歴史にホラーにファンタジーなど、さまざまな要素が楽しめる漫画『ベルサイユオブザデッド』。この記事では物語に散りばめられたたくさんの謎と魅力についてひとつずつご紹介していきます。
- 著者
- スエカネ クミコ
- 出版日
- 2017-01-12
嫁ぐためにオーストリアからフランスに移動していた際、突然マリー=アントワネットがゾンビに襲われて……という衝撃的な始まりの本作。中心人物となるマリー=アントワネットの弟は、姉の衣装をまとって逃げてきたため、マリーとしてなりすますことになってしまいます。
物語は史実にもとづいているわけではありませんが、歴史上に実在した人物がキャラクターとして登場していきます。
ゾンビが登場する歴史ものという設定の上、弟が姉になりすまして復讐心を燃やしていくサスペンス、という様々な要素が織りまぜられたストーリー。絵が非常に綺麗で、フランスという舞台にあった雰囲気があります。
作者のスエカネ クミコは、世界中の偉人のクローンが登場する漫画『放課後のカリスマ』も描いており、歴史を題材に作品を描くことに長けた作家です。『ベルサイユオブザデッド』を描く前には、フランス取材に行っているほど。
歴史を織りまぜながら描かれる衝撃サスペンス、ぜひ楽しんでみてくださいね。
この記事では、そんな本作のたくさんの秘密を含んだ魅力についてご紹介しましょう。
フランスの皇太子オーギュスト(後のルイ16世)と結婚するマリー=アントワネットは、自分と瓜二つの弟アルベールを連れ、故郷オーストリアからフランスへと渡っていました。すると突然何かにぶつかったような衝撃を受けて、2人が乗った馬車が横転します。
ひっくり返った馬車の中、外が静かになるとアルベールは馬車を出て周囲の様子を確認しまが、彼の目に映ったのは馬車を囲むゾンビの群れだったのです。突如現れた化け物たちを前に成すすべもなく、2人は襲われてしまうのでした。
その後、粗末な馬車がベルサイユの宮廷に駆け込んできます。駆け寄った傭兵のバスティアンは、手綱を握る傷だらけの女性の顔を見てマリー=アントワネットだと気づきました。襲って来たゾンビの群れから、1人で逃れてきたというのです。
ゾンビの群れに心当たりのある宮廷側は、命からがら逃げてきた花嫁を保護しますが、その人は本物のマリー=アントワネットではありません。窮地を脱し、姉のドレスを身にまとって宮廷に駆け込んできたのは、弟のアルベールだったのでした。
馬車を囲んでいたゾンビたちを押しのけ、アルベールは馬車から脱出します。しかし慌てていたせいで、馬車に置き去りにしてしまった姉のことは助けられなかったのです。彼女はアルベールの名前を小さく呼びながらゾンビに埋め尽くされてしまいました。
馭者(ぎょしゃ)も護衛もひとり残らず無残に殺されています。残されたアルベールも必死に逃げますが、湧いて出てくるゾンビたちについに捕まってしまいます。しかし、彼はその後生きてベルサイユ宮殿にたどり着いたのでした。血や土に汚れてはいるものの、目立った傷はないようです。
どう考えても逃れられない絶体絶命の窮地を、アルベールはどうやって切り抜けてきたというのでしょうか。何か特別な力でも使わない限り助かる方法は無さそうでしたが、その秘密の真相を感じさせるこんなシーンがあります。
ズタズタに引き裂かれて動かなくなったゾンビたちの真ん中で、剣を握ったままアルベールは倒れていました。その側の木に一羽のミミズクが降り立った時、どこからともなく声が聞こえてきます。
「己の半身を見殺しにした気分はどうだ?」「少しは自由を楽しめたか?」と語りかけるその声にアルベールは意味深長な笑みを浮かべます。すると声の主は「お前のような人間が死ぬのはつまらない」と言って、一本の羽を彼の側に添えたのでした。
「半身」とはおそらく姉マリーのことです。アルベールは確かに、幼少の頃から自分をいじめ、今回も「身代わりにできるから」という理由で自分までフランスに連れてきた姉を好きそうではありませんでしたが、見捨てるほどに険悪な様子でもありませんでした。
また、そのマリーを失った後自分が彼女に扮してベルサイユに向かったという行動の真意もはっきりとはわかりません。わざわざ姉を装わず、弟として保護してもらうこともできたでしょう。 オーギュストとマリーの結婚はフランスとオーストリアの同盟を意味する重要な婚姻であり、それをめちゃくちゃにしてしまわないために身代わりとなったと本人は語りますが、先ほどの含み笑いからするとそのような愛国心も疑わしいものです。
この物語の主人公にして最も多くの謎を抱えた青年アルベールが、今後の物語でどのような行動を取るのかが気になります。
マリー=アントワネットとして宮廷にたどり着いたアルベールでしたが、身の安全が約束されたわけではありませんでした。マリーの命を狙う黒幕は、ベルサイユ宮殿内にいたのです。
デュ・バリーはルイ15世の愛妾。国王のお気に入りとして宮廷内では我が物顔で過ごしていますが、もとの身分が高くないため地位は不安定です。そんな彼女はルイ15世がマリー=アントワネットのことを楽しみにしているのが気に入らず、また自分への興味をなくされることで立場が揺らぐのを恐れていました。
そこで彼女が企てたのが、マリーの暗殺です。ドミニクとアンジェロという手下をマリーの寝室に忍び込ませ、眠っているところを殺させようとします。しかし彼女はマリーとアルベールが入れ替わっていることを知りません。もちろんドミニクもアンジェロもそのことを知らないまま、アルベールが眠るベッドにナイフを突き刺したのでした。
ここでのアルベールの様子が衝撃的です。片手でシャンデリアに捕まり、まるで天井に足をつけているかのような姿で刺客の2人を見下ろしていたのです。静かに床に降り立つと、刺客に向けて放った斬撃のような一撃で大きなベッドを破壊します。この時のアルベールの様子は、人間と思えるものではありませんでした。
まず、ドミニクとアンジェロにいくつかの気になる点があります。どうやら最初に馬車を襲ったゾンビの群れは、この2人が仕掛けたもののようなのです。またアルベールを暗殺しにきた時、2人の頭の後ろのあたりには天使の光輪を思わせる歪な輪が浮かび上がっていたのでした。
対するアルベールは真っ黒なオーラで体を包み、光る目と大きな口は悪魔を想像させます。また、その後再び現れたゾンビに対する強さとあまりの強さと凶暴性から「悪魔に取り憑かれている」という者まで現れます。 確かにゾンビから逃れて来た事実や人間離れした身のこなしも悪魔の仕業ならば頷けますが、だとしたら彼はいつから悪魔に取り憑かれ、何のためにベルサイユに来たのでしょうか?
複雑に絡まる抗争の様子は要チェックです。
ある日、ルイ15世から「秘密の宝」を託されたオーギュストは、たくさんの鍵を手にある場所へと向かいます。彼が向かった先にいたのは、水の中で眠る女性です。その美しい女性をうっとりと眺めると、目覚める日を待ち遠しく思うのでした。
ルイ15世は、体調を悪くして寝込んでしまったのです。もう長くはないとも噂される彼の容体に、もっとも焦るのはデュ=バリー。ルイ15世を失えば彼女は宮廷にいられる理由を失ってしまいます。彼女は病床のルイ15世に「あなたとしたいことが、まだたくさんある」「あなたの宝物だって、まだ見せてもらっていない」とすがるのでした。
フランス国王が代々受け継ぐこの「宝物」は、本作のもっとも大きな謎です。バリーがドミニクとアンジェロと手を組んでいるのも、どうやらこの宝物が関係しているようなのです。
宝物とは、水の中で眠るその美しい女性のことなか、それとも別の何かなのか。どうやら宝物の秘密を暴くということは、フランス王国に眠る秘密を暴くことにも繋がりそうです。 物語の鍵を握るたくさんの秘密について、どんどん明かされていくこととなる展開に期待が高まります!
2巻ではゾンビたちが貴族の館を中心に出没すること、宝飾品が消えることが判明しています。その途中でジェラールは不死者に意思はあるのかという疑問が浮かばせます。この謎とゾンビの意思にまつわる関係は今後ストーリー上何か意味を持ってきそうですね。
その頃、大きなマントで口元を隠しながら長髪をリボンで結んだ人物がゾンビたちに襲われたあとの館の蔵に入り込み、何かを探しています。どうやら彼が一連の宝飾品を奪っている人物のよう。狙っているのは、襲われた館の娘が「ずっと昔に王様から貰った」と言っていたものでした。
- 著者
- スエカネ クミコ
- 出版日
- 2018-01-12
その後彼は一度死んだゾンビたちを生き返らせるすべを持っているらしく、単独犯ではなくカリオストロ、ナポレオン、マクシミリアンという3人組であることが判明します。
しかも彼らの犯行には殿下も関わっているらしく、彼らと同じく、ある宝石を一心不乱に集めています。殿下は「これは陛下のためなのだ「我がフランスには救世主が必要なのだ!!!」と要領を得ないことを言うのです。
一方ルイ15世はついにデュ・バリーに「宝物」を見せてしまいます。それはカリオストロたちが盗んでいた宝石で……。
謎の宝石に、そこに関わる人間関係が複雑化してきました。一連の騒動が王国にまつわるものであるのは確かですが、その真実、それにまつわる人間それぞれの思惑から目が離せません。
詳しい内容、その後の展開、アントワネットの恐ろしい戦いぶりなどは2巻でお確かめください。
- 著者
- スエカネ クミコ
- 出版日
- 2017-01-12
歴史、ホラー、天使と悪魔など、多様な要素を詰め込み、革命以前のフランスを舞台としたスリル満点の物語を描く『ベルサイユオブザデッド』。姉のマリー=アントワネットの身代わりとしてフランスの王妃となった弟アルベールが、フランス国内に湧き出るゾンビたちを操る黒幕と激突する展開に手に汗握ります。
ぜひそんな本作の魅力を作品でご覧になってみてはいかがでしょうか?
はっきりとした見やすい絵柄で描かれる煌びやかなベルサイユの風景が美しい本作。ホラー的な場面でも、戦いのシーンでも、どことない気品が漂います。ぜひ、実際に手にとって物語を楽しまれてください。
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