「フクノカミ」と呼ばれる奇妙な生き物によって、とある島の生活が変わっていくさまを描いたSFホラー漫画『ゴールデンゴールド』。不気味な恐ろしさと謎を追求していく面白さをあわせもった作品です。
『刻刻』で注目を集めた堀尾省太が描くSFホラー漫画『ゴールデンゴールド』。人間の「願い」と「欲望」に焦点をあて、登場人物たちが徐々に変貌していくさまが描かれています。
物語の舞台は瀬戸内海にある「寧島(ねいじま)」という架空の島。学校や病院など最低限の設備はありますが、スーパーは1軒しかなく、少々不便。これといった産業も無いので、観光客が来ることもめったにありません。
しかし寧島はかつて、「フクノカミ」と呼ばれる存在によって繁栄していた時期がありました。そして再び現れた「フクノカミ」。その日から、島は変わっていきます……。
本作の魅力は、やはり不気味さでしょう。その気持ちを解消したいがゆえに続きを読み進め、いつの間にか作品の世界に入り込んでしまうのです。
この記事では、そんな『ゴールデンゴールド』の各巻の見どころと魅力を紹介し、物語に散りばめられている謎の考察もしていきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
堀尾省太のデビュー作『刻刻』については<漫画『刻刻』全8巻の伏線をネタバレ解説!【アニメ化】>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
- 著者
- 堀尾 省太
- 出版日
- 2016-06-23
祖母とともに瀬戸内海の「寧島」に住んでいる女子中学生、早坂琉花。ある日海辺で、奇妙な彫刻のようなものを見つけます。
深く考えずに家に持ち帰り、洗ってから山中の祠に祀りました。
願いごとをすると……なんとその彫刻が動き出し、その日以降琉花の家に居座るようになったのです。
どことなく七福神の「福の神」に似ているため「フクノカミ」と名付けられたそれは、琉花の願いを叶えるため、寧島を欲望に染めていきます……。
瀬戸内海に浮かぶ寧島で、祖母とともに暮らしている中学生の早坂琉花。及川という同級生のことが気になっていました。同じ高校に進学するだろうと思っていましたが、彼は大阪の高校に行くとのこと。
最大の理由は及川の父親が仕事で大阪にいるからなのですが、彼はもうひとつ、「アニメイトが家から近い」ということも理由にあげました。1年後には離れ離れになってしまうことにショックを受けた琉花ですが、自分の気持ちを伝えるほどの勇気はありません。
そんなある日、彼女は海辺で奇妙な彫刻のようなものを見つけます。七福神の「福の神」に似ていて、不気味だなと思いながらも、なぜか家に持ち帰りました。スポンジで洗い、冷静になってみるとやはり気持ちが悪いので、近くの山中の祠に祀ります。
そして、なかば冗談のように、祈りました。
「どうかここに でっかいアニメイトが建ちますように」(『ゴールデンゴールド』1巻より引用)
その直後、「福の神」がまるで意思を持った生物のように動きはじめたのです……。
- 著者
- 堀尾 省太
- 出版日
- 2016-06-23
1巻では早々に「フクノカミ」が登場。そして琉花の祖母が経営している民宿に居座るようになります。
それ以降、なぜか民宿には次々とお客さんが来るようになりました。さらに、一緒に営んでいる小さな商店も大繁盛。仕入れが追い付かないほどになります。
ここで気になるのが、フクノカミに対する認識の齟齬が生じていること。島の出身ではない琉花と、民宿に泊まりにきている小説家の黒蓮、出版社の青木には地蔵のような姿をした奇妙な生物に見えているのですが、島出身の人たちからは50歳前後の小柄なおじさんに見えているようなのです。
また、祖母の様子にも変化が現れました。フクノカミが座れる神棚のような祠のようなものを部屋の中につくったり、ぼーっとお金を見つめたりしています。
この行動には矛盾が生じていて、フクノカミを人間のおじさんとして認識しているはずなのに、扱い方は神様のようになっています。
謎だらけの1巻。フクノカミにまつわる不気味な物語が幕を開けました。
琉花の祖母の商売はさらに勢いがつき、商店をコンビニへ改修することになりました。そして、開店祝いの飲み会の席で、彼女は寧島をもっと積極的に発展させるために強化する会「寧強会」の設立を提案します。
もともと商工会に所属していた面々は反対を示しますが、島外出身で「フクノカミ」が見えた会員が恐る恐る入会の意向を伝えると、不思議と彼らの店も繁盛しだしたのです。
ただ、祖母の勢いにいい顔をしない人もいます。島で唯一のスーパーを経営している岩奈は、彼女がコンビニに続いてスーパーを新設しようとしている噂を聞き、妨害工作を始めました……。
- 著者
- 堀尾 省太
- 出版日
- 2017-01-23
2巻では「寧強会」の設立と、島内の対立が描かれます。この対立はフクノカミによって引き起こされたものといっても過言ではありませんが、琉花の祖母の商売が邪魔されるのを黙って見ているわけはありません。
争いを鎮静化させるためなのか、フクノカミは海から巨大な蜘蛛のような海老のような生物を連れ出し、当事者を襲うのです……。恐ろしいし謎が深まる展開ですが、目が離せません。
そして何よりも不気味なのが、祖母の顔が時おりフクノカミのようになっていること……。金銭に絡む話をしている際に起こります。
また「寧強会」に賛同しているメンバーが繁盛を祈ると、その願いを吸い上げたフクノカミの顔がツヤツヤになり、同時に祖母の肌もハリのあるものへと変化するのです。
これは、彼女自身がフクノカミに乗っ取られはじめているということなのでしょうか。
フクノカミが海から連れてきた奇妙な生物によって、寧島で暴行事件が発生し、死者が出てしまいました。被害者は直前まで祖母と揉めていた人物。調査のため、島外から警察が訪れます。
一方の琉花と作家の黒蓮は、このままでは祖母が侵食されてしまうのではと恐れ、フクノカミを民宿から追い出すことを決めました。しかしその目論見は当の祖母によって崩されます。
人が死んだこと、そしてそれに少なからず祖母が絡んでいることを重く受け止めている琉花でしたが、そんな時、及川から島を出ることを考え直す内容のメールが届き……。
- 著者
- 堀尾省太
- 出版日
- 2017-10-23
死者が出たことで、いよいよきな臭くなってきました。琉花はこの事件をきっかけに、フクノカミを強く否定するようになります。
しかし、元はといえば彼女が祈ったことで動きはじめたフクノカミ。逆の立場で考えれば、困惑してしまったのでしょうか。琉花の前から姿を消すのですが、思いもよらない場所に潜んでいて……。読んでいて、思わず悲鳴をあげてしまうかもしれません。
さらに、島外から訪れた警察のひとりが、フクノカミに対して強い執着を示します。人を見定めて引き寄せる不思議な力があるのでしょうか。
そしてまだまだ物語は続きます。人間の欲望は留まることを知らないのです。
物語の核心ともいえる「フクノカミ」。まだまだ分かっていないことが多いですが、謎を考察していきましょう。
フクノカミは、「福の神」と同様に商売繁盛など「福」を呼び込む力があります。ただギャンブルをしても効果が出なかったので、「人」と「財」を集める効果のみがあるようです。
また、寧島で生まれ育った者には50歳前後の小柄なおじさんの姿に見え、島外出身の者には奇妙な地蔵のようなフクノカミの姿として認識されています。
フクノカミにまつわることは寧島を離れると強制的に忘れるようになっており、秘密が漏れないようになっているようです。
そして本作で最大の謎なのが、1巻の冒頭で描かれているあるシーン。侍のような恰好をした人物が海辺に転がっている死体を見ています。彼らの顔はすべてフクノカミと同じ……。
しかし「奴だけがおらん……」とつぶやいていることから、本当に探したかったものは見つかっていないようです。
寧島はかつて急激に栄えた時期があり、それがまた急激に衰退していったそう。どうやらそこにもフクノカミが関係しているようですが、詳しいことはまだわかっていません。
ただ、冒頭の死体がフクノカミの顔になっていること、そして琉花の祖母の顔も時おりフクノカミと同じ顔になっていることを考えると、嫌な予感しかしませんね。再び惨劇が起こってしまうのではと考えてしまいます。
とにかく不気味で謎が多いですが、不思議と物語に引き込まれてしまう『ゴールデンゴールド』。ぜひ読んでみてください。