1936年2月26日に陸軍の青年将校らが約1500人を率いて起こしたクーデター未遂事件です。なぜ青年将校たちは暴走したのでしょうか。この記事では、二・二六事件の発端や派閥問題をわかりやすく説明しながら、おすすめの関連本を紹介していきます。
1936年2月26日の早朝に東京を震撼させるクーデター未遂事件が起こりました。それが、二・二六事件です。陸軍の青年将校たち筆頭に、約1500人もの反乱部隊が東京でクーデターを試みたのです。
彼らは首相官邸や朝日新聞社などを襲い、陸軍省、参謀本部、警視庁などを占拠します。そして、当時の首相である岡田啓介と間違われた義弟で海軍大佐の松尾伝蔵、大蔵大臣の高橋是清、内大臣の斎藤真、教育総監の渡辺錠太郎たち9人を暗殺したのです。
東京市では翌日27日にこのクーデターに対して戒厳令が公示されたのち、反乱が鎮圧されたのは事件3日目の28日でした。
その後、責任を取って岡田総理は辞職をし、皇道派の青年将校たちは処刑され、二・二六事件は幕を閉じました。
当時金融恐慌やニューヨークで起こった世界恐慌により、中小企業の倒産や賃金の不払い、デフレからの農作物の価格下落による農村のダメージなど、日本経済も大きな打撃を受けていました。
このころから、日本でも天皇を頂点と考える共産主義がベースの民間の右翼団体によるテロ事件が頻発します。満州事変直後から、十月事件や血盟団事件、海軍青年将校が中心となって起こした五・一五事件などが良い例です。
日本は「話せばわかる」という犬養毅のような認識が通用した大正デモクラシー時代から、「問答無用」という一言で射殺するようなファシズム時代に転換していきつつありました。
また、国内の経済事情はというと、都市部と地方との経済格差がひどいものでした。
都市部はどんどん教育や産業が発達し、生活レベルが文化的に発展していきました。一方で、地方の農村部は身売りや間引きなどが横行し、ガスや上下水道の設備も整っていないほど、まだ江戸時代とそれほど変わりないような生活が続いていたのです。
そんななか、日本陸軍は地方の貧しい農家出身者が多かったのもあって、このひどい貧富の差に対して矛盾を感じるものが増えていきました。「これらの経済悪化の原因は政治にある」と考えたのです。
そして、「天皇のもとで平等な社会を実現すべきだ」という考え方が発展し、「天皇をそそのかして私利私欲を目指す政治をしようとする人間を討伐しなければならない」という思いが生まれます。
これが「尊王討奸(そんのうとうかん)」であり、二・二六事件が起きるきっかけとなった思想でした。
十月事件後から当時の陸軍内は「皇道派」と「統制派」と2つの派閥に分かれていました。二・二六事件は「皇道派」が起こした事件です。どちらも陸軍の派閥のため、基本的には国造りには軍の強化が必要不可欠であるという理想を掲げていました。
皇道派とは、軍部政権の樹立のためにはテロをも辞さない過激派組織であり、武力という直接行動を是認する派閥です。
「君側の奸」を討ち、天皇親政の政体を実現すべきだという思想をかかげていました。メンバーとしては若手将校らが多いため、軍と国家の改造を直接狙うしか革命の方法はありませんでした。メンバーの中心人物は荒木貞夫や真崎甚三郎、相沢三郎たちです。
皇道派の主張は、短期決戦を想定した十分な規模の軍力を日ごろから維持すべきだというものでした。なかでも、荒木や真崎は、日本の理想の状態は日露戦争期であると主張していました。そうなれば、軍力の拡大、そして対ソ連への早急な攻撃が決行されるだろうと考えていたのです。
一方で、統制派は、皇道派の反作用として誕生したといえる、クーデターよりも合法的に軍部政権を作ろうと企てる穏健タイプの派閥です。
彼らが目指すは国家総力戦を戦い抜ける長期戦を想定した高度な防衛国家でした。そのため、より質の固い装備への改善のため、平時の軍力は削減してもよいという主張をしていました。メンバーは陸軍省や参謀本部などの中堅幕僚将校が多く、中心人物は東条英機や永田鉄山、石原莞爾などです。
そして、1931年に起こった三月事件や十月事件、そして1936年に起こった二・二六事件などのクーデターは皇道派が計画したものでした。
陸軍が2つの派閥に分裂し、そのうちの戦闘集団ともいうべき皇道派たちによって二・二六事件は起こりました。このクーデターは未遂に終わり、青年将校たちは処刑されます。
彼らが求めた「昭和維新」とは何だったのでしょうか。
- 著者
- 高橋 正衛
- 出版日
- 1994-02-01
この本では、陸軍内の2つの派閥のそれぞれの思想と動機、行動を分析しており、互いの視点を比べながら読むことができます。
また、青年将校が処刑前に残した言葉が遺書から引用されており、当時の若き軍人なりの国への熱い想いが感じられるでしょう。
近代日本史上で日本を震撼させたクーデターのひとつが二・二六事件です。その、無謀とも思えた当時の青年将校たちの計画から実行、のちの影響など事件の流れを手ごろに把握できる一冊です。
- 著者
- 筒井 清忠
- 出版日
- 2014-07-22
この本では、事件前後にとどまらず、大正デモクラシー時代に始まった「国家改造」運動のころから書き記されており、二・二六事件に至るまでの背景が理解できます。
当時の日本で、いったい何が起きていたのかを理解するなら最適の一冊であるといえるでしょう。
二・二六事件には、志に殉じた青年将校たちと、その男たちに翻弄された女たちがいました。
この本は、事件によって逆賊の汚名を着せられながら処刑された者の未亡人として、耐えながら生きた妻や家族の影の日本史が描かれています。
- 著者
- 澤地 久枝
- 出版日
- 1975-02-10
事件で散った将校たちの多くは既婚者であり、残された妻たちの多くは20代半ばという若さでした。
本書では、若き彼女たちが二・二六事件といかにして向き合い、対処し、残りの人生を生き抜いたのかということをノンフィクションで記述されています。
二・二六事件をさまざまな視点から読み解くうえで、おすすめです。知られざる女たちの戦いを記録に残した本書をぜひ手に取ってみてください。
二・二六事件をきっかけに軍部の政治への影響力はますます強くなっていきました。
よく、この事件によって日本は戦争へと向かうことになってしまったなどと表現されますが、実際のところはそう単純でもありません。この事件があったからこそ、日本に緊張感が漂い、様々な分野から幅広い人材を集めて政治体制をつくる挙国一致内閣が生まれたという一面も存在するのです。
おすすめの3冊とともに、日本の進路に大きな影響を与えた二・二六事件についてあらためて触れてみてはいかがでしょうか。