人気漫画『マギ』の外伝「シンドバッドの冒険」は、シンドバッドが七海の覇王と呼ばれるまでの冒険譚。本編の30年前が舞台となり、八人将との出会いや過去など、本編では描かれていない物語です。
- 著者
- 出版日
- 2013-09-18
大高忍原作による冒険譚「シンドバッドの冒険」。シンドバッドが七海の覇王と呼ばれるようになるまで、そして八人将との出会いやそれぞれの過去など、本編では知らされなかった物語が描かれています。
知られざるシンドバッドの幼少期、両親との別離、本編『マギ』で疑問に思ったことなど、すべてがここに詰め込まれています。ネタバレの前に、物語をスムーズに読み進めていただくためにまず、重要人物を紹介します。
【シンドバッド】
外伝の主人公にして、本編では七海の覇王と呼ばれている、シンドリア王国の王にして七つの海と迷宮を攻略した伝説の人物です。父バドルと母エスラの間に生まれ、幼い頃から不思議な可能性を持っていました。また、両親を亡くしてからひとり海へと旅立ち、さまざまな場所で八人将らと出会うこととなります。
【ドラコーン】
かつては、パルテビア帝国の小隊を率いていたドラグル家の末子。後の八人将。
【ミストラス】
ササン王国騎士王の長男で、自国から出たことがなく、外の世界に憧れていました。シンドバッドとの出会いをきっかけに、旅に同行します。後の八人将。
【ジャーファル】
元暗殺集団シャム・ラシュの筆頭。かつてはシンドバッドの命を狙っていました。後の八人将。
【マスルール】
戦闘民族ファナリスの末裔。かつては剣闘士として戦っていた奴隷でした。基本的にシンドバッドとジャーファルの言うことしか聞きません。後の八人将。
【シャルルカン】
エリオハプト王国の次男で、幼少時代に王位争いに巻き込まれたため、シンドバッドの旅に同行しました。当初は物静かな性格でしたが、あるとき突然変貌しました。後の八人将。
【ヤムライハ】
ヤムライハの家系は、代々ムスタシム王国の仕えていましたが、魔導士狩りで命に危険がおよびそうになったため、モガメットが養女として育てました。後の八人将。
【ピスティ】
アルテミュラ王国の女王の末子。シンドバッドがアルテミュラと同盟を結んだ際は、まだ2~3歳くらいでした。動物と意志を通わせるのが得意で、特に鳥を得意としています。後の八人将。
【ヒナホホ】
イムチャック族長の息子で、シンドバッドと出会ったときは、気が弱くて臆病者だったため、イムチャック特有の成人の儀が済ませておらず、名無し状態でした。後の八人将。
『マギ』のストーリーをおさらいしたい方は<漫画『マギ』をストーリーの面白さから読む!【~37巻ネタバレ注意】>の記事がおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
物語の舞台は、本編の30年前。パリテビア国ティソン村の漁師バドルと、エスラの元で大きな産声を上げた赤ん坊。それが後に七海の覇王と呼ばれるシンドバッドです。
幼少期のシンドバッドは、先を見通す特別な力があり、それは生まれた時すでに備わっていました。また、父であるバドルも、シンドバッドには”確信”があると感じ取っていたのです。
そしてシンドバッドが5歳の頃、バドルが無理矢理出兵され、そのまま帰らぬ人となってしまいます。さらに、母エスラも病気で亡くなり、ひとりになったシンドバッドは、冒険への希望を胸に大海原へと旅立ったのでした。
ある日、王の器を授かった小さな赤ん坊が生まれました。後に七海の覇王と呼ばれる人物、その名はシンドバッド……。1巻では、シンドバッドの幼少期から、ユナン、ドラコーンとの出会い。そして、突如出現した迷宮への初めて挑んだシンドバッドの姿が描かれています。
- 著者
- 出版日
- 2013-09-18
父バドルと母エスラの間に生まれたシンドバッドが、元気な産声をあげました。シンドバッドが生まれた直後、今まで静かだった火山が突然噴火し、海は大渦が発生し嵐となり、まるで天変地異が起こったかのようでした。
避難するかどうか悩んでいた二人に、生まれて間もないシンドバッドが指差した方向へ避難し、命を落とさずに済んだのです。この時点から、シンドバッドには未来を見据える力が備わっていたことがわかります。
それから9年後、何度も戦を経験した父バドルの「戦争への不信感」は、シンドバッドの考えそのものに根付いています。突如出現した迷宮の特別な力と財宝を王に捧げるため、シンドバッドにも軍の召集命令がかかりました。
しかし、シンドバッドはユナンからの助言で、「いまある世界を変えるために力を使う」と、自らがその力を手に入れようと決めたのです。
「俺のものにする。今ある世界を変えることができるなら、俺は構わずその「力」を使う!!」(『マギ シンドバッドの冒険』1巻から引用)
家族を守るため片足を失ってまでも戦場に行って戦い、最後には裏切り者と言われながら死んでいった父や、非国民と言われながらも苦労して自分を育て上げてくれた母……。シンドバッドが身をもって経験していたことが、後々の「自分が頂点に立って世界を平和にする」という考えに根付いたのです。
迷宮の中では、ドラグルが軍を率いて入っていましたが、ドラグル以外はすべて迷宮の化け物たちの餌食になってしまいました。残ったのは、シンドバッドとドラグル。しかも、ドラグルは熱血の軍人バカです。
この対照的なふたりが、迷宮攻略に挑むのですが、シンドバッドは相手が誰であろうと容赦せず、それどころかドラグルの軍人であるべき、貴族であるべきという考え方のすべてを否定します。「死にたくない」とか「臆して逃げるな」などは軍人であるべき誇りですが、それらはシンドバッドにとって、くだらない考え方にすぎません。
確かに迷宮の中は、地形も不思議な生物も、見たことのない物ばかり。また、これまで経験したことのない危険も襲い掛かってきます、そのなかで、死にたくないと思うのは人間だから当然だとシンドバッドは語ります。
国のために死んでも、国は救ってくれない。これこそ、父バドルの意志そのものですね。
「国っていうのは、民がいてこそ存在するんだ。民を見捨てる国なんて…必要ないんだよ!!」(『マギ シンドバッドの冒険』1巻から引用)
1巻での見所は、やはりバドルの器の大きさと、バドルの考えと意志を受け継いだ、シンドバッドの大きさでしょうね。そして、この先シンドバッドが七海の覇王になっていくという、ワクワク感のある伏線が見事です。
バアル攻略後、母エスラが亡くなり、大海原へと旅立つシンドバッド。2巻では、のちの八人将となるヒナホホとの出会いや、シンドバッドの金属器を狙った暗殺集団シャム=ラシュの登場が描かれます。
- 著者
- 出版日
- 2014-01-17
迷宮のなかでは、お互いに大切な者を護る為、シンドバッドとドラグルとの、力の奪い合いが白熱しています。その結果、ドラグルを倒したシンドバッドが、バアルと契約し金属器を手に入れます。
しかしバアル攻略を機に、世界中で迷宮と思われる謎の建造物が出現し始めて、まさに「迷宮攻略時代」が訪れました。一方、シンドバッドは母の死後、世界を変えるための旅にでます。
大海原のド真ん中、シンドバッドの船に飛んできたのがヒナホホです。この頃のヒナホホは、まだ気が弱くて、海獣アバレイッカクを倒してなかったため、成人とは認められていないイムチャック族の名無しの青年でした。その後、八人将として意気揚々と戦うなんて、この姿からは想像もつきません。
また、アバレイッカクに興味を示したシンドバッドは、漁師の血も騒ぎ出し、バアルの力を試すいい機会だと、ヒナホホに同行することにしました。アバレイッカクを相手にヒナホホがは苦戦。諦めかけたその時、シンドバッドがバアルの力で一撃必殺。
ヒナホホはこれが自分で倒したといえるのかと悩むも、村ではヒナホホを祝い謝肉祭が始められました。そして、この出会いの一方、シンドバッドから力を奪うため、パルテビア国から暗殺集団シャム=ラシュが送られてきます。また、イムチャックの村に出現した迷宮も、パルテビア軍が手中に収めようと狙っているのです。
2巻での見所は、ヒナホホとの出会いとイムチャック族との関わり、アバレイッカクとの戦いで見せた、バアルの力と能力ですね。
アバレイッカクとの戦いが、自分で認められなかったヒナホホがひとり第6迷宮ヴァレフォールに挑みます。また、ヒナホホを追って入ったシンドバッドが、シャム=ラシュを連れたドラグルと迷宮内で遭遇!追われる者と追う者の末路は!?
- 著者
- 出版日
- 2014-05-16
自分の手柄とは言えないと悩んだ挙句、ヒナホホはひとりヴァレフォール迷宮に入るも、そのままではヒナホホの命に関わると、シンドバッドも続けて迷宮入りします。
また、シャム=ラシュを率いたドラグルも、ヴァレフォールの力を狙い迷宮攻略に挑んでいました。大柄なヒナホホとはいえ、迷宮のなかは危険に満ちています。また、この迷宮のなかは、巨大な湖となっており、そこを抜けると向こう側に繋がっていると予測したシンドバッド。
水を抜けるまでの距離は分かりませんが、先を急ぎました。案の定、シンドバッドが巨大なイソギンチャクに捕まってしまいます。しかしここでヒナホホの出番です。イムチャック族は1時間以上潜水できる民族で、しかも水を蹴ることも出来ます。
シンドバッドは、水中でのヒナホホの強さを目の当たりにします。水中戦なら彼は無敵でした。
臆病といっていたヒナホホの姿はそこにはありません。これがイムチャック族の本当の姿なんだと、鳥肌が立つほどに凄まじく強い戦士だったのです。このヒナホホの戦いぶりに、気持ちが高揚した方も多いことでしょう。
一方でドラグルとシャム=ラシュは、まさに危険人物とでもいうべきの存在です。特に、筆頭のジャーファルは、八人将の顔とはまったく違います。まさに殺すことしか考えない冷酷非道の人物。穏やかな笑顔なんて想像できたものではありません。
ヴァレフォール攻略を掛けた戦いが開始されるも、シンドバッドの金属器がドラグルに奪われてしまいます。もはやバアルの力は使えないというところで、ヒナホホが覚醒。本来あるべき「悪名高い略奪民族イムチャック族」の姿へと変貌します。
ヒナホホは優しい性格なため、気弱に見えていただけで、大切な者を守ろうとする思いが、とんでもない力を発揮させたのです。まさに、3巻ではヒナホホの覚醒が一番の見どころだといえます。
シンドバッド、ドラグル、ヒナホホ、そしてシャム=ラシュは、それぞれ目的があってヴァレフォール迷宮に挑みました。また、シャム=ラシュとは別にもうひとり、魔導士もドラグルに同行しています。
- 著者
- 出版日
- 2014-08-18
みんなが狙うヴァレフォールの力……。最後にヴァレフォールから与えられた試練は、小さくなった自分を捕まえることでした。すばしっこく動き回るヴァレフォールに翻弄されながら、むやみに追いかけるのは不利だと、シンドバッドが名案を打ち立てます。
「追いかけっこはもう終わり。ここからは、俺たち協力しようぜ!!」(『マギ シンドバッドの冒険』4巻から引用)
ヴァレフォールを皆で囲み一気に襲い掛かれば、上に跳ね上がります。それを利用して、シンドバッドが捕まえるという計画で。敵ながらも一理あると、皆が同意するのですが、シンドバッドからすればシメシメです。なぜなら「自分を捕まえた者を王の器と認める」ので、シンドバッドにうまく丸め込まれた感じですね。
ヒナホホはもちろん、他の面々からも怒りを買うのも無理はありません。ただ、シンドバッドが世界を変えるにはジンが必要だということを、目を輝かせながら熱弁するので、ジャーファルは面白いといい、マハドやヴィッテル、ドラグルまでもが納得してしまうのです。
シンドバッドの言葉はまるで魔法です。世界の先々の事までも見据えている考え方は、誰をも信じさせてしまうパワーと魅力があります。4巻では、一気に4人の心を掴んだシンドバッド。
また、幼くして暗殺者になったジャーファルの過去や、秘めたる思いなども4巻で明かされているので、そういった部分にも注目してみてください。
ヴァレフォール迷宮内で、ドラクルやシャム=ラシュがシンドバッドの思いに感銘し、シャム=ラシュは仲間に、またドラグルは戦士扱いという処分を受け、本国へは戻れないものの、大切なものを守る使命として、危険を承知でパルテビアに戻りました。
また、シンドバッドは、まず商売の第1歩として、ヒナホホと結婚したルルムと、シャム=ラシュのジャーファル、マハド、ヴィッテルと新しい仲間と共に、レーム国を目指します。
- 著者
- 大寺 義史
- 出版日
- 2014-12-18
ヴァレフォールを攻略したものの、自分の本能がシンドバッドを認めたというヒナホホは、新しい世界を創るため、シンドバッドに同行するため村を出て行く決心しました。
しかし、それを聞きつけたルルムの、夫婦になって同行したいとの申し出に、イムチャックの首長ラメトトの許しを乞いに行かねばなりません。この時、シンドバッドの自信に満ち溢れた返しで、ヒナホホとルルムの婚姻が認められました。
ここまでで、シンドバッドには5人の仲間が増えたわけですが、レーム国までの船旅では、シンドバッドとジャーファルには、ルルムからの「しつけ」が待っていました。イムチャック公認の商船の一員として、商売をするために必要な礼儀や知識を、厳しく教えられます。
暗殺しか知らなかったジャーファルが、シンドバッドを支えていくようになるまでの裏には、こんな試練もあったのです。また、ルルムは優しい顔をしていますが、汚い言葉使いをしたり、マナーを守れなかったりと、教えられたことを守れなかった場合は、遠慮のない「ルルムチョップ」が飛んできます。
ルルム「テーブルマナーもしっかりね。」
シンドバッド・ジャーファル「音を鳴らしたらチョップがくる…」(『マギ シンドバッドの冒険』5巻から引用)
ジャーファルもシンドバッドも、震えるほど怖い「ルルムチョップ」。ふたりがルルムに叱られながらも、一生懸命に知識を頭に詰め込んでいるシーンは、まさにギャグ。
レームに到着すると、待ってましたかのようにサギにあってしまうシンドバッドたち。これも商売の勉強と割り切ると、シンドバッドだけを残し、他の仲間は再び商材を調達に向かい戻ると、すでにシンドバッドが商会を設立していました。
このとき、『マギ』の主人公アリババの父、ラシッド王と知り合ったことが、後にシンドバッドがアリババに渡す「剣」へと繋がっていくのです。「シンドバッドの冒険」と本編、両方を読まないと分からない些細なことに気づけるのも、面白さのひとつですね。
ドラグルはパルテビアに、シンドバッドとジャーファルは、次の外交を目指しササンを訪れます。
- 著者
- 出版日
- 2015-04-17
ヴァレフォールで、シンドバッドと共闘し裏切り者のレッテルを張られたドラグルは、危険を冒してパルテビアに戻り、セレンディーネを連れ出そうとしました。しかし、迷宮攻略者で兄のバルバロッサに見つかり、瀕死を負ってしまいます。死の間際、眷属がドラグルに問いかけます。
「力を求めよ、我は眷属なり。」(『マギ シンドバッドの冒険』6巻から引用)
ヴァレフォール攻略後、本人も気づかないうちに、左のイヤリングに眷属の力が宿っていたのです。強い力を求めたドラグルは、眷属と同化し本編に出てくる竜に似たような姿になりました。眷属の力を手に入れたのは、ドラグルが最初の人物です。
また一方でシンドバッドは、次なる外交としてササン王国を訪れています。ササン王国では、まだ迷宮攻略者の能力というのは知られておらず、騎士王の力は神の力と信じられている閉鎖的な国です。
ここで、迷宮を攻略し力を手に入れたものは、その力を最大限に生かせる「全身魔装」が明らかになりました。とりわけ、シンドバッドはバアルとヴァレフォールを攻略済みですが、6巻ではバアルのみしか魔装していません。
そして、騎士王との内密な話し合いにより、シンドバッドの仲間の一員として、ミストラスも加わりました。
シンドバッドとジャーファル、ヒナホホと新たに仲間となったミストラスの4人で、次の外交国アルテミュラ王国を訪れました。しかし、女系民族国家のアルテミュラが、そう易々と外交に応じる訳はなく……。『マギ シンドバッドの冒険』の名シーン””葉っぱ1枚”がここで登場します。
- 著者
- 出版日
- 2015-07-17
アルテミュラでは女王アルテミーナの怒りを買い、ヒナホホを除きシンドバッド、ジャーファル、ミストラスが素っ裸で死者の谷に突き落とされてしまいました。罪人はその谷底に落とされる決まりでした。
たくましい体つきのヒナホホは、目をキラキラ輝かせた美しい女人たちに囲まれます。アルテミュラには、まるで女人のような男ばかりなので、ヒナホホのような「男らしい男」は、違った意味でターゲットなんですね。
また、谷底に落とされたシンドバッドたちは、意外にも順応してしまうのですが、なによりも素っ裸だとあらゆる描写に困るので、とりあえず葉っぱ1枚つけておこうか……と、まるで原始ファッション。このことから、シンドバッド、ジャーファル、ミストラスは「葉っぱ隊」とも呼ばれており、さらにシンドバッドには「七海の葉王(覇王)」という呼び名まであるのです。
しかし、いつまでも谷底で生活する訳は無く、ミストラスが見つけた「加工された巨大な生肉」がきっかけで脱出に成功。アルテミーナの部屋の忍び込んで、金属器を取り戻すも再び怒りを買い、金属器使い同士の一騎打ちが勃発。
アルテミーナはケルベロスの全身魔装、シンドバッドはここで初めて、ヴァレフォールの全身魔装を披露しました。ケルベロスの能力、ヴァレフォールの能力や技など、『マギ』本編では描かれていない部分が描かれているのも魅力です。
一方パルテビアでは、眷属と同化したドラグルが、兄バルバロッサの手からセレンディーネを護るため、次女サヘルとセレンディーネを連れて、逃亡生活を送っていました。しかし、まるで化け物のような姿になったドラグルは、彼女たちを護るどころか、逆に脚を引っ張っている状態。そんなドラグルが助けを求めに向かったのは……。
シンドバッドの留守中、シンドリア商会に倒産の危機が訪れます。また、それによってシンドバッドがマリアデル商会当主マーデルとの賭けに負け、奴隷となってしまう事態に発展します。
- 著者
- 出版日
- 2015-10-16
シンドバッドやジャーファルが外交で留守している際、シンドリア商会の裏方を担っていたヴィッテルでしたが、思わぬ海難事故による貿易赤字を何とかしようとして、マーデルの罠に掛かってしまいました。これを何とかしようとしたシンドバッドは、「うちの剣闘士と戦え」というマーデルの条件を呑んだのですが、それもまた罠だったわけです。
マーデルの言う剣闘士とは、ファナリスの末裔マスルールのこと。まだ子供ですが、その戦いぶりは戦闘民族といわれるだけの事はあります。本編に登場する大人のマスルールと比較しても、目つきといい、豪腕ぶりといい、あのまま小さくなっただけの強者です。
未来を見据える才能があるから、敗北なんてありえないと思っていたシンドバッドの鼻をへし折る結果になろうとは、誰もが思わなかったでしょう。しかし結果は一撃必殺。マスルールの強さは半端じゃありません。
条件通り、奴隷になったシンドバッドがマーデルに服従する姿なんて、このシーン以外には見られません。ましてや、自信過剰なまでの自信家シンドバッドが、洗脳され自我を失い、マーデルにひざまずく姿など決して本編でもお目にかかれないお宝シーンなのです。
マーデルとの賭けに負けたシンドバッドは奴隷の身になってしまいます。洗脳され意志をも奪われたシンドバッドでしたが、同じく奴隷にして剣闘士だった幼いマスルールの訴えかけてくる目で、自我を取り戻します。
- 著者
- 出版日
- 2016-04-12
マーデルが、シンドバッドは「まだ自分の子になり切れていない」と日々折檻を続けていた結果、シンドバッドの脳裏には、マーデルへの恐怖がこびりついていました。
それと正反対に受ける、慈しみの愛情に困惑し、もはや精神はマーデルに支配されていたのです。そんな状況から救ってくれたのは、マスルールの「目」でした。マスルールは奴隷とされていても、決してファナリスとしての、そして人間としての誇りだけは失わなかったのです。
生きるために記憶を塞ぎ、見てみぬふりをし、すべてを捨ててしまったシンドバッドに比べ、マスルールの目は、何も捨てていません。それに気づいたシンドバッドは、ようやく自我を取り戻したのです。
自分ならどうにかなるだろう、ではなく、「自分がやらなければならない」と決心しました。この決心が、本編に大きな影響を与えた「神になること」にも繋がっているのです。世界を変えるためには、誰かに期待するのではなく、自分がやるということなんですね。
ただ、マーデルからの洗脳の後遺症なのか、こんな自分が世界を変えようなんて……と、これまでになく自信を失っているシンドバッドに、ジャーファルから鉄槌が下ります。さすが元暗殺集団シャム=ラシュの筆頭。とてつもない一撃も、信頼関係があるからこそです。
シンドバッドが本編で、七海の覇王になることが出来たのも、本人の力だけではなく、ジャーファルら仲間たちの助力があってこそだと気づかされること満載の9巻です。
10巻では、『マギ』と「シンドバッドの冒険」の結びつきで大切な、アリババの存在を示すシーンが描写されています。また、シンドバッドは次なる外交へと、バルバッド経由でエリオハプトに向かいます。
- 著者
- 出版日
- 2016-05-18
9巻で破滅したマリアデル商会には、奴隷長のファティマーという男がいました。ファティマーも奴隷のひとりで、マーデルが行方を眩ました後、ファティマーの行方を知る者はいませんでしたが、本編4巻で、モルジアナを捉えた奴隷商人として登場しているのです。
ファティマーは物語の中心人物ではありませんが、こういったところで登場させるというのも、『マギ』の本編と外伝とが繋がる面白いところですね。結局、ファティマーも奴隷から抜け出せないまま、心の奥深くに傷を負っていたということでしょう。
一方で、正気を取り戻していつも通りに戻ったシンドバッドは、バルバッド王国を経由してエリオハプト王国を訪れます。このバルバッド王国では、幼い頃のアリババがカシムと遊んでいる姿も描かれているのです。またこの際、アリババが屋根の上からシンドバッドを観察している様子は、本編での出来事を示唆しているようにも見えます。
ちょっとしたシーンですが、本編のファンの方からすると、プレゼントを貰ったような描写ですね。そして、バルバッドからエリオハプトに向かったシンドバッド一行。
砂漠では遭遇した盗賊を前に、天下の八人と謳われる「八人将」という名前が、ついにここで登場しました。シンドバッドに同行したのは、ジャーファル、マスルール、ヒナホホとミストラス、最後にドラグルの5人でしたが、彼らが放つオーラは見事なものです。
ジャーファルとマスルールはまだ子供のように小さいながらも、本編とは何ら変わりない強者ぶりも、名シーンのひとつですね。
エリオハプト王国で相次ぐ「呪い」という名の連続殺人を食い止めるため、シンドバッド一行と彼らに内緒で同行したセレンディーネたちが、第16迷宮ゼパルに挑みます。
- 著者
- 出版日
- 2016-11-18
エリオハプトでは、第二王妃の子息アールマカンと、正当な王位継承者1位のシャルルカンの側近が、王位を巡るいざこざが起こっていました。連続殺人を「呪い」に仕立て、シャルルカンを王位につけようと目論んでいたのです。
このまま続けば内紛が起きる、それを食い止めるため、シンドバッドと八人将、そしてセレンディーネは王家の墓であった場所に出現した、第16迷宮ゼパルを攻略することに……。
迷宮での試練は、それはシンドバッドを王と認めている八人将に与えるというゼパル。まずは、仲間同士で戦わせ実力を計るといいますが、ひとりでも失敗すれば不合格とのことでした。仲間同士の本気の戦いは、普段では見ることの出来ないレアなシーンです。
また、マスルールを乗っ取ったゼパルと、ジャーファルとの一戦では、ジャーファルにやり込められたゼパルが激怒して、シンドバッドを王とは認めないという展開に……。そこでセレンディーネも、王としての名乗りをあげるのです。
「王の器」がふたりいれば、当然戦うのが当たり前ですが、ゼパルがふたりに与えた試練はなんと「議論」。
「王としての資質、その根源となる価値観をぶつけ合うんだ。力で武装できない分、その器の違いはより浮き彫りになるうえ、結果次第では君たちは主君と 袂を分かつことになるかもしれない」(『マギ シンドバッドの冒険』11巻から引用)
王の器を掛けた思想闘争……果たして、ゼパルが王の器と認めたのは、シンドバッドかセレンディーネのどちらなのでしょうか。
セレンディーネとの議論闘争に、シンドバッドもタジタジ。ゼパルが王の器に選んだのはセレンディーネでした。また、シャルルカンがエリオハプトにいることが、争いの火種になるとのことで、シンドバッドがその身を引き受けました。
- 著者
- 出版日
- 2017-01-18
ゼパル迷宮での、シンドバッドとセレンディーネとの議論闘争では、セレンディーネに軍配が上がりました。セレンディーネは、世界統一のための「王」を目指すシンドバッドに向かって、王に向いていないと言う一方で、指導者として自分の夫になるよう言います。
ただし、通常の意味での夫ではなく、セレンディーネの立場を利用して、指導者として国民を導き、よりよい世界を創り上げろとのことでした。このふたりの議論闘争でのことは、本編の最終章で登場した「セレンディーネのルフと同化して力を得た」に繋がっていくんですね。
一方エリオハプトでは、シャルルカンが争いの火種になるとして、シンドバッドが預かることになりました。シンドバッド一行は、新たにシャルルカンを迎えて次なる場所、マスルールの故郷暗黒大陸へと向かいます。
本編での伏線が、外伝で回収されていくなんて、ファンも喜ぶ憎い演出です。八人将との出会いは本編では描かれておらず、それぞれの過去に触れることも少ないということもありますが、何より彼らの幼少時代を垣間見れるのも魅力ですね。
シンドリア商会は、彼らひとりひとりが負っている傷を、シンドバッドがすべて救い上げ、彼らもまたシンドバッドを命がけで支えていく。こういった信頼関係と強固な絆によって成立していることが伺えます。
新たに仲間になったシャルルカンを連れ、シンドバッド一行は、マスルールの故郷である暗黒大陸を目指します。シャイで大人しいシャルルカンの変貌ぶりに注目です。
- 著者
- 出版日
- 2017-04-18
暗黒大陸に到着したシンドバッド一行でしたが、すでにファナリスの集落は奴隷狩りに遭い、壊滅したとのことでした。自分の目で確かめにいったマスルールを、心配したシャルルカンが後を追うと、ふたりの目の中に崩壊した集落の様子が入ってきました。
肩を落とすマスルールを、シャルルカンが慰めようとしましたが、逆にマスルールの反感を買ってしまいます。ちょうどその時、ふたりは奴隷狩りと遭遇。しかし、互いに共闘し、奴隷狩りを見事撃沈させました。
すると、シャルルカンを冷たくあしらったことを、男らしく詫びるマスルールに対し、シャルルカンが大変貌!大人しくて控えめで、臆病だったシャルルカンはどこにいったのやら……と思えるばかりです。
ちなみにマスルールが8歳で、シャルルカンが9歳。たいした差はなく、しかもマスルールが先に商会入りしたにもかかわらず、先輩風を吹かすシャルルカン。本編で、マスルールがシャルルカンの言うことを聞かない鍵は、こんなところにあったのです。
本編のシャルルカンのイメージから考えると違和感はありませんが、ある意味この出来事によって、本編のシャルルカンのキャラが出来上がったとも言えますね。
ここは、シャルルカンファンには抑えて頂きたいシーンのひとつです。
ラシッド王の従者のひとりとして、パルテビア帝国にどうこうしたシンドバッド。現皇帝に会うのが目的でしたが、現れたのは今や事実上、実権を握るバルバロッサでした。
- 著者
- 出版日
- 2017-06-16
バルバロッサは、釣りや乗馬でシンドバッドとの親睦を深めようとしていましたが、裏では何かをたくらんでいる様子。瞳の奥の冷たさがそれを物語っているように見えます。
そんななか、シンドバッドがバルバロッサに建国するための土地を譲ってほしいと申し出をすると、バルバロッサは快諾。セレンディーネやドラグルの一件もあったことから、ここまで快諾するのには裏があるに違いありません。
まるで堕転しているような雰囲気をかもし出すバルバロッサ。もしかしてダビデが乗り移っているのかも?と思いましたが、ダビデとバルバロッサの思想はまた少し違うように思えます。
いよいよシンドリア国建国に向けて動き出すわけですが、この時ルルムのお腹にはすでに4人目のベビーが宿っていました。家族が増えて幸せいっぱい……のはずですが、何か胸騒ぎがするといいます。
ルルムの胸騒ぎの理由、それはシンドリア国建国のあと判明するのです。
また、ゼパルの全身魔装を習得したセレンディーネを含み、世界には迷宮攻略者が増えつつあります。これが、この後様々な悲劇を生むことになるとは、シンドバッド自身、思いもしないことだったのでしょう。
その後、バルバロッサから提案された、シンドリア国建国のための島を視察したシンドバッドは、バルバロッサの恐ろしい一面を目の当たりにします。かつてから、人体実験をしているという噂が流れていたバルバロッサ。しかし、それは並ならぬ人体実験でした……。
シンドバッドに声を掛けてきた化け物。それは、シンドバッドの故郷ティトン村の、かつての住人だったのです。バルバロッサの残忍さが浮き彫りになる一方で、シンドバッドも建国への思いが先走り、悪事を見て見ぬふりをするなど、野望が広がりつつあります。
ここでの建国が最初なので、本編『マギ』32巻の「毎年思い出して 自然とここに集まっちまうな。ああ、あれから随分たったなあ。最初の「シンドリア王国」が滅びてから…………………」(『マギ』32巻から引用)のセリフからもわかるように、ここで建国したシンドリア国が失敗に終わることを意味しています。
本編では意味が分からなかった伏線が外伝で回収される。外伝なくして本編も語れない、原作者が巧妙に仕掛けた伏線回収に脱帽ですね。
シンドリア王国建国に向けて、八人将も結成されました。また、シンドリア国建国目前に控え、シンドバッドがバルバロッサを信じ、セレンディーネを見限ってしまいます。迷宮ゼパルでの約束はどうなっていくのでしょうか。一方で、アル・サーメンの目的達成のための準備が着々と進められるなか、ついにシンドバッドに接触します。
- 著者
- ["大高 忍", "大寺 義史"]
- 出版日
シンドリア国建国のため人体実験の真実を闇に葬ったシンドバッド。化け物にされ、助けを求めていたティトン村の住民をも見捨て、セレンディーネからの忠告にも聞く耳を持たなくなりました。シンドバッドが、ここまで建国にこだわる理由とは……。
一方で、バルバロッサは世界を統べるのが目的で、そのためにシンドバッドを利用し、建国にまでも手を貸しているのです。シンドバッドがセレンディーネの忠告を聞かないのも、建国しか見えなくなって、バルバロッサの真の目的に気づいてないからなんですね。
また、パルテビアの魔導士ファーランが、シンドバッドに近づくことで、アル・サーメン本来の目的の準備段階に入ります。まず、シンドバッドが本編でも語り続けた「特異点」という言葉が、ここで初めて明かされます。
「この「運命」の中にあって「運命」から逸脱している者 それが「特異点」」(『シンドバッドの冒険』15巻から引用)
この時点ではまだ、アル・サーメンの目的までは明かされていませんが、すでにこの時点で「ダビデの目論見」が動いていたのです。本編は外伝の数年後の世界ですが、アル・サーメンは長い時間を掛けて、計画を進めていたことが分かりますね。
一方で、バルバロッサが魔導士モガメットに接触したことで、マグノシュタットが本編では、魔導士の国になっていた理由もハッキリしつつあります。ここでもバルバロッサが関与していたことは、本編では明かされていなかったので、なるほど!といった感じですね。
また、ついに最初の八人将が結成されました。メンバーはドラコーン(ドラグル)、ジャーファル、ヴィッテル、マハド、ヒナホホ、ミストラス、マスルール、シャルルカン(仮)の8人。本編での八人将とは何人か違っていますが、その理由は今後明かされます。
建国式典当日、シンドバッドの宣戦布告を受け、パルテビア軍が進撃を始めます。手を組んだはずの2人がなぜ、大規模な戦いを始めることになったのでしょうか。
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- ["大高 忍", "大寺 義史"]
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パルテビア国の総統バルバロッサの力を借りて建国した、シンドリア国の建国式典当日。シンドバッドの演説が始まります。しかし、戦争のない皆が共存できる国を目指していたシンドバッドが、バルバロッサに向け宣戦布告!
「お前こそが諸悪の根源、我が国の憎き仇敵だ。」(『マギ シンドバッドの冒険』16巻から引用)
……と、そこにセレンディーネが登場しますが、彼女の雰囲気はまるで堕転したかのよう……。かつての面影が感じられないセレンディーネが、ゼパルの力でシンドバッドの精神を操っていたのです。
正気を取り戻したシンドバッドは、セレンディーネを責めますが、もはや彼女は悲願を叶えるため、人の体を捨てたといいます。
「私はすでに人のそれではない。自らの悲願を叶えるために 私は人の身体を捨てた。」(『マギ シンドバッドの冒険』16巻から引用)
セレンディーネが堕転したことが、本人から明かされました。15巻で、セレンディーネはシンドバッドに裏切られた後、ファーランに会いに行っているので、この時2人の意見が一致して、堕転に至ったと推測されます。
一方で、パルテビア軍の第1軍が到着を間近に、シンドバッドも迎え撃つ決意をしました。しかし、この戦いの本当の相手は、堕転した魔導士の集団アル・サーメンだったのです。
いくらシンドバッドや八人将でも、アル・サーメンの大軍が相手となれば、そう易々と終結するはずがありません。本来、シンドリア国とパルテビア国との戦いのはずが、思いのほか大規模な戦となってしまいました。
本編で語られた、最初のシンドリアが滅びた原因は、この戦いによるものであると推測できます。また、この時点でセレンディーネも生存していることから、シンドバッドはまだゼパルの力を手に入れていません。
もはや、すべてが闇に飲み込まれそうな展開で、本編でのシンドバッドや八人将が、どんな経験をしてきたのか、彼らの絆の深さがこれらのシーンから伝わってきます。この戦いは「始まりであって終わりではない」まさに、これから起こることの序章でしかないのです
シンドリア王国にパルテビア軍が押し寄せる中、シンドバッドは国民を守るのが先か、バルバロッサを倒すのが先かを迷いながらもジュダルやセレンディーネが言うがままにバルバロッサを討ちに向かいます。
一方、陸橋ではパルテビア軍と八人将たちによる激しい攻防戦が行われていました。そして、かなりの苦戦を強いられる中、敵に串刺しにされたミストラスが死の間際に眷属と同化し、恐ろしい姿に変貌してしまいます。
「…………力を求めよ。我は眷属。雷の「ジン」バアルより生まれし、雷鳴の眷属!!」(『シンドバッドの冒険17巻166夜から引用』)
しかし、シャム=ラシュのマゴイ操作により、体の中を破壊され命を落としてしまいました。ミストラスの体からマゴイが抜け出していきます。
ピピリカ「ミストラス!!お願い目を開けて!!嫌だよミストラス!アタシを置いていかないでよ!!ミストラス……!やだ…いかないで…」(『シンドバッドの冒険』17巻166夜から引用)
ミストラスの優しい笑顔と、ピピリカの泣き顔が印象に残る悲しくも切ないワンシーンです。
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- ["大高 忍", "大寺 義史"]
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この17巻でミストラスの眷属同化および死亡が確定されました。また、特異点であるシンドバッドの堕転が暗黒点と繋がる楔となること、「大いなる父」を降臨させるためにアル・サーメンが全ての糸を引いていたことなど、本編で明かされていない謎や伏線が回収された重要な巻です。
なお、戦いはまだ収束していないので、ヒナホホの妻ルルムや、ジャーファルと一緒にシャム=ラシュを脱退したマハドやヴィッテルが、本編に登場していない理由なども、今後明らかにされることでしょう。
本編で明かされなかった真実が、外伝にはいっぱい詰まっています。ぜひ、本編と外伝の両方を読み進めてみてくださいね。