長野で農家の嫁をやりつつ、息子を育てつつ、俳優をしている山本裕子(やまゆう)のなまぬるい子育て連載。毎週水曜更新です。第5回に寄せられたお悩み相談は「増殖するキャラグッズをなんとかしたい」というもの。噂のアンパン〇ン教とは?
子育て中の皆様ならびにそうでない皆様、アンドおとっつあんおっかさん、おつかれさまです、やまゆうです。
新年明けて一発目、どうやらあのひとについてのお悩みのようです。
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こどものいるお宅へ行くとよく、キャラクターのついたグッズで溢れていますが、わたしはできるかぎりキャラグッズをうちに置きたくありません。
しかし、子育ての先輩である友人から
「こどもはかならず一度アンパ○マンを通る」
と聞き、ガクブルしています。
キャラグッズを家に持ち込ませない、などということは可能なのでしょうか?
ちなみに、息子は今4か月です。 (P.N. かもねぎ)
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カモがネギしょってやってくる。土鍋で煮込んで、ちょいと濃いめの醤油ベース。冷やした日本酒をきゅっと呷り、〆にはぜひとも太めのうどんを。カモの脂がつやつやと、球形に輝く出汁の中へ。どーんとぶち込みたい冬の夜。ああ、最高~~。
何の話でしたっけ。
あー、頭にあんこのつまったあいつの話でしたね。
お部屋からキャラグッズを駆逐できるか。
わたしのこの3年ばかりのわずかな経験から、それでもきっぱり申し上げましょう。
ム リ で す ね。
いやいや、わたしも3年前、かもねぎさんと全く同意見でしたよ。
キャラグッズってさ、お部屋が一気に所帯じみるし。プラスチック製品多いし。お子たちもどーせじき飽きちゃうんでしょ?
だったら、職人手仕事のステキ木工製品とか、のちのちインテリアにもなるようなステキ玩具で囲んだ方が、きっとお子の感性にも~~うんぬん。
だいたいさ~、みんながみんな、同じキャラ喜ぶとか、没個性はなはだしいっすわ~。
企業側もさ~、なんでもかんでも商品にあんぱんつけりゃいいと思ってさ~、そんで強気の値段でさ~、商業的に過ぎるでしょ~。お子におもねって大儲けかよ大人げねえな~。
などと、資本主義にまで怒りの矛先が向いておったのですけどね。
このとき、わたしはまだ知らなかった。
あんぱんさまの、お子たちへの絶大なるご威光を。
お子たちがアンパンマンに夢中になっていく様を、育児界では
『アンパンマン教に入信した』
と呼びあらわします。
例のあんこつまった教祖のテレビを見るやいなや、お子たち夢中、すぐ入信。
気をつけてテレビ見せないようにしても、小児科にもスーパーにも、そのほか街のいたるところに教祖のご真影が。
さらに、保育園や託児所、公園などでふれあう先輩信者からの勧誘もある。
家族が気づいたときには、もう、遅いのです。
「あっぱー!あっぱー!」
1歳にも満たずに、教祖の名前を連呼だ。
さっきまで泣き叫んでいたお子だって、教祖の福々しいお顔を見るや、にっこり笑顔に。
そうだ うれしいんだ
生きる よろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも
お子が白米食べるのも、あんぱんさま印のふりかけのおかげでございます。
「いい子にしてたら、アンパンマンのジュース買ってあげるから!」
この一言で、お買い物もスムーズに進みます。
あんぱんさまの布教ビデオに夢中になってる間に、家事やら用事やら済ますことができます。
あんぱんさまの描かれた布パンツの魅力をもって、お子のトイレトレーニングが進みます。
あんぱんさまーー!あんぱんさまーー!
ありがたやーー、あんぱんさまーーー!!
あんぱんさまは、お子にとってのみならず、親御にとっても救いの神なのであった。
持たない、作らない、持ち込ませない。
非キャラグッズ三原則は、こうして脆くも崩れ去ります。
すると、どうだろう。
1個、たった1個取り入れたあんぱんグッズが、ある日堰を切ったかのように増殖しはじめる。本、おもちゃ、食器、歯ブラシ、ボール、砂場遊びセット、お風呂で遊ぶやつ、三輪車、バッグ、帽子、いよいよ服にまで手を出して。
「うちの子、もうこれ使わないから」
と、少し年上のお子ん家からも、さらに大量のグッズのお下がりが。
父母はただただ立ちつくし、すべてを受け入れるしかないのであった。
お子はあんぱんさまに見守られて、すくすく成長していきます。
最初「ぱー」「あぱー」「あっぱー」だった呼称が、徐々に「ぱんまん」「あんまん」と惜しいところまで。やがて、
「あんぱんまん、たべるの」
くっきりはっきり発音したお子の輝く顔を、すべての親御は誇らしく覚えているだろう。
そして始まる、あんぱんごっご。
お子「かあちゃん、えーんえーん、て言って(と、演出が入る)」
母 「あ、はい、・・・えーん、えーん」
お子「はい!あんこのつまった、ぱんをあげるよ!」
母 「ありがとう、あんぱんまん!」
お子「オーレーさーまーにーもー、よーこーせ~~~、て言って(と、演出が)」
母 「・・・オーレーさーまにも、よこせー」
お子「ゆるさないのだ! あーーん、ぱーーーんち!(まじで殴ってくる)」
母 「(痛い)ばいばいきーーーーーん!(飛んで去る)」
お子「じゃ、もっかいやって」
この一連を延々リピート。アンタどこの鬼演出家よ。
ところが。
ある日突然信者たちは、来る日も来る日も狂ったようにあんぱんまんあんぱんまん言うてたお子たちは、あんぱん教からすっぱり足を洗うのだという。
「アンパンマンなんてこどもっぽいの、もうつまんない」
おいまじか!おまいさん、まだこどもやろがい!
後に残ったのは、お子の成長と、大量のキャラグッズ。それでもあんぱんさまは、恨み言一つ言うことなく、やはり福々しい笑顔を浮かべて、また次の信者のお宅へと流れつきお子の成長を見守り続けるのであろう。
あんぱん、フォーエバー。
ということなのでね、かもねぎさん、キャラグッズは敵じゃない。育児を円滑にまわす、神からの賜り物です。お子、今4か月でしょ、ここから一気にきますよ。
こ洒落たお部屋作りは一旦おいといて、いっしょにあんぱんさまを楽しみましょうよ。いっしょに体操してさ。歌ってさ。大量のキャラクターの名前覚えっこしてさ。
あほみたいにテーマパークで大はしゃぎしましょうよ。すげえんだ、あいつらのキレッキレのダンス。まじかっけーんだ。全員3頭身のくせに。
いっしょに趣味を楽しめるのなんて、きっとほんの一瞬ですからさ。フフ、フ・・・・・・。
なーんつって、今は部屋にあふれるグッズの散らかりぶりに、血管切れそうなんスけど。いやまじで。
あとは、あんぱん卒業後の進路も気になるところ。
ライダー系、戦隊系、プリキュアだとか、リアルな電車方面だとか、その他あれやこれやどんどん分岐していくわけで。
今うちのお子は、あんぱん現役生を続けつつ、ハローキティときかんしゃトーマスに興味津々です。「キティ」の発音が難しいようでいつも、ぴぴーちゃん、ぴぴーちゃん、言うてますが。ええがなええがな、なんでも広く興味持ってったらええがな。
ちなみに、同居の84才義父はアボカドのことをどうしても
「あぼかぼ」
と呼びます。かわいらしいので、気づかないふりして訂正せず、そっと見守っています。あぼかぼ。
ではまた来週。
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次回:1月10日水曜更新予定
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