覧ください。
より詳しく『無限の住人』を知りたい方は<原作『無限の住人』5分でわかる6つの魅力!不老不死の隻眼剣士が大立ち回り【全巻ネタバレあり】>をご覧ください。
関ヶ原の戦いに立身出世を夢見て参加したものの破れ、落ち延びた青年、新免武蔵(しんめんたけぞう)。故郷である宮本村に戻った武蔵は、旅をする僧侶、沢庵宗彭(たくあんそうほう)と出会います。
それは、武蔵の生き方を変える運命の出会いでした。剣士だった父、新免の名を捨て、宮本武蔵とあらためて剣の道に生きる決意をするのです。
泰平の世が訪れようとしても、武芸にしか生きられない男たち。数多の武者の人生が交差し、錬磨していきます。彼らは純粋な強さを求めているのです。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
- 1999-03-23
本作は1998年から「週刊モーニング」に連載されている吉川英治原作、井上雄彦作画の作品。
武蔵をはじめとして、登場する多くの武芸者はほとんどが流浪の身です。時代が平和になれば、武の力は必要なくなり、排斥されていくのが必然。ひとつのところに留まるよりは、諸国を巡って腕試しをした方が力が付くというものです。
タイトルの『バガボンド』は放浪者を意味しており、つまるところ流浪の武芸者が主人公であることを表しています。主人公は武蔵だけではなく、彼に劣らぬ有名な剣士、佐々木小次郎もそののひとりです。
武蔵は、伝記や彼の著書、墓所の存在によって実在の人物とされていますが、佐々木小次郎についてはその半生に不明な点が多々あります。本作ではその部分が創作されており、彼は聾唖というハンデを背負った剣士として描かれています。
剣豪、武芸者の鍛錬や戦いをとおして、哲学的な問いかけがくり返される本作。骨太なストーリーに引き込まれるでしょう。作者がこだわって描写する人物は、動作の瞬間を切りとった躍動感のあるものばかりです。飛び散る汗や筋肉の収縮、乱れる呼吸まで感じることができます。
観念的な話を続けることは作者にとっても試練のようで、近頃は連載が途切れがち。願わくば思い残すことなく描ききり、武蔵に人生をまっとうしてもらいたいです。
薩摩藩は江戸幕府より木曽川、長良川、揖斐川の3つの河川の治水を命じられました。後に宝暦治水と呼ばれる治水事業です。薩摩の財政事情は苦しく、藩士は皆困窮していました。幕府の命令とあれば応じなければなりませんが、かかる費用と割かれる人手で藩の弱体化は目に見えています。
逆らっても弱り、従っても弱る状況で、薩摩藩の武士たちがおこなったこととは……。
- 著者
- 平田 弘史
- 出版日
- 2001-06-01
本作は1977から「増刊ヤングコミック」、「週刊漫画ゴラク」などで連載されていた平田弘史の作品です。
今ではあまり想像できませんが、「劇画」というジャンルが漫画と明確に区別されていた時代がありました。1960年代には劇画ブームがあり、本作はそんな劇画ブームの末期に描かれたものです。
物語は史実の「宝暦治水事件」や「薩摩義士」として伝えられる実話を元にしています。治水事業と前後して、薩摩藩の内情や武士たちの生活を淡々と描写した、オムニバス時代劇です。
読者が最初に目にすることになる1話では、いきなり内蔵が飛び出してきます。実戦を意識して、罪人を仮想敵に見立てた「ひえもんとり」の一幕です。ひえもんとは薩摩の言葉で「生臭」という意味。「ひえもんとり」は罪人を殺して腹を割き、1番始めに内蔵を獲った者が勝ちというルールです。
1970年代の劇画だけあって、内容はハードボイルド。ところがそこかしこに、笑いの要素もちりばめられています。薩摩義士という日本史と、劇画という漫画の歴史を同時に感じられる本作。2つの歴史を堪能してみてはいかがでしょうか。
いかがでしたか?刀によるチャンバラに、ひときわ浪漫を感じませんか?それはおそらく、日本人の血がそうさせるのでしょう。今回ご紹介した作品に触れて、もっと浪漫を感じてみてください。