アングラ・サイコサスペンス漫画の名作『うなぎ鬼』。借金を機に闇の世界へと足を踏み込むことになった主人公が、徐々にその深部へと堕ちていく様子が描かれた内容です。 この記事では、作品の魅力と結末までの見どころについてご紹介したいと思います。作品から漂うでディープな世界観をお楽しみください。 また、ネタバレが気になる方は無料で読めるスマホアプリもありますのでそちらもどうぞ。
- 著者
- ["落合裕介・作画", "高田侑・原作"]
- 出版日
- 2014-09-22
アングラ・サイコサスペンス漫画『うなぎ鬼』。借金をきっかけにカタギの世界から外れた主人公が、裏社会の深みへと踏み込んでいく様子を描いています。
高田侑の原作小説に落合裕介が作画を手がけて完成したコミカライズした作品です。全3巻という手に取りやすいボリュームでありながら、内容は実に濃厚。読みながら言い知れぬ不安感に駆られる作品となっています。
ちなみに原作小説との違いが気になる方もいるかも知れませんのでそちらも少しご紹介。漫画作品ではほぼストーリー忠実に再現しているのですが、主人公・倉見の性格やガタイについての記載が少々異なります。
漫画ではガタイがいいということしか描かれていませんが、小説では192cm、112キロの巨体という具体的な情報が記載されています。格闘家のような体ですね。
また、倉見の性格が原作ではもう少し哲学的。小説では序盤から自分の価値観を饒舌に話す様子が見られます。
いずれにしても違いはそれくらいのこと。先ほども言ったように原作を忠実に再現しているので、絵が加わってよりその世界の恐怖が具現化したしているようにも感じられます。
この記事では、怖いけれど、それだけじゃない本作の見どころと魅力、最終3巻までのポイントについてご紹介したいと思います。闇の深い裏の社会を覗いて見たい、という方はぜひ読んでみてください。
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ギャンブルに負けて借金を作ってしまった倉見勝(くらみまさる)は、取り立て先の社長千脇公一(ちわきこういち)に借金を肩代わりされて以来、彼の元で取り立て屋として働いていました。気の弱い倉見は取り立ての仕事に苦労しますが、大きな体と強面は相手を怯えさせるのにうってつけだと、千脇からは評価されています。
ある日倉見と同僚の富田(とみた)は黒牟(くろむ)という場所にある「マルヨシ水産」に連れて行かれ、そこで臨時の運送屋を任されることになりました。せいぜい50〜60kgのコンテナをマルヨシ水産まで運ぶというもので、その給料はなんと一往復で15万円。報酬の高額さに倉見は驚きます。しかし運ぶ「モノ」に関しては、千脇はこう話していました。
「荷台の中身がなんであろうとおめえ達には関係のないことだ 知らなくていい 見なくていい 仕事は単純明快」
「おめえら達が運ぶものは他へ持ち出しても 間違っても金にはならねえぞ スケベ根性出して持ち逃げしたところで浦島太郎の玉手箱だ」
「煙で白髪頭になる程度じゃ済まねえからな それだけはよく頭にいれておけ」(『うなぎ鬼』1巻から引用)
倉見たちは何を運ばされるのか。黒牟に隠されている秘密とはいったい何なのか。真っ暗な井戸を覗き込むような、そこの見えない裏社会の闇を描き出した物語です。
まず注目していただきたいのは、物語の舞台となる「裏社会」のリアルさ。ただカタギから外れた世界をリアルに描いているだけでなく、どんな人物が、どんな失敗を犯して落ちてきたのか、という過程から想像しやすい形で描かれているため、物語の序盤から作品の世界観にどっぷりと浸かることができます。
「裏社会」なんて自分には関係ない、普通に暮らしていれば普通の未来が続いていくだろう、そう思っている人は多いかもしれません。しかしそれは「普通」以外の生活や未来をうまく想像できないからではないでしょうか。そもそも裏社会に足を踏み入れてしまった人たちの中にも、望んで足を踏み入れたわけではない人たちがたくさんいるのです。
本作を読み終えた方はきっと「裏社会への入り口はどこにでもある」ということに気づきます。そして、「裏社会のさらに奥にある闇」を知って、言い知れぬ恐怖に襲われるでしょう。
サスペンスや裏社会ものの漫画を手に取る理由の一つに「怖いもの見たさ」があります。暴力やグロテスクな現場は、間違っても実際には立ち会いたくありませんが、それが漫画や小説などのフィクションの世界となると、怖いけど見てみたい、という意識が働いたことはありませんか?
『うなぎ鬼』もその例に漏れず、グロテスクな暴力シーンがあれば、背筋の凍るような恐ろしい描写もあります。しかし本作で最も恐ろしいと感じられるのは、作品そのものが持っている「雰囲気」です。
本作には「何をしているのか」「どうしてこんなことをしたのか」という、一切触れられない謎が複数存在します。つまり読者の想像の余地が非常に広いのです。暗い世界観の中に描かれる不可解な描写は、どんな些細なシーンでも頭に残り、真相について深く考えさせられます。
物語の謎を追ううち、あなたの思う「最も怖い真実」にたどり着くかもしれません。
本作が持つ「怖ろしさ」の魅力については先ほどご紹介させていただきましたが、それだけが『うなぎ鬼』の魅力ではありません。物語を奥深くしている要素の一つに、散りばめられた名言があります。
裏社会に身を置くことで、表社会を俯瞰できるようになった登場人物たちのセリフの一つ一つからは、心に残るものをたくさん見つけられるでしょう。
「自分から進んでやくざになることはねえ 飴玉をくれるといったらありがたく受け取る それが大人の分別だ 子供扱いするんじゃねえと凄むのはガキとチンピラにまかしとけ」(『うなぎ鬼』1巻から引用)
「嘘っていうのはなあ 育つんだよ 誰も傷つかねえ誰も死なねえ それが嘘だなんて本人さえも気がつかないような蝿みてえな嘘だ だが一度うまくいった嘘は 次にはひとまわりでかくなる」「嘘に溺れて死ぬやつもいるんだぞ」(『うなぎ鬼』2巻から引用)
「人殺しが悪いことだなんていうのは子供だって知ってるが じゃあ何故それが悪事なのか あんた考えてみたことがあるか」「殺しは罪に食いつかれるんだ そういう気持ちの悪いものに一生しがみつかれるってことなんだ」「しがみつかれても平気なやつもいる わからねえやつもいる そんなやつは人じゃ……鬼だ」(『うなぎ鬼』3巻から引用)
ここでご紹介できる名言はほんの一部です。物語の流れと、登場人物のバックグラウンドを知っているからこそ、さらに深く感じられる言葉がまだまだたくさん眠っています。あなたの心に刺さるセリフをぜひ見つけてみてください。
「1日で2千万稼ぐこともできる」などと言ってギャンブルに明け暮れ、金を借り回ったせいで友人も無くし、ついには命すら危うい状況に陥ってしまった倉見。幸いにも自分を見込んでくれた取り立て屋の社長千脇に拾われ、好きになれない同僚の富田とともに、厳しい言葉を浴びながら倉見は取り立て屋の、富田はコマシの仕事をなんとか仕事をこなしていました。
そんな二人に突然言い渡された運送の仕事。運ぶものについては一切説明されず、それどころか「知らなくていい」とまで言われます。嫌な予感を感じながらも言われた通りに荷物を預かり、再び黒牟へとやってきた倉見と富田。そこで待ち受けていたものとは……。
- 著者
- ["落合裕介・作画", "高田侑・原作"]
- 出版日
- 2014-09-22
ほぼ廃墟化している黒牟に漂う薄気味悪い空気と、鼻をつく生臭さ。倉見と富田は異様な雰囲気に緊張します。たどり着いた「マルヨシ水産」は千脇の弟義道(よしみち)が管理する、うなぎの養殖場です。養殖池の他には加工用の施設もあり、「規模は小さいけれど、味には自信がある」と千脇も言います。
そこで働く従業員たちの様子が、倉見たちの不安をさらに煽ることとなりました。笑顔の不気味な老人に、目に光のない少年、そして顔のただれた中年男性。明らかに普通ではありません。今回新しく任された運送の仕事で、倉見たちが運んできた荷物は、彼らに預けることとなります。
「知ってるかい? うなぎってのはタンパク質なら なんでも喰っちまうんだそうだ…… なんでもだぜ」(『うなぎ鬼』1巻から引用)
これらの条件は、倉見たちに最悪な想像をさせました。それは、自分たちが運ぶ荷物が何であれ「生きていないもの」だということ。倉見と富田は恐怖に耐えきり、無事に荷物をマルヨシ水産に届けることができるのでしょうか。
近頃の倉見は足を捻挫して車が運転できない富田の代わりに、富田が管理する風俗店「マハロ」の女の子たちを客の元に送り届ける運転手をしていました。その日は、ちょうど新人の「ミキ」の初出勤。倉見を一目見るなりなぜか好印象を露わにしたミキに、倉見も興味と好感を持つようになりました。
女の子たちを全員客の元に送り届けた後、倉見は富田に「足の捻挫は仮病ではないか」と指摘します。実は富田は運送の仕事を回避したいがゆえに仮病を使い、自分が黒牟に向かわなくて済むようにしていたのです。嘘がバレてしまった富田は、自分が感じている黒牟への不快感と、千脇の仕事と「うなぎ」に関する恐ろしい仮説を語り出したのでした。
- 著者
- ["落合裕介・作画", "高田侑・原作"]
- 出版日
- 2015-01-26
富田は千脇に拾われる前はキャバクラの雇われ店長をしていました。その当時の客が気になる話をしていたことを思い出したのです。
「やばい死体を専門に請け負って始末する業者がいる」「死体が出ると警察が動くため、さっさと始末してもらったほうがよい」。富田はこの話を半分は嘘だと思っていましたが、半分は信じていました。そしてその「業者」というのが千脇と、マルヨシ水産だと睨んだのです。
死体の処理量は一体500万。運送した自分たちに払われる15万を差し引いたところで痛くもかゆくもありません。さらに「24時間以内にできた若い女の死体なら50万で請け負う」という噂があるとも言います。なぜなら、若い女の死体には「別の需要」があるからです。
自分が知らないうちにとんでもない事業に加担しているかもしれない、という不安と恐怖が倉見にまとわりつき、頭を埋め尽くします。家に帰って妻・朋子の笑顔を見ても、手元にある15万円の入った封筒を見ても、何一つ喜べません。
その不安を埋めるかのように倉見は、出会った時から特別な印象を抱いていたミキと徐々に親交を深めていきますが、彼女の裏の顔を知ったことで大変な事件を引き起こすこととなります。暗い裏社会のさらに奥へと踏み込んでいく倉見がたどり着く先とは……。最終3巻に続きます。
自分に好意を寄せ、優しくし、頼ってくれるミキをすっかり好きになっていた倉見。マハロの他の女の子たちから彼女に関するよからぬ噂をきいても嫉妬からくる悪口か何かだと受け止め、ミキだけを信じていました。しかし、その思いはミキが車に置いていった携帯を見てしまった時に崩れ去ります。ミキにとって倉見は好きな人でも何でもなく、「カネヅルのぶた」だったのでした。
真意を確かめるためにミキと車で二人きりとなった倉見。しかそこで彼を利用していたことに何の罪悪感も持たず「キモいブタ」だと罵るミキを相手に暴走し、襲い掛かります。泣いて嫌がっても力任せにねじ伏せて犯し、利用されたことへ復讐するかのように凌辱していた倉見はなんと、勢い余ってミキを殺してしまうのです。
取り返しのつかないことをしてしまった倉見は泣きながら千脇に連絡をします。数分で駆けつけた千脇に事情を説明すると、千脇はどこかに電話をかけ、ミキと倉見を乗せたまま車を走らせはじめます。たどり着いたのは黒牟、マルヨシ水産です。
- 著者
- ["落合裕介・作画", "高田侑・原作"]
- 出版日
- 2015-06-22
千脇はミキの死体をマルヨシ水産の従業員に託すと、倉見はミキがいた痕跡を消すために車の掃除を始めます。そしてそうこうしているうちに千脇たちが戻ってきて、「死体は処理した」と言うのです。
それからしばらく倉見は千脇の家に世話になります。殺人を犯してしまったことで不安定になった倉見を一人にしても、ヘマをして罪を明るみに出すだけだと判断したのです。そして1週間後に家に帰されますが、倉見は相変わらず罪の意識に押しつぶされそうになっています。そこへ入った一通のメール。差し出し人はなんと、殺したはずのミキだったのです。
はじめは疑いながらメールを返信していた倉見でしたが、以前と変わらないミキの様子にだんだんと錯覚をおこし、「ミキは無事だった」と思い込みます。倉見はミキに生きていてほしかったというよりも、自分は人を殺してなどいなかった、という安心が欲しかったのでしょう。倉見はミキに会い、謝って罪を許してもらおうと考え始めていました。
そこへ、ある衝撃の事件の話が倉見の元に舞い込みます。なんと、富田が殺されたというのです。首を綺麗に切り落とされ、滅多刺しにされた体は公園の桜の木に逆さ吊りにされていたそうでしいた。凄惨な現場について話す千脇は頭を抱え、倉見は呆然とします。
富田の死とミキの出現は無関係ではない。富田を殺したのはミキかもしれない。そう思わずにはいられない倉見でしたが、「あたしの顔を見て謝るなら許してやる」。そう書かれたミキのメールを信じて会う約束をしてしまうのです。
そして、ミキとの待ち合わせの場所に現れた車に乗り込んだ倉見は、ある人物の姿を見て驚愕します。その人物の手により倉見は、ミキを殺したことに対する凄惨な復讐をうけ……。
連れ去られた倉見がたどり着いたのは、やはりマルヨシ水産。そこで倉見を殺そうとしたのも、間一髪のところで助けたのも、意外すぎる人物、事実でした。さらに倉見を助けた人物から聞かされたマルヨシ水産の真実は、倉見が黒牟に持っていた真っ黒なイメージを一変させます。
黒牟に住む孤児の少女が、絵本の『舌切り雀』を読んでこんなことを言いました。「優しいおじいさんは雀から「お宝」が入った葛籠をもらい、意地悪なおあばあさんは「バケモノ」が入った葛籠をもらった」。「でもきっと、どちらの葛籠にも入っていたものは同じだった」。
ある人には宝に見えたものが、ある人にはバケモノに見えた。人間が見ているものはその人次第でどうにでも見えるということです。この少女の言葉は、本作を秀逸に表しきっているといっても過言ではありません。この言葉は倉見の心にも深く刻まれるのでした。
倉見はこの一件以来取り立て屋からは足を洗い、風俗の女の子たちの送迎の仕事をしていまいした。妻・朋子のお腹には子供もおり、家族で過ごす明るい未来を想像させます。しかし、そこにとんでもない客が現れたシーンを最後に物語は完結してしまい、読者は倉見の未来をまったく予測できなくなってしまうのです。
この結末は実に多くの考察を生み、今でもファンの間で議論されています。倉見が手に入れたのは平穏なのか、それとも波乱なのか……。どたらにせよ、ひとりの女性を殺してしまった後悔からは逃げられないのかもしれません。
重たくのしかかるような余韻を感じながら、ぜひあなたも、倉見が辿る未来を思い描いてみてください。
今回作品の魅力とストーリー全巻の見所をご紹介させていただきましたが、この世界観はやはり作品の展開、細かな描写などを読んでいるからこそ体感できるもの。
まだご紹介していない倉見を監禁、拉致した犯人や、結末の恐ろしさはぜひご自身の目で確認していただきたいです。
- 著者
- ["落合裕介・作画", "高田侑・原作"]
- 出版日
- 2015-06-22
読めば読むほど、考えさせられるものの多い本作。倉見が見た裏社会の底なしの闇と、「人間の恐怖の正体」について描いた傑作漫画を、この機会にぜひ読んでみてください。