「主人公と同い年くらいの頃、私はどんなふうに過ごしてたかな」とか「あと数年後には自分にも似たような感情が生まれるのかな」など、読み手の世界を膨らましてくれるような本と出会いました。物語がフィクションでも、現実の自分の思いや考えを嵌め込んでみると、何か新しい発見があるかもしれませんよ。
- 著者
- 湯本 香樹実
- 出版日
- 1997-06-30
以前ホンシェルジュで紹介させていただいた「夏の庭」を読んでから、私はこの作者のファンになりました。今作でも、子どもと大人の何気ない会話や、言葉を交わさないやり取りの一つひとつに愛が溢れていて、読めば読むほど引き込まれました。
主人公は父親を交通事故で亡くした6歳の女の子“千秋”。ある日、母親と2人で大きなポプラの木があるアパートに引っ越します。「父親の突然の死」「引っ越しによる小学校の転校」「仕事で忙しそうな母親」「一人ぼっちの時間」など、慣れない環境で多くの不安や疑問を抱える千秋はしだいに体調を崩し、学校を休んでアパートで過ごすようになります。アパートの大家のおばあさんや住人との関わりを経て、少しずつ自分の居場所や役割りを見つけ、千秋の心を縛っている不安や疑問の紐が解けていく物語です。
幼いながらも大人に気を遣って過ごすのは“子どもらしくない”と言われそうですが、実際私が子どもの頃も大人の言動にすごく敏感だったなぁと思うのです。空気を読むというよりは、顔色を伺うという感じでしょうか。大人になった今、子どもとどんなふうに接したらいいのかな、というところは大家のおばあさんが参考になります。干渉しすぎない短い会話、子どもをその気にさせる方法など、見守り方にもいろいろあるのだなと関心しながら読んでしまいました。
- 著者
- 西 加奈子
- 出版日
- 2011-08-04
32歳OLの主人公がいつも通り仕事をしていたある日、ふとした瞬間に力が抜けて人前で涙をこぼしてしまいます。そんな自分の姿を恥じ、自分でも気づかないうちに蓄積していた“何か”が一気に崩れ落ちたことを感じて、この出来事を機に彼女は会社を辞め、瀬戸内海へ旅に出ます。
数々のコンプレックスを抱きつつ、人とうまく向き合う方法や自ら生み出す負のエネルギーの躱し方を主人公は知っていて、自分を客観視しながら時間をかけて心を整えていく強さが“うつくしい”と思いました。
この物語は<仕事に疲れた30代女性の現実逃避紀行>とあっさり片付けてしまうこともできると思います。読み終えた時「それぐらいの感覚で読むのがちょうどよいのかもしれない」と肩の力が抜けました。“誰かから見る自分”を実は誰もが意識して過ごしているのではないでしょうか。周りの目を気にしないことも必要で、そのバランスを取る作業はとても骨が折れますよね……。“うつくしい人”になりたい三十路手前の私は、まだまだトレーニングが必要です。皆さんにとって理想の“うつくしい人”はどんな人ですか?
- 著者
- 住野 よる
- 出版日
- 2017-04-27
実写化された映画も公開中の今話題の書籍です。ご存知の方も多いと思います。「君の膵臓をたべたい」。膵臓の病であと数年しか生きられない女子高生の口から発せられる言葉には一瞬ギョッとしました。
明るい性格でクラスで人気の女子高生と、クラスでは目立たない理屈っぽい地味な男子高生が、ある一冊の闘病日記をきっかけに秘密(女子高生は病気のことをクラスメイトには秘密にしています)を共有して繋がりを持ち、時間をかけて関係を深めていきます。「どうして2人は急に仲良くなったの?」と友人に疑問に思われたり、急接近したがために恋人だと誤解されたりもします。けれど、2人は恋人関係には達しない付かず離れずの距離で互いの違いに憧れ、尊重し合い、言動はいつもどこか大人びていて……。
今こうして物語を振り返るだけで鳥肌が立つほど“青春”の二文字では言い表せない儚さ、そして眩しさがあります。皆さんは自分が高校生の頃、こんな気持ちになったことはあったでしょうか? 性別も年齢も問わず、人と人との関係がこのくらい純粋であればよいのにと、社会人になった今より強く思います。映画の方も興味があるので観に行きたいと思っています。私はこの本が好きです。
本と音楽
バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。