2019年4月、直接観測に成功したとして注目されている「ブラックホール」。物理の法則が通用せず、きわめて高密度で強い重力が発生しているため、光さえも脱出できない空間だといわれています。さらに最近では、対称的なものとして「ホワイトホール」というものも登場。これらは本当に実在するのか、もし人間が中に入ったらどうなってしまうのか、わかりやすく解説していきます。
地球や火星、太陽などの天体は、重力と圧力が釣り合っているため、球体を保ちながら宇宙空間に存在することができています。これに対しブラックホールとは、重力と圧力が釣り合っていない天体です。
重力が強すぎる超重力の天体で、バランスを崩し重力崩壊という現象を起こしていて、これによりブラックホール全体が徐々に縮んでいき、きわめて高密度かつ大質量でありながら巨大な重力を保っているのです。
もともとは「コラプサー(崩壊した星)」と呼ばれていましたが、1967年にアメリカの物理学者であるジョン・ホイーラーが「ブラックホール」と名付けました。観測上黒く見えることが由来で、現在も世界中でこの呼び名が浸透しています。
中心部分はシュヴァルツシルト面と呼ばれており、漆黒の円のようになっています。ここでは特に強力な重力が存在しているため、光すらも吸い込まれてしまい、脱出は不可能です。
これまで私たちが見てきた写真は、物理学的観点を踏まえてコンピューターで作りあげたモデル画像でした。しかし2019年4月10日、「世界で初めてブラックホールの影を撮影することに成功した」と、日本などの国際研究チームが発表したのです。
その方法は、高解像度の電波望遠鏡を用いて、ブラックホール近傍のガスが発する電波を観測し、影絵のように浮かび上がらせるというもの。今後の研究の進歩に期待が寄せられています。
2019年4月10日、日本などの国際研究チームが、世界で初めてブラックホールの輪郭を撮影することに成功したと発表しました。
これまでは、光を飲み込んでしまうため、ブラックホールを直接観察することは不可能であると考えられていました。観測方法としては、周りの天体を力学的に解析したり、ブラックホールが吸い込んだ物質が発するX線やガンマ線などを解析したりすることで、間接的な観察がおこなわれていたのです。
近年では、複数の電波望遠鏡を用いて観察するという方法も提唱され、さまざまな工夫を凝らして科学者たちが奮闘していました。今回は、なんと世界6ヶ所の電波望遠鏡をつないで、口径約1万kmの巨大な望遠鏡を構築し、これまでにない解像度を実現しておこなわれたのです。
撮影されたのは、地球から5500万光年離れた銀河の中心にあるブラックホール。近傍のガスやチリが発する電波を観測し、影絵のように浮かび上がらせる形で観測に成功しました。
強力な重力を持つブラックホールの中にもし人間が入ると、周囲からは身体が伸びたり縮んだり歪んだりしているように見えます。その後はスパゲティのように引き伸ばされ、一瞬のうちに小さな粒子になってしまうようです。
これは「スパゲティ化現象」と呼ばれ、イギリスの宇宙物理学者であるマーティン・リースによって提唱されました。もしこの現象を人間が外から観察できたとしたら、大きな虫眼鏡越しに見ているかのごとく、動きが徐々に遅くなっていくように見えるそうです。
また一般相対性理論に基づくと、重力は時間を歪ませるので、ブラックホール内では時間が遅れます。中心のシュヴァルツシルト面に近づくにつれて時間の進みはどんどん遅くなり、中心に到達すると時間は止まります。もしも人間が中心で一定時間留まることができれば、理論上は宇宙の終わりを見ることが可能なのです。
強力な重力で光すら飲み込んでしまうブラックホール。光は情報を伝えるものなので、情報が吸い込まれているともいえます。しかし物理学や量子力学の観点からみると、この現象には矛盾が生じるのです。なぜならこれらの学問では「情報は無くなりもしなければ、新たに作られることもない」と考えているからです。
そこで理論上の矛盾を解消するために考え出されたのが「ホワイトホール」というもの。ブラックホールが情報や物質を吸い込むのに対し、ホワイトホールは情報や物質を放出する天体であると定義されています。
ホワイトホールの解釈には大きく2種類あります。
ひとつは、ホワイトホールとは年老いたブラックホールのことであり、今までに飲み込んだ情報と物質を吐き出しているのだというもの。そしてもうひとつは、ホワイトホールはブラックホールの出口で、2つは直接つながっているというものです。
また「多元宇宙論」を用いて、ホワイトホールは別の宇宙につながっているという可能性も指摘されています。宇宙そのものがホワイトホールから吐き出されて誕生したものではないか、という仮説が立てられているのです。
ホワイトホールは数学的には存在し得るのですが、実在を証明するにはいくつかの矛盾点が生じてしまいます。研究対象としては大いに注目されていますが、多くの科学者によって実在性が否定されているのが現状です。
- 著者
- 吉田 伸夫
- 出版日
- 2017-02-15
本書は「宇宙に終わりはあるのか」というテーマを軸に、宇宙の始まりから終わりまでを解説しています。 2017年に発表され、最新科学を用いて宇宙に流れる時間感覚に切り込んでいる一冊です。
本書の魅力は、専門的で複雑な知識を誰にでも分かるよう噛み砕いて伝えてくれているところです。過去と現在、そして未来の3つの視点から見ることで、新たな宇宙の形を私たちに示してくれています。
宇宙がいかに長い歴史を歩んできたのか、人類は宇宙とどう向き合っていくのか。興味のある人はぜひお手にとってみてください。
- 著者
- アーサー・I. ミラー
- 出版日
- 2015-12-02
初めてブラックホールの存在を理論的に指摘されたのは、1930年のこと。本書は、19歳のインド人の青年、チャンドラセカールという人物にまつわるドラマを描いた科学ノンフィクションです。
計算によって白色矮星(はくしょくわいせい)の質量に限界があることを発見したチャンドラセカール。これは宇宙空間に星々を飲み込む天体が存在する、ということを示唆していました。そんな彼の渾身の仮説を、根拠もなく批判し嘲笑ったのがイギリスの学者エディントンです。
エディントンがブラックホールの存在を否定したことは、結果的に後の研究を40年にわたって停滞させることになりました。当然、チャンドラセカールの科学者としての人生にも大きな影響を与えています。
1度読み始めれば、つい引き込まれてしまう興味深いストーリーが記されています。科学の発展の裏でくり広げられた、あまりに人間らしいノンフィクションドラマ。自信を持っておすすめできる良書です。
- 著者
- スティーヴン・W. ホーキング
- 出版日
作者は「車椅子の天才科学者」と呼ばれたイギリスの理論物理学者、ホーキング博士。宇宙の誕生や構造について語りつくしています。彼はALSを発症し体の不自由な生活を送りながらも、思考の世界では、遥か遠い宇宙の不思議を追い続けました。宇宙に関心のあるすべての人が楽しめる、不思議とロマンに満ちた一冊です。
人類がどのように宇宙の謎を解き明かしてきたのか、その歩みを科学の解説と自身の新仮説を織り交ぜながらわかりやすくに語っています。専門用語の使用ををあえて避けていて、物理学や量子学に精通していない方でも十分に理解できる内容です。謎が謎を呼ぶ宇宙の魅力を感じることができるでしょう。
初心者にわかりやすく伝えることと、最先端の研究に基づく専門的な知識を披露すること、という2つのバランスが絶妙で、知的好奇心が刺激されること間違いなしです。
宇宙最大の謎ともいえるブラックホール。なぜ、どうやって存在しているのか、理屈はわかっても実感しづらいですよね。しかし人間が宇宙を旅行をしたり、地球ではないどこかの星に住んだりする日が来るのも、そう遠くはないのかもしれません。ぜひ宇宙がもつ不思議な世界へ一歩踏み出してみてください。