バーボン候補として登場した安室透。実はバーボン、私立探偵、公安という3つの顔を持つトリプルフェイスの男について徹底考察しました。
- 著者
- 青山 剛昌
- 出版日
- 2012-04-14
単行本75巻から登場というかなり新しいキャラクターにも関わらず、黒の組織を追う上で重要なポジションにつき、2018年の『名探偵コナン』の映画ではメインキャラクターとして活躍するほどのキャラクター・安室透。私立探偵、バーボン、公安警察という顔を持つ安室の正体を振り返りつつ、彼について考察してみました。
単行本第75巻にて、私立探偵として登場し、小五郎に弟子入りすることでコナンや蘭とも多く関わるようになる安室透。沖矢、世良に続いて、3人のバーボン候補の中では一番最後の登場となりました。3人の中で誰がバーボンなのか……コナンと読者は3人それぞれの怪しい言動に翻弄されながらも、ついに第78巻にてその正体を知ることになります。安室透は、APTX4869の解毒剤を飲んで18歳の姿に戻った灰原の前に「バーボン」として姿を現したのです。
「バーボン」は組織でベルモット同様秘密主義者だと知られており、特にジンとの折り合いが悪いようです。ジン以上に赤井秀一に執着しており、赤井の死亡を信じず、ジンやウォッカ、キャンティやコルン、キールなどには知らせずにベルモットの変装技術を借りて自ら赤井に変装することで、赤井の死の偽装の証拠を掴もうとしていました。
また、バーボンはベルモットの秘密を知っているらしく、それをネタに彼女の協力を仰いでいたようです。
「組織のメンバーが知ったら驚くでしょうね…まさかあなたがボスの…」(『名探偵コナン』第85巻より引用)
このセリフの直後ベルモットがバーボンの頭に銃を突きつけていることから、バーボンが握ったベルモットの秘密はかなり重要なものということが分かります。組織の秘密主義者・ベルモットの秘密を握ることができるというのは、バーボンの探り屋としての実力の高さを表していますね。
黒の組織については<漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!【黒の組織編】>で紹介しています。あわせてご覧ください。
ベルツリー急行にて安室の正体がバーボンであると分かりましたが、実はそれだけではありません。安室はもっと驚きの正体を隠していたのです。
単行本84巻でコナンがたどり着いた安室の正体は、日本の安全と秩序を守るために存在する組織・公安警察、俗称「ゼロ」。ベルツリー急行で灰原を殺そうとしなかった態度、「ゼロ」という言葉に見せた反応、そして「僕の日本」という言葉に現れる信念から、コナンは安室の正体がゼロであるとほぼほぼ確信します。
コナン「安室の兄ちゃんってさ…敵…だよね?悪い奴らの…」
安室「ゼロ…僕の子供の頃のアダ名は…本当にそうだったんだ…」
安室「君は少々僕のことを…誤解しているようだ…」(『名探偵コナン』第84巻より引用)
この会話により、コナンの推理が見当違いだという可能性もありましたが、どうやらこれは安室を盗聴していたベルモットを欺くための思わせぶりな言葉だったようです。
コナンが睨んだ通り、安室透の正体は、警察庁警備局警備企画課「ゼロ」に所属する降谷零。彼は日本警察として組織を壊滅させようと潜入捜査をしているのです。
劇場版では警察庁で部下を従えている姿を、第93巻では警視庁公安部の部下に指示を出している姿を見せています。階級は分かっていませんが、29歳という若さで大勢の部下を動かせる立場にあること、部下の中には年上も交じっていることから、決して低い階級ではないことが窺えます。
少なくとも4年前には組織に潜入
第88巻では、4年前偶然兄である赤井を見つけ追いかけた世良が、赤井の連れの男を「スコッチ」というコードネームで呼ぶ安室を目撃しています。このことから、安室は少なくとも4年前には組織に潜入していたことが分かります。
「久しぶりだな…バーボン…いや…今は安室透君だったかな?」(『名探偵コナン』第85巻より引用)
また、第85巻での赤井のこの台詞から、安室は赤井がFBIだとバレて組織を抜けた3年前までにはコードネームをもらっていたということになります。
安室は現在29歳であり、第92巻の巻末の年表には6年前に警察学校を首席で卒業したことが記されています。23歳で警察学校を卒業し、警察庁に配属されたのだとすれば、黒の組織への潜入捜査の開始時期は24、25歳のときとみるのが妥当でしょう。ちょうど赤井の潜入時期と同じくらいになりますね。
組織に正体がバレる可能性
劇場版『名探偵コナン純黒の悪夢』では、ジンは「バーボンはゼロ(公安)」だと気づいているようなセリフを言っています。疑いは一応晴れましたが、ジンがバーボンを疑っていることに違いはなく、おそらく大義名分さえあればすぐにでも始末したいといったところでしょう。
「まぁ、これから先、勝手な行動は避けた方がよさそうね…組織内に鼠が入り込んで来てるって…ジンが問題視していたし…」(『名探偵コナン』第85巻より引用)
ベルモットはバーボンに秘密を握られており、彼が死ねば組織内にその秘密がリークされることになっているため、バーボンをスパイだとは思いたくないようです。もしかすると薄々感づいているのかもしれませんが、上の台詞で警告しているように、「秘密」の件を何とかするまではバーボンを始末されるわけにはいかないのでしょう。相当に危ない橋を渡っていることが分かる安室ですが、仮に正体がバレたとしても、ベルモットの秘密の件がある限り、そう易々と殺されることはないのかもしれませんね。
公安警察として組織に潜入し、組織では「バーボン」として実績を積み上げ、そのひとつの仕事として「安室透」という私立探偵として小五郎やコナンに近づく安室。そのトリプルフェイスの生活を支えるのは、彼の多才さです。
優れた洞察力
キールはバーボンのことを「情報収集及び観察力・洞察力に恐ろしく長けた探り屋」と言っています。その通り、安室は非常に観察力・洞察力が鋭く、コナンに負けずとも劣らずといったところです。
「あ、あの…どうしてそんなに切れる探偵なのに、父の弟子なんですか?どう見てもあなたの方が…」(『名探偵コナン』第76巻より引用)
蘭にまでこのように指摘されるほどですが、安室はさりげなく蘭の指摘をかわしています。その後、銀行強盗犯のPCのロック解除に手こずる小五郎をさりげなく誘導し、小五郎にパスワードの書かれた紙を発見させ花を持たせるなど、人心誘導にも長けている節を見せています。同時に、小五郎が普段パスワードを書いた紙をどこに貼っているかを聞き出すことで、後に小五郎のPCから情報を盗み出しているなど、なかなか抜け目のない男です。
ドライブテクニック
安室のドライブテクニックの高さは単行本第76巻File.5「立体交差の思惑」で知ることができます。誘拐されたコナンを車で追っていた安室は、同車している蘭や小五郎が怪我をしないよう的確な指示をし、コナンが乗せられている車に正面から自分の運転する車をぶつけることでコナンを救い出します。下手すれば大怪我しかねない荒業ですね。
高い身体能力
安室は身体能力も高く、第78巻ではテニスでかなりの腕前を見せています。ボクシングもやっているらしく、第80巻では殺人犯である宅配業者を一発で昏倒させるなど、かなり強いことが窺えます。劇場版『名探偵コナン純黒の悪夢』では截拳道の使い手である赤井秀一と張る戦闘力を見せていることからも、肉弾戦にも対応できるのでしょう。
料理やギター、その他諸々の特技
第88巻では、バンドマンにからかわれた園子をかばってギターを披露していたり、アニメでは本職のパン屋が惚れるほどのハムサンドを作っていたりと、本当に多才な安室。ピッキングや盗聴器探しなどきな臭いことはもちろん、応急処置もできますし、初登場時にドジなウェイター、第81巻ではベルモットとふたりで夫婦になりきったりと、演技力も高いです。
おそらく彼の多才なスキルは、公安として様々な犯罪組織の捜査、潜入などに対応していくうちに、また、組織の探り屋・バーボンとして活動していくうちに身に着けたものだと考えられます。
また、安室は単行本第77巻、また、劇場版『名探偵コナン純黒の悪夢』において、高木刑事の先輩・伊達航や、佐藤とかつて両想いであった松田陣平と警察学校時代の同期であることが明かされました。
安室はどちらとも親しい友人だったようで、松田には警察学校時代に爆弾の解体方法を教わっており、伊達からは心配を露わにしたメールを受け取っています。
「お前どこで何やってんだ?たまには連絡しろよな!」(『名探偵コナン』第77巻より引用)
こういったメールの内容から、安室は伊達としばらく連絡を取っていなかったことがわかります。命懸けの潜入捜査ですし、情報の漏洩は絶対に防がなくてはならなかったのでしょう。
安室は警視庁に事情聴取に呼ばれた際、警視庁には「別の用」もあったとコナンたちに漏らしています。しかし、「もう用は無くなった」と強張った表情で言い、去っていきました。これはおそらく、警視庁を訪れた際に初めて1年前の伊達の死を知ったからだと考えられます。友人との繋がりも犠牲にしてまで、安室は日本の安全のために動いているのです。
また、興味深いのは生前の伊達と高木の会話です。
高木「警察学校での成績もトップだったって聞きましたよ?」
伊達「バーカ、そいつはガセネタ、俺はいつも2番だったぜ…頭も体もアイツには一度も敵わなかったからな…」
高木「アイツ?」
伊達「お前のようなヒョロっとした優男だったよ…今はどこで何やってんだか…自分の力を過信して無茶してどっかでおっ死んじまってるかもな…」(『名探偵コナン』第77巻より引用)
おそらく、伊達が敵わなかった相手こそが安室だと考えられます。すでに述べたように、第92巻の巻末には安室が首席で警察学校を卒業したことが記されていますから、ほぼ間違いないですね。友人の伊達から見て、安室は頭脳・身体ともにかなり優秀でありながら、危なっかしい面も持っているようです。
同期から見れば危うい面があるものの、何でもそつなくこなし、トリプルフェイスの生活でうまく立ち回っている安室。しかし、そんな安室の唯一の弱点といえる存在が赤井秀一です。
安室は赤井に対してのみ、並々ならぬ憎悪を露わにし、彼が絡むと冷静に振る舞うことができなくなります。第85巻では、組織を壊滅させ得るシルバーブレットとまで言われる赤井の身柄を組織に引き渡し、組織に中枢近くに食い込む算段をつけていたり、劇場版『名探偵コナン純黒の悪夢』では、NOCリストが組織の手に渡るかもしれないというときに赤井と決闘をしたりと、いつもの安室とは似ても似つかない様子を見せています。
安室と赤井の因縁は、まだ赤井が組織に潜入している頃、赤井が組織のメンバー「ライ」として、スコッチという男を殺したことが原因です。スコッチは警視庁公安部から潜入していた男であり、安室の「本当の仲間」ということになります。
「悪い降谷…奴らに俺が公安だとバレた…逃げ場はもう…あの世しかないようだ…じゃあな零(ゼロ)…」(『名探偵コナン』第90巻より引用)
こんなメールを受けとった安室は、階段を駆け上がってスコッチの居場所へと駆けつけますが、そこにはこと切れたスコッチと、その死体の前に立つ赤井がいました。赤井は公安のスパイであったスコッチを始末したと安室に言い放ちますが、そこには悲しい真実が隠されていたのです。
赤井秀一については<【沖矢昴(赤井秀一)編】漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
スコッチの死の原因は安室の足音
実は赤井は、スパイだとバレてせめて仲間や家族の情報が入った携帯ごと自殺しようとしたスコッチを、FBIとして匿うつもりでいました。スコッチも赤井の正体を聞き自殺をやめようとします。しかし、外から聞こえてくる安室の階段を駆け上がる足音を組織のメンバーのものだと勘違いしたスコッチは、自殺を止めようとリボルバーのシリンダーを掴んだ赤井の隙をついて自殺してしまったのです。
赤井は、スコッチの死に動揺する安室を見て、彼もまたスパイであり、スコッチと同じ組織であることに気づいたのでしょう。赤井は安室を気遣って、自分が殺したと嘘をついたのです。そしてその嘘を、今現在も貫いています。
安室が真実にたどり着く可能性
しかし安室は、スコッチを赤井が殺したわけではないことを知っていました。安室はスコッチの死体の様子から、スコッチが赤井の拳銃で自決したことを見抜いていたのです。
「(あれ程の男なら自決させない道をいくらでも選択出来ただろうに…)」(『名探偵コナン』第90巻より引用)
つまり安室は、「赤井がスコッチを殺したこと」ではなく、「赤井がスコッチを見殺しにしたこと」に憤っているのです。
しかし、スコッチが死んだ後でさえ動揺しながらもその高い観察力を遺憾なく発揮していることから、安室はいつか必ず真実に辿り着くことになると考えられます。
赤井が絡むと冷静な判断ができなくなる安室は、精神面においてもかなり影響を受けるようです。正体が赤井であるとほぼ確信している沖矢とともに事件の解決にあたったときには、スコッチの死を連想させる、しかし日常的に使われるワードを聞くたびにスコッチの死亡時がフラッシュバックしているのがその証拠でしょう。もしかすると安室は、自身の精神を守るために無意識にその高い洞察力を鈍らせているのかもしれませんね。
安室とスコッチの関係
スコッチに死に対する安室の取り乱し様と、かなり長い間それに囚われ続けていること、さらにスコッチからのメールの「零(ゼロ)」というあだ名から、安室とスコッチは幼馴染的関係だったのではないかと推察されます。
第84巻で、安室はコナンに子どもの頃のあだ名がゼロだったことを明かしています。ただの仕事仲間であるのならばその呼び方はしないでしょう。
宮野エレーナとの関係
安室は第78巻で灰原に対して、灰原の両親や姉と面識があるという話をしています。しかし、考えてみれば灰原の両親は灰原が幼い頃に亡くなっています。灰原の現在の年齢は18歳であり、宮野夫妻が16~17年前に亡くなったとすれば、安室はそのとき12、13歳ということになるのです。まさかそんな頃から潜入していたわけはありませんよね。
第84巻では、安室が蘭に叱られているコナンに自身の過去を重ねるシーンがあり、そこにはケンカして泣いている安室をたしなめる宮野エレーナらしき人物が登場しています。
エレーナ「ダメって言ったでしょ?もうケンカしちゃ…」
安室「だってー…」
エレーナ「次に怪我して来てももう手当てできないよ…先生…遠くに行っちゃうから…バイバイだね…零君…」(『名探偵コナン』第85巻より引用)
この会話から、エレーナは安室に「先生」と呼ばれる存在であったこと、そしてエレーナが「零君」と呼んでいるため、やはり安室とエレーナとの交流は組織潜入前ということが分かります。まさか組織に潜入するのに本名を使うわけはないでしょう。
ここで問題になるのは、この会話のときにエレーナは組織に入る前だったのか、入った後だったのかということです。これによって、「遠くへ行く」というのが死ぬことを表しているのか非合法な組織に入ることを意味しているのか分かれることになります。
エレーナがいつ組織に入ったのかは分かりませんが、組織でのエレーナは「ヘル・エンジェル」と呼ばれ重要な薬の開発に携わる科学者であり、一般人の少年と関わることのできる立場ではありません。よって、安室とエレーナの交流は、エレーナが組織に入る前のことであり、エレーナが組織に入ると同時に終わりを迎えたのではないかと考えられます。
仮にこの会話がエレーナが組織の科学者として活動していた頃のものであるとすれば、安室はちょうど明美や灰原のように幼少期から組織に育てられていたということになります。
では、安室とエレーナの関係はいったいどういったものなのでしょうか。
安室とエレーナは親戚?
まず考えられる可能性は、安室とエレーナが親戚関係にあるという可能性です。その褐色の肌や金髪から、安室はハーフかもしれないという説があがっており、そういった質問に対し原作者の青山剛昌はそれを積極的に肯定はしないものの否定もしていません。もしも安室がハーフであるならば、イギリス人のエレーナと親戚関係があっても不思議ではないですね。
安室にイギリス人の血が流れているかもしれないという伏線には、こんなものもあります。第85巻の安室の台詞に注目してみましょう。
「さてここでクエッション…」(『名探偵コナン』第85巻より引用)
普通「クエスチョン」と発音されるところを「クエッション」と発音している安室。どうやら、ジーニアス英和辞典第4版では、「question」はイギリスではしばしば[kwéʃʃən](クエッション)と発音されるとの記載があるようです。この辞書にしか記載されていない情報ですが、もしそれが本当ならば、これは安室がイギリス育ちまたはイギリス人の母か父がいるという伏線になります。
安室が警察になったのはエレーナのため?
エレーナが組織に入るのを契機に安室の前から姿を消したのだとすれば、安室はエレーナを追うために警察になったのかもしれません。赤井がちょうど父親が追っていた事件の真相を探るためにFBIへと入局したように、安室もエレーナの姿を探すために警察庁へと入庁し、その過程で黒の組織について知り潜入捜査をすることになったと考えることができます。
ケンカして泣きつくのがエレーナという「先生」であったことから、安室は両親なき生活を送っていたと推測できます。死亡しているのか、離れて暮らしていたかは分かりませんが……そんな生活の支えがエレーナだったとすれば、安室が彼女の行方を捜そうと努力してきた可能性はあるでしょう。
以上、安室透についての考察をまとめました。スコッチやエレーナとの関係性はまだ明らかになっておらず、安室は正体は分かれどもまだまだ謎の多い人物です。劇場版と合わせて、今後どのように活躍していくのか注目です。