『BANANA FISH』は80年代のニューヨークを舞台に、異なるバックグラウンドを持つ2人の少年の絆を描いたドラマです。ストイックな作風で老若男女を虜にした少女漫画史上屈指の名作といわれています。 この記事では2018年7月5日からアニメ化される名作のあらすじ、登場人物の名言、最終回のその後の物語「光の庭」までを徹底紹介!ネタバレを含むので、ご注意ください。
『BANANA FISH』は1985年からおよそ10年間にわたって「別冊少女コミック」に連載された、吉田秋生の代表作。80年代のニューヨークを舞台に、抜群の美貌をもつアメリカ人の不良少年と、ごく普通の日本人青年が築く絆を軸にして、麻薬をめぐるマフィアと国家の陰謀劇を描いた骨太の物語です。
連載当時から掲載誌のなかでも異彩を放っており、ターゲット層である女子中高生だけでなく、男性読者の支持も得て幅広いファン層を虜にしました。
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
著者の吉田秋生は、本作の他、等身大の昭和の高校生の日常を綴った『河よりも長くゆるやかに』や『櫻の園』、本作と関連の深いサイキックアクション『YASHA-夜叉-』や『イヴの眠り』、アメリカ人の青年たちの懊悩に焦点を当てた『カリフォルニア物語』、鎌倉を舞台にした『ラヴァーズ・キス』や『海街diary』など、佳作が多いことで知られる人気作家です。映像化、舞台化される作品も少なくありません。
本作は吉田の活動40周年記念企画の一環として、2018年にフジテレビ系列ノイタミナ枠でアニメ化されることになりました。作品を未読の方はもちろんのこと、以前読んだことがある方も、ぜひこの機会に全19巻(文庫版は全11巻、「アナザーストーリー」を含めると全12巻)に目をとおしておきましょう。ちなみに復刻版もあるので、ファンの方はそちらもぜひご覧ください。
この記事では主な登場人物の紹介に焦点を置き、数ある名言のなかから印象に残るものとその場面を、ネタバレをしながらご紹介します。
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- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
- 1996-12-01
『BANANA FISH』は、ニューヨークの地下鉄が落書きだらけで不良少年たちの勢力が強かった20世紀末、マンハッタンを舞台にしてアメリカ人と日本人の青年が出会い、友情を育む物語です。
イタリアンマフィアにチャイニーズマフィア、不良グループ同士の抗争、ベトナム戦争と麻薬、さらに政府と軍隊を巻き込んだ国家規模の陰謀……と、アクション映画のような派手な装置のうえで物語は展開していきます。
しかし枝葉を取り払ってしまえば、ひとり繊細な少年が極限状態で出会った、心安らぐ友との愛情物語なのです。
さらにリアルタッチな画風が、硬派なストーリーを引き立てています。画面構成も巧みで、話している人物の瞬きの音まで聞こえそうなアップから全体を見わたす引きの画まで、映画の場面転換のようにスムーズにおこなわれるおかげで、ページを繰る手を止めることができません。
まさに麻薬のような本なのです。
アッシュ・リンクスは17歳、ニューヨークのダウンタウンを拠点にした不良少年グループのリーダーです。兄のグリフィンはベトナム戦争帰還兵で精神を病んでおり、アッシュは彼がうわ言のようにつぶやく「バナナフィッシュ」という言葉の謎を追い、密かに情報を集めていました。
ある日、自分の配下の少年たちが男性の命を奪おうとしている場面に遭遇し、瀕死の男性から小さなロケットと「バナナフィッシュに会え」という謎の伝言を託されたのです。
さて、いきなりオチのネタバレで恐縮ですが、『BANANA FISH』はハッピーエンドの物語です。なぜならアッシュが亡くなる瞬間、彼はきっと幸福感で満たされていたはずだから。
「もうこれ以上はないくらい——オレは幸福でたまらないんだ」(『BANANA FISH』12巻より引用)
このセリフは物語が終盤に差し掛かり、心を許せる大切な友人である奥村英二の身の安全と引き換えに、これまで手に入れた「バナナフィッシュ」に関するすべての情報と自身の自由を敵方に差し出す取引に応じた彼が放ったものです。
アッシュに向かって、敵方の陣営についていた彼の師匠のブランカが、翻意を促した時の会話の一部なのですが、本作の真髄だと言っても差し支えないほど端的にアッシュの気持ちを表しています。
彼は、英二と出会えて本当に幸福だったのです。何の見返りも求めずにただ自分のことを案じてくれる存在に出会えたことが、彼の殺伐とした人生にどれほどの潤いを与えたことでしょうか。
アメリカ人は金髪碧眼の美貌の持ち主を揶揄して「頭空っぽ」とこき下ろすことがあります。うらやましさの裏返しなのでしょう。アッシュは金髪で緑の瞳をもっていますが、この定型文に当てはまらない、天才的な頭脳の持ち主です。
IQテストを受ければ180以上、ずば抜けた記憶力と洞察力で、わずかな情報から的確に問題の答えを導き出します。そのうえ戦闘に関しては、持ち前のセンスに加え、射撃も武術も一流の教師に手ほどきを受け、並みの軍人でも歯が立たないほどの能力を持っています。
さまざまな人間がいろいろな思惑を持って彼に近づいてくるなかで、英二だけは何も彼から奪おうとしませんでした。彼の美しい肢体を自由にしようとも、彼の知性を利用しようとも、彼を武器の代わりにしようとも思わず、彼を恐れることもなかったのです。
ただ対等に、一緒に時を過ごす……そのことが、たったそれだけのことが、どれほどこの少年のささくれた心を満たしてくれたのか、私たち読者は想像するしかありません。
アッシュの本名はアスラン・ジェイド・カーレンリースといいます。ファーストネームのアスランは古代ヘブライ語の祈りの言葉で「暁」を意味し、ミドルネームのジェイドは瞳の色からとったもの。病弱だった彼の母が名付けたそうですが、彼の名前が光をもたらす夜明けを意味していることに、作者が込めた祈りを感じることができるでしょう。
さて、アッシュの端正な顔立ちは、俳優の故リヴァー・フェニックスであることが広く知られています。若干23歳で他界した彼は、実写版を作るならアッシュ役は彼しかない!と作者も太鼓判を押すほどでしたが、残念なことに本作の連載終了間際に亡くなってしまい、その願いは永久に叶わなくなってしまいました。
アニメ作品では内田雄馬が声優を務めます。
奥村英二は19歳になる日本人大学生。有望な高跳びの選手として特待生枠で大学に進学したものの、スランプに陥ってしまい、競技生活に支障をきたすようになりました。そんな彼を心配し、知人のカメラマンが気分転換にアメリカへ連れ出したことが、彼とアッシュの運命の歯車を大きく動かしたのです。
モデルとなった野村宏伸は180cmの長身で、くりっとした大きな目と太めの眉毛が特徴的ですが、英二は顔のパーツだけ彼からもらったようで、そこまで背の高い設定ではなさそうです。
アッシュに会うまで英二は、たむろする目つきの悪い不良少年たちに気後れしていたのに、アッシュ本人には不思議と恐怖感を覚えなかった様子。初対面なのに腰の拳銃を見せてくれなどと無謀なことを頼んでしまいます。
あまりにも無邪気すぎるリクエストだったせいか、アッシュはちょっと面白がるような目つきをして英二に拳銃を触らせますが、アメリカで生まれ育った人間ならまずしないだろうリクエストに、読んでるこちらもヒヤヒヤしてしまいます。
この底抜けに無害なところが、英二の魅力なのかもしれません。彼が怒り狂っている時も、5歳も年下のチャイニーズ系不良グループのリーダー、シン・スウ・リンに「ちっとも怖くない……」と苦笑されていました。
初対面からアッシュに対して警戒心を抱かなかった英二ですが、彼の本質はかなり的確に見抜いています。超人的に高い能力を持つゆえに孤独な立場にいるアッシュを理解しようと寄り添う英二は、他の誰とも違い、アッシュから何も奪おうとしません。
「世界中が君の敵に回っても僕は君の味方だってことさ」(『BANANA FISH』7巻より引用)
ただ対等に相手を受け入れる、ということはシンプルなアイディアですが、実行するのは簡単ではありません。それをさらりとやってのける英二もまた、アッシュとは別の魅力で静かに人を惹きつけ、愛される存在なのです。
ただ、アッシュの個性が強すぎ、日常が危険に満ち満ちていたために、そばにいることは簡単ではありませんでした。終盤、英二はアッシュの眼の前で刺客に腹部を撃たれ、重傷を負ってしまうのです。
その後すべての決着がつき、負傷した英二はアッシュへの手紙をシンに託します。その手紙はアッシュの心を強く揺さぶり、隙を与え、彼の息の根を止めるきっかけとなってしまったのは残酷なようですが、結果的に彼を穏やかに包み込んで眠らせたのは、英二の言葉だったのかもしれません。
アニメ作品では野島健児が声優を務めます。
ショーター・ウォンは、チャイナタウンを根城にするチャイニーズ系不良少年グループのかつてのリーダー。アッシュとは少年院で出会い、友好関係を築いています。
本編初登場時はモヒカン、2度目はつけひげ、しまいにはつるりと剃り上げてしまった彼。ツルツル頭にサングラスとくれば、モデルは言わずと知れたサンプラザ中野くんです。本編より2年ほど遡った番外編でもツルツル頭なので、もともとさっぱりした髪型が好みなのかもしれません。
気のいい男ですが、そこを李一族につけこまれて、アッシュを裏切る羽目になったうえ、「バナナフィッシュ」の実験台にされて殺されてしまう悲劇の人です。
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
- 1997-11-01
本編ではその人柄があまり掘り下げられませんでしたが、番外編は彼の視点から描かれており、アッシュとの出会いから打ち解けるまでの過程が彼の言葉で語られています。
「人の気持ちをもてあそぶな!!人の心を操ろうとするな!そんなことをすれば——おまえは本当の悪魔になってしまう!!」(『BANANA FISH ANOTHER STORY』より引用)
若干15歳にして、魔性を発揮するアッシュに正面から向き合い、人としてやってはいけないことを教えてくれる貴重な存在でした。そんな彼の言葉だからこそ、アッシュの心にちゃんと届き、2人は本音で話ができる仲になれたのです。
シン・スウ・リンは、ショーター亡き後のグループを引き継いだ若いリーダーです。彼はショーターの死の真実を知るまでしばらくアッシュに反発しますが、彼との格の違いに気づき、憧れ、ともに歩もうとします。
「ほんっとにボスになんかなるんじゃなかったなあ」(『BANANA FISH』17巻より引用)
そんな彼を面白く思わない異母兄のラオ・イェン・タイは反目し、しまいには決定的に道を違えるのですが、このセリフはその時、シンが涙をこぼしながらつぶやいたひと言です。
彼は仲間のとった行動に責任を取ろうと、アッシュに事態の収拾がついたら1対1で決闘してほしいと申し出ました。李一族の末弟・月龍の命令に従った仲間が、英二を狙撃し重傷を負わせてしまったことと、それに激怒したアッシュが狙撃した2人を殺してしまったことの始末をつけるためです。
「ボスになんなきゃよかったと思ったことがあるか」
「しょっちゅうさ」(『BANANA FISH』文庫10巻より引用)
ボスであることに迷いのあったシンがアッシュに尋ねると、彼は即答しました。
ちなみにシンは本作の荒波を泳ぎきり、後に発表された『YASHA-夜叉-』や『イヴの眠り』など別の作品でもその成長した姿を垣間見ることができます。
ブランカはロシア出身の元KGB特殊工作員。本名はセルゲイ・ヴァリシコフです。アッシュの師匠でもあり、本作に登場する男性陣のなかで戦闘能力の高さを競ったら、間違いなく1位になるでしょう。
しなやかに鍛えあげた長身ですらりとスーツを着こなす伊達男ですが、そんな彼がアッシュを理解しようといい加減なプリントTシャツとジーンズに身を包んでダウンタウンに潜り込んだことがありました。
「ん?似合わねーか?」(『BANANA FISH ANOTHER STORY』より引用)
本当に似合わな過ぎてアッシュにケラケラ笑われてしまったほどです。
裏稼業から足を洗い、カリブ海で隠居生活を送っているところマフィアのボスであるゴルツィネに脅され、呼び出される形でアメリカに戻ってきました。過去の所業と完全に切り離した生活を送ることなどできないことがわかります。
アッシュと初めて出会ったとき、荒んでいる彼を見て、裏社会でしか生きられない子だと見定めたブランカの目は正しかったわけですが、達観して若い世代を導き守ることのできる実力を身につけるまで、どんな人生を歩んできたのかが気になります。
ディノ・ゴルツィネは、表向きはコルシカ島出身者で構成する財団の理事を務めるビジネスパーソン、その実態は少年を対象とした男色を嗜むコルシカ・マフィアの首領です。自身が経営するシーフードレストランに客を招き、少年たちに相手させている写真を撮って脅迫に使うという、えげつない手法で政財界を牛耳ろうとしていました。
また、米国の政府高官とタッグを組みんで「バナナフィッシュ」を利用して世界規模の戦争をコントロールしようと企む諸悪の根源です。
財力と権力を駆使してアッシュを追い詰める彼ですが、視点を変えればなりふり構わずおもちゃに執着している子供のようにも見えます。実際他の誰かにさらわれるなら、自分の手で壊すという発言をしたことありました。
「…ではわたしも帰国する時はヨーロッパから腕のいい剥製職人を連れてこよう」(『BANANA FISH』7巻より引用)
このセリフは、アッシュの見事な情報戦略によって失脚し、アメリカを離れなければならなくなった当日、空港のファーストクラスラウンジに現れたアッシュ対して放った言葉です。この決着がついたら、彼の剥製を作って寝室に飾ると、額に青筋をたてて唸りました。
アッシュは悪趣味だ、と鼻で笑って済ませましたが、この他にも「最低の男娼として働かせてやる」などとにかく脅し文句がえげつないのです。
オペラやクラシックコンサートを嗜む上流階級の趣味人のように振る舞っていますが、その人間性は褒められたものではありません。
アニメ作品では石塚運昇が声優を務めます。
李月龍(リー・ユエルン)は中国に進出した華僑のリーダーである李一族の7番目の子息ですが、彼の父が亡くなった折に異母兄たちに母を奪われ、一族に深い恨みを抱えています。薬物や毒物への造詣が深く、暗殺者としての技術も身につけています。英語名は「ユーシス」です。
中国の古い血筋の家にありがちな、独特の倫理観に縛られた、ある意味気の毒な運命を背負った青年ですが、英二やアッシュに対して素直に振る舞えない残念なところがあり、彼を嫌う読者も少なくありません。しかし、自分の魅力を正確に把握し、自らを過大評価しない点ではかなり目端の利く人ではあります。
シンはそんな意地っ張りな彼を放っておけないようで、決定的な仲違いをすることなく、作品終了後も良き友人でいるようです。
月龍もアッシュに憧れ、彼の心を捉えて離さない英二を憎み、引き離そうと試みます。
「プライドってもんがないのか君は!!」(『BANANA FISH』12巻より引用)
このセリフも、「英二を傷つけたくなければこの拳銃で頭をブチ抜け」とアッシュに拳銃を渡したところ、彼があっさり自分のこめかみに銃を突きつけて引き金を引いたことに驚いて口をつきました。
案の定アッシュ本人に「何言ってんだ、お前がやれって言ったんじゃないか」と不思議そうに聞き返されてしまいます。この2人の噛み合わなさ加減が端的に現れたシーンですね。
ブランカからは「アッシュにはわからないんですよ」と慰められましたが、回りくどい言い方しかできない月龍が気の毒でなりません。
マックス・ロボはニューヨーク在住のフリージャーナリスト。本名はマックス・グレンリードです。ロボは『シートン動物記』の狼王になぞらえたペンネームだそうですが、どちらかといえば体格からして灰色熊のほうがイメージに近いかもしれません。
アッシュに言わせると、戦争など重いテーマのお堅いルポルタージュより、軽い切り口のコラムを書かせたほうが面白いそうですが、実際は社会派の記者。うっかり刑務所からの登場となり、アッシュと出会うのも塀の中でした。
アッシュに煽られて大人気なく振る舞うことも多いのですが、彼もまた、本作の良心のひとり。アッシュを理解し、支え、導いてくれる大人です。
小芝居として親子を演じることがあり、作中でも何度も「父さん」「息子よ」と冗談で呼び合うシーンがありますが、マックスが老け顔なので第三者から見ると違和感がない様子です。実際には15も離れてないでしょうから、アッシュの少年らしい潔癖さや無謀さも理解しやすかったのかもしれません。
「早く行け…行っておまえの大切な友達を救え」(『BANANA FISH』13巻より引用)
これは、アッシュが月龍とゴルツィネにはめられて取引に応じなければならなくなってしまい、彼の元にあった資料を引き取りに来た時に言ったセリフ。
アッシュは詳しく説明していないのに、マックスはすべてを察して資料を引き渡しました。彼の素っ気ないほど簡潔な言葉が、罪悪感にためらうアッシュの背中を押します。
アニメ作品では平田広明が声優を務めます。
ジェシカ・ランディはロサンゼルス在住の雑誌編集者。プレイボーイ誌の身も蓋もないコーナーのモデル出身で、当時カメラマン助手だったマックスと知り合い結婚しました。男児を設けますが、その後離婚しています。
その訴訟の決着つかないうちに事件に巻き込まれ、マックスの元妻として、また一マスコミ人として活躍し、「バナナフィッシュ」を取り巻く陰謀を明るみに引き出すことに成功しました。
シングルワーキングマザーとして男性と渡りあってバリバリ仕事をし、狙撃の練習も欠かさず、おしゃれもバッチリと隙のない女性ですが、弱点を挙げるなら好奇心と気の強さでしょうか。それが災いして、避けられた戦場に飛び込んでしまうのですから。ただこの事件をきっかけにマックスと復縁することになったので、結局は良かったのかもしれません。
フレデリック・オーサーは、アッシュのグループのメンバーでありながら、彼を追い落としてボスの座につこうとする上昇志向の高い人物です。
前半の嫌われ役筆頭はこの人と言っても過言ではないでしょう。縄張り争いをマフィアに利用されて、アッシュを窮地に追い込んでいきます。彼もまた、アッシュに強烈に惹きつけられ、手玉に取れないなら壊してしまおうとした結果、力不足により命を落とした人物です。サシで勝負、という決闘に仲間を呼び込む卑怯っぷりは清々しいほど。
鷲鼻の鋭い顔立ちと、タテガミのように立たせた攻撃的なヘアスタイルは、往年のスティングがモデルと言われれば納得です。
ラオ・イェン・タイはシンの異母兄にあたります。ずばり、嫌われ者ナンバーワン。ショーターをアッシュに殺された恨みを延々引きずった挙句、アッシュと刺し違えるという暴挙に出た彼を許せる菩薩のような読者はいるのでしょうか。
作者自らも、連載終了時のエッセイ漫画で彼を指し、「こいつさんざんな言われよう」とバッサリでした。
「こいつにとっちゃあの日本人以外人間じゃねえんだよ!!」(『BANANA FISH』17巻より引用)
この憎まれ口も、アッシュに指を突きつけながら放ったひと言。しかし実際アッシュにとっては英二だけが特別だったので、この発言はある意味真実をついています。
ジェンキンズはニューヨーク市警・刑事課の警部です。少年課とも連携し、不良少年たちのいざこざに頭を悩ませながらマンハッタンの治安維持に努めています。
糖尿病持ちなのに甘いものが大好きで、部下のチャーリーからいつもちくちく小言を言われてしまう、どこか憎めないおじさま。少年たちが無茶をしないよう、まるで教育者のような眼差しで見守り、導こうとしてくれる暖かい正義の人です。
「加害者と被害者は紙一重か…やりきれんな」(『BANANA FISH』9巻より引用)
彼のつぶやいたこのひと言は、アッシュが性的暴行の被害者である一方、殺人や暴行をくり返しているという事実を彼自身受け止めるために、思わずぼやいてしまった、といったところでしょうか。
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
- 1997-05-01
実は、最終19巻(文庫版は11巻)には、ほとんど本編はありません。アッシュ亡き後、それぞれがどうなっているのか、その後が描かれています。
その舞台は7年後。カメラマンとしてある程度の成功を収めたものの、アッシュの死の引き金になったであろう自分が書いた手紙のことを今でも悔いている英二。彼の写真を見ないようにしまいこんでいる姿には、今も傷が癒えていないことが感じ取れます。
しかし、英二はアッシュの名前に隠されたある意味を知り、それをきっかけに自分も前に進まなくてはいけないと決意するのです。
ラストシーンのそれを象徴する1枚の写真は、本作のファンなら、そして多くのアッシュファンなら泣かずにはいられないもの。ぜひ、物語のその後までお見逃しなく。
『BANANA FISH』は連載当時、現代物語として描かれたコミックでした。しかし連載が終了して20年以上が経過した今読んでも、まるで錆び付いた感じがしません。まさに不朽の名作という呼び名が相応しい作品です。
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