生きるのも大変なので、本に聞いてみた

更新:2021.12.6

本は私たちの生活のヒントになったり、新しい出会いを与えてくれるものだ。料理本などの実用書や、ノウハウの書かれたビジネス書など、その用途に特化した本もある。しかし、何かの用途の為だけに本を読むのも少し窮屈だ。もっと曖昧で自由度の高いものはないだろうか。だって、人生はなかなか思い通りにいかないのだから。

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例えば人間関係

どこで、だれと、どんな風に生きるのかは、とても大事なことだと思う。一つの出会いやきっかけが人生を変えることはいくらでもある。ただ、その出会いや生き方ほど、自分の自由に出来ないものもないだろう。

学校、職場、あるいは家族。どこでだれと出会うかは全く想定できない。たとえば『椿荘101号室』(ウラモトユウコ、マッグガーデン)の主人公、春子もそう。同棲していた彼氏にフラレて、とにもかくにも飛び込んだ新居が、高層マンションの隙間にひっそりとたたずむ、二階建てのボロアパート、椿荘。

ここまで聞くとなんだかオシャレなシェアハウス生活や、あるいは管理人さんとの新しい恋、などを想像するが、そうはならない。そもそもこの春子、致命的に生活能力がないのである。どう考えても一人で生きていけない春子(もちろん本人に自覚はない)は、椿荘のメンバーにご飯(有料)を作ってもらったり、お風呂(これも有料)を貸してもらったりしながら、生活していくのである。

この春子が成長する……かどうかは連載にゆだねるとして、住む環境というのも、生活を左右する大きな要因だろう。

著者
ウラモトユウコ
出版日
2014-05-14

あるいは住まい

では出会いを求めてアパートに引っ越し、というのも早急だ。すでにマイホームをもっていたり、仕事の都合で簡単に移れない場合もあるだろう。さまざまな理由で、好きな土地には簡単に住めない。

では、別荘はどうか。もちろんそんなお金はない。作るのである。『モバイルハウス 三万円で家をつくる』(坂口恭平、集英社)ではタイトル通り、三万円で三畳のモバイルハウスをつくり、都内の貸駐車場に“駐車”する。

実際に生活もするし、出前も頼めば、郵便も送る。モバイルハウスを制作する工程も書いてあるので、自分でも出来る気がしてくる、というか同じようにすれば出来てしまうのである。

著者
坂口 恭平
出版日
2013-08-21

ならば家具

しかし、いきなり住む、というのもハードルが高いかもしれない。では、家具ではどうか。本棚である。『清く正しい本棚の作り方』((TT)戸田プロダクション、スタジオタッククリエイティブ)は、ただ誠実に本棚を作る本だ。本のある素敵な生活とか、空間作りという側面は薄く、ただただ無骨に一つの本棚を作る。

DIYの“雰囲気”を感じるビジュアル本ではなく、本気で作る。ガチな指南書だ。この本なら間違いなく作れる。家と家具が作れれば、なにものにも縛られない。生活も思いのままである。

著者
(TT)戸田プロダクション
出版日
2009-11-28

それよりも料理

DIYで少しテンションを上げすぎたようだ。もちろん、大工仕事はちょっと、という方もいるだろう。ならば料理では?

『ホクサイと飯』(鈴木小波、KADOKAWA)はいわゆる料理マンガだ。女性マンガ家の山田ブン(ペンネーム)が、〆切直前に原稿の白さよりもご飯の白さに耐えられずのり佃煮を自製したり、自転車の駐輪違反の罰金に取られた3,000円の悔しさに、同じ値段で“豪華うどん”を作ったりする。大変間違った方向に料理をこじらせたマンガだ。

ただ、読んでいるとふと気づくのだが、彼女は料理が好きなのではなく、美味しいごはんが好きだから、そのために料理をするのである。つまり、おいしいごはんの為に正しい方向で全力なのだ。また、彼女が作る料理や生活スタイルは常に庶民的。その生活とごはんへの欲望は私たちに通じている。

著者
鈴木 小波
出版日
2013-10-22

そして最後には……

さて、ここまで「生活を良くする」という側面から本を紹介してきた。しかしもしかしたら、何をやってもダメ、もう人生に絶望してしまった人もいるかもしれない。そういう時は最終手段、『タイムマシンのつくりかた』(ポール・デイヴィス、林一訳、草思社)だ。

この本は、荒唐無稽なバカSF本ではない。あくまで本気で、科学的にタイムマシンの可能性を探っているのだ。「アルベルト・アインシュタインがはじめてタイムトラベルの可能性を証明したのは1905年のことだった」(19p)。この一文に可能性を感じた方は本書を読むべきだろう。

もちろん、未だ実現していない科学、課題も多い。しかし残りの人生、すべてをかけて完成させることが出来れば、タイムパラドックスの問題はあるものの、過去も未来も大きな可能性が開ける。人生最大のギャンブルに身を投じてみるのも一興だろう。

著者
ポール・デイヴィス
出版日
2011-12-02

さて、「本」で生活が良くなる気がしてきただろうか。 
なおこの記事を読んで、いかなる人生の岐路に立つことになっても苦情は受け付けていないのであしからず、ご了承されたい。

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