エンジンもプロペラもなく、風と翼のみで空を飛ぶ「グライダー」。そのグライダーに青春のすべてを捧げる人物たちの物語が、ここでご紹介する『ブルーサーマル』です。空にそれぞれの思い入れをもつ登場人物たちが、感動のドラマを描きます。
「お前はなにをやってもダメ」。この言葉が胸に刺さったまま成長し、何をするにも自信を持てずにいた主人公は、大空に恋をしたことで生まれ変わります。漫画『ブルーサーマル』は、「グライダー」に青春を捧げる若者たちの姿を描いた物語です。
ちなみに「ブルーサーマル」とは、雲一つない空を意味する言葉。ページを開けばタイトルに似合う、清くて美しい青春物語が幕を上げます。この記事では、最終5巻までの見どころと魅力についてご紹介いたしましょう。
- 著者
- 小沢 かな
- 出版日
- 2015-09-09
恋をするために「青凪大学」へ入学した主人公のたまきは、グライダーに傷をつけてしまったことで「体育会航空部」の雑用係に任命されてしまいました。憧れの生活とはかけ離れた汗まみれの生活に不満しかないたまきでしたが、初めてグライダーで大空へと飛び立った日から、空の虜になってしまいます。
過去のトラウマ、仲間との衝突、自分との葛藤のすべてを乗り越えて、たまきは大空へ飛び立ちます。
華の高校生活をバレーボールに捧げてしまった少女都留たまき(つるたまき)は、「恋がしたい」という強い思いを胸に「青凪大学」での学生生活をスタートさせます。出会いの多そうなテニスサークルの体験をしていた時、彼女の視線はコートの外に見えた「グライダー」に止まりました。
油断したたまきの打ったボールはコートの外へと飛んでいき、グライダーの片翼支えていた少年の頭へ。突然襲って来た衝撃で彼が手を離してしまったことで翼は傾き、大きな傷を作ってしまったのでした。
弁償を迫られたたまきは、修理費として200万円もの大金を請求されますが、そんなお金は当然ありません。こうして彼女は借金返済が済むまで、「体育会航空部」の雑用係となってしまったのでした。
- 著者
- 小沢 かな
- 出版日
- 2015-09-09
グライダーとは滑空機のこと。エンジンやプロペラなどがついていない、シンプルな飛行機です。よく「鳥人間」と間違われますが別ものです。1機約1500万円もするグライダーは、整備や修理だけでも多額の金額がかかります。入学早々200万円もの借金だなんて、たまきは哀れです。
しかし彼女は初めて参加した航空部の練習で、グライダーの素晴らしさを体全体で感じることとなりました。部長の倉持潤(くらもちじゅん)が彼女をコックピットに乗せ、大空へと羽ばたいたのです。一面に広がる青にたまきは魅了されてしまいます。
さらに耳寄りなのは「グライダーの大会」の情報。優勝すれば賞金300万円が得られ、たまきの借金は一括返済できてしまうのです!
借金付きのキラキラなキャンパスライフか、それとも泥だらけになりながら一攫千金を狙うか。たまきが出した答えとは?
「体育会航空部」の活動も本格的になり、一同は強化合宿を迎えていました。憧れの大学生活とはかけ離れた、超体育会系な航空部の活動はたまきを落胆させます。
そんな中同じ合宿場では、関西の強豪「阪南館大学」の体育会航空部が練習をしていました。女部長の矢野はどうやら倉持の知り合いらしく、青凪と阪南館による強化練習試合が企画されていたのです。しかし、たまきは矢野を見て声を失いました。両親の離婚以来離れて暮らしていた姉、ちづるだったのです。
時を経て再び再会した因縁の姉妹が、大空で激突します。
- 著者
- 小沢 かな
- 出版日
- 2016-04-09
いよいよ始まった阪南館との練習試合。合宿開始からグライダー三昧のたまきは、機体、気候、操縦に関するありとあらゆる知識を学びはじめました。特に、たびたびたまきと搭乗する倉持による操縦に関する説明は非常にわかりやすく、興味深いものになっています。
また、たまきは姉との予期せぬ再会を果たしたことで過去のトラウマに苛まれていました。優秀な姉と常に比べられ、出来の悪い自分は父親から手をあげられていたのです。「あんたは何をしても1番になんかなれない」。高校生の頃の姉が言ったこの言葉は、今でもたまきの心に深く刺さっています。
そんな彼女を励ましたのは、新入生の教育係を任されている2年生の空知大介(そらちだいすけ)です。倉持に気に入られているたまきが気に入らず、会えばケンカをふっかけていた空知でしたが、暗く塞ぎ込んでしまった彼女を見ていられずに励まします。その空知らしい激励で、たまきは再び顔を上げることができたのでした。
さらに練習試合本番、再び倉持とともに空へと飛び立ったたまきは、天才と謳われる倉持が驚くほどの滑空センスを見せます。たまきが体で風邪を感じ、的確な指摘で倉持を誘導する様子は、静かですがゾクゾクするものがあります。
グライダーの魅力を再確認することができる2巻を、ぜひチェックしてみてください。
入部以降多くの経験をつんできた新入生たちは、ついにソロでの飛行訓練に入ります。もちろんたまきもです。
新入生がはじめて飛ぶのは「場周経路」と呼ばれる四角いルート。離陸から4度の旋回をクリアして、無事に着陸地点へとたどり着いたら合格です。単純そうに見えますが、一つ一つ丁寧な操縦が要求される緊張感の高い滑空となります。
最後の旋回まで終えたたまきは、最大の難関である「着陸」の準備へと入りました。部員たちも固唾を飲んで、少しずつ地面に近づいてくるたまきのグライダーを見守ります。しかし、恐れていたことは起きてしまったのです。
- 著者
- 小沢 かな
- 出版日
- 2016-09-09
「あらゆる神経を集中させて 一瞬先を読み続ける
自分の五感と経験が全て まだまだ見たことのない世界ばかり
見えないなにかを捕まえるため ワクワクして 悔しいけど楽しい
こんな気持ち 今まで感じたことなかった」
(『ブルーサーマル』3巻から引用)
上記は滑空中のたまきの回想です。今までは後ろに倉持がいたことで、限りなく安全に近い滑空は保証されていました。しかし今は1人。経験の浅いたまきの操縦は、倉持のそれよりもずっと危険です。それでも焦らず落ち着いて空を飛ぶ彼女からは、入部時とは比べものにならないほどの成長が見て取れます。
安定しているかと思われたたまきのグライダーは、地上との距離が1mほどまで迫った時に異変を見せます。わずかな揺れで手元がぶれ、操縦桿に不用意に触れてしまったたまきのグライダーは翼を引きずりながら地を走り、そして動かなくなったのでした。
青ざめた部員たちがグライダーへと駆け寄ります。たまきは無事なのか、はじめてのソロ飛行はどうなってしまうのか、緊張の高まる展開です。
たまきは青凪大学体育会航空部の代償として、初の公式戦となる新人戦に参加していました。彼女のライバルとなったのは、姉のいる阪南大の羽鳥楓(はとりかえで)。たまきと同じく驚異的なセンスの持ち主で、優勝候補筆頭として注目されています。
部の仲間たちの期待を一身に背負ったたまきは、超えるべき姉のいる阪南大に勝つことができるのでしょうか。そして「少しでも空に近づきたい」という、自分の目標を超えることができるのでしょうか。白熱する新人戦の開幕です!
- 著者
- 小沢 かな
- 出版日
- 2017-05-09
決められたコースを飛び、単純なタイムの差で勝敗が決まる公式新人戦。安全に飛ぶことが目的だった初のソロ飛行と違い、スピードも求められる試合にはさらなる緊張感があります。ライバルの羽鳥は他の選手を圧倒する滑空を見せると、初日の暫定1位に躍り出ました。
たまきは羽鳥の記録を越えようと意気込みますが、またしても不測の事態がおこります。空を飛ぶ上で重要となるのは周囲の雲の動き。操縦者たちは雲の流れから風の動きを読み取って飛びます。しかし、羽鳥が飛んでいるときにあった雲は、たまきが飛ぼうとした時には散り散りになってしまっていたのです。
目印のない空は一面の青。圧倒的に不利な状況にたまきは焦ります。誰もが羽鳥の勝利を予測する中、倉持だけは彼女の力を信じていました。それに応えるかのようにたまきは才能を発揮し、「ブルーサーマル」を捕まえたのです。
土壇場の強さはたまきの持ち味。他の選手と違い、速さよち丁寧さを求めるかのような彼女の美しい滑空は見るものを魅了します。気になる結果はぜひ、4巻で確かめてみてください!
4巻で新人戦が終わり、環境はどんどん変化していきます。まずは空知が退部する予定だったという事実が明かされたことから始まりました。
もともとパイロット志望の彼は、新人戦が終わったら部活をやめようと考えていました。航空操作学先週は3年から実施科目が増え、以前のように部活の合宿などに参加できなくなってしまうのです。
しかし、そんな空知を変えたのが、たまきでした。彼女が新人戦で見せた演技によって、彼はもう少し彼女が自由に飛ぶ姿を見ていたいと思ったのでした。
そしてたまきが影響を与えたのは、空知だけではありません。倉持もまた、彼女の明るさに救われることになる人物なのです。
- 著者
- 小沢 かな
- 出版日
- 2018-02-09
そんな倉持の過去が明らかになったのは、部室でたまきが過去の写真を見返していた時のこと。そこに朝比奈がやってきて、朝比奈と倉持とともに写っている見慣れない人物について説明してくれます。
それは、ふたりと同期だったという春田という青年。実はこの3人の関係には、ある秘密がありました……。
そんな秘密に今もなお苦しんでいる倉持は、グライダーを続ける理由を明らかにした後、たまきから、そしてグライダーから離れていこうとし、今の自分をこう言い表しています。
「ずっと暗闇の中にいる
この青い空を 綺麗だと最後に思ったのはいつだったかな
もう 思い出せない」
(『ブルーサーマル』5巻より引用)
5巻では倉持の悲しい過去、それによる苦悩などが明かされるとともに、それを知ってもなお、彼のことを諦めないたまきの奮闘が描かれます。
そしてその後の最終回は主要メンバーが全員卒業し、それぞれの道で努力している姿が描かれるところから始まります。
全員が活躍し、夢を叶えていますが、そこにはずっと悲しさがつきまとっています。たまきの最後まで明るい姿も、見ているだけで辛くなってくるほどです。
その悲しさを抱えながらも、空は青く美しく、たまきはそこでこう思うのです。
「飛べ」
(『ブルーサーマル』5巻より引用)
悲しさを抱えながら、今を生きているたまき。
果たして5巻で明かされた倉持の過去とは?それに対して、たまきはどうアプローチしていくのか?最終回が明るい内容しか描かれていないのに悲しいのはなぜなのか?
詳しい内容は作品でご覧ください。残酷なまでに美しいとも感じられる空の魅力を描き切った物語の結末となっています。
漫画でもありながら、グライダーに関する学術的な知識も学べる本作。5巻の発売が待ち遠しくなってしまうこと間違いなしです。