宇宙の謎を解き明かす「ニュートリノ」。いまや最先端の研究テーマとなっています。この記事では、基本的な情報や性質、スーパーカミオカンデでの実験などを解説しつつ、これからの未来にどのようなことが期待できるのか探っていきます。ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章博士の著書も必見です!
いまや化学の最先端の研究対象となっている「ニュートリノ」。いったいどのようなものなのでしょうか。
発見されたのは1956年のこと。それより前の20世紀前半は、すべての物質の素となるもっとも細かい単位は「原子」だといわれていました。英語では「atom」と呼ばれ、その語源はギリシャ語で「分割できないもの」を意味しています。
この原子にも構造があります。原子は、陽子や中性子でできた「原子核」と「電子」が、クーロン力という電磁相互作用で結びついたものです。これらの組み合わせによってさまざまな種類の「元素」が構成されます。
もっとも単純な元素は、中性子が無く、陽子1つと電子1つでできた「水素」です。その大きさは 1.1Å(オングストローム)=1.1cmの1億分の1で、電子顕微鏡で観察することができるくらいの大きさです。
さて、その後の研究で、原子の中にもっと細かい構造があることがわかってきました。「素粒子」の発見です。そしてニュートリノは、この素粒子の一種なのです。
ではニュートリノの大きさは、どれくらいなのでしょうか。実は雲のような存在なので、大きさを直接測ることはできませんが、感覚的には人間ひとりが宇宙空間の中にぽつんといるくらいの小ささだと考えるとよいでしょう。
ニュートリノは、宇宙でもっとも豊富に存在していてる素粒子です。しかし「電荷」を帯びていないので、他の素粒子と反応することがほとんどありません。どうも、私たちの体を1秒間に約1兆個も通り抜けているらしいのですが、気づくことがない不思議な性質を持ちます。
素粒子には「クォーク」と「レプトン」という分類があります。ニュートリノはレプトンの仲間で、そこからさらに「電子ニュートリノ」「ミューニュートリノ」「タウニュートリノ」の3種類に分けることが可能。この分類を「フレーバー」と呼びます。
小さすぎてその存在をなかなか確認できないニュートリノですが、ごくまれに水の分子とぶつかることで小さな光を発することがあります。これ観測することで、研究が進められているのです。
「ニュートリノ振動」とは、簡単にいうと、ニュートリノの種類(フレーバー)が時間の経過とともに変化する現象のことです。
たとえば空中を飛んでいる間に、「ミューニュートリノ」から「タウニュートリノ」に変わってしまうということ。不思議な性質ですよね。この現象は、1998年に岐阜県飛騨市にある「スーパーカミオカンデ」という実験施設で確認されました。
それまでニュートリノの質量は「ゼロ」だと考えられていましたが、この発見でわずかに「質量」があることがわかりました。またひとつのフレーバーには別々の質量をもつニュートリノが3種類混在していることも証明でき、今後の素粒子の研究を進めていくうえで重要な手がかりを得たとされているのです。
日本国外でニュートリノに質量があることを確かめる実験していた「国際共同実験OPERA(オペラ)」の研究チームが、2011年にスイスでおこなった実験で、「ニュートリノは光より速く飛ぶ」ことを発見したと発表しました。
これはアインシュタインの相対性理論を覆すことになり、大きな波紋を呼ぶことになります。なぜなら、これまでの宇宙物理学の基本となる「光の速度を超えるものは存在しない」という理論が崩れることになるからです。
しかしその後の検証で実験設備の不備が見つかり、計測結果に誤りがあったと発表。新しい研究や発見も、常に正しいというわけではなさそうです。
素粒子のふるまいや仕組みを説明する「標準理論」では、これまでニュートリノの質量はゼロであるとされてきました。ところが先述したようにニュートリノ振動の発見によって、理論を見直す必要があるといわれています。
また、もっとも注目されている研究のひとつに、ニュートリノの「CP対称性の破れ」があります。これは、いま宇宙に存在する素粒子と、まったく正反対の性質を持つ素粒子が、宇宙が誕生する瞬間には同じ量だけ出現していたはずなのに、片方しか残っていないのはなぜかという謎を解き明かすカギとなる現象です。
このようにニュートリノの研究成果は、これまでの常識を覆しながら、宇宙の誕生や仕組みを明らかする重要な要素になると期待されています。
- 著者
- 荒舩 良孝
- 出版日
- 2015-12-08
著者の荒舩良孝は、「科学をわかりやすく伝える」をテーマに執筆活動をしている人気の科学ライターです。
彼の掲げたテーマのとおり、難解なニュートリノの仕組みを中学生にもわかるくらいまで、かみ砕いて解説しています。また、ニュートリノ振動の発見がノーベル賞を受けるまでの流れも始まりから順に書かれているので、研究の歴史も俯瞰してみることができるでしょう。
手軽に読める解説書としておすすめの一冊です。
- 著者
- 梶田隆章
- 出版日
- 2015-11-24
ニュートリノ研究の第一人者、東京大学宇宙線研究所所長の、梶田隆章博士による作品です。
梶田博士は、先にノーベル賞を受けた小柴昌俊博士の研究室で、陽子崩壊に関する研究をしていました。ある時、大気ニュートリノの数が予想と違っていることに気づき、研究対象をニュートリノに切り替えます。
そのようなエピソードを含め、自身の経験に基づき、研究の歴史や実験でわかった事実を直感的に理解できるように工夫された本書は、ニュートリノ研究の入門書といえるでしょう。
また基礎的な理論にとどまらず、宇宙科学のこれまでとこれからが紹介されているので、宇宙の成り立ちをまるごと知るのに最良の一冊です。
ある研究テーマで成果を上げるには、何十年という時間が必要です。ニュートリノ研究もそのひとつ。しかしそこで得られる知見は、私たち生命の根源を知る手掛かりとして、とても重要な役割を果たしてくれます。みなさんも最先端の科学に触れて、ワクワクしてみませんか?