長野で農家の嫁をやりつつ、息子を育てつつ、俳優をしている山本裕子(やまゆう)のなまぬるい子育て連載。毎週水曜更新です。第7回に寄せられたお悩み相談は「息子と夫との三角関係に悩んでいる」というもの。山本裕子はどう答える?
子育て中の皆様ならびにそうでない皆様、アンドおとっつあんおっかさん、おつかれさまです、やまゆうです。
今週はこのようなほっこり相談をいただきましたよ。
_____________
3歳の息子のことで相談です。
うちの子はママ大好きっ子。
「大きくなったらママと結婚する」
と言って、ダンナにヤキモチを焼くようになりました。
私とダンナが話していると
「ねえねえねえなんのはなし???」
と割り込んでくるし、軽いハグでもしようものなら
「やめろーーーッ」
とダンナに殴りかかります。
どうしたら息子を傷付けずにダンナとの関係を認めてもらえるでしょうか?ダンナと会話
すらできず、ちょっとストレスです(汗)。 (P.N. たっくんママ)
_____________
わたしーの ためーに
あらそーわ ないーで
お子と、配偶者の、板挟み。はいよ!
エディプスコンプレックスとか、そんな小難しい話は一切シカトだ。
そうですか~、お子、もう大人が話してる内容がわかるようになってきたんですね~。会話に混ざりたくってしょうがないんだな。見てよママ!ぼくのこと見て見て!だ。かわいいなあ!
なんか、ものの本によると、母大好き期と、父大好き期が交互にやってくる、とか言いますけども、どうですか。
もうちょい人間初期の頃だと
「仕事で家を離れる『レアキャラ・父』のことばかり、お子はスキスキ言う!悔しいィ!」
と四六時中つきっきりでお世話している母たちが、己の報われなさを嘆く光景を見かけますが、それは、まだお子にとって母は自己の延長であって、他者とは認識してないからだ、とかなんとか。
そんで今度は、ずっとスキンシップできるママ大好き~か。そんでそのうち、口うるさいママきらい~遊んでくれるパパ大好き~か。それもしばらくしたら、やっぱりママのほうが~か。どこまでも翻弄しやがるぜ。
うちもたぶん今、母好き期のようです。たぶん。というか、2か月間実家に放り投げた後なので、反動でものっすごい甘えっ子になっています。いやー、そりゃそうだわなー。無理もないことです。誠心誠意、渾身のボディアタックを受け止めています。
が、それにしても、だ。
お風呂は生まれた当初から夫担当だったのが、ここにきて
「かあちゃん!かあちゃんと入るの!かあちゃんの、『か』!」
とよくわからん主張で、数少ないひとり時間を満喫していた入浴が、お子といっしょに恐竜やらゾウやらキリンやら計9頭を次々沐浴させるという修行の場に。
今年の初詣だってさ。
「だっこ!だっこで行くの!」
「かあちゃん、だっこしてよ!かあちゃんの、『か』なの!」
とこれまたよくわからん感じで飛びつき抱っこ、そのうち腕がもげそうになったのでおんぶで神社の石段を登り、なんだこれ野球部の特訓か、17キロ担いで下半身強化してんのか。
そして参拝を待つ長い行列、天下のパワースポット・諏訪大社は入場制限だ、その間ずうううっっと抱っこで、お子ははしゃいで右に左に重心を移し、いい加減夫に放り投げて遁走したいが周りを参拝客にぎゅうぎゅう包囲される中それもできず、ああ神さま、どうかわたしに鋼鉄の腕と背筋をお与えくださいって、ちょっと待ってウソウソ、なんで初詣でそんなことお願いせなあかんねんな、ほんまにそんなもん与えられたら迷惑この上ないんですけど!
そこで、母ちゃんべったりのこの現状をなんとかしたいと、このところ実践しているのが
『スマップ大作戦』
ことあるごとに
「母ちゃんはね、父ちゃんのことがだーいすきなんだよ」
「父ちゃん、すごいねー かっこいいねー」
と父ちゃん礼賛。お子が父ちゃんを叩いたりしようもんなら
「やめてよ!母ちゃんが大好きな父ちゃんを叩かないで!」
どうですか、このわざとらしいほどの『父ちゃん大好き』アピール。
(お子は)世界で2番目にスキだと話そう
って、それどこのらいおんハート。
『われが好きな母ちゃんが好きなものは、われも好き』法則を利用して、好き好き~を父ちゃんに移すのです。
あったでしょ、大好きなひとが好きなバンドや作家を好きになったりさー。そんでふられるやいなやCDと本泣きながらごっそり捨てたりさー。あいたたたたた。
いや、実際に夫一番お子は二番、三時のおやつは文明堂、じゃなくていいんですけど。父ちゃん大好き~でお子が夫に気をとられている間に、こっちは家事したり仕事したりさ、いろいろやりたいのよ。いうなれば、夫は生け贄だ。でも、好き好き~てお子に言われて夫ニコニコ、遊んでもらえてお子ニコニコ、自分の時間できて母ニコニコ、どうよこの三方丸く収まる大岡裁き。
まだ目立った成果は見られませんが。
まあそれはさておいて、朝目が覚めて、くっそーもうそろそろ起きなきゃなーだりぃなあーなんて考えているとき、寝ぼけたお子がもぞもぞ寄ってきて
「んん~ん、ねんね~」
つってちっちゃい腕で頭をぐいっと引き寄せられたりすると、こちとら四十路ですけどなんだか胸がきゅんってなるわい。なんだよ、3才児のくせにかっけーな、キムタクかよ。
そんなお子が、あと10年もすりゃあ立派な第二次反抗期だ。
「部屋、勝手に入んじゃねえ!」
「小遣い足りねえんだよ、金よこせよ!」
バットを振り回し、家の中はめちゃめちゃです。夫より背の高くなった息子に、だれも手出しできません。
「もうやめてェェ!アンタぁぁ!」
「あああ、その通帳には今月の生活費が~~」
「うっせーババア!ぶっコロスぞ!」
家庭、崩壊。
こんなの、想像もしてなかった。
「かぁちゃん~おくちにちゅーしちゃうじょ~」
「かあちゃあ~ん、だあ~いしゅき!」
常に母の後ろについて歩き、全開で甘えてきたあの息子が、あああ・・・!
さ、そんな将来を見据えて、今のうちにママ大好きなあいつらの言動の数々を、きっちり録音・録画、証拠品として厳重に保管しておきましょう。
そしてお子の結婚式当日、思い出ビデオのコーナーでそれを流してやるのさ。新婦側の招待客はドン引きだ。やがては最初微笑ましく見ていた新郎側までも。
おい、そこに座ってる嫁よ!おまえさんの夫となる男はナァ、散々アタイと結婚したいっつってたんだよォ!
アンタぁぁ、アタシを捨てる気・・・?
気持ちは、映画「二代目はクリスチャン」のかたせ梨乃です。まあそれだと新郎の岩城滉一刺しちゃうけども。この頃のかたせ梨乃はほんとにステキだった。おっぱいぽろりをものともせず、オンナの業、をこれでもかこれでもかと。極道の妻たちしかり、青春の門しかり。
しかしこの映画で最もすごいのは、なんてったって蟹江敬三だ!ほんっとに、まじで、リスペクト。物語後半で独白する長ゼリ、ほんともう、たまらんぞ。これこそ声に出して読みたい日本語。
姐さあぁ~ん、どこにいますのや~。
ではまた来週。
_____________
お悩み、ご相談、愚痴などの送り先はこちらまで。
次回:1月24日水曜更新予定
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。