BURNOUT SYNDROMES熊谷が選んだ趣味丸出しの「理系」な本

3月からのワンマンツアーが目前となり、風邪やインフルエンザ予防に励む日々です。なかでも「鼻うがい」は効果覿面でオススメ。「鼻うがい」とは文字通り鼻に水を注入し、鼻腔内を洗浄する行為。「何それ痛そう」と良く言われる。しかし面白いことに、水でやると痛いけれど食塩水でやると痛くないのです。

人間の体液の濃度は水よりも濃いため、それを中和せんと体液が水の方に引き寄せられ、痛むのです。これがいわゆる「浸透圧」の差。食塩水は体液と濃度が近いため浸透圧差が発生せず、鼻に入れても痛くない。スポーツドリンクもこの原理を利用した、純水よりも水分を吸収しやすい製品。しかし砂糖で濃度を稼いでいるため、分解には多量のカルシウムとビタミンを消費……え? もういい? そうですか……。

語れば語るほどウザがられるけれども、我々の生活を陰で支えてくれている「理系」。今月はその分野の面白さが分かる3冊を持ってきましたのでどうぞ。

スティーブ・ジョブズ

著者
ヤマザキ マリ
出版日
2013-08-12
「文系と理系の交差点に立てる人こそ 大きな価値がある」

Appleの創業者であり、IT業界のイノベーターでもあるスティーブ・ジョブズの伝記を原作とした漫画版。そのクールで知的なイメージとは裏腹な、ジョブズのAppleにかける執念やあっと驚く一面、そして常識外れなエピソードを知る事ができます。

取引先の社長の机に足を乗せながら交渉したり。他社の研究所に見学と称し立ち入り、最新技術を流用したり。恋人を妊娠させておきながら「認知しない」と言い張ったり。

Wow! 何というク×野郎!

偉大なる天才起業家に対してそんな感想を抱かざるを得ないこの伝記。しかしそれでよいのです。この伝記の執筆を依頼したのはジョブズ本人であり、その際の「自分のことは良く書かなくていい。真実を書いてくれればいい」という希望が忠実に汲み取られた結果であるからです。

大切なのは、わざわざそういう依頼をするということは実はジョブズは天然のサイコパスなどではなかったということ。人間性の喪失とも思われるその言動は自覚的であったということです。彼が協調や人間愛を放棄してまで貫きたかったものとは何か。それを我々に考えさせることこそ、彼が最後に仕掛けたイノベーションなのかもしれません。AppleユーザーもMicrosoftユーザーも必読の一冊。

容疑者Xの献身

著者
東野 圭吾
出版日
2008-08-05
「考えすぎじゃないのか、あいつは数学の天才かもしれんが、殺人には素人のはずだぜ」
「同じことさ」湯川は平然といった。「殺人の方が彼には易しいはずだ」

天才数学者でありながら不遇の日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に密かな思いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神の嘗ての級友である物理学者・湯川学が、その謎に挑む。

東野圭吾氏の人気ミステリーシリーズ「探偵ガリレオ」の第3弾。シリーズものですが、この作品から読んでも大丈夫です。お互いの才能を認め合った仲故に気付くアリバイの違和感を手掛かりに、友を追い詰めねばならぬ湯川の葛藤が胸を打つ。

「天才数学者 vs 物理学者」という胸躍るキャッチコピーもさることながら、僕は本文の文体自体にも格調高い「理系み」を感じました。とにかく文章に無駄がない。全てのエピソードと情景・心理描写が伏線となる、まるで数式のような小説。それも細かく丁寧に回収しながら進行するため、テンポ良く読みやすい。シンプルかつ斬新なトリック。感動的なラストは必見。本格ミステリー且つ初心者も楽しめるとても素晴らしい作品。

福山雅治さん主演で映画化されていましたが、非常にいいものでした。僕もそちらから入ったクチです。「小説を読む時間がない……」という方はぜひ映画をご覧ください。映画の方がドラマチックで好みです。

変ゼミ

著者
TAGRO
出版日
2008-07-23
「我々は決して正しい社会からスピンアウトした異常者ではない!超普遍の不偏論者なのだ!」

至って普通の少女、松隆奈々子は武蔵小麦に一目惚れし、彼の所属する「変態生理ゼミナール」、通称「変ゼミ」に入ってしまう。小麦始め、様々な変態行為を研究する癖のあるメンバーに翻弄されつつ、松隆のキャンパスライフは過ぎゆく。

平成最大の問題作。これを紹介することで僕の人間性まで疑われかねない危険行ためですが、このスゴさは語り継がねばなりません。

注意してほしいのは、現在発行されている漫画のなかでもおそらくブッチギリで変態な漫画だということ。

そこまでエロくもグロくもないが、生理的な闇を感じます。ポップな絵柄と神がかり的な漫画の巧さでギリギリ娯楽として成立している傑作。ただ純朴な方は気分を害する可能性大。掲載して貰えなくなる可能性があるので具体的なエピソードが挟めないのが残念。

破壊衝動、破滅願望、被虐趣味、諦観主義……他人には言えないそれら。それらの化身の様な変態揃いのキャラ達。その極端な症例と科学者の如き鋭い解説で、読者はいかに自分がノーマルかを自覚します。その反面、完璧なノーマルでもないことに気づきます。「その鬱屈、分かるかも……」と、僅かに共感してしまう自分に。

異常性癖とは、程度に差はあれ誰しも持つもので、いわば個性。人は相手の「変」な部分に「恋」する……そんな高尚なテーマが軸にあります。怖いもの見たさで読んでみて。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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