『北斗の拳』はケンシロウが主人公ですが、実はリンの物語でもあるのです。今回は数奇な運命を辿る少女、リンについてご紹介したいと思います。 ちなみにこの名作はスマホアプリで無料で読むこともできるので、そちらからもどうぞ!
リンは『北斗の拳』の第1部において、ほとんど全行程で主人公ケンシロウの旅に付き添う少女です。第2部では時が流れ、見違えるほど美しく成長し、物語の動機となるヒロイン役にもなりました。
『北斗の拳』は核戦争後、荒廃した世界が舞台のアクション漫画です。人間も生活も荒れた場面しか出てきませんが、リンはそこで運命に抗い、懸命に生きる子供として描かれます。
- 著者
- 原 哲夫 (著), 武論尊 (著)
- 出版日
彼女は幼いながらも気丈な性格で、決して弱音を吐かない芯の強い少女です。労りと思いやりの精神は、荒んだ『北斗の拳』の清涼剤のようでもありました。
テレビアニメ版では独自の設定として、愛犬ペルを可愛がる年相応の一面も登場。そんなアニメでリン役を務めたのは鈴木富子(第1部)と冨永み~な(第2部)です。後年の派生作品ではまた違った声優がリンを演じますが、やはりリンと言えばこの2人が真っ先に連想されるのではないでしょうか。
リンは作中でも1、2を争う苦難の人生を歩みました。
まず初当時、リンは声を出すことが出来ませんでした。それは目の前で両親(育ての親)を失ったショックで、失声症に罹っていたからです。荒みきった時代で幼い子供が、親を殺されるという最大級の悪意に晒されることが、どれだけつらい体験か。想像だに出来ません。
だからこそ、信頼出来るケンシロウとの出会いは、彼女にとって救いになったのでしょう。ケンシロウに心身ともに救われてリンは言葉を取り戻し、以降一緒に行動するようになります。彼女がケンシロウに「ケーン」と助けを求めるのシーンは、劇中で何度も出てきますが、短いながら信頼関係が垣間見える印象的な台詞です。
リンの芯の強さがはっきり描かれるエピソードとしては、第8巻のマミヤの村での1件からわかります。拳王ことラオウの軍に捕らわれた彼女は、他人を庇って鉄板の拷問にかけられようとしました。
彼女は危ういところを、ギリギリ間に合ったレイに救われました。
「てめえらの血は、なに色だ――っ!!」
(『北斗の拳』8巻より引用)
炎の鉄板を歩かせるという、レイでなくとも激昂したくなる非道な行い。最後の最後まで弱音1つ吐かなかった、リンの凄まじい精神力に感嘆させられます。
『北斗の拳』第1部はケンシロウが悲劇のヒロイン、ユリアの後を追う物語です。その時点でのリンはケンシロウに同行する子供でしかありませんでした。そうして様々な経験を経て、リンは美しく成長します。
第2部で、リンは勇敢さも兼ね備えた美しき美女として再登場。バットとともにレジスタンスを率いるリーダーとなった姿を見せます。
リンは優しい性格はそのままに、大人としての魅力も加わって、ユリアに勝るとも劣らない強いヒロインとなりました。
- 著者
- ["行徒妹", "河田 雄志", "原 哲夫", "武論尊", "行徒"]
- 出版日
『北斗の拳 イチゴ味』は本編『北斗の拳』とはがらっと変わって、聖帝サウザーが主人公のスピンオフギャグ漫画。本編でもお馴染みのあのキャラ、このキャラが原哲夫風劇画調のままでくだらないギャグの応酬をするのが最大の魅力です。
ボケにボケてボケ倒すという作風に特徴があるこの作品。キャラ崩壊がウリになっていて、サウザーはもちろんのこと、ケンシロウすら要介護老人並みの天然に成り果てています。
そんな中、リンとバットは貴重なツッコミ役として登場します。ツッコミ役というか、正確にはボケだらけの中で、冷静に解説する常識人枠と言うべきかも知れません。
リンお馴染みの「ケーン!」もシリアスな本編とは違った風に使われるので、未見の方はぜひそのギャップをお楽しみください。ちなみに本作もスマホアプリで無料で読めるので、ぜひ。
さて、話を本編に戻します。
物語が進むにつれ、リンの出生に隠された秘密が明らかになり、それが第2部で重要な意味を持っていきます。
それはリンの正体が、乱世を終結に導く宿命の「天帝」の血を引く者だったということです。物語ではその天帝が軸になっていくのですが、リンは当代の天帝ルイと双子の姉妹だったのです。
人の世を導く天帝が2人いれば、かえって世が乱れる。そのため妹のリンは、本当は抹殺されたはずでした。ところがリン殺しの命を受けた元斗皇拳のファルコは、どうしても手にかけることが出来ず、親戚夫婦(リンの育ての親)に預けて放逐することを選んだのです。
その結果、リンとルイを過酷な運命が襲ったのは皮肉といえるでしょう。
天帝の一件に決着が付いたのも束の間……リンは浚われ、海の向こう修羅の国へと舞台が移ります。
そこでもリンの天帝の血が、彼女をさらなる状況へと追い込みます。元々天帝は、大陸で北斗神拳=北斗宗家の守護の下、平定をもたらす存在でした。ところがその守護役の北斗神拳が3つに分派してしまいます。そのうちの1つ、北斗琉拳は北斗宗家と袂分かった呪われた暗殺拳となりました。
修羅の国の羅将カイオウは、己の北斗琉拳を清めるために、天帝リンを狙うのです。そしてカイオウはさらに、彼女と縁のある憎き北斗神拳、ケンシロウ抹殺をも画策していました。
天帝の血が悲劇を呼び寄せるかのように、リンは運命に翻弄されていきます。
- 著者
- 武論尊
- 出版日
ようやく修羅の国から解放されたリンは、最後にカイオウから「死環白」という呪いの破孔を突かれ、記憶を失っていました。
記憶のないリンは、バットから愛するケンシロウを探すよう仕向けられ、2人は奇跡的に再会を果たすのですが、ケンシロウもまた記憶をなくしていました。彼に幸せになってほしいと願う、死んだユリアの気持ちがそうさせたのです。2人は白紙のまま寄り添うようになるのですが……。
そこへケンシロウに恨みのある悪漢が現れ、2人は襲われます。間一髪、バットが窮地を救うのですが、死亡。その出来事でリンは記憶を取り戻し、バットへの深い想いに気付くのでした。
ケンシロウが秘孔を突いてバットは生き返り、彼女達はようやく結ばれます。その後、ケンシロウは静かに2人の下を去るのでした。この最終回をもって『北斗の拳』の物語に幕が下ろされました。
バットについては<『北斗の拳』バットに関する7の事実!変わりすぎ⁉イケメンバットの成長!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
- 著者
- 原 哲夫 (著), 武論尊 (著)
- 出版日
少女から大人の女性へと変わっていったリン。彼女の変遷は印象的な台詞からも見て取ることが出来ます。その中から選りすぐり5選をご紹介しましょう。
第5位:
「なにかがひとつ狂ったために男の人たちの血を……
友情が血に……なぜ……」
(『北斗の拳』10巻より引用)
レイとユダの戦いを目撃したリンの言葉です。まだ幼いこの少女にも、男達の戦いの理由が僅かな掛け違いがきっかけだとわかったのです。
第4位:
「もう、やめてえ!! もうこれ以上の血はみたくない!!」
(『北斗の拳』9巻より引用)
傷付いたケンシロウが、それでもラオウに立ち向かうのを見た、優しい少女の悲痛な叫び。世紀末の非情な掟が、決して正しいことではないと読者に訴えるかのようです。
第3位:
「だけど、あなたはラオウに勝てない。
戦っていれば必ず敗れていたでしょう。
愚かな愛に生きる者が最後には勝者となるのです!!」
(『北斗の拳』22巻より引用)
羅将カイオウとリンが会話する場面のことです。修羅の国編で立派に成長したリンは、ケンシロウのそばで幾多の男達を見てきました。そこで培われた意志は、恐ろしいカイオウにすら一歩も退かない強さとして描かれます。
第2位:
「い……いいえ姉さん……
捨てられたわたしのほうがあなたより幸福でした」
(『北斗の拳』18巻より引用)
リンとルイ、天帝の宿命を負った姉妹の再会シーンです。時間的に前後してしまいますが、ここではリンが少女から強い女性に成長することを予感させる、芯の強さを感じさせました。
第1位:
「わたしたちが希望を捨てたらどうなるの!
わらしたちには希望しかないのよ!!」
(『北斗の拳』8巻)
絶望を前に挫けそうなアイリに、リンがかけた励ましの言葉です。持たざる者、力なき者だからこそ、明日を信じ抜く心が大事なのだと説きました。10歳そこそこの少女とは思えない、過酷な世界で生きている経験から来る含蓄ある名言です。
いかがでしたか? こうして振り返ると、『北斗の拳』がリンの物語に思えてきませんか?