Brexit(ブレグジット)について責めるべきはベビーブーマーじゃない。「トップガン世代」だ。政治、経済、大衆文化がこぞって適者生存を賛美した時代に成人した、バドワイザーがぶ飲み世代――彼らはEUが体現する集産主義が生理的に嫌い?
トビー・ヤング(英国の著名なジャーナリスト)は友を信じない、欧州連合も信じない。トビー・ヤングは個人主義を信じる。ヤングは1981年、18歳になった。80年代に成人した彼は、Brexit(ブレグジット)がもたらすであろう修羅場について、そして今生じつつある実存的危機について責めを負うべき世代の一員だ。僕らは責める相手を間違っていた。
かの国民投票結果が出てからこれまで、何千もの記事がベビーブーマーを、お気楽な老眼鏡世代だと糾弾してきた。でも実は、現状の責任を誰よりも負うべき者は他にいた――80年代に成人した者たちである。トビー・ヤングだけじゃない、ボリス・ジョンソンも81年に、ジェームズ・デリングポールは83年に、マイケル・ゴーヴは85年にそれぞれ18歳になった(ヤング以外の面々はすべて英国のジャーナリスト、政治家)。
これを裏付ける数字もある。40代の投票者の大半がBrexit(ブレグジット)に賛成した。彼らは賛成派の中で最も若い世代であり、しかも男性の大半が離脱を支持した。なぜか? もちろん、マギーの亡霊を抜きに、この世代の分析はできない。マギーとは、マーガレット・サッチャーだけではない。かの鉄の女が、そして共同体を否定した彼女の時代が象徴するものすべてを意味する――彼女の周りで起きていたすべてのことだ。
彼らはリーバイス世代であり、ティーンの頃は長らく、英軍が南太平洋に艦隊を送り込み、人よりも羊のほうがはるかに多いような、ちっぽけな島をいくつか取り戻したという“栄光”の暗い影の中にいた(いわゆるフォークランド紛争)。彼らはハリー・エンフィールドの(成金がテーマのノヴェルティ曲)「Loadsamoney」が痛烈な風刺ではなく、成り上がり賛歌に聴こえた時代に成人した拝金世代にほかならない。
『ランボー』や『トップガン』、さらにはマイケル・ダグラス主演の『ウォール街』といった映画に描かれた個人主義や国粋主義を崇拝する時代に成人したバドワイザーがぶ飲み世代。政治、経済、大衆文化がこぞって適者生存を賛美したマッチョな時代に大人になった者たちだ。
レーガン主義およびサッチャー主義的消費文化がソ連の圧政者に勝利したのははるか昔の話という事実を、彼らはあえて無視している。フクヤマとその著書『歴史の終わり』がこれ以上ないほど間違っていたことに、彼らはいまだ気づいていない。となれば、集産主義や連帯責任、拘束なき資本主義への不審、文化的伝統主義など、EUが象徴する諸々をこの世代は生理的に嫌悪しているのでは、と考えるのが道理だろう。
1980年代のヤング・アダルトは現在、巨大投資銀行や行政機関、FT100指数を決める上場企業を動かしている。世界はもはや、ベビーブーマーが懐かしむ50年代や60年代ではないように、80年代とも何から何まで違う。それに気づくだけの知性がかの利己主義世代にあればいいのだが……。
そう、違うんだ。Brexit(ブレグジット)について責めるべきは、年金で暮らす僕らの父親じゃない。僕らの“兄たち”なのだ。
文・ジョン・ジェンキンソン(30代後半のジャーナリスト。ロンドン在住)
Photo:(C)WENN / Zeta Image
Text:(C)The Independent / Zeta Image
Translation:Takatsugu Arai
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