宇宙に数多く存在していると考えられているにもかかわらず、まだ多くの謎に包まれているダークマター。暗黒物質とも呼ばれています。その解明は宇宙の起源にも迫るともいわれ、地球上に生命が誕生した歴史とも密接に関係しているに違いありません。この記事では、未知なる物質ダークマターについてわかりやすく解説し、おすすめの関連本も紹介していきます。
ダークマターは見ることも触れることもできない存在です。そのようなものを「存在」しているといっていいものか首を傾げたくもなりますが、それでも確かに存在しているのです。
しかもその数は計り知れず、広大な宇宙にとてつもない数のダークマターが漂っていると考えられています。
ただ厄介なことに、現状ではどれだけ人類の知恵を結集させてもその全貌を明らかにすることはできていません。目に見える物体よりも遥かに多くの数が存在しているのに、正体がわからないというのがなんとも不思議なところです。
そんなダークマターがなぜ「存在」していると言い切れるのかというと、これがないと宇宙全体の説明がつかなくなってしまうからです。
観測すらできていないのに、数多くの学者がダークマターの存在を主張しています。
一昔前まで、宇宙の成り立ちを説明するためにもっとも有効だと考えられていたのが、ニュートンの「万有引力の法則」です。これにより太陽系についての計算はほぼ説明がついていました。学者たちは太陽系を離れた別の銀河でも、同様に計算ができるだろうと考えていたのです。
ところが宇宙の観測技術が向上し、実際に他の銀河を詳細に観測できるようになった時、これまでの計算方法がまったく通じないことがわかってしまったのです。理論的に導き出された質量と実際に観測された質量の間には、大きな差異が生じていました。
そしてこの観測結果の辻褄を合わせるには、実際に宇宙に見えているものの10倍の物質が必要だということもわかります。それが、ダークマター。観測できないが存在しているといえるのです。
ダークマターは、この広大な宇宙の約27%を占めているといわれています。私たちが認識できる、いわゆる普通の「物体」というのは、宇宙のうちの約5%にしか過ぎません。つまり割合でいえば、むしろ目に見えないダークマターの方が主流と考えることもできるのです。
また同様に、観測ができず正体がわからないながらも確実に存在しているといわれているのが、「ダークエネルギー」です。ダークエネルギーは宇宙が膨張していることを説明するために、その存在が認められるようになりました。
ちなみにダークマターとダークエネルギーを合わせると、宇宙の約95%を占めると考えられています。こんなに科学技術が発達しても、実は宇宙の大部分についてその正体がつかめていないというのも不思議な話です。人類はこの謎にどこまで近づくことができるのでしょうか。
「幽霊」の正体を追うような謎に満ちたダークマターですが、2017年4月、驚くべきニュースが飛び込んできました。カナダの大学が、ダークマターの可視化に成功したというのです。
見えないものを見ようとするために用いられたのが「重力レンズ」。これはそこに「ある」ものを直接捉えるのではなく、重力源とその影響による時空の歪みを像として映し出すものです。
ダークマターは質量を持つにもかかわらず、他の物質と相互作用をしません。光を反射することもせず、自由きままに空中を漂っていました。ただ重力にだけは作用するだろうと考えられていたのです。
今回の可視化に成功したといわれる画像は、歪みを映した像を2万3000枚合成して解析したもの。何かが浮かびあがって見えただけであり、本当にダークマターなのかどうか、まだ明確な答えとして認められているわけではありませんが、長年の謎だった正体の解明に一歩近づいたことは確かではないでしょうか。
宇宙の9割以上を占めていると考えられているダークマターですが、2018年3月に、その前提を覆しかねない新たな事実がアメリカの研究チームから報告されました。なんと、ダークマターが存在しない銀河があるというのです。
これまでの銀河は、理論的に導かれる質量からダークマターの存在が認められるものばかりでした。しかし地球から約6500万光年離れた「NGC1052-DF2」という銀河は、その質量のほとんどを恒星が担っていて、これまでのダークマターありきの計算では説明がつかなくなってしまったのです。
この発表は、宇宙や銀河に関する理論をもう1度見直すべきだという議論を巻き起こしています。ダークマターの存在自体を否定する大胆な学者も現れるなど、まだまだ決着する気配はありません。今後の研究に注目でしょう。
- 著者
- リサ・ランドール
- 出版日
- 2016-03-23
学問というものは、そのほとんどが過去の知識を積み重ねたものを学ぶもの。しかし宇宙、とりわけダークマターにおいては、これまでの常識が通用しないのが現状です。研究者たちは何度も理論を覆えされながら、新しい法則を見つけ出さなければなりません。
それは過酷な作業でありながら、未知の世界を開拓するというロマンに溢れています。本書では、ダークマターについて説明をしつつ、作者が導くロマン溢れる新理論を解説。確固たるデータを用いつつ、わかりやすい文章で書かれています。
宇宙科学の最先端をはしる研究に触れてみてください。
- 著者
- 郡 和範
- 出版日
- 2016-01-25
宇宙というとあまりにも広大で、専門家たちはとんでもなく巨大なものを相手に研究をしているようなイメージを抱きます。しかし宇宙を知るためには、肉眼では見えないとても小さな「素粒子」などの研究が必要不可欠なのです。
大きなテーマを解明していくために小さなものについて知ること、本書を読んでいくと、宇宙の大部分を占めるダークマターと、ちっぽけな存在である我々人間も無関係ではないと感じられます。
さまざまなトピックが設定されていて、どれも図解などを用いながらわかりやすく説明してくれているので、宇宙について知識がなくても大丈夫。興味をもつきっかけになる一冊です。
大部分を占めているはずの物質なのに、見えない……なんだか哲学的な思考を揺さぶられるダークマター。宇宙に関する理論を読み解いていくと文学的な一面もあり、理系分野に抵抗のある人も、おすすめした2冊は面白く読めるはずです。ぜひお手にとってみてください。