2013年にマンガ大賞に選出され、2015年には映画化された『海街diary』。この人が描くほかの漫画を読んでみたい!と思ったそんな皆さんのために、今回『海街diary』以外の吉田秋生の漫画作品をランキング方式で紹介していきます。
1985年から1986年にかけて『LaLa』で連載されていた、全1巻の作品です。1990年、2008年には映画化もされています。
数百本の桜が取り囲む桜華学園の演劇部は、春の創立祭にチェーホフの「桜の園」を演じることが伝統になっています。演劇部の女子高校生たちが思春期の揺れ動く心情と葛藤を通し、演劇と友情を紡いでいく青春物語です。
本作の特徴は、日常の何気ない一コマを感性豊かに描写しているところです。他愛ない会話の中に、少女達の心理模様が細かく盛り込まれています。友人のことを本当はよく思っていなかった、というようなマイナスな本音も躊躇いながら零していくシーンは、読者の共感を呼ぶことでしょう。
- 著者
- 吉田秋生
- 出版日
- 2013-09-05
また、本作はオムニバス形式を取っており、「花冷え」「花紅」「花酔い」「花嵐」の4章で構成されています。女子高生という、大人の女性の一歩手前の位置にいる時期特有の、一筋縄ではいかない揺れ惑う乙女心が描かれています。
そういった心理の一つとして、男女の性差が取り上げられています。登場人物たちは、「変わりたくない」「男の子になりたい」と考えながらも成長してしまう自身の身体に嫌悪感を抱いたり、彼氏とセックスすることで以前までの純粋な恋心だけの関係に戻れなくなってしまうのではないかと怖気づいたりするのです。
丁寧に描かれる思春期特有の息苦しさや葛藤に、私たち読者は過ぎ去ったあの頃を重ね合わさずにはいられません。柔らかい絵柄やシンプルなコマ構成で悩める女子高生たちの表情や心情を、ぜひ本作でお楽しみくださいね。
1996年から2002年にかけて『別冊少女コミック』のちに『月刊フラワーズ』で連載されていた、全12巻の作品です。2000年にはテレビドラマ化もしました。
沖縄県に住む小学生、有末静は周りの子たちより頭がよく、みんなが聞こえない音を聞くことができます。また、脳の糖謝率が異常値であるため、半年に一度、両親に連れられて東京へ行き、病院で検査を受けていました。
ある日、お祭りから家に帰ると、スーツの男たちが母親の比佐子を取り押さえており、まもなく静も捕まります。その後、比佐子は殺され、静は絶望に落ちます。事の発端である12年前の出来事、静の出生の秘密、そして双子の弟の凛の正体とは……!?
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
現実離れした物語の中で、読者の傍らにいてくれるのが、静の幼馴染である十市です。彼自身は普通の少年なのですが、男たちに追いかけられる静を逃がそうとしたり、成長してからも全く静のことを忘れず、行動を起こそうとしたり、とにかく友達思いです。異常な状況でも、読者自身と同じである普通の人間が、勇気と友情を持って敵に挑み静を支える姿は、心を揺さぶるものがあります。
そして、後に登場する双子の弟、凛は静と瓜二つであるにもかかわらず、育った環境には大きな違いがあります。性格が全く異なる静と凛は心を通じさせることができるのか、それとも……。
漫画タイトルが「夜叉」でありますが、これは静のことなのか、凛のことなのか、読んでいただいた方の判断によるでしょう。SF漫画ではありますが、双子の兄弟の運命に焦点を合わせた、悲しいヒューマン漫画を読んでみませんか?
1983年から1984年にかけて『別冊少女コミック』で連載されていた、全4巻の作品です。2006年にはテレビドラマ化、2007年には映画化もしました。
高校2年生の新学期、浅井由似子のクラスに美人の転校生がやってきます。長い黒髪に美しい顔をもった叶小夜子は、瞬く間にクラスの男子の視線を集めます。
叶家は、代々女性が継ぐ家であり、当主の叶泰三は亡き妻に性格が似ている孫の小夜子に財産を譲ろうと考えます。それを知った叶家の長男の妻である浮子は、財産狙いで甥の遠野暁と小夜子を結婚させようと画策します。
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
最初のほうから小夜子は不思議な美しさ、妖しさを持っています。しかし、決して彼女は不気味な悪魔ではなく、運命によって悪徳を得ざるを得なかった悲劇の少女なのです。その美貌に魅入られ、彼女に下心を持って近づいていく男性は、みな不幸な目にあい、命を落とすこともあります。それは偶然なのか、小夜子の陰謀なのか。人間の欲望の怖さが描かれています。
彼女のクラスメイトには遠野暁のいとこである遠野涼がいます。よくいるかっこいい不良少年で、ただの脇役かな?と思うのですが、物語が進むにつれて小夜子を助け、大変重要なキャラとなっていきます。ルックスだけでなく、小夜子を救いつつ自分の家と向き合う、妹思いな涼のかっこいい漢っぷりも必見です。
涼は小夜子の持つ運命に巻き込まれてしまうのか……。衝撃的な結末に大注目です!
2003年から2005年にかけて『月刊フラワーズ』で連載されていた、全5巻の作品です。
主人公のアリサは容姿端麗で、父親に教え込まれた護身術も身に付けた、強くてかっこいい美少女です。しかし、その父親ケンは育ての親であり、本当の父親はなんと人類の力を遥かに上回る能力のもつ超人類の有末静だったのです。
有末静の遺伝子を継ぐものがいるとばれたら、アリサの身に危険が及びます。しかし、中国経済界の首領シン・スウ・リンと、雨宮財閥を動かす有末静との極秘ホットラインがハッキングされてしまいます。
シンの息子である烈は彼女の家族に、自分たちの庇護下に入るように促しますが、ケンは平凡な生活が壊されるのを良しとせず、頑なに断ります。そうこうしているうちに、彼女を手に入れようと狙う死鬼が近づいているのでした……。
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
- 2009-02-14
あらすじで気づいた方もいるでしょう。この作品は第4位で紹介した『YASHA―夜叉』の続編です。吉田秋生ファンからしたら、興奮が止まらない展開でしょう。
追手から逃げる間に、アリサは人間の薄情さ、裏切りを経験します。身体的には強いアリサもまだ18歳の少女です。彼女はこの物語を通して、精神的成長を遂げることができるのでしょうか。この生き残る上で重要な課題がどのように展開していくのか、目が離せません。
アリサを狙う死鬼は、一切人間の感情を持たず冷酷です。人を人とも思わず躊躇なく殺していく様子に、「あの登場人物は殺されてしまわないだろうか」と読んでいてヒヤヒヤします。
また、死鬼の姿に仰天することは間違いありません。そして、吉田秋生の前作の主人公、有末静は登場するのでしょうか。『YASHA―夜叉―』を読んだ上で、本作を読むことをおすすめします。
1985年~1994年にかけて『別冊少女コミック』で連載されていた、全19巻の作品です。
ニューヨークのスラム街で生きる少年アッシュ・リンクスは、ある日銃撃された男から「バナナ・フィッシュ」という言葉を言い放たれます。その言葉は、薬物を乱用して廃人となった兄グリフィンがよく口にしていた言葉でした。
調査をしていると、日本からやってきたカメラマン助手の英二と出会います。時間が経つうちに二人はお互いを信頼し、唯一無二の存在となっていくのです。二人の友情は、アメリカの裏社会に打ち勝てるのでしょうか……!?
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
- 1986-12-15
裏社会での命をかけたアクションが多々見られる作品ですが、一番の魅力はアッシュと英二の友情です。
幼いころに男性にレイプされ、現在もマフィアのディノの男娼となっているアッシュの心はとっくの昔にボロボロになり、自己嫌悪の塊となっていました。一方、英二は怪我によって自分の特技である棒高跳びをやめることとなります。
刃物のように鋭い心を持つとアッシュ、童顔でおっとりした性格の英二。二人は似ても似つかない性質を持っていますが、それゆえに相手の傷を受け止め合い、思いのうちを明らかにすることができたのです。
国籍や育ちを超えた友情を育み、アッシュのために命をはる英二の姿は、日本人読者にとって誇らしくさえあります。
物語終盤の英二からアッシュへの手紙、そして結末は涙なしでは読めません。何も手につかなくなるほど心に重くのしかかる読後感を、ぜひ味わってみてくださいね。
どの作品も吉田秋生ならではの独特な世界観が繰り広げられており、1つ好きになったら貴方もきっと吉田ワールドから抜け出せなくなるでしょう。古い作品が多いですが、今も根強いファンがいるほどの名作揃いです。テレビドラマ化や映画化で知っている作品があった方もそうでない方も、これを機に原作漫画を読んでみてはいかがでしょうか。
『BANANA FISH』については<漫画「バナナフィッシュ」の登場人物、名言をネタバレ紹介!不朽の名作!>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。