みずほ銀行の前身は富士銀行ですが、さらに前身は安田銀行であったことをご存知ですか?今回は、明治から大正にかけて日本経済界を支え続けた大富豪家にして銀行王・安田善次郎に関する本をご紹介します。
みずほ銀行に損害保険ジャパン、明治安田生命保険、東京建物。これらに共通する要素は何かご存知ですか?実はこれらの企業はすべて、安田善次郎という人物が設立した会社を前身としているのです。
安田善次郎は江戸時代末期から明治時代、大正時代にかけて生きた人物です。富山藩の足軽の子として生まれましたが、下級武士であるその身分も買ったもので、もとは農民でした。当然ながら生活は苦しかったといいます。
しかし、成長してから奉公人として江戸へ出た彼は、その後独立してさまざまな商いをはじめます。商店、銀行、損保会社や生保会社、不動産会社を次々と立ち上げ成功を収めていったのです。その結果、明治時代を代表する大富豪となりました。
現在では「元祖銀行家」として主に知られており日清、日露戦争という二つの戦争に揺れる日本において、経済を支えるために尽力したことでも知られています。また莫大な富を築き、東京大学にある安田講堂や日比谷公会堂などを寄贈しました。
1921年に82歳で亡くなった時、その総資産は2億円だったといわれています。当時の日本の国家予算が15億円ほどだったと考えると、その富豪ぶりは実に桁外れです。
それほどの財を一代で築き上げてしまった安田善次郎。時代が変わり、世の中が変わり、戦争の真っ只中にあって、なぜ彼は無一文から大富豪への大変身をとげられたのでしょうか?
今回は稀代の大富豪であり銀行王・安田善次郎にまつわる本についてご紹介していきたいと思います。
安田善次郎の著書を読みたいと思っても、生きた時代が時代ですから、現代人にその文章を読みこなすのは難しいかもしれません。しかし諦めることはありません。本書では彼が残したビジネスと人生の指南書を、わかりやすい現代語で読むことができます。
では、本書の中で必要とされる「意志の力」とは一体何なのでしょうか?
現代語訳を担当した守屋淳は「他人の動きや、世間の空気などをサクッと無視をして、自分の信じた道を貫き通す、そんな心の強さ」であると読み解いています。そして、現代を生きる人々に欠けているものこそ、この「意志の力」だと指摘するのです。
- 著者
- 安田 善次郎
- 出版日
- 2014-03-26
膨大な情報があまりにも簡単に手に入ってしまうこの時代にあって、虚実混ざったそれらに振り回されずに過ごせる人がどれだけいるでしょうか。また、周りの空気を読んで賢く立ち回ったり、相手が言う前に察して行動したりすることが賞賛される中で、自分の考えのみを貫くことは難しく「一つのことに突き抜けにくくなっている」と訳者はいいます。
そして、そのような現在だからこそ本書を読む意味がある、と指摘するのです。
安田善次郎は本書の冒頭で「ただ真心をもって油断せず、休まず努力すれば、最後には不思議と志をとげられてしまう」と教えています。そして、一度決めた志をあくまで貫き通すことが「大事業をなし遂げて名を残すすべての偉人に共通する特徴」であるといいます。これを実行するための心得が本書にまとめられているのです。
精神論だけでなく自伝的に自らの成功物語について書かれており、そのときの彼の心情や実際の行動を学ぶこともできます。今日においても活用できるビジネス書として申し分ない一冊です。
安田善次郎という人物は、生前から「不可解な人」と称されていたそうです。これには発想の非凡さを指す意味もあり、一方で誤解されていた部分もありました。
銀行家としての顔が有名であった彼は「金貸し」というイメージが強く、世間からの尊敬を集めにくかったのです。また、自らの社会貢献ぶりを誇ったり、公にしたりもしなかったため、「大富豪」という一面ばかりが注目されがちでした。
しかし、「明治期という日本経済が急速に勃興し、二度の対外戦争を経験した激動の時代における国家の土台を支え続けた」人物こそ、安田善次郎だったのです。
- 著者
- 北 康利
- 出版日
- 2013-05-27
安田善次郎は銀行家として、どのように日本を繁栄させていったのかについてまとめたのが本書です。
彼がいかなるときも肝に銘じたのは「陰徳を積め」という父親からの教えでした。陰徳とは、「人に見えないところで善いおこないをすること」をいいます。彼は生涯を通してこれを貫いたのです。
大富豪ながら生活は質素で贅沢をせず、親を大事にしたといいます。明治政府の基盤を支えたのも、戦争資金を調達したのも安田善次郎でした。数多くの破綻した銀行の再建にも手腕を発揮し、融資した銀行や企業は数知れず。東京大学の安田講堂や日比谷公会堂を寄付したことは、今では知られていますが、当時は匿名でなされたものでした。
「ケチの安田」とまで呼ばれることもあった安田善次郎は、実は近代日本の礎を築いた功労者のひとりだったのです。本人があえて表に見せることをしなかったその実像を描き出した内容となっています。
かなり直接的なタイトルの本書ですが、決して「楽して得とれ」といった一攫千金を狙うようなやり方が紹介されているわけではありません。
著者は安田善次郎となっていますが、もともとは菊池暁汀という人物が安田の蓄財法と経営思想を聞き、書きまとめたものなのだそうです。1911年にこうして刊行された『富の活動』はベストセラーとなりました。
その本を、現代でも読みやすいようにわかりやすく改変したのが本書です。
- 著者
- 安田 善次郎
- 出版日
- 2013-02-14
では、大富豪となるためには一体何が必要なのでしょうか?まず第1章の「己に打ち克つ方法」で、「財産を積む方法は実に多い。それでも、勤倹を守り、「積土成山」主義を守ることに勝るものはない」と安田善次郎は教えています。
続いて、収入の2割は貯蓄することや、身の丈にあった生活をすること、出費の管理方法など、生活に根ざした貯蓄法が明らかにされます。さらには仕事で成功し出世するための心得など、かなり実践的で具体的なノウハウが満載です。読めばすぐにでも実生活に取り入れていくことができます。
100年以上も前に刊行された本でありながら、現在でも貯蓄法や仕事術、金融に関する知識などを学ぶにはうってつけの本となっています。若い方や、これからの成功を志している若いビジネスマンには特におすすめです。
著者の由井常彦は明治大学名誉教授で、経済史学者です。安田財閥についての本を著すなど、安田財閥研究の第一人者でもあります。
その由井が安田善次郎に関する戦前の資料、ほぼ手付かずで保存されていた本人直筆の「手控(メモ)」、日記などの膨大な資料をもとにして伝記的にまとめたのが本書です。
「果報は練って待て」とはまるで言葉遊びのようですが、これは安田善次郎の処世訓です。「果報は寝て待て」とよく耳にしますが、何もせずにただ寝ているだけでいい結果が降って湧いてくるわけがありません。運を期待する前にとことん策を練り、やれることはすべてやりつくしておいてから、結果は気長に待つのがよいのだといいます。
- 著者
- 由井 常彦
- 出版日
- 2012-10-22
本書には先に紹介した本にも登場したような、安田善次郎が貧しい暮らしから商人として身を立て、やがて銀行家として大成功し、巨万の富を築くという成功物語が綴られていきます。
しかし、それだけでは終わりません。家族との関係に非常に悩まされていたことや、晩年は戦後の日本経済の混乱を立て直すためにと請われてなかなか引退できなかったこと、後継者に恵まれなかったことなど、彼の裏側まで知れる内容になっているのです。
また、彼は日本の経済人としては初めてテロの対象となり、暗殺されてしまいました。訪ねてきた人には誰でも門戸を開くというポリシーだったそうなのですが、それが仇となり、悪意を持った人を招きいれてしまったのです。事件の顛末についても本書に書かれています。
安田善次郎という人が日本の金融、経済界を発展へと導いていった生涯や、苦悩しながら困難に立ち向かったという知られざる一面を知ることのできる一冊です。
一代で巨万の富を築いたことばかりがクローズアップされがちな安田善次郎ですが、日本社会へ多大なる貢献をしたひとりでもあります。銀行や投資といったシステムを日本に根付かせた立役者です。「ケチ安田」と称される一方でこれぞと思った事業には投資を惜しまず、いくつもの企業の再建を助けたり、地域発展の足がかりとなる事業を成功させたりもしています。
その貢献度を世間に広く知られてこなかった、という点でもとてもめずらしい人物です。ぜひご一読ください。