すべて放り出して旅に出てしまいたいという妄想
生活の為に働き時間が過ぎていく毎日に嫌気が差し、世界一周旅行に憧れる29歳工場勤務のナガセ。
こういうことはよくある、と思うのです。充分なすき間のない日々の中、全部放り出して旅に出てしまいたいという妄想。夢。そして、それを掲げるだけですでに自由を手にしたかの様な解放感をナガセは享受していたんじゃないでしょうか。
けれど、世界一周旅行の資金をついに貯めることができたナガセが、結局旅に出たのかどうかは本の中では分からない。
私は、出なかったんじゃないかと思います。物語が進むにつれどんどん逞しくなっていったナガセは、最後にはもう、旅に出なくとも良くなっていたような気がするのです。
現実と夢との区別が付かなくなった猫
夢に出てくる、ピンクの壁のある場所……を夢見て旅に出る猫のハスカップ。夢に見た場所に辿り着いて現実との区別が付かなくなったハスカップ、最後は一体どうなるのでしょう。
絵本なので絵と一緒にハスカップは進んでいきますがとても可愛い色と絵です。字体もファンタジー。ハスカップはどうしてもピンクの壁のあるモンテロッソに行かなくちゃいけなかったのです。
そういうことって、ありますね。私もどうしても行かなくちゃいけない所ってあるし。
「鍵のない夢を見る」人たちのお話
とても痛いお話でした。痛いところを突かれるお話。ここまで個人の領域に入ってこられるような感覚は、恥ずかしくなります。だけど物語なんですよね、不思議です。
タイトルの、鍵のない夢ってなんだろう、でも何だか惹かれる響きだなぁと思って読み始めたんですが、特に「芹葉大学の夢と殺人」という章がぐさりと来ました。同じ大学に通い、恋人同士である雄大と「私」。雄大が夢だと語る自身の将来像は、他者を寄せ付けない絶対的な正義として、2人を苦しめているみたいに見えました。そしてついに雄大は他人を殺めてもしまいます。最初からこうなるのではなかったはずだけれど、「鍵のない夢を見る」人たちのお話です。