世界初の消しゴム版画家として活動する一方、コラムニストとしても爆発的な人気を誇っていたナンシー関。39歳という若さで亡くなった衝撃を、まだ覚えている方も多いのではないでしょうか。辛口なコメントで読者の気持ちを代弁しつつ、いつも笑わせてくれていた彼女の作品のなかから、とくにおすすめのものを厳選してご紹介していきます。
鋭い観察眼で独自の見解を述べる「テレビ批評」と、著名人の顔を彫った「消しゴム版画」で一躍有名となったナンシー関。1962年に青森で生まれました。幼いころから本を読むことやイラストを描くことを好んでいたそうです。
高校卒業と同時に上京。東京での浪人生活を経て、法政大学へ進学します。ほとんど授業には出席していなかったそうですが、このころ彫っていた消しゴム版画が友人を介してコラムニストのえのきどいちろうの目にとまり、当時雑誌「ホットドッグプレス」の編集者をしていたいとうせいこうを紹介してもらいました。
ナンシー関としてデビューしたのは、同誌内で連載していた萩原健太のコラムに彫った消しゴム版画にて。1985年のことでした。翌年には自身で文章を書きはじめ、芸能人に関するコラムを担当します。
彼女の名を一躍有名にしたのが、1993年から「週間朝日」で連載をはじめた「小耳にはさもう」。同年「週刊文春」で「ナンシー関のテレビ消灯時間」の連載もはじまり、全国区に名が知れるようになりました。
2002年に心不全で急死。しかしその後も、彼女を慕う人物が関連の書籍を発表したり、展覧会を開いたりしています。
「週間朝日」で人気を博したコラム「小耳にはさもう」を書籍化したもの。
連載はおよそ10年続き、本作もシリーズ化しています。
- 著者
- ナンシー関
- 出版日
とにかくテレビが大好きだったというナンシー。単なるゴシップネタを書くのではなく、出演している芸能人の態度や発言から、彼らが自分をどのように見せようとしているのか、視聴者の目にはどう映っているのかを独自の目線で記しています。
注目すべきは、やはり彼女の語り口。シニカルで辛辣ながら、思わず納得してしまう言葉でまとめられていて、その内容には業界人のファンも多かったそうです。悪口に終始するのではない、視聴者としてのテレビ愛を感じられるのではないでしょうか。
もちろん、ひとつひとつのエピソードに添えられた消しゴム版画にもご注目。テレビで見慣れたあの顔が絶妙に表現されていて、ついつい笑ってしまいます。
人の記憶の曖昧さを逆手にとった作品。
2万5000通を超える選ばれし「記憶スケッチ」に、ナンシーが秀逸なコメントを添えています。
- 著者
- ナンシー関
- 出版日
- 2003-03-25
「記憶スケッチ」とは、「パンダ」「ランドセル」など与えられたお題に対し、何も見ずに記憶だけを頼りにして絵を描くというもの。書いているのは全国の一般の人たちで、彼らのヘンテコなイラストにナンシー関が捧腹絶倒のコメントを添えています。
寄せられたイラストは、紙一重でおしいものから、どうしてこうなった……?という不思議なものまでさまざま。しかしけっしてうまくないその絵から、投稿した人の人間性が垣間見えるのが面白いところです。
そしてそこにあまりにも的確で辛口ながら、あたたかみのあるナンシーの寸評。元気をもらえる一冊でしょう。
何かを盲目的に愛してしまう人たちに密着取材した一冊。
有名人のおっかけ、宝くじマニア、福袋のために正月を犠牲にする人……彼らの愛はもはや「信仰」といえるほど深く、周りの人から見たらもはや異世界に行ってしまっていますが、その「盲信」はどこか幸せそうなのです。
- 著者
- ナンシー関
- 出版日
- 1997-06-01
「何かを盲目的に信じている人にはスキがある。自分の状態が見えていないからだ。しかしその信じる人たちの多くは、日常生活において、そのスキをさらけ出すことを自己抑制し、バランスを保っている。だが、自己抑制のタガを外してしまう時と場所がある」(『信仰の現場ーすっとこどっこいにヨロシク』より引用)
本書はそんな「タガを外してしまう時と場所」に作者が潜入し、取材した内容をまとめたもの。なかでも面白いのが「古き良き行列」です。歌舞伎を見るための列だそうなのですが、早い人はなんと2〜3日前から並ぶんだとか。
当時はまだインターネットがそこまで普及していないにしても、電話一本でチケットがとれる時代に、どこまでも徹底する「現場主義」。おそらくひとりきりだと成立せず、同じように盲目的になっている人がいるからこそ、タガを外して並んでしまうのでしょう。
世間からちょっとズレた人たちの姿を、一般人代表としての目線で綴っています。客観的に理解するのは難しいことを的確に言葉で表現するナンシーの逸材っぷりも見て取れるでしょう。
お互いに「ものを書く人」として活躍している、ナンシー関とリリー・フランキーの対談集。
タイトルのとおり、どこかの小さなスナックで常連客同士が他愛のない話をしている……そんな一冊です。
- 著者
- ナンシー関,リリー・フランキー
- 出版日
- 2005-04-01
たとえば、「バンドエイド」か「サビオ」か、それであなたが露呈する……。これは両方とも「絆創膏」を表す言葉です。物の呼び方は地域や家庭によって変わり、それがその人を少しだけ表現しているというのです。
このような「ちょっとした話題」を2人がそれぞれの目線から語ります。本当に、終始くだらなくて言ってしまえばどうでもいいようなことなのですが、彼らが語るとつい「なるほど」と言いたくなったり、クスリ笑ってしまったり。
スナックに行く感覚で気軽に読める一冊です。
ナンシーが泣くなって10年以上経ってから発表された一冊。
上京したての予備校生が、いかにして人気のコラムニストになったのか。生前の彼女を知る人へインタビューをし、また彼女が残した多くの文章を紐解きながら、その生涯を追っていきます。
- 著者
- 横田増生
- 出版日
- 2014-06-06
作者の横田増生は、生前のナンシー関に1度も会ったことがないんだとか。それどころか彼女が亡くなった後に本を読み漁り、その魅力に惹かれ、もっと知りたくなったんだそうです。
彼女のコラムは辛口で有名でした。一般の視聴者がもやもやと感じていることを的確に言葉にして表現し、変わりに留飲をさげてくれていたのではないでしょうか。しかし彼女は、画面をとおして見えること以外は批評しませんでした。その人が「本当はいい人」「本当は悪い人」などというのは関係なく、テレビに映っている時に「面白い」か「面白くない」か。重要なのはそこだけだったそう。
また普段のナンシーは社交的でにこやかな人物だったらしく、彼女の人柄自体が愛されていたことが数々のインタビューからわかります。
没後何年経っても、彼女ののこした文章は人々を笑わせ、元気づけていくことを再確認できる一冊です。
若くして亡くなったナンシー関。彼女の批評はテレビをネタにしたものが多く、つまりはタイムリーなものが多いのに、時を経て読んでも面白さが色あせることはありません。時代を問わない感性こそが、彼女が「天才」といわれたひとつの理由でしょう。楽しく読めるものばかりなので、お好きなものから手に取ってみてください。