漫画『緋の稜線』が骨太!昭和を駆け抜けた女の人生を全巻ネタバレ紹介!

更新:2021.11.30

本作の舞台は、昭和のはじまりから第二次世界大戦、そして戦後復興期の日本。強く逞しく生き抜いた女性たちの姿をドラマチックに描いた作品です。

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名作漫画『緋の稜線』!ドラマチックに昭和を駆け抜けた女の生きざまを全巻ネタバレ紹介!

 

本作は1986年から1999年にかけて女性漫画雑誌「Eleganceイブ」で連載された佐伯かよのの作品。1998年にはテレビドラマ化もされました。

舞台になっているのは昭和のはじまりから終わりまで。戦前、戦中、そして戦後の成長期の日本を背景に、主人公・各務瞳子(かがみとうこ)の生涯を通じて複雑に絡み合う人間関係や社会の在り方などが描かれています。

女性の社会進出が進んでいなかった時代に、菱屋百貨店の副社長としてその手腕を振るう瞳子の姿は、まさに時代の先駆け。いま見てもカッコ良く映ります。
 

64年間というとても長い年月が描かれていることも本作の特徴のひとつです。親の時代にうまく解決できていなかったことが、子どもたちの時代に綻びとなって表れます。

そんななか登場人物たちはそれぞれの問題に立ち向かっていき、その姿勢こそが本作の最大の魅力だといえるでしょう。

悩みがある時は、ぜひ本作を手に取って見てください。もしかすると解決の糸口が見つかるかもしれません。

 

緋の稜線 (1)

佐伯かよの
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『緋の稜線』に生き方を学ぶ【あらすじ】

『緋の稜線』に生き方を学ぶ【あらすじ】
出典:『緋の稜線』1巻

 

本作には数多くのキャラクターが登場し、それぞれが自分の人生を懸命に生き抜きます。そんな彼らの生きざまは、時に悲しく、時に喜びにあふれ、昭和という時代背景もあいまって決して安定したものではありません。

主人公の瞳子も、意にそぐわない結婚や妊娠、そして夫である昇吾の裏切りに苦しみ、子供たちの複雑な兄弟関係とその成長に翻弄されていくのです。

困難に直面すると、多くのキャラクターが後ろ向きになり、悲観的な考えに取りつかれてしまいます。しかし彼らには必ず寄り添ってくれる人が現れ、背中を押してくれるのです。 

人生は山あり谷ありで、生きていくことは決して簡単なことではありませんが、どんな困難が降り注いでも前に進むことを諦めない彼らの姿には心打たれるものがあります。

そんな人として成長する姿が丁寧に描かれた『緋の稜線』は、1度読めば誰もが人の「心の強さ」に惹かれ、虜になってしまうこと間違いなしの作品です。

 

『緋の稜線』の魅力1:生きたいと願う登場人物たちの生命力に感動

本作には、戦争で志半ばにして命を落とすキャラクターも登場します。そんななかで惹かれるのは、「生きたい」と願う彼らの生命力の輝きです。

今回はその強さが表れたシーンをいくつかピックアップしてご紹介します。

昭和20年の東京大空襲で、各務家は家とそのほとんどの財産を無くし、一家の長である昇吾の父も失ってしまいました。食べ物もなく絶望の淵に落とされた瞳子でしたが、それでも生き抜こうとする心の火だけは明々と燃え盛っています。
 

「負けるもんですか… これくらいのことで… 生きてやる 何がなんでも生きてやる たとえ泥を食ってでも…!!」(『緋の稜線』1巻より引用)

 

 

緋の稜線 (2)

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また幼い頃から瞳子に思いを寄せいていた幼馴染の新之助は、肺病を患い余命幾ばくもない状態。そんな彼は、自分の見舞いに来た瞳子に暴行し、妊娠させてしまいます。

彼女と結婚した昇吾への激しい嫉妬と、瞳子を自分のものにしたかったという思いが先走った行為でしたが、瞳子の妊娠を知ると必死で昇吾に頭を下げるのです。
 

「お願いです… 瞳子の…… 瞳子の…… お腹の子を…… 今となっては…… 私の遺せる…… 唯一の証…… あの子を 私に…ください」(『緋の稜線』3巻より引用)

仕事が忙しく、すれ違いの日々を送っていた瞳子と昇吾。安らぎを求めた昇吾は、若き日の彼女によく似た芸者の芙美香を身請けしてしまいます。関係を続けたことで妊娠させてしまい、それと同時に芙美香は余命1年の肺結核であることも発覚するのです。

自分の人生をかけて子供を産む決意した芙美香は、子供のために咳をすることさえ堪えようとするのでした。
 

「この子のために 今は一滴の血も 無駄にはできない… 血を吐くわけには いかないんです」(『緋の稜線』7巻より引用)

瞳子は自分が生き抜くため、新之助は自分の生きた証を残すため、芙美香は子供を生かすため、それぞれが生きるためにその命を燃やしています。生へのベクトルは3人それぞれ違った方向に向いていますが、その瞬間を生きる彼らが輝いていたのは間違いありません。

生への渇望は人を強くするのです。
 

『緋の稜線』の魅力2:家族、歴史を描く骨太な時代漫画

本作の舞台は、昭和元年から終わりまで。まさに激動の時代です。

瞳子と昇吾の結婚は、この時代であれば一般的なお見合いでした。しかも結婚後数日で彼が戦地へ出征したため、瞳子は昇吾の人となりも知らぬまま各務家で暮らすことになったのです。

元来、男性側から見初められ、女性には選択権が無い結婚に懐疑的だった瞳子にとって、これは悲劇以外の何物でもありませんでした。

それでも空襲で亡くなった義父の代わりに、「菱屋百貨店」の再興を目指して奔走するのです。夫への愛情は無くとも嫁ぎ先の家族のために最大限の努力をするその姿は、昭和を生きる芯の強い女性の象徴として描かれています。
 

緋の稜線 (3)

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夫不在の間、夫の家族とともに家を守ることが当たり前とされていた時代に、それをまっとうできた女性がどれほどいたでしょうか。誰もが瞳子のように強い意志と能力で時代を生き抜いていったわけではありません。

 

 

 

経営者として成功した彼女は、そういった女性のためによりよい環境作りをしていきたいという思いを実現すべく、事業展開をしていきます。

女性が外に出て働くことを良しとしない時代に彼女が見せた快進撃は、現代の読者にも清々しく感じられるはずです。

本作は瞳子の活躍をとおして、昭和という時代と家族の在り方を絶妙なバランスで描いています。重厚なストーリーを楽しみつつ、当時の空気を感じてみてください。
 

 

『緋の稜線』ストーリーの見所1:終戦後まで

胡桃沢(くるみざわ)家の三女として生まれた瞳子。父親は大学教授です。幼い頃から強い意思を持つ聡明な少女として育ちました。女学校でも優秀な成績を修め、師範学校への進学を勧められるほどの才女。しかし、意にそぐわない結婚をすることになるのです。
 

その相手が、生涯の伴侶となる各務昇吾です。彼にはすでに赤紙が届いており、わずか一夜をともにしただけで出征していきました。瞳子は頼れる人がいないまま、各務家に身を寄せることとなります。

ちょうどその頃から日本の戦況は悪化の一途をたどり、ついには東京大空襲が。そして不幸にも昇吾の父である各務家の長が命を落としてしまうのです。

義父が死に、家と財産も焼かれ、菱屋百貨店も瓦礫の山となりました。それでもなんとか生きてかなかればならないと覚悟を決めた瞳子は、百貨店の再興を決意します。

しかし、女であるがゆえに融資を思うように受けられず、辛酸を舐めることもしばしば。それでも持ち前の前向きな性格と、義妹である和音の顔の広さを利用して、少しずつですが着実に実績を上げていくのです。

緋の稜線 (4)

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そんななか、夫の昇吾が復員し、ついに各務家へ戻って来ました。瞳子を妻として愛していた彼は、ようやく一緒にいられると喜んでいましたが、瞳子はそうではありません。昇吾の出征中も、彼の帰りを待ち遠しく思ったことは1度もありませんでした。

しかしその後は昇吾の心を知り、妻として生きていく決心をするのです。

そんな2人の気持ちが通じあった山頂のシーンは特に印象的。名ばかりの夫婦だった瞳子と昇吾が初めて2人だけの時間をじっくりと過ごした瞬間でもあります。

この先の彼らの結婚生活も、常に順風満帆というわけではありませんが、ここでのやり取りが後の瞳子の心の支えとなっていくのです。

 

『緋の稜線』ストーリーの見所2:3人の子に恵まれた瞳子

瞳子と昇吾は、3人の子供に恵まれます。しかし実際に2人の血を引いているのは、次男の昇平のみ。長男の健吾は、瞳子が幼馴染の新之助に暴行を受けた際に身ごもった子どもであり、末っ子の望恵は昇吾が身請けした芸者の芙美香との間に授かった子どもです。

瞳子のお腹に健吾がいることがわかった時、昇吾はその事実を受け止めることができず、一時は2人の関係が壊れかけたこともありました。

しかし新之助には余命があり、生きた証が欲しかったという彼の想いを受け止めた昇吾は、生まれてくる子どもを自分の実子として育てることを決意するのです。

緋の稜線 (5)

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後に2人の血を引く昇平が生まれ、瞳子はようやく昇吾と夫婦になれたように感じます。しかしその後、彼の浮気によって望恵が生まれ、引き取ることになるのです。

結核のために死にゆく芙美香を哀れに思い、同じ母として望恵を育てる決意をした瞳子。しかしそれが、彼女自身の心を追い詰めていくことになります。

はたからすれば瞳子は3人の子どもに恵まれた幸せな母親に見えたかもしれません。しかし実際には複雑な裏事情を抱えた家族関係でした。

そんななかでも、最終的には3人の子どもがいることを幸せだと思えるような答えを見つけるのです。それがどんなものなのかはぜひ実際に読んで確かめていただきたいですが、たとえ長い時間がかかろうとも、自分自身と向き合うことを諦めなかった彼女だからこそ得られた答えだといえるでしょう。

 

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『緋の稜線』ストーリーの見所3:成長した子供たちによって広がるストーリー

瞳子の長男である健吾は自分の出生の秘密を知った際、父だと信じていた昇吾から、たとえ血の繋がりはなくても間違いなく自分の息子だとハッキリ伝えてもらったことで、人生の谷を抜け出すことができました。

次男の昇平は、大学受験の失敗を機に人生の暗闇を彷徨うことになります。その理由のひとつは、自分だけが昇吾と瞳子の血を引き継いだ子どもであるというプレッシャーでした。兄の健吾や妹の望恵が優秀だったため、自分だけが劣っているという劣等感が彼を家族のなかで孤立させていきます。

遂には家出をし、数年間家族との連絡を断つまでになってしまうのです。そんな昇平と思わぬ場所で再会を果たすことになるきっかけは、妹の望恵でした。

そんな彼女も、自分の出生を知り、母との壁を感じながら居場所を探しています。

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各務家の3兄妹は、とても恵まれた家庭環境で育てられています。それでも自身の出生の秘密を知り、自分を肯定することができなくなり、おのおのが悩み苦しむのです。

 

 

しかし彼らは生きること自体は放棄せず、自分を高めるための努力を怠りません。さすが、瞳子に育てられた子どもといったところでしょうか。最終的には仲間にも恵まれ、自身の世界を築き上げていくのです。

本作の主人公は瞳子ですが、物語の後半はこの子どもたちの世代がストーリーの中心になっていきます。瞳子と昇吾の想いが彼らに受け継がれていくさまも丁寧に描かれているので、読みごたえばっちりです。

 

『緋の稜線』ストーリーの見所4:昭和の終わり【最終回ネタバレ注意】

昭和の東京オリンピックが開催された頃、瞳子にとてつもなく大きな事件が起こります。昇吾の乗った飛行機が行方不明となり、家族は大きな支えを失ってしまうのです。

それから十数年間、瞳子をはじめとする家族は、いつか彼が戻って来ることを信じていました。

望恵が交通事故に遭い生死の境を彷徨っていた時、瞳子は望恵の命が助かることを誰よりも強く願い、昇吾に祈りを捧げます。これまでにも彼女の心の中で昇吾の死を受け入れている描写はありましたが、最終回のこのシーンでは、すでにこの世にはいない者としての昇吾への想いが鮮明に描かれているのです。

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そして、望恵の手術が無事に成功したと同時に、昇吾の乗った飛行機が十数年ぶりに発見されたというニュースが飛び込んできました。やはり彼は命を落としていたという現実を目の当たりにする場面でもありますが、これでようやく昇吾が安心して旅立てるという安堵の感情もうかがえます。

 

昇吾の死、そして激動の昭和が幕を下ろした時、瞳子はひとつの時代が終わったことを強く感じたことでしょう。

彼女のこの先の人生がどれほどのものかはわかりませんが、動乱の時代を生き抜いた瞳子の余生は、穏やかな日々が待っていると願わずにはいられません。
 

 

漫画『緋の稜線』の骨太な魅力を体感してみては?

昭和という長い年月と、瞳子の人生をドラマチックに描いた『緋の稜線』。本作では数多くの魅力的な女性たちの生きざまを見ることができます。

社会的地位は現代とは比べ物にならないほど低かった時代ですが、多くの困難を乗り越えていく彼女たちの姿は芯が通っていて、凛とした輝きに溢れています。ぜひこの骨太な世界観にどっぷりと浸かってみてください。

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『緋の稜線』の連載終了は1999年。とても古い作品ですが、今この瞬間に読んでも素晴らしい作品であることは間違いありません。日本の古き良き時代を身近に感じられる本作は必読です!

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