弐瓶勉のおすすめ漫画5選!『人形の国』などSF作品が魅力

更新:2021.11.27

ハードSFを得意とする弐瓶勉。国内外を問わずコアなファンを抱えています。その絵柄と作風から敬遠する方もいるかもしれませんが、練り込まれた世界観はさすが世界レベルです。今回はそんな彼の魅力をたっぷり味わえる作品をご紹介します。

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弐瓶勉とは。世界が認めるSF漫画の第一人者

弐瓶勉(にへいつとむ)は1971年2月26日生まれ、福島県出身の男性漫画家です。1995年に「アフタヌーン四季賞」夏のコンテストで短編版『BLAME』が審査員特別賞を受賞。その後髙橋ツトムのアシスタントを経て、1997年「月刊アフタヌーン」で『BLAME!』の連載を始めました。

高校卒業と同時に上京した際は、一時は建築関係の仕事に携わっていたそう。彼の作品でたびたび見られる背景建築物の緻密さは、この時の経験によるものかもしれません。

弐瓶が得意とするジャンルは、超高度に発達した科学技術が登場するハードSF。世界観をあえて語らずに読者の想像に委ねることが多く、その分やや敷居が高いものの、1度はまれば抜け出せない作風となっています。

海外での評価も非常に高いですが、国内でも影響下にある漫画家は多く、たとえば『進撃の巨人』の諫山創はファンであることを公言しているのです。

この記事では、そんな彼の代表作を含め、おすすめの作品を5つご紹介していきます。

弐瓶勉の最新作!復讐を胸に秘め、少年は巨大帝国に立ち向かう『人形の国』

巨大な人工天体「アポシズム」の表層、極寒地帯に人々は暮らしていました。地底には中央制御層と呼ばれる場所があるのですが、50世紀前に地底との戦争に敗れた人類は、そこを訪れることはできません。

「白菱の梁」で身を寄せ合って生きる少年のひとり、エスローは、行軍訓練中にタイターニアという不思議な少女と出会いました。リベドア帝国から追われていた彼女を助けるも、タイターニアは「コード」を託して消滅してしまいます。

「皇帝の手に渡れば世界が終わる」というそれを持ってしまったがために、エスローは故郷と仲間を失ってしまいました。仇討ちを心に決めたエスローの旅が始まります。

著者
弐瓶 勉
出版日
2017-05-09

2017年から「月刊少年シリウス」で連載されている作品。ガチガチのSFから一変して、ファンタジー色が色濃く表れています。

荒涼とした大地、限られた資源、失われた文明……弐瓶が影響を受けたと挙げる作品のひとつ『風の谷のナウシカ』を思わせる雰囲気が感じられるかもしれません。

エスローは、タイターニアが持っていた「コード」によって「正規人形」という姿に転生(変身)します。これが非常に示唆的で、「エナ」と呼ばれる物質を纏って「ヘイグス粒子」で戦うのです。どちらも『シドニアの騎士』で登場した用語なので、読者としては繋がりが気になるところ。

序盤でいきなり消滅してしまったヒロインのタイターニアは、奇妙なマスコットのような姿で再登場します。中央制御層からやって来たというタイターニア。世界が終わってしまう、と言う彼女の真意は?彼女を追っていたリベドア帝国の目的とは一体?

始まったばかりでまだまだ謎が尽きない、弐瓶勉の最新作です。今後の展開が楽しみですね。
 

『人形の国』については<漫画『人形の国』の魅力をネタバレ考察!弐瓶勉が描くダークファンタジー>で紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。

弐瓶勉の代表作!太陽系規模の都市を舞台にしたハードSFの金字塔!『BLAME!』

遙かな未来。コンピューター技術が発達しすぎてシステム不全に陥り、「超構造体(メガストラクチャー)」と呼ばれる巨大な階層状都市の制御が失われ、都市構造物が際限なく増殖し続けていました。

主人公の霧亥(きりい)は、何者かの指示によって数千、数万ものフロアを探索しています。彼が探しているのは「ネット端末遺伝子」という、都市中枢機能にアクセスして正常化できる特別な因子を持った人間です。

暴走する都市防衛機機構の「セーフガード」や、都市の混沌を望む珪素生物の妨害によって、端末遺伝子の捜索は困難を極めます……。

著者
弐瓶 勉
出版日
1998-06-20

1997年から「月刊アフタヌーン」で連載されていた作品。弐瓶初の長期連載作であり、代表作かつ実質的なデビュー作ともいえるでしょう。

連載開始から20年以上が経ちますが、いまだ国内外にファンが多く、熱狂的に支持されています。セリフや状況説明は最小限であるにも関わらず、ページの描き込みが膨大で、緻密な作画に詰め込まれた情報量の多さが言葉の壁を越えて読者を惹き付けているのでしょう。

高度情報化社会を予見したかのような「ネット端末遺伝子」という設定、珪素生物をはじめとするサイボーグ、そして無秩序に増殖する都市……「重力子放射線射出装置」のようなゴテゴテした単語のガジェットも魅力的です。

『BLAME!』の世界は本作だけでも楽しむことができますが、弐瓶の他作品でも設定を共有しているような描写がちらほら見られます。とくに『NOiSE』は本作の実質的な補完作品で、『BLAME!』の数千年前の世界が描かれており、本編で語られなかった謎が明かされていくのです。

気になった方はぜひ両方チェックしてみてくださいね。
 

ハードSFで、ラブコメで、しかも学園モノ!?『シドニアの騎士』

未知の生命体「奇居子(ガウナ)」が太陽系を破壊してから1000年。人類は安住の地を求めて播種船(はしゅせん)を造り出し、そこで生活をしながら移住できる惑星を探していました。

物語の舞台は、その播種船のひとつである「シドニア」です。

いまだガウナの追撃を受け続けているシドニアは、機動兵器「衛人」によってかろうじて生き延びています。主人公の谷風長道(たにかぜながて)はシドニア最下層に住む非正規の住人でしたが、ひょんなことから衛人の操縦士の訓練生へと抜擢されました。

そこから、命懸けの戦闘の日々が始まります。
 

著者
弐瓶 勉
出版日
2009-09-23

2009年から「月刊アフタヌーン」で連載されていた作品です。これまでの作風とは打って変わって、学園ラブコメの要素を含んだロボットアクション漫画となっています。弐瓶勉が学園ロボットもの、しかも萌えを取り入れている……と当時は騒然となりました。

しかし、蓋を開けてみれば弐瓶節は健在。キャッチーなキャラクターを登場さえつつ、相変わらずの無慈悲で虚無な世界観です。

巨大ロボットアクションも彼の手にかかれば、命をかけたSFに早変わり。主要な人物があっさりと死にます。一方、苛烈な戦闘とは対称的な日常生活では、立派にラブコメが展開されているのです。

ロボットアクションにハードSFの新風をもたらした快作で、また他作品と比べて読みやすいため、初心者にもおすすめ。「東亜重工」、「重力子放射線射出装置」など過去の作品を連想させる単語も登場するので、弐瓶は好きだけど食わず嫌いをしていたという方もこの機会にぜひ読んでみてください。

弐瓶勉のハイスピードSFアクション!『Biomega』

西暦3005年。データテロによって文明が衰退し、世界は技術文化遺産復興財団「DRF」の支配下にありました。人類は7世紀ぶりに火星への有人飛行を成功させましたが、帰還した探査船に付着した未知のウィルス「N5S」によって、「ドローン禍」と呼ばれる未曾有のバイオハザードが発生します。

東亜重工はN5Sウィルスの適応者を保護すべく、合成人間の庚造一(かのえぞういち)を派遣。彼はDRFが管理する人工島「9JO」へと乗り込んでいきます……。

著者
出版日

本作は2004年から「週刊ヤングマガジン」、後に「ウルトラジャンプ」に移籍して連載された作品です。弐瓶の長期連載としては2作目にあたります。

画風は前作の『BLAME!』とほとんど変わりませんが、セリフの量が増えており、登場人物の内面をより把握しやすくなっています。

また前作のモチーフが、インターネットやメガストラクチャー、サイボーグなど無機的なものが多かったのに対して、タイトルにもなっている「バイオ」、なわち有機的、生物的なモチーフが多く見られるのも特徴です。

アクション表現にはさらに磨きがかかりました。主人公の庚造一は専用のバイクに乗車し、拳銃型のガジェット「弾体加速装置」でスタイリッシュに戦います。また相方役として「カノエ・フユ」というバイクに搭載された女性型AIも登場し、公私ともに造一をサポートするのです。

ドローン禍に見舞われた世界でのスピーディかつ濃厚なアクションは、1度読みはじめたら途中で止めることはできません。
 

異色のダークSF!謎の白い異形が人々を襲う『アバラ』

巨大建造物「廟」がる世界。誰かが造ったのか、自然にできたのか、意味は何なのか、人々はもう忘れ去っていました。しかしそこには、怪物が巣くっていたのです。
 

およそ600年前に突如現れた正体不明の生物「奇居子(ガウナ)」は、人間に寄生し、爆発的に被害を広めました。

対抗できるのは「黒奇居子(クロガウナ)」を移植された人間だけです。主人公の駆動電次(くどうでんじ)は、クロガウナのひとりとして、騒動へ巻き込まれていきます……。
 

著者
弐瓶 勉
出版日
2006-05-19

2005年から「ウルトラジャンプ」で連載されていた作品。作風自体はかなりハードボイルドでSFなところも変わりませんが、クロガウナという設定からはヒーローもののようにも受け取れます。

気になるのはやはり、「ガウナ」という単語でしょうか。『シドニアの騎士』に登場するガウナと同じ文字を使い、性質もよく似ています。

しかし両作にどのくらい繋がりがあるのかは不明。スターシステムにも似た用語の使い回しなのかも知れませんし、ひょっとすると『シドニアの騎士』の前日譚かも……。そうなると本作の未来はかなり絶望的になりますが、そうやっていろいろと想像しながら読むのも弐瓶作品の楽しみ方のひとつでしょう。

ガウナとはなんなのか?「廟」と呼ばれる忘れられた建造物の真相は……?謎が謎を呼ぶ波乱の物語です。

初期作品が難解なのは事実ですが、近作は絵柄も内容も一般受けを意識したものが多く、手に取りやすくなっています。どれかひとつでも琴線に触れたタイトルがあれば、ぜひそこから弐瓶ワールドへ足を踏み入れてみませんか?

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